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英語年齢0歳からやり直す| 【第1話】 知識はあった。でも口が動かなかった。

    「英語、得意なんですよね?」

    そう言われるたびに、
    私は愛想笑いで返すしかなかった。

    中学・高校と英語は得意科目だった。
    大学は英語英米文学科へ進み、
    TOEIC830点、英検準1級、
    英語教員免許まで取得した。

    周囲からは「英語ができる人」として見られていた。

    でも社会に出た瞬間、わかった。

    自分の英語は、実社会ではまったく通用しない。

    話せなかった。

    学校のテストでは満点近くとれる。
    英語の長文も読める。
    でもいざ口を開こうとすると、
    頭が真っ白になる。

    「英語の才能がない」
    ——そう結論づけて、
    早々に諦め、
    結婚した。

    英語とはそこで一度、
    完全に決別したつもりだった。

    留学という、残酷な現実

    転機が訪れたのは、
    夫の留学に同行することになったときだ。

    「これだ」と思った。
    留学さえすれば、
    長年のコンプレックスが解消される。
    英語でコミュニケーションできる人間になれる。

    そう信じて、胸を躍らせながら渡航した。

    しかし現実は、想像とまるで違った。

    毎週3〜4冊読まねばならない参考図書は最初の10数ページしか読めない。さらに、討論形式の授業には、
    ・・・全くついていけなかった。

    先生が気を使って「幹代、どう思う?」
    と話す場面を作ってくれる。
    そのたびに、私の頭の中では
    猛烈な「日本語→英語」への翻訳作業が始まるものの、
    ぴったりの単語が思い浮かばない。

    それまで活発な議論で盛り上がっていたのに、
    「I think, in Japan, ……」の後の言葉が続かない。
    私に注がれるクラスメートの視線が痛い。
    一挙に白けたムードが漂うクラスで、身の置き所がなかった。

    授業が終われば、
    3歳の息子を育てる母親としての生活が待っていた。
    夫と息子と、日本語だけで話す毎日。
    1年が経っても、英語力はほとんど伸びなかった。

    「私が話すと、クラスの迷惑になる」
    そう判断した私は、
    いつしか黙ることを選ぶようになった。

    黙っていることは、罪だった

    ところが英語圏では、
    黙って座っていることは
    「貢献せずに成果だけを受け取るずるい行為」。
    そう見なされるということを、
    当時はまだ知らなかった。

    ある日、クラスメートから面と向かって言われた。

    「幹代はクラスに何も貢献していない。ずるい」

    その言葉は、
    長年積み上げてきた「英語の自信」を
    根こそぎ奪っていった。

    TOEIC830点も、
    英検準1級も、
    大学での4年間も、
    教員免許も
    ・・・何の役にも立たなかった。
    むしろ「英語ができる人」という周囲の目、
    「10年も勉強してるんだから話せて当然」
    そんな扱いが、私の傷をより深くした。

    自分には、英語の才能がない。

    そう結論づけて、
    私は英語の勉強から距離を置いた。
    専業主婦として、英語とは無縁の日々を送った。
    その年月が、10年を超えたころ
    ——思いがけない形で、
    英語が再び私の前に現れることになる。

    子どもの習い事が、すべてを変えた

    転機はまったく予期しない形でやってきた。

    子どもの習い事がきっかけで、
    「フォニックス」という英語の音の学習法に出会ったのだ。

    惹かれるものがあり、
    そのまま児童英語講師養成セミナーへ足を踏み入れた。

    そこで私は、生まれて初めて
    「第二言語習得論(SLA)」に出会うことになる。

    言語習得の科学的研究が積み重ねてきた知見。
    そして「コミュニカティブアプローチ」という、
    実際にコミュニケーションを通じて言語を習得するメソッドの実践。

    正しい理論を知り、
    その実践の確かさを身をもって体験した時、
    私の中に最初に湧いてきたのは
    安堵感だった。

    「私が悪いわけじゃなかったんだ!」
    「頭が悪いわけでも、
    努力が足りないわけでもなかったんだ!!」

    ただ、
    正しい方法で教えてもらっていなかっただけだったんだ
    と。

    そしてその後、
    じわじわと別の感情が湧いてきた。

    怒りだった。

    なぜ、役に立たない勉強を何年も強いられてきたんだ!?
    なぜ正しい学びを誰も教えてくれなかったんだ!!
    と。

    訳読法には、「話せるようになる」科学的根拠がない。
    それを知らずに、私は何十年もかけて、使えない英語知識を積み上げ続けていたのだ。
    受験のために。
    テストのために。
    「英語ができる人」に見られるために。

    私が英語教育に残りの人生を捧げようと思ったのは、
    この瞬間からだった。

    子どもの教材が、私を変えた

    セミナーで学びながら、
    私は子ども向けの教材を使い始めた。

    簡単な歌。
    手拍子に合わせたチャンツ。
    絵本レベルの多読。

    小学生が使うような、
    ごくごく基本的な素材ばかりだ。

    正直、最初は抵抗があった。
    TOEIC830点の自分が、
    幼児向けの歌を口ずさむ。
    中高の英語教員免許を持つ自分が、
    「There was a cat.」レベルの絵本を読む。

    かつての私なら、絶対に
    「こんなの意味がない」
    と投げ出していただろう。

    でも私が続けたのは、
    自分のためではなかったから。

    目の前の子どもたちが、
    自分が受けたのと同じ授業を受けたら、
    決して話せる日は来ない
    ——そういう確信があったからだった。

    自分が味わったあの辛さを、
    未来ある子どもたちに繰り返させたくなかった。

    先生として、
    楽しそうにジェスチャーたっぷりで
    英語を使う姿を見せなければならなかった。
    堂々と、遠くまでよく通る声で、クリアな発音で話してみせなければ、
    子どもたちの口は動かない。

    元々寡黙なタチで、
    声も小さい私には荷が重い授業だった。

    それでも、
    来る日も来る日も、
    中学の教科書レベルの簡単な表現を、

    繰り返し生徒と一緒に聞き、
    口に出し、
    ジェスチャーをダンスのように踊りながら発話し続けた。

    そして、気づいたとき
    ——私は英語を話していた。

    翻訳なしに。
    考えなしに。
    口から英語が出ていた。

    あれほど苦しんだ「脳内翻訳」が、
    いつの間にか消えていた。

    「知識」と「スキル」は、まったく別物だった

    留学で痛感した
    「話せない」の正体が、
    ようやくわかった。

    私には英語の「知識」はあった。
    でも英語を使う「スキル」がなかった。

    知識とスキルの間には、
    深くて大きな溝がある。

    その溝を埋めるのは、
    難しい参考書でも、
    ネイティブとの会話特訓でもない。

    やさしい英語を、
    耳と口と体で、
    感情を込めて、
    圧倒的な量、繰り返すこと。

    それだけだった。

    長い遠回りをした。
    でも今、私はあの英国のクラスで黙り込んでいた自分に、
    こう伝えられる。

    「あなたに才能がなかったわけじゃない。
    やり方が違っただけだよ」と。

    この連載では、
    私が体験を通じて辿り着いた
    「知識をスキルに変える5つのアプローチ」を
    お伝えしていきます。

    理解可能なインプット、
    歌とチャンツ、
    多読、
    第二言語習得論と「正則」、
    そして準備した英語を実践の中で使う経験
    ——どれも「難しいことを頑張る」話ではありません。

    英語年齢0歳の自分を、
    もう一度育て直す話です。

    まず最初に、どうしても伝えたいことがあります。

    なぜ私は、あれほど勉強したのに話せなかったのか。
    そしてなぜ、子ども向けの繰り返しだけで話せるようになったのか。

    その答えは、「インプットの質と量」にありました。

    難しい英語を少しだけ
    ではなく、
    やさしい英語を、圧倒的な量。

    このことを知っているかどうかで、
    英語学習の結果はまったく変わります。

    次回は、私がどうやってその「正しいインプット」に辿り着いたか
    ——挫折と発見の話をします。


    私の人生を大きく変えた「学びのステップ」の続きは、
    以下のリンクからすべてお読みいただけます。

    【第2回】「やさしい英語」が、最強だった――インプットという名の、もう一つの答え
    (松香洋子先生との運命の出会いと、脳内に英語OSを立ち上げる科学的インプット法)

    【第3回】耳が、開いた日――チャンツが、私の脳回路を書き換えた
    (大人の脳を劇的に変える「音の文法(プロソディ)」とフォニックスの衝撃)

    【第4回】やさしさという戦略――大人の英語が加速する、本当の理由
    (洋書での挫折と「積読ならぬ積聴」、そして一冊の本との出会いが教えてくれた、やさしい多読の本当の力)

    【第5回】不完全なままで、声に出してみる――「100点主義」の私が逃げられない環境で見つけたもの
    (完璧を目指さない夫の突破力と、知識をスキルに変える「最短最速サイクル」、そして最終回だからこそ伝えたい結論)


     
     
    「知っているのに話せない」を卒業へ。 知識は十分ある。足りないのは「回路」です。 音×文法チャンツで、頭の英語を声に変えるメソッドを発信。 大人の学び直し英語専門家|文法チャンツ講座主宰

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