
英語年齢0歳からやり直す| 【第4話】 易しさという戦略――大人の英語が加速する、本当の理由
大人の英語学習を最速で軌道に乗せるには、
二つの車輪を同時に回すのがいい。
一つ目は
——自分が本当に興味のあるもの、
必要と感じるものを素材にすること。
二つ目は
——第二言語習得論の知見、
つまり脳の仕組みを取り入れること。
この二つが揃って初めて、学習は「続く仕組み」になる。
どちらが欠けても、自転車は走らない。
私が多読に出会ったとき、
この「二つ目」を完全に無視していた。
そのせいで、ずいぶん遠回りをしてしまった。
「大人なんだから、子ども向けの絵本を読む時間があったら、
多少無理をしてでも本物の洋書を読んだ方がいいのでは?」
そう思った私が最初に手に取ったのは、
デイル・カーネギーの
How to Win Friends and Influence People(邦題:人を動かす)
だった。
これが、たまたま読めてしまった。
この本が非常に平易な英語で書かれていたために、
スルスルと読み進められてしまったのだ。
完全に運だった。
しかし当時の私には、そのことがわからなかった。
調子に乗った私は、
次々と別の洋書に手を出した。
ところが、最後まで読み切れない本が続くようになった。
当時は「オーディブル(Audible)」という
オーディオブックで購入していたため、
手元に文字データがなかったことも災いした。
耳で聞いても理解できない箇所がどんどん積み上がる。
仕方なく、理解できたところまで戻るものだから
遅々として進まない。
そのうち、何か「緊急対応が必要な出来事」が起こったり
進まぬ自分にうんざりしてモチベーションが下がったり…。
「積読(つんどく)」ならぬ、「積聴(つんぎき)」。
聞き通せない本だけが
静かに増えていった。
当時は、
実力を超えた英文を読むことこそが勉強だと思っていた。
易しい素材に戻るなんて思いもよらなかった。
学校では、
常に難しい英文に
辞書と首っ引きだった。
それが正しい勉強だと思い込んでいたので、
スラスラ読める易しい英文に戻るなんて、
そもそも選択肢として浮かばなかったのだ。
そんな私が、
過去の価値観を捨てて、
驚くほど簡単な素材を読み始めることになったのには
——あるきっかけがあった。
それは、「自分のため」ではなかった。
ある日、書店でふと目に止まった一冊の本があった。
古川昭夫氏の著書『英語多読法』。
帯にはこう書かれていた。
「中1から英語を学び始めて、中3でTOEIC 850点!」
ABCから英語を学び始めた中学生が、
海外留学もせず、
対策教材も使わず、
わずか3年足らずでTOEIC 850点をとった
——という実話だった。
しかも、たった一人の特別優秀な生徒の話ではない。
古川氏が主宰する塾の多読コースで、
TOEIC 800点以上をとった中3生・高1生が
何人もいるというのだ。
受験コースの生徒と比べ
多読コースの生徒の方が明らかに成績が良かったというデータも載っていた。
読みながら興奮が止まらなかった。
——これだ!
私の生徒たちにも、
本当に使える英語を身につけさせてやりたい。
そのためには、
まず子どもたちが読む本を、
指導者である私がすべて把握しておく必要があった。
自分の好き嫌いなど、言っていられないと思った。
こうして、子ども向けの、
絵のたくさん入った、
95%以上の単語がパッと見てわかる易しい本からスタートし、
とにかく大量に「理解可能なインプット」をする日々が始まった。
「生徒のため」に易しい本を必死に読み重ねていた
そんなある日。
信じられない変化が、
他ならぬ私自身の脳内に起こった。
一番の驚きは、
目の前の英文が「自然か、不自然か」が、
理屈抜きで直感的にわかるようになったことだった。
それまでの私は、
自分が作った英文が正しいのかどうかを判断できなかった。
文法的には合っているはず、
辞書上の単語の意味も間違っていない
——それでも「英語ではそんな言い方はしない」
と指摘されることが多かった。
何がおかしいのか、
どう考えれば正しい英文になるのか、
まったくわからなかった。
それが、多読を続けるうちに変わった。
何が英語らしい表現で、
何が不自然なのかが、
言語化できなくとも
「感じ取れる」ようになってきたのだ。
さらに
——英語を読んだり聞いたりするとき、
「これは英語だ、これは日本語だ」と
スイッチを切り替えることなく、
ダイレクトに「概念」として脳が処理し始めた。
かつて「オーディブル(Audible)」の音についていけず挫折していた私が、渋々取り入れたはずの易しいインプットによって、
英語の脳内回路を「自動化」できていた。
本当の流暢さが、
いつの間にか、
育っていた。
手応えを感じた私は、
「大人の方にもこの良さを伝えたい」と、
無料の読書グループ(多読クラブ)を立ち上げ、
みんなで一緒に読み進める環境も作った。
このアプローチの確かさは、
私のもとに集まってくれた多読クラブの参加者さんたちが証明してくれた。
800点までは対策問題集の学習で順調に点数を伸ばしてきたものの
そこから数年、伸び悩みが続いた方が
「別のアプローチが必要だ」と感じ
多読クラブに飛び込んでこられた。
YL(読みやすさレベル)0レベルからスタートさせ、
100万語を達成。
その段階で再度TOEICに挑んだところ
一気に50点アップの895点をマークされた。
この方だけではない。
100万語を駆け抜けた達成者たちは、
口を揃えてこう言っている。
・「英語を読んでいるという意識なく、
当たり前のようにスラスラ読めるのが不思議」
・「英語だということを忘れて、内容に没頭している自分に驚く」
・「TOEIC Part 7を見ても、圧倒されなくなった。
・「Part7で時間が余るようになった」
・「学生時代に、この方法に出会いたかった!」
超長文に悩む学生も、
長文読解が苦手だった大人の方も
——みんなが同じ言葉を残していくのだ。
易しい素材の大量インプットが、
英語を英語のまま攻略する最強の武器になることが、
おわかりいただけると思う。
私は、
第二言語習得論の知見
——95%以上の単語がわかるものを大量に読むのが効果的、
という事実を知らなかったために、
難しい英文に背伸びしてしがみつき、
かなりの年月を無駄にしてしまった。
だから今から本物の英語力を伸ばしたいと願う方には、
学問で良いと証明されたことをお伝えしたいと思っている。
それが、先に経験した者としての務めだと感じるから。
ただ、
一言で「100万語」と言っても、
”言うは易く行うは難し”だ。
特に、日本語の本でさえ読まなくなった今、
「読む」のハードルはどんどん上がっている。
そんな人には、
「多観(たかん)」——動画を大量に観ること——
をすすめたい。
ただし、これにも条件がある。
8割は分かること。
理解度が低いまま量だけ積んでも、成果にはつながらない。
古川氏の著書でも、そう検証されている。
ネイティブの大人が観る映画に、
日本人がいきなり挑む。
それは英語習得のロードマップとして、遠回りだ。
必要なのは、「理解可能なインプット」。
クラッシェン博士の言う、今の自分よりほんの少しだけ難しいレベル
——i+1。
このレベル感覚を掴めるかどうかが、動画選びの分かれ目になる。
最後に、もう一つ伝えたいことがある。
人は、自分のためだけだと、
思うように頑張れないことがある。
けれど「誰かのため」なら、
信じられないようなパワーを発揮できる。
私がそうだった。
「生徒たちのために」と始めた易しいインプットが、
巡り巡って、自分自身の英語脳を書き換えた。
もし、自分一人では多読が続かない、
易しい本を読むことに抵抗があるという方は
——動機を少しだけ、「外」に向けてみてほしい。
「我が子の英語教育のために、英語絵本を一緒に読んでみよう」でもいい。
「仲間と一緒に読めるコミュニティを開いて、みんなの多読環境を作ろう」でもいい。
誰かのために踏み出したその一歩が、
巡り巡って、
あなた自身の英語力を劇的に覚醒させる
——最高のトリガーになるかもしれない。
チャンツで耳を開き、
多読で回路を自動化する
——これで、知識はスキルに変わり始める。
けれど、実はもう一つだけ、
超えなければならない壁がある。
「知っている」と「使える」の間に横たわる、
最後の溝。
それを埋めてくれたのは、理論でも教材でもなく
——ある一人の人物の生き方だった。
次回、最終話。
「知識」を本当の「スキル」に変える、
最後のピースをお伝えします。
「英語年齢0歳からやり直す」は創作大賞2026に応募中の連載です。
過去回は以下からお読みいただけます。
【第1回】知識はあった。でも口が動かなかった。
(TOEIC830点でも話せなかった留学の挫折と「知識」を「スキル」に変える決意)
【第2回】「やさしい英語」が、最強だった――インプットという名の、もう一つの答え
(松香洋子先生との出会いと脳内に英語OSを立ち上げる科学的インプット法)
【第3回】耳が、開いた日――チャンツが、私の脳回路を書き換えた
(大人の脳を劇的に変える「音の文法(プロソディ)」とフォニックスの衝撃)