メインコンテンツへスキップ
見出し画像

英語年齢0歳からやり直す| 【第3話】 耳が、開いた日――チャンツが、私の脳回路を書き換えた

    口が、動いた。

    翻訳していない。考えていない。

    ただ、英語が——出てきた。

    前回、その瞬間の話をした。
    やさしい英語だけに触れ続けていたある日、
    身体が勝手に反応するように
    口から英語が飛び出してきた
    あの瞬間の話を。

    では、その「口が動く」をさ
    らに加速させたものは何だったのか。

    それが——チャンツだった。

    チャンツとは、メロディのない歌のようなものだ。
    音程は関係ない。
    リズムに乗せて、英語を繰り返すものを言う。


    「チャンツ? 子どものものでしょう?」

    当時の私は、そう思っていた。

    最初に出会ったとき、
    子育て期のことを思い出した。

    生まれたての我が子に
    童謡を歌い、絵本を読み聞かせをしていた日常。

    その延長だったから
    身振り手振りをつけながら
    大声でチャンツを唱えることに対し
    なんら抵抗はなかった。

    とはいえ、
    自分のためになるなんて1ミリも期待していなかった。

    あくまで生徒さん達のため。
    日本語さえ習得の過渡期にある幼児〜小学生に「文法用語」での解説なんてわかるはずがない。
    英語の必要性なんて
    全く考えたこともないであろう子ども達。

    楽しくなければ、即刻そっぽを向かれてしまう。
    子どもが「楽しい」と思う活動であることが
    至上命題だった。

    チャンツはそれにぴったりだった。

    さらに、
    子どもは本物を見分ける力がある。
    誤魔化しは通じない。

    そんな力を持つ子どもの前に立つ以上、先生である私が
    聞こえる耳と通じる発音を持っていなければ
    話にならない。

    子ども達に本物の英語力をつけてもらうのに必要ならば、
    何でもやろうと腹を括っていた。



    言語”らしさ”を表すチャンツ

    チャンツは、別に、英語に特有なものではない。
    どの言語にもある。

    日本語で言えば、
    お経や「だるまさんがころんだ」がそれにあたる。

    「Da・Ru・Ma・Sa・N・Ga・Ko・Ro・N・Da」

    声に出してみると、わかる。
    ーーどの音も、同じ長さ、同じ強さで、均等に並んでいる。

    これが日本語のリズムだ。

    では英語は?

    試しに「だるまさんがころんだ」を、
    英語ネイティブが言うところを想像してみてほしい。

    ——「だるぅ~まさんが こぉろんだぁ~」

    そう、私たちはすでに知っているのだ。
    英語には強く長く伸ばすところと、
    力を抜いて一気に流すところがある、
    強弱の波のある言語だということを。

    ところが、いざ自分が英語を話そうとすると、
    途端に日本語のリズムに引っ張られて、
    全部の単語を同じ調子で区切りながら発音してしまう。

    だから、通じない。


    音の文法=プロソディ

    この各言語に特有のリズムのことを
    「プロソディ」という。
    話し言葉に現れる「音の文法」だ。

    文法を知らなければ意味が通じないように、
    プロソディを外すと、
    いくら辞書通り正確に単語を発音しても
    英語として聞こえない。

    そして、プロソディを知らないままでは、
    聞き取ることもできない。

    ネイティブの英語が早すぎて聞こえない
    ——その正体の多くは、
    実はここにある。

    英語は別に早くない。
    ただ、
    私たちが知らないリズムで
    話されているだけなのだ。

    たとえば
    「I kick a ball.」も
    「I have been kicking a ball.」も、
    ほぼ同じ時間で発話される。

    単語が増えても、時間は変わらない。
    内容語は強く長く、
    機能語は一気に流される。
    だから、単語数が増えるほど
    「早く」聞こえる。



    このプロソディを体に入れる
    最も手っ取り早い方法が、
    歌とチャンツだ。

    楽器の練習と同じなのだ。

    楽譜を読めても、
    弾けるわけではない。
    指が動くまで、繰り返す。
    理屈ではなく、体で覚える。

    繰り返し聞いても苦にならない
    良い音源のついた教材で歌を繰り返していると、
    自然にリズムが染み込んできた。

    「makes you」が1拍になる感覚。
    「s」と「y」がくっついて「シュー」という音になる感覚。

    最初は意識して真似ていたものが、
    あるときから無意識になっていた。



    英語が聞き取れないもう一つの訳

    ところで、そもそもなぜ、
    英語が「聞きとれない」のか。

    リズムの問題だけではない。
    もっと根本的なことがある。

    日本語にない音は、
    脳が聞こえないようにしているのだ。

    赤ちゃんは生まれた時、
    世界中のどんな言語の音も聞き分けられる。

    ところが生後8ヶ月を過ぎると、
    脳は
    「生きていくのに必要な音」
    だけにチューニングされていく。

    日本で育った私たちの耳は、
    日本語の音に最適化されている。
    英語の音は——消えていたのだ。

    フォニックスを学んだ時、
    この事実を突きつけられた。

    たとえば「L」の音。
    日本語の「ル」とは全く違う。
    舌先を上の歯茎にしっかりつけたまま、
    舌をはじかずに出す音だ。

    私がずっと「ル」と聞いていたものが、
    実は別の音だった。

    フォニックスで「L」の出し方を学び、
    もう一度同じ英文を聞いてみた。

    ——聞こえた。

    今まで聞き取れなかった単語が、
    突然、音として届いてきた。

    自分が発することができる音は、
    聞き取れる。

    逆を言えば、
    自分が発することができない音は、
    いくら耳を澄ませても届かない。



    生きた英語にするために必要な学び

    チャンツを続け、
    フォニックスを学ぶ中で、
    私の中で静かに、
    しかし確実に何かが変わっていった。

    文字だった英語が、
    音として響くようになった。

    音として響くようになると、
    文章を見た時にも
    「音」が浮かぶようになった。

    英語が、生きた言葉になっていく感覚。

    それは、
    英語を学んで初めて味わった
    「本物の手応え」だった。



    習得には”学ぶ順番”が大事だった

    知識から音へ。
    目から耳へ。

    この順番を変えるだけで、
    英語はまったく別のものになる。

    人類が文字を持ったのは、
    ごく最近のことだ。

    人類の誕生を24時間に換算すると、
    文字が生まれたのは
    ——わずか30分前。

    残りの23時間30分間、
    人間は「音」だけの世界に生きていた。

    私たちの脳は、
    聞いて話すことで
    コミュニケーションするように進化している。

    長年、
    英語が「わかるのに使えないもの」だったのは、
    才能のせいでも、
    努力不足のせいでもなかった。

    最初に「目」で英語を学んできたために、
    決定的に「音」が抜けていた。
    それだけのことだったのだ。



    次回は、
    音の土台ができてから辿り着いた
    「多読」の話をしたいと思う。

    易しい英語を、浴びるように読む。

    「そんなことで本当に力がつくの?」

    かつての私が最も懐疑的だったことが、
    実は最も効果的だった、という話だ。



    「英語年齢0歳からやり直す」は
    創作大賞2026に応募中の連載です。
    第1回・第2回はこちらからお読みいただけます↓↓

    第1回 知識はあった。でも口が動かなかった。
    第2回 やさしい英語が最強だったーーインプットという名のもう一つの答え

     
     
    「知っているのに話せない」を卒業へ。 知識は十分ある。足りないのは「回路」です。 音×文法チャンツで、頭の英語を声に変えるメソッドを発信。 大人の学び直し英語専門家|文法チャンツ講座主宰

    あなたへのおすすめ