
英語年齢0歳からやり直す| 【第5話】 不完全なままで、声に出してみる――「100点主義」の私が逃げられない環境で見つけたもの
これまでの英語人生を振り返ってみると、
本当にあっという間だった。
「もっと上手になったら話す練習を始めよう」
「もっと自信がついたら仕事にしたい」
そう思って必死に努力している間、
一向に上達している実感が持てなかった。
英語を自在に操れる感覚なんて、
全く持てなかった。
「いつでも100点じゃないと意味がない」なんて
完璧を求めすぎてはいけない。
頭ではわかっていた。
でも、底なしの理想主義が邪魔をして、
一人ではどうしても、
最初の一歩が踏み出せなかった。
そうしているうちに、
月日だけが容赦なく経っていく。
焦りだけが、胸の奥に静かに積み重なっていった。
人生が加速度的に動いた日
そんな私の人生が、
加速度的に動き出した瞬間がある。
それが、セミナー講師になったときだった。
きっかけは、児童英語講師となって数年が経過した頃。
株式会社mpi松香フォニックスさんから、
声をかけていただいたのだ。
(株)mpi松香フォニックスは、
児童英語教育のパイオニア的存在。
1979年の創業から47年の実績を持ち、
小学校英語導入にも積極的に関わってきた
子ども英語界のリーディングカンパニーだ。
受験のための英語ではなく、
「世界に通用する子どもを育てる」
ことをゴールに掲げ
コミュニケーションのための英語を
ダイレクトメソッド(英語を英語で教える手法)
で教えることを推奨している。
その児童英語講師養成セミナーで、
「どうすれば子どもたちが英語を使える人間に育つのか」
「英語を英語で教えるにはどうすればいいのか」
という講義を、7年間担当してきた。
同時期に、教育ブログも5年間書き続けていた。
もちろん、マニュアルは渡された。
けれど、すべての内容が完全に自分に腹落ちしていないまま、
セミナー当日を迎えてしまっていたのだ。
準備が整っていようがいまいが、
容赦なく日取りは決まり、
自分が教壇に立たねばならない。
不完全な状態のまま、人前に立たされる経験。
マニュアルの受け売り。
これが、本当に苦しかった。
なぜなら私は、
自分の中で過去の知識や経験と照らし合わせ、
心から腹落ちして
「これは絶対に間違いない」
と確信を持てたことしか、
口に出せない性格だったからだ。
知識も経験も浅い当時の私には、
マニュアルに書かれている理論が上滑りしているように感じられて、
なんとも気持ち悪かった。
乖離を埋めた数年間
そのギャップを埋めるために、
必死で第二言語習得論の本を何冊も読み漁った。
得た知見を、
すぐに自教室の生徒たちに試す。
それを繰り返した数年間だった。
試行錯誤の中で、
子どもたちの弾けるような笑顔や
確かな変化を目の当たりにしたとき、
ようやくマニュアルの言葉が「私の言葉」として腹落ちした。
セミナーマニュアルと自分自身との乖離が、
少しずつ、少しずつ小さくなっていき、
ようやく本物の自信が芽生えてきた。
セミナー自体、英語で行わなければならなかったことも、
私の英語力を引き上げる大きな要因となった。
事前にティーチャートークをすべて書き出し、
一人リハーサルを繰り返す。
登壇という本番を迎え、
終わったら今度は、一人反省会。
それを何度も何度も繰り返すことで、
私の心の中にあった
「話すことへのブレーキ」が、
少しずつ外れていった。
環境が、人を変える
私は、典型的な内向型で、
理想主義的な性格だ。
現実の自分と理想とのギャップが強烈に見えてしまうから、
「失敗するかもしれない」
と思うことには一歩が踏み出せない。
そのうえ、一度失敗すると
いつまでもクヨクヨ悩むタイプ。
だから「何もしないこと」が、
傷つかないための防衛策になりがちだった。
そんな私が、
どうしても英語を使わねばならない環境に強制的に置かれたとき
――自分でも予想しなかった行動力が生まれた。
一回一回の失敗を引きずっていられないほどの度胸が、
後からついてきたのだ。
環境が、人を変える。
もし、自分が「こうなりたい」と願うゴールがあり、
そのためにはどうしても通らねばならない道が見えているなら
――逃げられない環境に、
あえて自分の身を置いてしまうのは
良い一手だと思う。
少なくとも私の場合
それは、想像以上に効果的だった。
夫を見て、気づいたこと
ところで、うちの夫は、
英語が完璧ではない。
それでも「内容が伝わればいい」の精神で、
若い頃から海外出張や
大学での講義を平気な顔でこなし、
海外の出版社から本まで出している。
文法が少し違っていようが、
様々な国の人たちと登壇するシンポジウムで他のパネラーより発音が悪かろうが、
臆することなく自信を持って熱弁を振るうその突破力には、
いつもハッとさせられる。
セミナー講師としてもがいていた頃の私は、
まさに
「完璧でなければ口を開けない」
タイプだった。
だからこそ、
不完全なまま軽やかに前に進んでいく夫の姿が、
余計に眩しく見えた。
完璧を目指して動けなくなる私と、
不完全でも
「伝わればOK」
と割り切って成果を出していく夫。
真面目で
「100点じゃないと不安」
と足踏みしてしまう受講生さんを見るたびに、
自分自身の姿が重なって
胸が締め付けられる。
でも、夫の姿を見ていると思うのだ。
英語なんてただの伝達手段。
完璧じゃなくても、道は開ける。
逆に、そう割り切れる人の方が
成果が出やすい、と。
とはいえ、あなたが私と同じような
臆病で繊細な”チキンハート”であっても
不安を小脇に抱えたまま
一歩踏み出せば、
何がしか、
必ず得られるものが
ある。
最短最速のサイクル
夫を見ていて、確信したことがある。
英語を「目的」にしている限り、
いつまでも足踏みが続く。
英語は、あくまで「手段」でなければならない。
かつての私は、
「資格試験の点数を上げてから話そう」
「自信がついたら話そう」
というロードマップを、
疑いもなく信じていた。
点数は取れた。
けれども、実社会では使えなかった
――そのギャップに、後から苦しむことになった。
セミナー講師として、
逃げられない環境に身を置いてから、
ようやく気づいた。
大事なのは、
学習の最初から「音」を通して
「聞く」「話す」を取り入れることだ。
「音」を中心に据えると、
会話の速度で処理しようとする意識が生まれる。
処理スピードが、上がる。
そもそも、人類は、その誕生以来、
音声でコミュニケーションしてきた生き物。
聞けて話せるようになると
英語力全般が底上げされるのが実感できた。
聞いて、話すのが先。
自分が話す時の細かい文法ミスなどの訂正は、
その場ではあえてしない。
それは会話が終わったあとの、一人反省会でやればいい。
夫が仕事で使う英語でやっていたのも、
まさにこれだった。
具体的におススメめなのは以下の流れ。
①まず、自分の興味のある分野の素材を、
AIで自分の英語レベルに調整し
インプットする。
それを使って、
②生きた言葉としての使い方を学ぶ。
③学んだことを、即、話題として使ってみる。
――英会話でも、世界へ向けての発信でも。
④振り返り、改善点を見つけたら、
次回に活かす。
このサイクルを回すことこそが、
もっとも効率的な道なのだと、
今の私は思っている。
これまでの回では、
・歌/チャンツで耳を開き、
・多読で脳内の英語回路を自動化する
大切さを伝えてきた。
この連載の中で、私が最後にたどり着いたのは、
結局この一点だった。
知識として「知っている」ことと、
実際に「使える」ことの間には、
深い溝がある。
理論も教材も、もちろん大切だ。
・脳内に英語の回路を作ること。
・それを助ける良質な教材に出会うこと。
・そして、正しくトレーニングしていくこと。
それが大前提として最重要だ。
その上で、英語そのものを目的(ゴール)にせず、
英語「で」情報を得、
英語「で」発話(発信)する環境を整えるのだ。
私の場合は、
「逃げられない環境」に身を置き、
不完全なまま声に出してみたことが、
人生を大きく前に進めてくれた。
けれど、
何があなたにとってのベストな環境かは、
それぞれの性格やライフスタイルによってグラデーションがあるはず。
だからこそ、最初から完璧な環境を目指さなくていい。
信頼できる誰かと一緒に少しずつ試行錯誤をしながら、
あなただけの心地よい
「一歩踏み出せる場所」を、
焦らずに作っていってほしいと思う。
最後に
日本人は、不安を感じやすい気質の人が多いと言われている。
私の受講生さんにも、
「100点を目指して足踏みしてしまう」
という、
かつての私と同じタイプの方が本当に多くいらっしゃる。
でも、声を大にして伝えたい。
完璧を目指さなくても、
絶対に大丈夫。
不完全なままでいいから、
自分の好きな素材でインプットし
そこに、ご自身の思いや意見を載せて、
世界に向けて発信してみませんか?
あなたの言葉は、
不完全だからこそ、
体温を伴って
きっと相手に届くと思うのです。
端正な100点を目指して立ち止まるより、
いびつでも届く言葉を放つこと。
これこそが「100点主義」だった私が
逃げられない環境の先で見つけた
一番大切な答えです。
その一歩を支えてくれるのは、
特別な才能でも、
血の滲むような努力でもない。
あなたが今いる場所を、
ほんの少しだけ「逃げられない環境」に変えてみること。
それだけで、
あなたの英語は――環境の力を借りて伸び始め、
あなた自身の人生は――確実に動き出す。
そう信じています。
「英語年齢0歳からやり直す」は、
創作大賞2026に応募中の連載エッセイです。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
私の人生を大きく変えた「正しい学びのステップ」は、
以下のリンクからすべてお読みいただけます。
【第1回】知識はあった。でも口が動かなかった。
(TOEIC830点でも話せなかった留学の挫折と、「知識」を「スキル」に変える決意)
【第2回】「やさしい英語」が、最強だった――インプットという名の、もう一つの答え
(松香洋子先生との運命の出会いと、脳内に英語OSを立ち上げる科学的インプット法)
【第3回】耳が、開いた日――チャンツが、私の脳回路を書き換えた
(大人の脳を劇的に変える「音の文法(プロソディ)」とフォニックスの衝撃)
【第4回】やさしさという戦略――大人の英語が加速する、本当の理由
(洋書での挫折と「積読ならぬ積聴」、そして一冊の本との出会いが教えてくれた、やさしい多読の本当の力)