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「藝大合格まで、だいたい9浪(笑)の話」 鴨居玲の衝撃編 No.3

    最終試験の帰り道


    「藝大合格まで、だいたい9浪(笑)の話」 鴨居玲の衝撃 No.2からの続き…

    実は私には、鴨居さんとの不思議な縁があります(…と勝手に思っています(笑))。
    私は2000年度の藝大の入学試験に合格し、その4月から晴れて藝大生となるのですが、その3月の、予備校生として最後の入試の際の出来事です。藝大の入試は当時、関東の主要美大(武蔵野美術大学や多摩美術大学など)の試験が終了した後に行われていました。確か”後期日程”とか呼んだはずです(覚えていない…(笑))。藝大の入試が、関東の美大受験生としては最後の試験となったわけです。

    藝大の油画科は、当時はセンター試験(学科試験)と一次試験(デッサン)、二次試験(油絵)とで構成されていました。
    2000年度の入試において、私は一次試験を突破しました。そして3日間の二次試験が全て終了して受験生がアトリエから出され、他の受験生と同様に私も受験番号順に廊下に並びました。3日間の試験が終了する頃にはアトリエの同じ受験生の顔と作品を薄っすらと覚え、上手だな〜とか、綺麗な色を使う人だな〜とか、何となく妙な親近感を覚えていたものでした。
    そのアトリエで試験を受けていた中に同じ予備校の受験生がおり、何となく藝大からの帰り道を一緒に歩きました。試験も全て終了したので予備校まで荷物を片付けに帰るのです。当時の私は予備校6年目(9浪)で、彼は1浪生でした。普段は一切接触はなく、ただ同じ予備校の人くらいの印象しかありませんでしたので、普段なら話すこともなかったと思います。ただ藝大の二次試験(最終試験)も終了し、私にも彼にも開放感があったのだと思います。
    9浪の私:「試験、どうでした?」
    1浪の彼:「良く描けました!」
    藝大から上野公園を抜けて上野駅まで、油絵の道具の入っている道具箱を乗せたキャリーを引きながら一緒に歩きました。

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    キャリーに油絵の道具
    予備校生には「ガラガラ」とも呼ばれる(笑)

    当時の私は新宿美術学院(以下「新美」)に通っており、上野駅から新宿駅まで山手線で帰りました。山手線の車両は7人掛けの座席と3人掛けの座席とがあります。私たち2人は3人掛けの座席に座りました。ちょうど、お爺さんが私たちから離れた端の席に座っていらっしゃったので、私が真ん中に、そして1浪の彼がこちら側の端の席といった具合に座りました。上野駅から新宿駅まで30分くらいでしょうか。席に座って、足元には絵具で汚れた道具箱を乗せたキャリーを膝下に寄せ、なるべく迷惑にならないように座っていました。彼とは相変わらず直前までの試験について話していたと思います。
    しばらくして、隣に座っていたお爺さんが私たちに話しかけてきました。
    お爺さん:「あんたたち、絵を描くのかい?」
    私:「はい!荷物が大きくてすみません!」
    といった感じです。当時は幾分おおらかで、絵具まみれのキャリーを引いていると話しかけられたりしたものです。

    その頃には新宿まであと僅かだったこともあり、また、「今日、藝大で試験があって…」など言っても仕方ないと思った私は、それ以上詳しく話すことはなく、私たちはむしろお爺さんの話に耳を傾けました。
    お爺さんは当時80代くらいでしょうか。白髪でいらっしゃいましたが、座っていてもその長身には気が付くほどスタイルが良く、また、落ち着いた印象の方でした。お爺さんは楽しそうに話を続け、「いとこが君たちのように絵描きでね〜」や、「そのいとこは大酒呑みで、仏壇にお供えしてあるお酒まで呑んでしまっていたんだ(笑)」などと、楽しそうに、嬉しそうに話されていらっしゃいました。そして、私たちも試験の疲れも忘れ、お爺さんの楽しげな話に耳を傾けていました。

    …続いて、「そのいとこのお姉さんはデザイナーでね〜」、ここで私は「ん…!?」となりました。

    「藝大合格まで、だいたい9浪(笑)の話」 鴨居玲の衝撃 No.4へ続く…

    【注釈】私が美術系予備校(以下「予備校」)に通ったのは6年間で、それ以前は、今はすでに廃校になっている、吉祥寺にあった「武蔵野美術学園」(各種学校)の油絵科の夜間部に3年間通っていました。

    【参考文献】・表紙は、『没後10周年記念 鴨居玲展』(図録)、鴨居玲展実行委員会、1995年より引用。


     
     
    東京藝術大学 博士課程修了。専門は絵画、銅版画、写真表現。好きな作家は尾形光琳、高松次郎、辰野登恵子、清野賀子、大西博、ウィリアム・ターナー、アルベルト・ジャコメッティ、ピート・モンドリアンなど。上手に描いてある作品より、その人の頑なな佇まいや孤立感を感じる作家や作品に惹かれる。

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