
小役人日記 新規採用編⑥結婚式
4月1日の東京異動をわずか一週間後に控えたころ、私は結婚式を挙げていた。最近は結婚式自体を開かないことも増えているというが、当時は同じ役所の職員を大勢呼ぶのが半ば恒例だった。
宮崎人事部長は、若手の未婚職員を大量に出席させ、私の結婚式を、妻側の職場である市役所との大規模合コンパーティーへと仕立て上げる構想を持っていたようであるが、さすがに丁寧にお断りした。
というより、私の家は、妻の家に比べて親戚の数がかなり多かったため、両家の人数バランスを取る関係上、私は職場関係者を五名しか呼ぶことができなかったのである。逆に、妻は、多くの職場関係者(市役所職員)を招くことで、全体の均衡を保っていたのだ。
式が始まり、仲人の宮崎部長が冒頭の挨拶を行う。事前に、
「いくらダメなやつでも、こういう時は持ち上げてあげなきゃいけないんだよなぁ。」
と笑っていたとおり、私の実績や将来性を過剰なまでに褒め称え、東京での活躍を期待していると結んでくれた。
その一方で、市役所関係者への気遣いも忘れてはいなかった。せっかく数年かけて育成した職員が退職することになったのである。市役所の異動サイクルは国に比べて長く、一つの課に十年近く在籍する人も珍しくないという。そうした中で、ようやく中堅へと育った職員を失うことは、やはり痛手だっただろう。
また、東京からは、わざわざ宮本元課長にもお越しいただいていた。部署こそ違うとはいえ、再び同じ庁舎で働くこととなるのである。異動サイクルは短いものの、こうした人事的な再会がよくあるのは、役所勤めの良いところだと思う。
宴もたけなわとなり、余興の一つとして、お菓子撒きというものを行った。会場に隣接するガーデンへ参加者を集め、建物の上から私と妻が袋入りのお菓子をばらまくというものである。目玉は、特大サイズのうまい棒だ。
後日聞いたところによると、この余興では菜島課長が大いに活躍していたらしい。五本しか用意していなかった特大サイズのうまい棒のうち、二本を手中に収め、その他にも多くの戦利品を獲得していたという。そして、
「やっぱり、結婚式っていうのはいいもんだなぁ。」
と、しみじみ語っていたそうだ。
その後も、宮本元課長が私(新郎)の席に座って妻と写真を撮っていたり、市役所関係者が、半ば意趣返しのように私へ酒を注いだりと、式は最後まで慌ただしく続いていった。
こうして、私の新採時代最後の大イベントは幕を閉じたのである。数日後、私は東京へと旅立つことになる。
右も左もわからなかった新人時代は、気づけば、結婚と上京という人生の大イベントに飲み込まれるようにして終わっていたのだ。
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