
小役人日記 新規採用編⑤異動のとき
国家公務員の異動サイクルは、一般的に2〜3年が目安とされている。どんなに良い部署でも、逆に悪い部署でも、良くも悪くもこの期間が過ぎれば他の部署へ異動となる。新規採用からまもなく三年を迎える私にも、最初の異動の時期が迫っていたのだ。既に宮本課長は本省庁へと帰任し、鶴岡君も別の部署へ異動していた。
そんななかで、私には、人生の大きな岐路が迫っていたのである。結婚である。
私には、高校時代以来七年間も付き合っていた彼女がおり、ついに結婚することとなったのだ。途中、私が首都圏の大学に進学していたことによる四年間の遠距離恋愛を乗り越えた上での結婚である。現在、彼女は市役所に勤務しており、これで、中馬家の財政基盤は盤石となるはずだった。
プロポーズを終えた私は、普段からお世話になっている宮崎人事部長に報告することにした。何と切り出してよいのか悩みつつも、恥ずかしげに結婚を報告する私に、宮崎部長は満面の笑みで、
「中馬、よかったな!幸せになれよ!」
と、声をかけてくれたのである。
そんな日から一週間ほどたったある日。私は人事部長室の前で、再び宮崎部長と対面していた。宮崎部長から呼び出されたのだ。そして、こう告げられた。
「中馬、お前、来年の4月から本省庁勤務な。」
……ん?一週間前に、私はとても大事な話をしていたような……と思ったが、もはやどうしようもなかった。おそらく、先に人事の話が動いていたのだ。宮崎部長に文句を言うのは筋違いである。
問題は、彼女になんと告げればよいのかである。
私は、自身の直属の上司ではなかったが、これまで先輩公務員として様々なアドバイスをしてくれた菜島課長に相談してみることにした。彼の答えはこうだった。
「いいんだよ、単身赴任すれば。しばらく自由にできるじゃないか。」
話にならんと思った私は、本省庁へ戻った宮本元課長にメールしてみることにした。宮本元課長の返事はこうであった。
「中馬、お前自身はどうしたいんだ?お前の意思があるなら、ちゃんと相手に伝えないとだめだぞ。」
私は、一切の迷いを断ち切った。私は、本省庁の仕事に挑戦してみたかったのである。さりとて、彼女と二度と離れたくないとも思っていたのだ。
その日の夜、彼女と夕食をともにした私は、彼女に市役所を辞めて一緒に東京へ来てくれるようお願いした。そして、彼女は一切の躊躇なくこれを承知してくれたのである。
こうして、私は東京に行くこととなった。周りのみんなは、「数年間の新婚旅行と思って」と小粋な言葉を送ってきたが、この新婚旅行は、いつしか家族旅行となり、私の二十代を象徴する激動の四年間へと変貌するのだ。
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