
AGE65 -優先順位-|第15話「誰が決める」
日曜日の昼。
玲はベッドに横たわり、動画を観ていた。
『コン、コン』
誠「玲、少し付き合わないか」
玲「どこに?」
誠「俺の仕事場。進路を考えるきっかけくらいにはなるかもしれない」
玲「仕事場?」
誠「気分転換だよ」
玲「んー……うん、行く」
誠の仕事場には、建物の図面や地図、数字の並んだ資料が広げられていた。
玲「この資料は?」
誠「持ってる物件の状況を確認してる。不動産の仕事だ」
玲は資料を一枚手に取った。
玲「この建物だけ、修繕費が多いね」
誠「よく分かったな」
玲「手すりと浴室の工事が多い。入居者が高齢者なんでしょ」
誠「ああ。高齢の人が増えてるからな」
玲は別の表を見る。
玲「やっぱり、若い人は減ってるよね」
誠「その地域は、子どもも若い夫婦も減ってる」
玲「住む人が減るのに、支えるためのお金は増えるんだね」
誠「今は、そういう場所が多いな。空き家も増えてる」
玲「損が出る場所はどうするの?」
誠「投資だけで考えれば、利益の出ない物件は売る」
玲「住んでる人は?」
誠「買う人がいれば、そのまま住めることもある」
玲「じゃあ、買う人がいなかったら?」
誠「取り壊すか、使い方を変える」
玲「高齢の人は、簡単に引っ越せないよね」
誠「ああ。でも、現実は厳しい」
玲「住んでる人には必要な家なのに、お父さんには利益が出ない」
誠「そうだ。民間の仕事は、利益が出なければ続けられない」
玲は地域の人口推計を見た。
玲「高齢者は増えて、働く人は減る」
誠「そうだな」
玲「4年前に話したことと同じだよね」
誠は玲を見た。
玲「家族だけで支えられない人が増える?」
誠「ああ、増えるな」
玲「おじいちゃんみたいに、認知症になる人も?」
誠は少し黙った。
誠「同じ事件が増えるとは言えない。でも、追い詰められる家族は増えるかもな」
玲「少子高齢化ってさ、分かってるのに、なんで止められないんだろう」
誠「方法が一つじゃないからな。税金を増やす。支援を減らす。働く人を増やす。外国から人に来てもらう。AIや機械を使う」
玲「全部やればいいのにさ」
誠「全部やれば、別のところで困る人が出る」
玲「でも、ずっと決めないまま、問題は悪くなってるよね」
誠「ああ。いつか、どこかで決めなきゃならない」
玲「誰が?」
誠「国だ。政治家や役所で働く人たちだろうな」
玲「間違えたら?」
誠「間違えた結果も、みんなが受ける」
玲「でもさ、もう現状が間違えてる……」
2人はしばらく黙っていた。
誠「今月中に、取り壊す予定の物件がある」
玲は誠を見る。
誠「そこに住んでいた高齢の人には、施設へ移ってもらうことになった」
玲「それを決めたのは、お父さんでしょ」
誠「ああ」
玲「嫌だって言わなかった?」
誠「言ったよ。ここで死にたいって」
玲は資料へ視線を落とした。
誠「でも、建物は古くて、このまま住んでもらうこともできなかった」
玲「泣いてた?」
誠「ああ」
玲「それでも決めたんだ」
誠「決めない方が、もっと危険だった」
玲はしばらく黙っていた。
玲「嫌われても、誰かが決めないといけないんだね」
誠「そうだ」
帰宅すると、玲はノートパソコンを開いた。
まだ、自分が何をしたいのかは分からない。
でも、この問題を知らないままにはしたくなかった。
玲《日本の少子高齢化について、最初から教えて》
画面に、長い文章が表示され始める。
▶ 次の話
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