
AGE65 -優先順位-|第0話「守らないといけない」
【あらすじ】
10歳で両親を失った神代玲は、里親家庭で成長し、自分の異常な知能を隠して生きていた。中学3年のある日、玲はAIと出会う。人口減少、医療崩壊、膨張する社会保障費。AIが示した未来は、日本が静かに滅びへ向かっているというものだった。やがて政治家となった玲は、国家を存続させるため、65歳以上の延命医療を制限する制度を提案する。人を救うために、人を切り捨てることは正義なのか。これは、国の「優先順位」を決める少年の物語。
長期連載小説「AGE65 -優先順位-」
――序章編――
朝のニュース番組が、誰にも見られないまま流れている。
TV『今年の出生数は、統計開始以来、過去最低となる見通しです』
白い壁、木目の床。
4人掛けのダイニングテーブルには、朝食が並んでいる。
TV『65歳以上の人口は、今後も増加を続け――』
父「おはよう、おとうさん」
返事はない。
曲がった背中の祖父は、窓の外を見ている。
外には、昨日と同じ位置に白いランドクルーザーと赤いBMWが並んでいる。
母は台所に立ち、忙しそうに朝食の準備をしている。
母「おはようございます、おとうさん」
祖父が顔を上げ、ゆっくりと母を見る。
知らない人を見るような目で、母の顔を探る。
祖父「ん……あんたは誰だ?」
母「ねえ、おとうさん。私です」
テーブルの端に座っていた玲は、手の中のルービックキューブを回した。
『カチッ、カチッ、カチッ』
その音が消えたあと、テレビの声だけが部屋に残った。
TV『社会保障費の増大により、現役世代の負担は――』
父がリモコンを押す。
画面が暗くなり、静寂が部屋を包み込んだ。
祖父は、母の前へゆっくりと近寄った。
祖父「ここにいるな」
母「もう、おとうさん」
祖父「帰ってくれ」
母は顔をそらし、鍋の取っ手に手を置いた。
『カチッ』
玲が回したキューブの音が、静かな部屋に広がる。
父が祖父の肩に手を置いた。
父「ほら、おとうさん。家族だから大丈夫だよ」
祖父は、肩に置かれた手へ視線を落とした。
その視線が、父の顔までゆっくりと上がっていく。
長い沈黙。
祖父「家族は……守らないと……いけない」
玲のキューブを回す指が止まった。
窓の外で風が吹く。
赤いBMWのフロントガラスに残っていた枯れ葉が1枚、宙を舞い、地面に落ちた。
▶ 次の話
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