【創作大賞2026応募】フレンズ 最終話 鷺沼新
「あかり、卒業文集のテーマ何にする?」
授業が終わった途端、背中を指で突かれて後方を振り返る。
「わたしは、『国語の授業で一番心に残った小説』にしようかな」
わたしの返答に葵が「へえー」と声を出す。彼女の「へえー」が無関心という意味でないことは、共に過ごした年月でわかっている。
「わたしはね、『友達』をテーマにしようかなって思う!」
明るく放たれた言葉に、わたしの体は一瞬固まる。
「もちろん、テーマにはあかりも含まれているよ?」
「……そうなんだぁ」
「他は、ミキちゃんナツキちゃんとかかな。まあ、いつもの仲間だよ!」
さらっと「あかりも含まれている」と言える葵に感心した。その言い方に粘着性が全くない。彼女のそういうところが、わたしは好きだ。
ミキちゃんとナツキちゃんは、「わたしの友達の友達」だ。わたしは、二人のことを葵の会話の中でしか知らないが、それで構わないと思う。
もし、わたしが『友達』をテーマに書くとしたら――。
ふとめぐらした想像の中で、しおりちゃんの姿が浮かんだ。今は他人と呼んでもいい関係の彼女との、蜜のようで猛毒だった時間が再生されていく。
トイレでの一件の後、先生たちは連携してわたしとしおりちゃんを引き離した。しおりちゃんの担任は、次の年のクラス替えでしおりちゃんの教室内での孤立を解消した。新しいクラスでしおりちゃんは数人の友達を作った。……新しい友達とどの程度の距離感で付き合っているかはわたしの知るところではない。意地悪なほの花ちゃんも、先生によく言い含められたのか、トイレでの一件を突くことはなかった。
しおりちゃんは、本当に『友達』だったのだろうか。
たぶん、最初は『友達』だった。途中から、『友達』ではなくなった。私の中の友情は消え、しおりちゃんの一方通行になった。
「あかりは被害者なのよ。あれは、セイ被害っていうのよ」
事件からしばらく経ってから、ママはそう言った。わたしにはわからなかった。セイ被害の意味はわかるが、しおりちゃんが全部悪いというのも違う気がするのだ。わたしたちが本当にともだちだったなら、嫌なことを嫌といえばしおりちゃんはアレを止めた気もする。ともだちに対する考え方の違い、言わなかったこと言えなかったこと――それがトイレでの出来事に繋がったのではないかとも思う。
思えば、あの頃のわたしは「一番のともだち」にこだわっていたのだ。
「ねえ、葵」
「ん?」
葵が私の声に顔を上げる。
「よかったら、帰りにコンビニでアイス買おう? ほら、葵が好きなチョコアイス、新しいフレーバーが出たって」
「行く行く! 絶対!」
目をきらきらと輝かせるその姿に、モヤモヤした感情が取っ払われていく。
葵と一緒にいると、嫌な気持ちにならない。嫌なことをされないし、しない。踏み込んだ内容は話さない。
「一番のともだち」かどうかなんてどうでもいい。「ともだち」であることに変わりないのだから。
ねぇ、わたしはそんな「ともだち」が欲しかったんだよ。
今は遠くにいる「可愛かったともだち」にわたしはそう語りかけた。
(了)
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