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Photo bymirecat

優秀なオスが数頭いればいい世界|種牛|生命としての性を語る【家畜人工授精師シリーズ2】

    前回は、
    ホルスタインのオスは、
    カブトムシより安い値段で取引されていることなどを書きました。

    カブトムシは引き合いに出してなかったけども、
    よく考えたらペットショップで売られている、
    昆虫や熱帯魚のベタやコリドラスよりも安い。

    今回は、種牛について書いていきます。

    種牛について

    精子を取るためにオスも繁殖用に飼育されます。
    種牛専用の施設で育てられます。
    産まれは、
    専用の施設であることが多いです。

    安心して欲しい。
    このオス牛たちは、
    本当に大切に育てられています。
    大切な経済動物です。

    でも、メスを知ることは無い。

    精子の検査で異常が無い事、
    試験用のメス牛が順調に出産できて、
    仔牛にも問題が無ければ、
    種牛デビュー。

    擬牝台(ギヒンダイ)と呼ばれる跳び箱のような台が置かれた部屋へ連れていかれます。

    擬牝台には発情した雌の匂いが付けられています。
    種牛はペニスを出して義牝台にマウンティングします。
    人工膣と呼ばれる筒を、
    職員がペニスに被せると、
    射精します。
    牛は一度入れたら射精します。

    採取完了。

    数日~数週間おきに採取します。

    私のイラストで分かりやすく説明したい。
    絵は上手くないが、
    イメージはできると思います。
    牛は割と上手いと思っている。

    画像
    a:採取する人
    b:人工膣
    c:擬牝台(ギヒンダイ)
    d:種牛
    e:ペニス

    人工膣の説明をします。
    図はかなり略式の断面図ですが、
    構造はこんな感じ。
    牛の体温は37~38度くらい。
    直腸検査の時に牛の肛門に手を入れると、
    牛の体温で熱があるとか分かります。

    画像
    a:牛の体温程度のお湯で満たされている
    b:柔軟で弾力のあるゴム製
    c:種牛のペニスが入る空間
    図の右側からペニスを挿入する。

    採取された精液は、
    希釈され、
    ストローに入れられて、
    液体窒素の中で保存されて、
    全国の繁殖メス牛に人工授精されます。

    肉牛も、乳牛もです。

    優秀なオスが数頭いればいい世界。

    牧場毎にオス牛を飼うことはしないの?
    という疑問が出てくるかと思います。
    答えは、

    しません。

    去勢していない雄牛は凶暴です。
    縄張り意識が強く、
    巨体で突進してきます。
    800kgくらいの巨体です。
    自動車にぶつかられるのと同じくらいの衝撃。
    死にます。

    私は、仕事中に肥育のオス牛に突進されて肋骨と胸骨にヒビ入りました。

    それと、
    近親交配を避けるためです。

    一頭のオス牛を飼うとして、
    メス牛への種付けがその1頭になってしまうと、
    娘牛たちがみんなお父さん同じになり、
    娘牛への種付けを、
    別の血統にしなければなりません。

    毎年種牛を交換するのも大変。

    哺乳類のため、
    近親交配をすると、
    特定の弱い遺伝子が引き継がれることで、
    奇形の子牛が産まれやすくなってしまいます。
    ホルスタインの血統も、
    元を辿ればたったの数頭です。

    現在でも、血が濃くなりつつあり、
    「乳頭欠損」という、
    本来4つあるはずの乳頭が、
    3つや2つと、
    乳首が足りない牛が産まれたりすることもあります。

    雌牛は明治時代にアメリカから輸入された最初の5頭から、
    日本のホルスタインは酪農の発展と共に繁栄してきたといいます。

    ホルスタイン導入の歴史はこちらを参照。

    日本のホルスタインの系統を辿ると、
    限られた種牛の血統が大きな割合を占めています。

    黒毛和牛は血統を辿ることができます。

    黒毛和牛はこちらを参照。

    ちょっとだけサラブレッドも


    サラブレッドも、

    実は限られた血統から始まっています。

    できるだけ速く走る馬を目指して改良されたのが競走馬のサラブレッドです。

    その祖先とされる種牡馬は、

    ・ダーレーアラビアン

    ・ゴドルフィンアラビアン

    ・バイアリーターク

    の3頭です。

    オスの生殖機能の説明

    ここで、
    オスの生殖機能について、
    精巣の確認をします。

    精巣の中で精祖細胞が、
    分裂と成熟を繰り返し、
    約74日かけて精子になります。

    これを毎日繰り返すことで、
    1日で7000万個以上作られています。

    精管、前立腺、尿道を通って射精。

    尿道は射精前に高揚液で洗浄されるため、
    射精時に尿は混じりません。
    高揚液に精子が混じることはあります。

    本記事では一般的な俗称ではなく、高揚液と表記します。

    生き物によって違いますが、
    1回の射出精液中に数億~数十億もの精子が含まれており、
    その内数百~千に満たない数の精子が卵子に到達できます。
    しかし、
    卵子に侵入し、授精できるのは、
    たった1つの精子です。

    私たち哺乳類は、
    数千億分の一の確率の遺伝子で構成された奇跡の命です。

    きっと、
    隣の精子がお母さんの卵子に入っていたら、
    私は存在しなかったのでしょう。

    そう思うと、
    今生きている自分が奇跡だと思いませんか?

    そういうわけで、
    1日で7000万個も作られる精子。

    精巣上体尾部という場所で、
    牛は60日保管できます。
    ある一定期間保管されて、
    射出されなければ、
    分解・再吸収され、
    消滅します。

    牛は人と同じく通年繁殖です。

    人の精巣上体尾部では、
    精子の保存期間は3日~1週間程度と言われています。
    今回は種牛なので、
    人については、
    また別の機会に書きます。

    牛は人と比べると、
    ・大量生産
    ・長期保存
    ・遺伝子拡散

    に適していると感じます。
    野生時代はいつ発情するメス牛に会えるかわからないから、
    貯めて置く必要があったのかも知れません。

    因みにマウスの精子の保存期間は20日程度とされています。
    寿命や体温の違いがありそうですね。

    精子の形も動物で違います。
    そして、体のサイズと精子のサイズは比例しないのが驚きです。
    頭部の形が違うことも驚き。


    画像
    a:原型質膜
    b:先体(水色の所)
    核は真ん中の紫の部分
    学生時代のノートのイラストをAIで描き直した図です。
    指定してないのにカラフルにしてくれた。
    色はAIの好みです。


    シナハムスターはチャイニーズハムスターのこと。
    手のひらに収まるサイズの哺乳類ですよ。
    人や牛よりも尾鞘(ビショウ)が長い。

    げっ歯類の頭部の形が他と違うところも面白い。

    次はメス牛の生活や繁殖。
    人との比較なども書きたいと思います。


    これから

    そして今後、
    生物の生存戦略や体の構造の違いから、
    人の性別による違和感の正体、
    大人のための教養としての性教育(子供にも)などについて書いていけたらいいなと思います。

    遺伝子の組み合わせがXYなら男性になるって単純なものじゃないって知ってましたか?

    生命の誕生って本当に複雑です。

    私は、
    「赤ちゃんはどこから来るの?」
    という子供の疑問に、
    「人も動物と一緒で哺乳類だから母と父の遺伝子が出会ってできるんだよ」
    と、紙に図を書いて細胞とか遺伝子単位から子供に伝えちゃったけど、
    これって実は専門知識だったと気づいたのです。

    高校の生物ではDNAの複製とか、
    遺伝の法則は教育に組み込まれています。

    けれども、

    「性別はどう決まるのか」

    「なぜ男性と女性は身体が違うのか」

    「性分化とは何か」

    について詳しく学んでないな、
    と思ったのです。

    性についての知識は、
    専門家や能動的に調べる人だけの専門的な知識ではなく、

    もっと教養としての知識として共有されれば、

    自分も相手も大切にすること。

    違いを受け入れること。

    自分の心と身体を守ること。

    そんなことを、
    もっと考えることができるんじゃないかな?
    と思うのです。

    家畜人工授精師の生命を作り出す仕事を経験し、
    母親になることで見つけた視点。

    自分の身体を守るため、
    相手を理解するため、
    子供に命を伝えるための教養なのではないかと。

    だから私は、
    牛の話から始めて、
    命と性について考えていこうと思います。

    そう思って、
    人工授精師シリーズ始めました。

    参考資料
    家畜人工授精講習会テキスト(社団法人日本家畜人工授精師協会)
    大学時代の家畜の繁殖の教科書とノート
    新・アダムとイヴの科学 熊本悦明

    読書感想文に使用したこちらの本も参考にしています↓

    シリーズ一覧

    ①100円の命と、雌なのに子宮が無い牛に出会った日の話【家畜人工授精師シリーズ1】
    ②優秀なオスが数頭いればいい世界|種牛|生命としての性を語る【家畜人工授精師シリーズ2】(この記事)
    ③母体の神秘|牛と人の子宮の違い|直腸検査で胎児が出てきちゃった話【家畜人工授精師シリーズ3】
    ④卵巣の話|卵子は生まれる前から増えない|自分の身体を知る教養【家畜人工授精師シリーズ4】


     
     
    大人の自由研究を書いています。私が気になったことを、大人になった今の知識と経験で調べ、生物・教育の視点から身の回りの「なぜ?」を掘り下げています。雪国在住。農業系大学卒。家畜人工授精師・保育士。

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