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Photo byairmail_528hz

100円の命と、雌なのに子宮が無い牛に出会った日の話【家畜人工授精師シリーズ1】

    その牛は、
    雌なのに子宮がなかった。

    畜産の現場では、
    様々な状況の牛に会う。

    私は家畜人工授精師として、

    そんな“命の線引き”に何度も立ち会ってきた。

    牛の世界では、
    性別で役割が決まる。

    でも、人間はそうだろうか?

    この違和感について、
    少しずつ書いていこうと思う。

    家畜人工授精師

    家畜人工授精師という職業は
    簡単に言うと、
    メス牛を妊娠させるお仕事です。

    仕事をするに当たって、
    直腸検査というものを行います。
    直腸検査とは、
    牛の肛門から手を肩まで入れて、
    直腸の真下にある子宮・卵巣を触って妊娠することが可能かどうかを判断し、人工授精を行います。

    生命を作る仕事のため

    生命の神秘
    命の儚さ
    命の底力

    現場で直面してきました。

    哺乳類が相手のため、
    細胞単位で、
    雄と雌の性についても真面目に向き合っています。

    もちろん、
    人間の男女についても日々、
    (主に夫婦関係や職場での日常)
    考えてモヤモヤしたり考えたり行動を変えてみたりしています。

    ここでは主に
    乳牛:ホルスタイン
    肉用種:和牛
    で話を進めていきます。

    直検して、子宮がない牛に出会った話

    私は、
    この仕事をしている時に色々な牛に出会いました。

    ・奇形で鼻の穴が片方しか無い
    ・直腸が繋がっていない
    ・白血病の牛
    などなど…

    そして、一番印象に残っているのは

    「メスなのに子宮が無い牛」

    卵巣はあるのに子宮が無い!

    この牛は、
    妊娠することが不可能な牛でした。

    直腸検査の時に触診してたら、
    (排卵しそうな卵胞はあるのに子宮無い…)
    確認のため所長に電話。
    フリーマーチンと判定してもらいました。

    乳牛は
    妊娠→出産→搾乳
    と、牛乳を搾るためには妊娠と出産をしなければなりません。

    哺乳類だからよく考えたら当たり前のことなのですが、
    私の母親は

    「牛って全部牛乳出るんじゃないの?」

    と言っていたこともあり、

    牛について深く考えたことない人もいるかも知れません。

    この牛は、どうなるのか?

    牛の運命

    オスとメスで出生後の運命が違います。

    和牛と乳牛で多少違う所はありますが、
    ほぼ一緒です。

    メス→繁殖→搾乳
    (和牛は子育て)

    オス→肥育→牛肉

    皆さんが食べている牛肉のほとんどはオスです。

    メスの肉を厳選して売っているのが松阪牛です。

    乳牛は、牛乳を人間が食料にするため、
    初乳(産後最初に分泌する母乳)以外は粉ミルクを与えて、
    人間が仔牛を育てます。

    和牛は、搾乳しないため、
    お母さん牛に仔牛を育ててもらいます。

    とてもシンプルで、
    はっきりした役割分担です。

    そして、子宮の無かったメス。
    フリーマーチンといいますが、
    フリーマーチンも肥育に回ります。

    雄雌価格の違い

    牛は生まれると直ぐに、

    「牧場に残る」か「市場に出される」

    かが決まります。

    もう、
    15年以上前の話にはなりますが、
    私が働いていた地域では、
    生後2週目から売りに出されます。

    ホルスタインの市場価格ーー


    オス:100円~
    メス:1000円~

    競りにかけられていました。

    オス安すぎ!

    と驚かれた方も多いのではないでしょうか?

    メスと10倍値段が違います。

    現在はもう少し価格が上がっていますが、
    理由を説明していきますね。

    ホルスタインの存在価値

    ホルスタインは乳用種です。
    有名な白黒の牛です。

    ★メス
    繁殖し、搾乳することができるため、
    後継牛として、
    生まれた牧場に育てられて大切に飼育されます。
    妊娠・出産を経て、
    搾乳されて牛乳は農家さんの収入源となります。

    基本的にメスは後継牛として、
    牧場に留まります。

    大切な経済動物です。
    価格も現在は上がってきており、
    数万円~10万円以上になります。

    ★オス
    悲しいことに、
    オスは妊娠も出産も搾乳もできません。
    当たり前です。

    酪農家さんからしたら、
    置いておく必要が無い存在です。

    どうするのか?
    100%肉用として肥育農家さんに買い取られます。

    では、なぜ100円と極端に安いのか?

    肉用種は
    和牛・短角牛・F1
    がいるからです。

    F1(エフワン):ホルスタインのメスに和牛のオスの精子を授精させて生まれる交雑種です。犬でいうミックス。

    生後2週間ほどから市場に出されてしまう理由は、
    ミルク代や飼育の手間を省くためです。

    現在では、生後1か月からの市場受け入れに変わってきているようです。
    価格も、数千円~数万円と上がってきています。

    生後6週目くらいから育成牛になります。
    そして、
    生後6~8ヶ月頃、
    去勢されます。

    去勢とは、
    睾丸を取り除くことです。

    なぜ、去勢をするのかというと、
    睾丸が付いたそのまま育てると

    ・肉が硬い
    ・狂暴
    ・縄張り争いで大けがをする
    ・獣臭が強くなる

    というリスクがあるためです。
    しかし去勢すると

    ・肉が柔らかくなる
    ・サシが入りやすくなる
    ・温和になる
    ・獣臭が薄くなる

    管理しやすく、肉質も良くなります。

    あれ?
    精子はどうするのか?

    それも私たち、
    家畜人工授精師の仕事です。
    これは次の記事に書きます。

    と、いうことで

    ホルスタインの世界では、
    圧倒的にメスの方が価値が高い。

    ここで少し人間の話になる。

    「女のくせに」

    そんな言葉に違和感を覚えたことはないだろうか。

    牛の世界では、
    ”性別”で役割がはっきり分かれてしまう。

    そして、
    性で価値が決まる。

    でも、人間は本当にそうだろうか?

    身体の違いは確かにある。
    けれど、
    それだけでその人の価値は決まるのだろうか?

    仕事を通して、
    生物としての性を見てきたからこそ、
    違和感がたくさん心に残っている。

    次は「種牛」。

    子宮の無かった牛、
    フリーマーチンについて、
    別の機会に書いていきます。

    シリーズ一覧

    ①100円の命と、雌なのに子宮が無い牛に出会った日の話【家畜人工授精師シリーズ1】(この記事)
    ②優秀なオスが数頭いればいい世界|種牛|生命としての性を語る【家畜人工授精師シリーズ2】
    ③母体の神秘|牛と人の子宮の違い|直腸検査で胎児が出てきちゃった話【家畜人工授精師シリーズ3】
    ④卵巣の話|卵子は生まれる前から増えない|自分の身体を知る教養【家畜人工授精師シリーズ4】


     
     
    大人の自由研究を書いています。私が気になったことを、大人になった今の知識と経験で調べ、生物・教育の視点から身の回りの「なぜ?」を掘り下げています。雪国在住。農業系大学卒。家畜人工授精師・保育士。

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