
絵本小説②『そして空き家になった・・・実家で家族が食卓を囲むまで〜50代の娘の記録〜』父、執念の自宅終い
【第2章:父、執念の自宅終い】

父が施設へ移り、ほどなくして母も別の施設へ。誰もいなくなった実家は、空き家になりました。 ある日、一人で移動するのも難しくなっていたはずの父が一人で外出したと、施設から連絡が入りました。一人でタクシーに乗り、実家のマンションに戻ったのです。

目的は、空き家に残した本棚と残りの荷物を片付けたいという執念でした。
追いかけるように実家へ駆けつけ、父に思わず大きな声をだしてしまいます。
「そのままにしておけばいいじゃない!」
父も負けていません。
「空き家にして自分の荷物がそのままなんて、気持ちが悪いじゃないか」
部屋に残していった大きな本棚からヨタヨタ震えながら本をおろし、まとめようとしています。汗をかき、今にもたおれそうな様子。
「手伝うよ」
と言う私に、父は頑なに言いました。
「お前にはわからないよ。お父さんにとって、何が大事かどうかなんだぞ」

確かに、何十年も離れて暮らしてきて、世代も違う父が、何を大事に思うのか、なんて分からないのです。本を持つ手すら震える父の横で、私は本を1冊ずつ渡して尋ねました。
娘「どうする?」
父「それは、囲碁の本だ。もうやらないからいらない」
父「これは、美術館で買ったんだ。好きな画家だったんだよ」
父「それは、なかなかいい小説だよ」
娘「持っていけば?」
父「でも要らない。同じものは読みたくない、新しいことが好きなんだ」

何度も、何度もその問いを繰り返しながら、本や書類を分けていきました。何日通ったでしょうか。気づけば、たくさん入っていた父の本棚は、綺麗に空っぽになっていました。父は、人生の大仕事を終えたような、やり切った顔をしていました。
「これはどうしようかな……」
とお名残り惜しそうに最後の本をパラパラと開く父。
「持っていこうよ」
と、この時の私は少し優しい気持ちで伝えることができました。

「もう一つ……仏壇を持っていきたい」
と父が言いました。
「え、施設に仏壇?」
と私は一瞬戸惑いました。すでに一度整理してあった小さな仏壇を、誰もいない空き家に置いておくのは忍びないと思ったのでしょう。とはいえ、施設のワンルームの部屋に仏壇を置くのは気がひけます。置ける場所で思い当たるのは、玄関の靴箱の上……。父の靴箱には、部屋で入りきらなかった本がぎっしりと詰まっています。
「ひとまずは、父の思い通りにしてみよう」
仏壇を施設へ運び、父の靴箱の本棚の上にそっと置きました。施設の人が嫌がらないかしら……と心配しましたが、小さな扉を閉めておくと私自身があまり気になりません。帰り際、仏壇に手を合わせ、お鈴を「チーン、チーン」と鳴らすと、ベッドから父の声が聞こえました。
「いい音だ、安心した…」
父の執念の自宅終いが終わった瞬間でした。
しかし、主(あるじ)のいなくなった実家が本当の意味で「空っぽ」になるまでには、まだ長い道のりが待っていました。誰もいなくなったはずの部屋で、遺された家具や思い出たちが、まるで意志を持つかのように、その場所にどっしりと根を張り始めていたのです。
(次回つづく ③空き家が動き出す )
①父のマストアイテム
③空き家が動き出す
④父母の帰省と家族の食卓(完結編)
★絵本小説を書いた思いはこちら
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