
【#創作大賞2025#ミステリー小説部門】ネツゾウ~あらすじ・第1話~
幼いころ、父を火事で亡くした正義(まさよし)は高校3年生。
不審火であることからひそかに事件性を疑い、捜査を続けていた刑事の秋月は、残された母子の生活を見守り続けていた。
ある日、母・美津江は突然失踪し、残された正義はアルバイトをしながら一人暮らしをしていた。
父の幼馴染である香織とその娘・夏生(なつき)に支えられながら日々を過ごす正義のもとに、突然、失踪していた母の訃報が届く。
母の遺書には、父の死の真相が記されており、正義の心に大きな波紋を広げる。
プロローグ
燃え盛る炎の中で、正義は〝それ〟が上げる、断末魔の叫びを聞いていた。不思議と怖いとも思わず、ただこれで、全てが終わり、そして始まるのだと思った。
「正義…!」
悲鳴にも似た母の声で、正義は我に返った。すぐそばに、火だるまになった〝それ〟が近づき、今にも自分の足をつかもうとしている。正義は急に恐怖に襲われ、逃げようとしたが、畳の上に転がる空き缶に足を取られ、尻もちをついてしまった。
「おま……はや……ろ……」
〝それ〟が、黒く焼け焦げながら、炎に喘ぎ、呻き、必死の形相で正義を睨む。
尻もちをついたままで後ずさりながら、正義は、醜く焼かれている〝それ〟を眺めていた。正義の足をつかもうと伸ばされた腕は、肉が焼かれて縮んでゆき、もうそれ以上、動くことは出来そうになかった。
「キャーッ!」
母の悲鳴と同時に、天井が焼け落ち、壁も崩れ始めた。ひとたび火が回れば、古い木造アパートは、ひとたまりもなかった。炎の勢いは、とどまる所を知らず、今や部屋中、火の海となっていた。炎は出口を求めて一気に広がり、熱風と煙とで肺が焼けそうだ。
遠くから消防車のサイレンが聞こえてくる。
これで全てが終わり、そして始まるんだ。そうだよね?母さん……。
正義は意識を失った。