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SaaSの死とは?株価急落の理由と、AIエージェント時代のSaaSの役割

    2026年2月3日、ソフトウェア企業の株が一斉に売られました。
    きっかけは、決算でも不祥事でもありません。
    その4日前に、AnthropicがAIエージェント「Claude Cowork」へ業務用のプラグインを追加した、それだけです。

    このとき市場で使われ始めたのが「SaaSの死」「SaaSpocalypse」という言葉でした。
    人がログインして画面を見ながら操作する、という前提でつくられたソフトウェアは、AIが代わりに操作する時代に何を売るのか。
    投資家はそこに値段を付け直したことになります。

    ただ、この言葉は語る人によって中身が違います。
    ソフトウェアが消えるという話ではありません。
    何が終わって何が残るのか、そして7か月たった2026年9月の時点で実際にどうなったのかを、公式発表と調査資料をたどりながら整理します。

    この記事は、各社の公式リリースと調査資料をもとに、2026年9月時点の内容にしています。


    2026年2月に、何が起きたのか

    発端は、1月に公開されたAIエージェント

    時系列で並べると、こうなります。

    • 2026年1月12日:AnthropicがAIエージェント「Claude Cowork」をリサーチプレビューとして公開

    • 2026年1月30日:法務・金融向けのプラグイン11本をリリース

    • 2026年2月3日:SaaS関連株に大規模な売りが発生

    Claude Coworkは、パソコン上のファイルやアプリを、人の指示を受けてAI自身が操作するタイプの製品です。
    プラグインが11本出たことで、それが特定の業務にそのまま入り込む姿が具体的に見えた、というのが売りのきっかけでした。

    数字には幅がある

    失われた時価総額としてよく引かれるのは約2,850億ドルという数字ですが、これは集計の取り方によって変わります。

    DeepLearning.AIのニュースレター「The Batch」は、2026年1月12日から2月23日までの期間で、S&P Software & Services Indexが25パーセント下落し、時価総額にして約2,850億ドルが失われたとしています。
    一方、2月3日という1日だけを切り取ると、S&P 500のソフトウェア指数が13パーセント下げたという集計もあります。

    対象範囲も集計期間も違うため、数字は幅で受け止めるのが正確です。
    1兆ドル、2兆ドルといった、もっと大きな数字を掲げた記事も出回りましたが、集計の根拠が示されていないものが多くありました。
    この記事では、出どころのはっきりしているものだけを挙げています。

    Jefferiesのトレーダーが名前を付けた

    この現象に「SaaSpocalypse(サースポカリプス)」という呼び名を付けたのは、Jefferies社のトレーダーであるJeffrey Favuzza氏です。
    SaaSとApocalypse(黙示録)を組み合わせた造語で、これが広まりました。

    日本市場にも波及した

    米国市場だけの話では終わりませんでした。
    国内の主要SaaS銘柄も、1月から2月にかけて売られています。

    • ラクス:13.5パーセント下落

    • Sansan:12.45パーセント下落

    • 弁護士ドットコム:9.29パーセント下落

    • freee:9.00パーセント下落

    NEC、富士通、野村総合研究所といった、SaaS専業ではない企業まで売られたのもこのときの特徴でした。

    「SaaSの死」が指しているもの

    ここが誤解されやすいところです。
    この言葉は、ソフトウェアそのものが消えるという意味ではありません。

    多くの分析が挙げているのは、次の3つが終わるという見立てです。
    どれに重心を置くかは論者によって違いますが、候補として出てくるのはおおむねこの3つです。

    • 人が画面を操作するという前提

    • 月額課金・シート課金(使う人数で決まる値付け)というビジネスモデル

    • UI(画面)を中心に置いた設計

    大和総研の田邉美穂氏が2026年3月3日に公表したレポートも、「SaaSの死」はSaaSというサービス提供形態の消滅を意味するわけではない、という立場を明記しています。


    なぜAIエージェントが、脅威と受け止められたのか

    記録するシステムから、実行するエージェントへ

    これまでのSaaSは「System of Record(記録のシステム)」と位置づけられてきました。
    人が情報を入力し、システムが正確に記録・保管し、必要なときに人が画面を見て確認する。
    この役割分担です。

    これに対して語られ始めたのが「System of Agents(実行のエージェント)」という考え方です。
    記録するだけでなく、AIエージェント自身が判断してタスクを実行する主体になる、という階層の入れ替わりを指します。

    ソフトウェアの構造が「画面中心」から「エージェント中心」へ移りつつある。
    この見方が、株価の反応の核心にありました。

    MCPという共通の入口

    その入れ替わりを支えているのが、MCP(Model Context Protocol)です。
    AIエージェントと外部のツールが、安全にデータをやり取りするための共通規格にあたります。

    これまでは、AIと個々のSaaSをつなぐのに、サービスごとの連携をひとつずつ開発する必要がありました。
    MCPは、その接続の作法を標準化するものです。
    AIエージェントの仕組みそのものについては、別の記事で詳しく扱っています。

    MCPは2025年12月にAnthropicからLinux Foundation傘下のAgentic AI Foundationへ移管され、特定の1社の規格ではなくなりました。

    SaaS企業は「接続される側」に回った

    興味深いのは、SaaS企業がこの流れにただ飲み込まれているわけではない、という点です。

    インテュイット、HubSpot、Salesforce、DocuSign、Shopifyといった主要企業は、自社サービスにMCPサーバーを公開し、AIエージェントから「接続される側」に回る戦略を取りました。
    エージェントが実行の主体になるなら、その実行先として選ばれる位置に立つ、という発想です。

    実際、2026年2月24日にAnthropicがDocusign、FactSet、Intuit、Salesforceなどとの統合を発表すると、売られていた株価は反発しました。
    置き換えるのではなく組み合わせる、という絵が示されたためです。

    エージェントに業務データを触らせることの代償

    ただし、この戦略には代償があります。
    エージェントが自社のデータを読み書きできるということは、そのエージェントを外から動かせた者も同じことができる、ということでもあります。

    SaaS各社がMCPサーバーを公開する流れが本格化する前から、この形の事故は起きていました。
    SalesforceのAIエージェント機能「Agentforce」で見つかった「ForcedLeak」という脆弱性です。
    Noma Securityが2025年7月28日にSalesforceへ報告し、同年9月に公表しました。
    深刻度はCVSSという共通の採点基準で9.4、最も高い区分にあたります。

    仕組みはこうです。
    Webサイトのフォームから見込み客の情報を受け取る機能があり、その説明欄に指示文を紛れ込ませておく。
    社内の担当者がその見込み客の情報をAIに処理させると、AIは本来の指示と、仕込まれた指示の両方を実行してしまいます。
    結果としてCRM(顧客管理システム)の中の情報が、外部のドメインへ送り出される筋書きでした。
    人が入力した文章を、AIが命令として読んでしまうところが要点です。
    Salesforceは失効していたドメインを取り戻したうえで、AIが呼び出せるURLを許可リストで制限する修正を入れています。

    このときの入口はWebフォームでしたが、MCPサーバーを公開して外部のエージェントを迎え入れれば、同じ構造の入口が増えます。
    接続される側に回るというのは、この面倒を引き受けることでもあります。

    エージェントに何をどこまで任せるか、権限とログをどう設計するかという話は、以前から扱ってきたテーマと地続きです。
    それがSaaS企業側の生き残り戦略としても効いてくる、というのがこの事例の意味です。

    バイブコーディングという、もう一つの圧力

    技術的な背景として、もう一つ挙げておきたいのが「バイブコーディング」です。
    自然言語でAIに意図を伝えるだけで、プログラミングの専門知識がなくてもアプリケーションを組める手法を指します。

    エンジニアでない人が、数時間で自社の業務に合わせたツールを作れる。
    そうなると、SaaSベンダーが積み上げてきた「開発の専門性」という優位が薄まります。
    買うか作るかの分かれ目が、これまでより手前に来たことになります。

    もっとも、これで何もかも置き換わるわけではありません。
    規制対応や、間違えたときの責任を負う領域は、作って終わりにはできません。
    この点は次の章で扱います。

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    「本当に終わるのか」をめぐる3つの立場

    前提:言葉の中身が、人によって違う

    先に3つの終わりを挙げましたが、実際の議論では、そのうちどれを指しているかが人によって違います。
    画面を人が操作する前提とUI中心の設計、つまり画面の価値が下がるという話をしている人もいれば、シート課金というビジネスモデルが成り立たなくなるという話をしている人もいる。
    3つ全部が同時に終わると言っている人は、実はそう多くありません。

    さらに、この3つとは別に、バイブコーディングで参入障壁が下がり、機能の模倣が容易になって価格競争になる、という意味で「SaaSの死」を使う人もいます。
    こうなると、もはや同じ言葉を話していません。

    賛成か反対かを議論する前に、その人が何を「死ぬ」と言っているのかを確かめる。
    これがこの話題を読むときの前提になります。

    終わるという見方

    ビズリーチの社長は2026年4月の取材で、「SaaSの死」は単なる流行語ではなく実際の変化を反映している、と述べています。
    ただし終わるとしているのは、汎用的なデータにもとづく単機能のSaaSです。
    自社にしかないデータと生成AIを組み合わせ、顧客ごとに形を変えられるものへ移らなければならない、という言い方でした。
    同社は人材データを軸にした基盤への転換を進めています。

    終わるのはSaaSという形式ではなく、「どの会社にも同じものを売り、機能の数で選ばれる」という勝ち方だ、というのがこの立場の言い分です。
    この意味に限れば、死は避けられないことになります。

    終わらないという見方

    一方、企業情報システムの側から見ると、話は変わります。
    三菱総合研究所が2026年4月24日に公表したコラムは、AIエージェントが前面に出る時代でもSaaSが残る領域として、2つを挙げています。

    1つは、承認権限の管理、分岐条件の制御、例外処理といったワークフローを安定して回す仕組み。
    もう1つは、企業の原本データを持つSystem of Recordとしての役割です。
    データの蓄積、テーブル構造やスキーマの設計、整合性の維持が求められる領域は簡単には置き換えられない、としています。

    業務の多くは、正しく、再現でき、統制された形で実行されなければならない、というのがこのコラムの言い方です。
    会計処理を誤れば決算訂正になり、給与計算を誤れば労使の問題になります。
    この要求は、操作する主体がAIエージェントに変わっても薄まりません。

    役割が変わるという見方

    賛否のどちらでもない、第三の見方も広がっています。
    SaaSは死ぬのでも生き残るのでもなく、役割が変わるという整理です。

    先に挙げた大和総研のレポートがこの立場で、AIが組み込まれたSaaSを活用する選択肢が現実的であり、SaaS自体がAIによって高度化しながら併存していく展開を想定する、としています。

    経費精算や請求書処理を手がけるTOKIUMの西山希執行役員も、2026年5月の取材で、ソフトウェアはあくまで手段のひとつだと述べています。
    人的リソースなども組み合わせて、最終的な業務成果まで丸ごと引き受けるサービスまで進化できれば、これからも必要とされ続ける、という見方です。
    ソフトを売るのではなく、業務が終わった状態を売る、と言い換えられます。

    エージェントの実行先として選ばれる位置に立つという、SaaS企業がMCPサーバーを公開した動きも、この整理の中に収まります。


    2026年9月時点の最新状況

    騒動から7か月が過ぎました。
    2月以降にまず動いたのは製品と規格の側で、株価と業績の答え合わせは、そのあとから追いついてきています。
    製品と規格の話を先に、数字の話をあとに置きます。

    Claude Coworkは、4月に一般提供へ

    2026年4月9日、AnthropicはClaude Coworkの一般提供を開始しました。
    対象はすべての有料プランです。

    このとき同時に入ったのが、企業で使うための管理機能でした。
    公式ブログに挙がっているのは次の5つです。

    • ロールベースアクセス制御:管理者がユーザーをグループに分け、グループごとに使える機能を決める

    • グループ単位の支出制限:管理コンソールからチーム別に予算の上限を設定する

    • 利用状況の分析:管理ダッシュボードとAnalytics APIで、セッション数やアクティブユーザー数を追う

    • 監査ログの外部連携:ツール呼び出し、ファイル操作、スキルの使用状況をOpenTelemetryという共通形式で記録し、社内のログ監視基盤(SIEM)へ送る

    • 接続先ごとの権限制御:MCPで外部サービスにつなぐ口(コネクタ)ごとに、読み取り専用など実行できる操作を制限する

    2月に「人の仕事を置き換える道具」として恐れられた製品が、4月には「権限とログを管理者が握れる道具」として出し直された、という形です。

    MCPは、仕様とロードマップが企業向けに寄った

    MCP自体も動いています。
    2026年7月28日に公開された仕様では、本番運用を前提とした変更が入りました。

    大きいのは、なりすまし対策です。
    ログインを担当するサーバー(認可サーバー)は、発行した通行証に自分の身元を書き添えることが必須になり、受け取る側はそれを確かめてから使う形になりました。
    また、あるサーバーから受け取った認証情報を、別のサーバーに対して使い回すこともできなくなっています。
    取り違えや、悪意のあるサーバーへの横流しを防ぐための変更です。

    つなぎ役のソフトを自動で登録する仕組み(動的クライアント登録、DCR)は廃止予定となり、身元情報をあらかじめ公開しておく方式への移行が推奨されました。

    運用面では、接続の状態を覚えておく必要がなくなりました。
    同じ処理を複数のサーバーで分担している構成でも、どのサーバーにリクエストが届いても動きます。
    なお、廃止する機能には最低12か月の猶予期間を置く、という約束も明文化されました。
    仕様が変わるたびに作り直しになる、という不安への手当てです。

    さらに2026年8月22日、新しいロードマップが公表されました。
    5つの重点領域のうち3つ目が「エージェントの識別と、企業で使えるセキュリティ」です。
    MCPサーバーの側が、つないできたエージェントの身元を確かめて信頼するための標準化を進めるとしており、通行証を盗まれても使えなくする方式(DPoP)の採用や、人ではなくプログラムに身元を与える仕組みの整備、IETF(インターネット標準を決める団体)などとの連携が挙がっています。

    エージェントが誰の権限で動いているのかを、規格の側で扱おうとしている段階です。

    Salesforceは、エージェントの統制を製品にした

    2026年8月17日、SalesforceはMuleSoftの「Agent Fabric」の新機能群と「Omni Gateway」を日本市場で提供開始しました。

    Agent Fabricは、複数のプラットフォームにまたがるエージェントをAgent Registryへ自動登録して可視化し、コスト・利用状況・セキュリティ・コンプライアンスを1か所で統制する、という製品です。
    公式リリースには「Trusted Agent Identity」という仕組みも出てきます。
    各AIエージェントが特定ユーザーの権限のもとで動くことを保証し、エージェント間のやり取りを追跡可能にするものだと説明されています。

    エージェントを見つけて登録する機能や、MCPで社内システムへつなぐ機能などは8月17日から提供されています。
    エージェント同士が直接やり取りするための規格A2Aに対応する機能は、2026年第3四半期の予定として発表されました。
    暴走したエージェントを一斉に止める「Agent Kill Switch」は2027年第3四半期中とされています。

    自社をエージェントに接続させるだけでなく、エージェントを統制する側の製品を売る。
    SaaS企業の対抗策は、この7か月でここまで具体的になりました。

    売られた当事者の決算は、過去最高だった

    そのSalesforceは、2026年8月26日に2027年度第2四半期(2026年5月から7月)の決算を発表しています。
    売上高は113億ドルで前年同期比11パーセント増、四半期として過去最高でした。

    内訳のうち、AIエージェント製品Agentforceの年間経常収益(ARR)は15億ドルを超え、前年同期比240パーセント超の伸びです。
    データ基盤のData 360と合わせると約39億ドルで、210パーセント超の増加。
    Data 360が第2四半期に処理したレコードは104兆件、前年同期比355パーセント増と報告されています。

    2月に「AIエージェントに食われる側」として売られた当のSalesforceが、社内で最も伸びている製品としてAIエージェントを挙げている。
    少なくともこの1社に関しては、そういう構図になりました。

    日本のSaaS銘柄も、おおむね戻している

    株価の側も見ておきます。
    2026年7月24日時点で年初と比べると、マネーフォワードとSansanは年初の水準を上回り、ラクス、サイボウズ、オービックビジネスコンサルタントは年初には届かないものの回復、freeeはわずかにマイナス、という状況でした。
    2月に下げた4社のうち3社(ラクス、Sansan、freee)は、この集計に含まれています。

    業績の側は、そもそも崩れていません。
    直近の開示では、freeeが9か月累計で売上29.3パーセント増、Sansanが売上24.4パーセント増・営業利益137.0パーセント増、マネーフォワードのSaaS ARRが34パーセント増と報告されています。

    2月に売られたのは業績ではなく、これまでの値付けの前提でした。
    そこは押さえておく必要があります。


    今すぐ着手できること

    まず、契約しているSaaSを数える

    「SaaSが死ぬかどうか」の議論より先に、手を付けられることがあります。
    自社が今どのSaaSを、いくつ、いくらで契約しているかを数えることです。

    株式会社SHIFTが情報システム部門の担当者301人に行った調査(2024年12月から2025年2月に実施、2025年3月5日公表)によると、情報システム部門がSaaSを一元管理している企業は22パーセントにとどまります。
    SaaS管理システムを使っていない企業は71パーセントでした。

    つまり多くの会社で、どの部署がどんなSaaSをいくつ契約しているかを、会社全体としては把握できていない可能性があります。

    使われていないライセンスは、思ったより多い

    放置すると何が起きるか。
    機能が重なるツールへの二重投資と、退職者のライセンスが解約されずに費用だけ出続ける「ゴーストライセンス」です。

    SaaS管理ツールのZyloが2026年1月29日に公表した「2026 SaaS Management Index」では、組織が保有するSaaSライセンスのうち平均36パーセントが未使用のまま残っているとされています。
    同社の別の資料では、未使用ライセンスだけで1組織あたり年間1,980万ドルが無駄になっているという試算が示され、従業員500人以下でも380万ドル、1万人超では8,060万ドルという内訳が出ています。

    増えているのは、まずAIの支出

    同じZyloの2026年版インデックスには、支出の側の数字も出ています。
    AIネイティブなアプリケーションへの支出は大企業で前年比393パーセント増、社員の経費精算を経由したSaaS支出は前年比267パーセント増。
    いちばん経費計上されているアプリはChatGPTでした。
    IT責任者の78パーセントが、従量課金やAIの値付けに関連する想定外の費用を報告しています。

    エージェントが業務を置き換えるより先に起きているのは、この手の支出の膨張です。
    しかも経費精算を経由しているぶん、情報システム部門からは見えにくい。
    数えるときは、システムの契約一覧だけでなく、経費として上がってきているサービスも並べる必要があります。

    FinOpsの入口は、可視化

    こうした状態に対して使われる考え方が「FinOps」です。
    FinanceとOperationsを組み合わせた造語で、クラウドやSaaSの費用を、使う側と払う側が一緒に見ていく進め方を指します。

    サイクルは大きく「可視化」「最適化」「運用」の3段階です。
    誰がどのSaaSをどれだけ使っているかをリアルタイムで把握する可視化から始めるのが最初の一歩とされています。
    契約したら終わりではなく、稼働後こそが本番だという指摘もあります。

    FinOpsそのものについては、クラウド費用の側から扱った記事があります。

    シャドーITは、コストだけの問題ではない

    SaaS管理が一元化されていない状態は、費用の無駄だけで済みません。

    情報システム部門が把握していないSaaS利用、いわゆるシャドーITには、会社のセキュリティポリシーが適用されません。
    アクセス権限の管理が甘くなり、弱いパスワードが使われ、退職者のアカウントが残ります。

    ここにAIエージェントが加わると、話がもう一段複雑になります。
    人が使っていたSaaSにエージェントがつながるとき、そのエージェントは誰の権限で動くのか。
    MCPのロードマップやSalesforceのTrusted Agent Identityが扱おうとしているのは、まさにこの問いです。
    ただし、その仕組みが行き届くのは、会社が把握しているSaaSまでです。

    個人としてできること

    会社の話だけではありません。
    自分が使っているサービスの中に、ほとんど開いていないのに契約が続いているものがないか、一度並べてみることです。

    もう一つ、これから増えるのが権限の判断です。
    AIエージェントが自分の代わりにSaaSを操作するようになったとき、どこまでを任せてどこから確認を挟むか。
    管理者が決める話であると同時に、使う人が自分で決める場面も出てきます。


    まとめ

    • 2026年2月3日のSaaS株急落は、AnthropicのClaude Coworkとそのプラグイン公開がきっかけだった。失われた時価総額は集計期間と対象範囲によって幅がある

    • 「SaaSの死」はソフトウェアの消滅ではなく、人が画面を操作するという前提・月額とシートによる課金・UI中心の設計という3つの終わりを指す

    • 背景にあるのは、System of RecordからSystem of Agentsへという構造の入れ替わりと、それを支えるMCPという共通規格

    • SaaS企業はMCPサーバーを公開して「接続される側」に回り、さらにエージェントを統制する製品まで出し始めた

    • 接続される側に回ることは、攻撃の入口を増やすことでもある。AgentforceのForcedLeakはWebフォーム経由の事例だったが、人が入力した文章をAIが命令として読んでしまうという構造は、MCPで迎え入れる場合も変わらない

    • バイブコーディングによって「買うか作るか」の分かれ目が手前に来た。ただし正確さと責任を負う領域は、作って終わりにはできない

    • 議論は賛否で割れているように見えるが、そもそも何が死ぬのかの定義が論者によって違う。終わる派も、終わるのはSaaSという形式ではなく従来型の勝ち方だと言っている

    • 2026年9月時点では、Claude Coworkが4月に一般提供となり管理機能が入り、MCPは7月の仕様更新と8月のロードマップでエージェントの識別と企業向けセキュリティに舵を切った

    • 売られた当事者であるSalesforceの8月の決算は四半期として過去最高で、Agentforceの年間経常収益は前年同期比240パーセント超の伸び。日本のSaaS銘柄も7月時点で回復傾向にあり、業績自体は伸びている

    • 手元で効くのは、契約しているSaaSを数えること。一元管理できている企業は22パーセントにとどまり、ライセンスの平均36パーセントは使われていない。数えるときはシステムの契約一覧だけでなく、経費精算経由のサービスも並べる。AIへの支出はそこで急増している

    • 費用の側から使い方を見直す考え方がFinOpsで、その入口は可視化にある

    • 把握できていないSaaSには、費用の無駄だけでなく、会社のセキュリティポリシーも権限管理も届かない。そこにエージェントがつながると、誰の権限で動いているかが分からなくなる

    「SaaSの死」という言葉は刺激的ですが、実務の側から見れば、これまでの前提を見直すきっかけとして扱うほうが建設的です。
    規格や製品の側は、エージェントの身元と権限を扱う方向へ動き始めました。
    ただ、自社が何を使っているかを知らなければ、その仕組みに乗せることもできません。

    皆さんの会社では、契約しているSaaSの数を、いま即答できますか。


    参考・引用元

    一次資料(公式発表)

    調査・レポート

    報道・解説

    書籍

    • 技術評論社「その仕事、AIエージェントがやっておきました。――ChatGPTの次に来る自律型AI革命」(西見公宏 著/2023年12月16日/176ページ/1,760円) https://gihyo.jp/book/2023/978-4-297-13901-8


    実務で使う書式について

    この連載の内容を、社内でそのまま使える書式にまとめたものを、別のマガジンで公開しています。
    規程のひな形、対応フロー、チェックシート、報告書式などです。

    実務で使う書式・キット
    https://note.com/yunta_fukurou/m/mfc25857fab40


    関連する記事

    AIエージェントが自律的に動く仕組みと、MCPやA2Aといった規格については、別の記事で扱っています。
    この記事で出てきたSystem of Agentsの中身にあたる話です。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/n92cb991e5bec

    エージェントに何をどこまで任せるか、権限とログと人の承認をどう設計するかは、こちらで扱っています。
    MCPのロードマップが標準化しようとしている領域と重なります。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/n978314daa5f4

    身近なSaaSの料金がAIを理由にどう上がったかは、別の記事で扱っています。
    Microsoft 365やGoogle Workspaceの改定を、各社の公式発表から追っています。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/ndd00c3eee1bc

    FinOpsそのものと、クラウド基盤の請求額が値上げなしに増えていく仕組みは、こちらで扱っています。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/n55708fc9ba5f

    AIエージェントの道具立てそのものは、別の記事で扱っています。
    Claude Code と Claude Cowork が、何を基準に分かれるのかをまとめています。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/n34dd5837f66f

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