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部品は下がり始めたのに、パソコンが安くならない理由|メモリ高騰と円安の現在地

    SSDの値札を久しぶりに見て、驚いた方がいるかもしれません。
    下がっているのです。

    Samsung 990 PROの1TBは、2026年4月上旬に47,980円という高値をつけたあと、6月の終わりに34,980円まで落ちました。
    ピークから約27パーセントの下落です。
    同じ時期に、大容量のNVMe SSDは4万円以上値を下げたものもあります。

    ところが、完成品のパソコンは安くなっていません。
    それどころか、上がり続けています。
    JEITAが公表している出荷台数と金額から計算すると、2026年7月の国内PC平均単価は168,354円。
    5月の136,926円より、さらに3万円以上高い水準です。

    部品が下がっているのに、パソコンが下がらない。
    この差の正体を、一次資料をたどりながら見ていきます。

    この記事は、JEITA・財務省・調査会社の公表資料をもとに、2026年9月時点の内容にしています。


    まず、部品は下がり始めています

    SSDは2026年4月がピークだった

    SSDの価格推移は、今回の高騰をもっとも素直に映しています。
    AKIBA PC Hotline!が月に2回行っている秋葉原の相場調査から、Samsung 990 PROの1TBの最安値を並べるとこうなります。

    • 2025年9月:13,970円

    • 2025年11月:19,580円

    • 2026年1月下旬:28,979円

    • 2026年4月上旬:47,980円(ピーク)

    • 2026年5月・6月:45,980円

    • 2026年6月末:34,980円

    • 2026年8月・9月:34,980円

    約7か月で3.4倍まで上がり、そこから3か月ほどで約27パーセント下げた、という動きです。
    ほかの製品も同じ方向を向いています。
    8月前半の調査(調査期間は7月25日から8月1日)では、Sandisk WD Black SN8100の4TB(ヒートシンク非搭載)が42,000円安、同2TBのヒートシンク搭載版が14,700円安、WD Black SN850Xの4TBヒートシンク搭載版が14,000円安と、大容量帯を中心にまとまった下げが出ています。
    ただし同じ調査でSN8100の2TB非搭載版は8,830円高で、すべてが下がっているわけではありません。

    メモリは品目によってまだら

    メモリは、SSDほど一方向ではありません。
    8月後半のメモリ相場調査(調査期間は8月8日から22日)を見ると、下がっているものと上がっているものが混ざっています。

    • DDR5-5600 16GB×2:55,980円(4,000円安)

    • DDR4-3200 32GB×2:64,980円(10,000円安)

    • DDR5-5600 32GB×2:89,980円(10,000円高)

    • DDR5-6400 32GB×2:119,780円(7,800円高)

    大容量のDDR5はまだ上がっています。
    一方で、いちばん売れる16GB×2の帯や、旧世代のDDR4には下げが出ています。

    契約価格の上昇率も、明確に鈍っている

    小売の値札より先に動くのが、メーカーと大口顧客のあいだで決まる契約価格です。
    TrendForceが公表している四半期ごとの変動率を並べると、減速がはっきり見えます。

    • 2025年第4四半期:前四半期比 45から50パーセント上昇

    • 2026年第1四半期:93から98パーセント上昇(ほぼ倍増)

    • 2026年第2四半期:58から63パーセント上昇

    • 2026年第3四半期の見通し:13から18パーセント上昇

    TrendForceは2026年7月3日の発表で、減速の理由をこう説明しています。
    記録的な契約価格によって、パソコンやスマートフォンといった民生市場の顧客が支払いの限界に達している、と。
    NAND側も第3四半期は10から15パーセントの見通しです。

    上がり続けてはいます。
    ただ、倍近く上がっていた局面は過ぎました。


    なぜここまで上がったのか

    生産がAIサーバーに向かった

    原因の中心はAI向けデータセンターです。
    ただし、その効き方は「AI用の特殊なメモリが高く売れるから」という単純な話ではありません。

    要点は、同じ工場の同じウェーハを取り合っている、という構造です。
    Micronのエンジニアが2026年8月のHot Chips 2026で述べたところによれば、同じ記憶容量を作るのに、AI向けの積層メモリHBM3Eは通常のDDR5の約3倍のウェーハを消費します。
    積み重ねる構造ゆえに歩留まりが落ち、ダイも小さく分けられるためです。
    次世代のHBM4では、この比率はさらに広がるとされています。

    つまりHBMを1つ作るごとに、通常のメモリが3つ分作れなくなる。
    TrendForceは、上位3社のHBMがDRAMのウェーハ投入量に占める比率について、2025年末の約18パーセントから2026年末に約22パーセント、2027年末には約30パーセントへ上がると見ています。

    規模の感覚として、AI企業側の動きも押さえておきます。
    OpenAIは2025年10月1日の発表で、SamsungとSK hynixが先端メモリの生産を拡大し、月産90万枚のDRAMウェーハ投入を目標とする、としています。
    これは両社が到達を目指す生産能力の話であって、OpenAI向けに確保された量ではありませんが、AI側の需要が工場の計画そのものを動かしている、という事実は示しています。

    DDR4の生産終了が重なった

    もうひとつ、タイミングの悪さがあります。
    旧世代のDDR4が、ちょうど生産終了の時期にあたっていました。

    TrendForceが2025年7月にまとめたスケジュールでは、Samsungが2025年12月中旬に出荷完了、Micronが2026年第1四半期、SK hynixが2026年4月とされています。
    ところが自動車や産業機器、IoT機器など、DDR4を必要とする機器はまだ大量に動いています。

    新しい世代は増産が追いつかず、古い世代は生産が終わる。
    この谷間にAI需要が重なりました。

    3社で約90パーセントという市場

    DRAMは、少数のメーカーが握っている市場です。
    Counterpointが2026年8月に公表した2026年第2四半期のシェアは、Samsungが39パーセント、SK hynixが26パーセント、Micronが25パーセントで、3社の合計は約90パーセントです。

    各社の生産方針の変化が、そのまま市場全体の価格に出やすい構造になっています。
    2026年6月には、米国でこの3社を相手取った反トラストの集団訴訟も提起されています。

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    「HBMのほうが儲かるから」という説明は、2026年には当てはまりません

    この話題でよく見かける説明に、「HBMは通常のメモリより桁違いに高く売れるので、メーカーはHBMを優先する」というものがあります。
    2025年まではその通りでした。
    ただ、2026年の実態は違います。

    TrendForceは2025年12月の時点で、HBM3Eの価格はそれまでサーバー向けDDR5の4から5倍だったが、2026年末までにその差は1から2倍まで縮まる見込みだとしていました。
    そして2026年6月の発表では、2026年第1四半期にウェーハあたりの売上でDDR5の64GB RDIMMがHBMを追い越し、以降HBMの収益性が通常のDDR5を下回っている、と報告しています。

    逆転が起きたのは、HBMが安くなったからではありません。
    通常のメモリのほうが上がりすぎたからです。

    ただし、この逆転は続かないと見られています。
    同じTrendForceの発表は、DRAM供給の逼迫がメーカー側の価格決定力を強めており、HBMの契約価格は2027年に数倍へ跳ね上がると予測しています。
    いまは一時的に立場が入れ替わっている局面だ、という理解が近いはずです。

    いずれにせよ、2026年時点で供給を締めている要因は「HBMのほうが儲かる」という価格差ではありません。
    AIサーバー向けのサーバー用DRAMやエンタープライズ向けSSDに生産が振り向けられていること、そしてDDR4の生産終了です。
    値段の話ではなく、ウェーハの取り合いの話になっています。

    なお、この「同じ製造ラインを取り合う」という構図は、メモリだけの話ではありません。
    ハードディスクでも同じことが起きています。
    ただしHDDは、メモリやSSDと違ってまだ上昇の局面にあります。
    大容量帯を中心に値上がりと品薄が続いており、同じ構図でも進行のタイミングがずれています。
    この点は別の記事で扱っています。


    それでも、パソコンが安くならない理由

    部品が下がり始めたのなら、パソコンも下がるはずです。
    実際には逆に動いています。
    ここに日本固有の要因が入ります。

    円安が進んでいます

    パソコンの部品は、そのほとんどが海外で作られ、ドル建てで取引されています。
    円安が進めば、ドル建ての価格が同じでも、日本での仕入れコストは上がります。

    財務大臣が公示し日本銀行が公表している基準外国為替相場を並べると、こうなります。

    • 2025年7月適用:1ドル145円

    • 2026年1月適用:155円

    • 2026年8月適用:161円

    • 2026年9月適用:163円

    1年強で約12パーセントの円安です。
    部品の値下がりが1割あっても、為替で1割持っていかれれば、円建ての仕入れ価格は変わりません。

    過去最大規模の為替介入が行われました

    円安がどれほどの水準かは、政府の対応にも表れています。
    財務省が公表している外国為替平衡操作の実施状況によれば、2026年4月から6月にかけて、総額11兆7,349億円の為替介入が行われました。

    • 2026年4月30日:6兆2,787億円

    • 2026年5月4日:7,802億円

    • 2026年5月6日:4兆6,759億円

    いずれもドル売り・円買いです。
    政府が過去最大規模で円安を止めに行った、という事実そのものが、2026年の為替の水準を物語っています。

    国内PC価格の現在地

    では実際に、国内のパソコンはいくらになっているのか。
    ここで注意が必要なのは、JEITA(電子情報技術産業協会)が公表しているのは出荷台数と出荷金額であって、平均単価ではないという点です。
    単価は、金額を台数で割って算出した値です。

    そのうえで計算すると、こうなります。

    • 2026年3月:103,458円

    • 2026年4月:139,821円

    • 2026年5月:136,926円

    • 2026年6月:125,052円

    • 2026年7月:168,354円

    月ごとの振れは大きいのですが、水準そのものが切り上がっています。
    PC Watchによれば、2026年上期の平均単価は123,095円で、現行の調査方法になった2007年度以降、暦年の上期としては過去最高です。

    台数のほうも見ておく価値があります。
    2026年度第1四半期(4月から6月)の国内出荷は202万3,000台で、前年同期比23.1パーセント減。
    一方で金額は2,672億円と、4.7パーセント減にとどまっています。
    台数が2割以上減っているのに金額がほとんど減っていない。
    これが単価上昇のもうひとつの見え方です。

    なお台数減の主因は、Windows 10のサポート終了にともなう買い替え需要と、GIGAスクール向けの需要が一巡した反動です。
    値上げだけが理由ではありません。

    メーカー側で起きていること

    MM総研が2026年5月に公表した調査で、同社の取締役研究部長は、2025年末ごろからのパーツ価格高騰を背景に、新製品を中心に断続的な値上げが予想され、価格は前年度比で20パーセント超の上昇となる公算が高い、と述べています。
    上がったという実績ではなく、これから上がるという見通しです。
    同社は2026年度の国内出荷を1,123万台と見ており、2025年度の1,805.9万台から37.8パーセント減という予測です。

    Gartnerは2026年2月の発表で、2026年末までにDRAMとSSDの合計価格が130パーセント上昇し、パソコンの価格は17パーセント、スマートフォンは13パーセント上昇すると見込んでいます。
    パソコン1台の部材費に占めるメモリのコスト比率は、2025年の16パーセントから、23パーセントでピークに達する見込みだとしています。

    実際の値上げも起きています。
    PC Watchが2025年12月に国内メーカー13社へ行ったアンケートでは、すでに値上げした、または2026年第1四半期までに値上げする予定と答えた企業が6割を超えました。
    値上げ幅を11から20パーセントと答えた企業が約4割ある一方、6割超は調整中・未定と答えており、この時点では固まりきっていなかったこともわかります。

    部品メーカー側の動きもあります。
    Intelは2026年7月3日、Core Ultra 7 270K PlusとCore Ultra 5 250K Plusの推奨価格を引き上げました。
    それぞれ50ドル、30ドルの上げ幅です。
    対象はゲーミング向けの2モデルで、全ラインナップの値上げではありません。


    いつ落ち着くのか

    調査会社の見通しは、DRAMとNANDで分かれています。

    TrendForceは2026年7月の発表で、NANDについては需給バランスが2027年後半にプラスへ転じる見込みだとしています。
    プロセスの移行によるビット出力の増加と、民生需要の弱さが再均衡を促す、という説明です。

    一方DRAMについては、需給ギャップが2027年にさらに拡大するとしたうえで、実質的な増産の寄与は2028年まで現れない、と見ています。

    つまり、SSDに使われるNANDは2027年後半から、メモリに使われるDRAMは2028年から、というのが現時点で示されている時期です。
    2026年中に大きく下がる材料は、いまのところありません。

    なおGartnerは2026年8月の発表で、メモリの売上が2026年に8,373億ドル、2027年に1兆755億ドルへ伸びると予測していますが、価格がいつピークを打つかについては示していません。


    今、どう買うか

    ここまでの整理から、判断の材料を並べます。

    「部品交換での延命」は、以前より現実的になりました。
    完成品のパソコンは円安の影響を丸ごと受けますが、メモリとSSDはすでに下げに転じています。
    増設や交換で今の1台を延ばすなら、大容量帯を避けて売れ筋の容量を選ぶと、下がった価格の恩恵を受けやすい状況です。
    なおハードディスクの増設は、まだ上昇局面にあるため事情が違います。

    「完成品を買うなら、待つ理由は薄い」というのが現状です。
    DRAMの需給が緩むのが2028年という見通しである以上、「安くなるまで待つ」という判断は2年待つことを意味します。
    しかも円安がどう動くかは誰にも読めません。
    業務や学習で今必要なら、予算内で妥当なものを選ぶほうが現実的です。

    「中古と型落ち」は、いま相対的に有利です。
    新品の単価が調査開始以来の最高水準にある以上、1世代前のモデルの割安感は普段より大きくなっています。

    「大容量に手を伸ばさない」という選択もあります。
    メモリもSSDも、大容量帯ほど上げが続いています。
    64GB×2、つまり合計128GBのメモリキットは約30万円です。
    32GB×2の90,000円前後と比べると、容量が倍になるだけで3倍以上の値札になります。
    必要でなければ避ける理由になります。

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    ひとつ補足しておくと、「10万円以下のパソコンが市場から消えた」という言い方をときどき見かけますが、これを裏づける公表データは見当たりません。
    選択肢が限られてきているという指摘はありますが、10万円以下のモデル自体はまだ存在します。

    皆さんの手元のパソコンは、買い替えと延命、どちらの局面にありますか。


    まとめ

    • SSDは2026年4月にピークを打ち、Samsung 990 PRO 1TBはそこから約27パーセント下げました。メモリも売れ筋の容量帯では下げに転じています。ただしハードディスクはまだ上昇の局面にあります

    • 契約価格の上昇率も減速しています。2026年第1四半期の93から98パーセントに対し、第3四半期の見通しは13から18パーセントです

    • 高騰の原因は、AI向けの積層メモリHBMが同じ容量あたり通常のDDR5の約3倍のウェーハを消費すること、DDR4の生産終了が重なったこと、そして3社で約90パーセントという市場構造です

    • 「HBMのほうが高く売れるから」という説明は2026年には当てはまりません。ウェーハあたりの売上では、2026年第1四半期にDDR5がHBMを追い越しました

    • 部品が下がってもパソコンが下がらないのは、円安のためです。基準外国為替相場は2025年7月の145円から2026年9月適用分で163円。政府は2026年4月から6月に11兆7,349億円の円買い介入を行いました

    • 国内PCの平均単価は2026年上期で123,095円。現行の調査方法になった2007年度以降、暦年上期としては過去最高です

    • 需給が緩むのはNANDが2027年後半、DRAMは2028年という見通しです


    参考・引用元

    一次資料(公的機関・業界団体)

    調査会社

    メーカー・企業の公表

    報道・価格調査


    実務で使う書式について

    この連載の内容を、社内でそのまま使える書式にまとめたものを、別のマガジンで公開しています。
    規程のひな形、対応フロー、チェックシート、報告書式などです。

    実務で使う書式・キット
    https://note.com/yunta_fukurou/m/mfc25857fab40


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    https://note.com/yunta_fukurou/n/n55708fc9ba5f

    同じ「AI向けに生産が奪われる」という構図で価格が動いているハードディスクについては、NASの記事で扱っています。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/n52ad8513a230

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    Digital Workplace Architect|社内外のIT・AIの導入と運用 IT・AI・セキュリティと周辺機器の「今さら聞けない」を一次情報で解説。書式・キットも。 Amazonのアソシエイトとして、梟 〜GLEANINGS〜は適格販売により収入を得ています。

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