
『水曜どうでしょう』大泉洋のホラ話から始まった4人のトークの原点|第20夜
前回は、『水曜どうでしょう』初海外ロケ「オーストラリア大陸横断3,700キロ」で、なぜ雄大な自然よりも、それに振り回される4人の姿が面白かったのかについて考えました。
旅の初日から2日目、キャサリン渓谷でのコウモリ、しょっぱすぎるカレー、何度も襲ってくるハエ、そして偶然目撃した竜巻。
普通の旅番組なら、主役になるのはオーストラリアの大自然だったと思います。でも『水曜どうでしょう』で記憶に残ったのは、その自然を前にして驚き、文句を言い、笑いに変えていく4人でした。
そして旅は3日目を迎えます。
ダーウィンを出発したどうでしょう班は、キャサリン、テナントクリーク、アリススプリングスを越え、いよいよオーストラリアの象徴ともいえるエアーズロック方面へ向かいます。
しかし、この長い道のりで生まれていたものは、美しい景色だけではありませんでした。
後に30年愛されることになる『水曜どうでしょう』の会話の原点が、何もない3,700キロの道の上に少しずつ生まれていたのだと思います。

ミスターにたかるハエで大爆笑するシーン
(引用元:DVD「オーストラリア大陸縦断3,700キロ」)
オーストラリア大陸横断3日目。アリススプリングスを出発した4人は、エアーズロックを目指します。
普通なら、ここは「ついにオーストラリアを代表する絶景へ向かう」という期待感あふれる場面になるはずでした。しかし、どうでしょう班を待っていたのは、またしても大量のハエでした。
しかも、なぜかミスターの周りにばかり集まってくる。
後に大泉さんは、ミスターが使っていたリップクリームの甘い匂いが原因だったのではないか、と振り返っています。
今の大泉さんなら、この出来事だけでミスターをいじり、藤村Dが笑い、そこから何分ものトークになっていく姿が想像できます。でも、この頃はまだ違いました。
当時、大泉さんとミスターは一緒に仕事をするようになってから、それほど時間が経っていません。どこまで言っていいのか。どう接すると面白くなるのか。まだ、お互いを探りながら旅をしていた時期でした。
今では完成された関係に見える2人にも、当然始まりがありました。この旅で映っていたのは、最初から出来上がったチームではなく、少しずつ距離が縮まっていく4人の姿だったのだと思います。
そしてエアーズロックを後にしても、旅はまだ続きます。アデレードを目指し、さらに南へ向かう4人。しかし、そこから待っていたのは何百キロにも及ぶ移動時間でした。

(引用元:DVD「オーストラリア大陸縦断3,700キロ」)
藤村Dは後の解説で、このオーストラリアの旅について、当時は海外へ行けば何か起こると思っていたと振り返っています。でも実際には、何も起こらない。ただ同じような景色の中を、車で走り続ける時間が続きます。
だから灼熱の中、チョコレートを溶かしてみたり、ソーラーカーを作ってみたり、何とか出来事を作ろうとしていました。
でも今振り返ると、ここが『水曜どうでしょう』にとって大きな発見だったのかもしれません。何か事件が起きなくてもいい。何もない時間でも、この4人なら面白くなる。その原点が、この長い移動時間の中にありました。
その象徴の一つが、大泉洋さんのホラ話です。
後の『水曜どうでしょう』では、大泉さんの作り話や長いトークは番組を代表する魅力になります。しかし、その始まりは、何もない車内でした。
何百キロ走っても景色が変わらない。大きな事件も起きない。そんな時間を埋めるように、大泉さんは話し始めます。
酒場の話。男と酒について語るような、独特の世界観。
ただ、この時はまだ後のような完成された掛け合いではありませんでした。「酒場」と言うところを「酒屋」と言ってしまう。今なら、その瞬間に藤村Dが突っ込み、大泉さんが返し、さらに話が広がっていくと思います。
でも、この頃はまだそこまでの形にはなっていません。それでも、何もない時間を会話で面白くしていく。その原型は、確かにこのオーストラリアの道の上にありました。
そして、どうでしょう班は、地下都市として知られるクーパーピディーへ到着します。
そこで生まれるのが、大泉さんの「人間の夢の跡だな」という言葉でした。
大泉さんが雰囲気たっぷりに語る。しかし、その世界にミスターが絶妙なタイミングで入ってくる。せっかく作った空気が、思わぬ方向へ変わっていく。
でも、そのズレこそが面白い。

(引用元:DVD「オーストラリア大陸縦断3,700キロ」)
後に大泉さんは、ミスターや安田顕さんについて「ホームランバッター」のような存在だと話しています。ずっと振り続けるタイプではない。でも、突然大きな一打を放つ。
このクーパーピディーの場面にも、その片鱗があったように感じます。
大泉さんが話を作る。ミスターが予想外の方向から動かす。そこに藤村Dが反応する。嬉野Dが余すところなく撮り続ける。
藤村Dは、このオーストラリアの旅について「旅の原点」という印象を語っています。
最初は大泉さんとミスターの旅だった。そこに、いつの間にか藤村Dの声が入り、嬉野Dの存在も加わっていく。出演者とスタッフという境界線が、少しずつなくなっていく。
4人の旅になっていく。
オーストラリア大陸横断で見つかったものは、絶景だけではありませんでした。
何もない道。ただ続く車内。普通なら編集でなくなってしまうような時間。
でも、そこに大泉さんの話があり、ミスターの予想外の一言があり、藤村Dの反応があり、嬉野Dのカメラがありました。
30年愛されることになる『水曜どうでしょう』のトークの原点は、この3,700キロの道の上にあったのだと思います。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回(第21夜)は、「『水曜どうでしょう』オーストラリア大陸横断3,700キロで見つけた本当の目的地」について考えていきます。
3,700キロを走った先で、本当に残ったものは何だったのか。
初海外ロケの最後に見えてきた『水曜どうでしょう』の魅力を考えていきます。
※この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
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▶ 3,700キロ走って見つけた本当の目的地|#21
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