
『水曜どうでしょう』大泉洋は、なぜ新千歳空港までだまされ続けたのか|第87夜
前回の第86夜では、「北海道212市町村カントリーサインの旅Ⅱ」を通して、大泉さん、ミスター、藤村D、嬉野Dの「4人だけの世界」が完成していった理由を考えました。
何もない長距離移動から遊びを生み、誰かの思いつきを全員で膨らませる。企画の力だけに頼らず、4人が同じ場所にいるだけで番組が動くようになっていました。
その旅から約2週間後、どうでしょう班は「サイコロ4〜日本列島完全制覇〜」へ出発します。しかし、大泉さんにはサイコロの旅だと伝えられていません。
聞かされていたのは、カントリーサインの旅の続きとして、生田原町を目指すという話でした。ところが車は、生田原町とは逆方向にある新千歳空港へ向かっていきます。
大泉さんは、なぜ新千歳空港の直前まで、だまされ続けたのでしょうか。

(引用元:DVD「サイコロ4〜日本列島完全制覇〜」より)
「何も考えていなかった」からではない
大泉さんが、何の疑いも持っていなかったわけではありません。
後の解説では、大泉さん自身も「そろそろサイコロではないか」と考えていたはずだと振り返られています。サイコロの旅はすでに三回行われており、再び同じ企画が始まる可能性は、本人も十分に想像できました。
そこで藤村Dとミスターは、「今回はカントリーサインの続きだ」と繰り返します。
北海道212市町村をすべて巡ろうとすれば、毎日ロケをしても二年かかる。だから今回は、旅を進めるための新しい仕掛けを用意している。そんな説明を重ね、大泉さんの関心を「サイコロかどうか」から「新しい仕掛けとは何か」へ移していきました。
大泉さんは疑うことをやめたのではありません。むしろ真剣に考えたからこそ、用意された別の謎へ入り込んでしまったのです。
道を知っていれば気づくはずの四つのポイント
生田原町へ向かうなら、札幌から道東方面へ進まなければなりません。しかし、車は新千歳空港へ向かう国道36号線を走り、北広島インターチェンジから高速道路へ入ります。
番組では、大泉さんが間違いに気づく可能性があった場所を、四つのチェックポイントとして見せていきます。
国道36号線へ曲がったとき。北広島インターチェンジへ入ったとき。札幌方面ではなく、苫小牧方面へ進んだとき。そして、千歳インターチェンジを通過したときです。
チェックポイントを通るたびに、「ここで気づくのではないか」という緊張が生まれます。しかし大泉さんは、周囲の道路ではなく、車内で続く会話へ集中していました。
大泉さんが大学生で車を持っていなかったこともあり、道路や方角には詳しくありません。一方で、目の前の会話には誰よりも敏感に反応します。
本来なら、道を見れば終わってしまうだましです。それが、会話へ集中する大泉さんの性質によって、新千歳空港まで続く一つの物語になりました。
「いつ気づくか」が企画になっていった
この時点で、どうでしょう班の関心は、だましが成功するかどうかだけではありませんでした。
「大泉洋は、どの場面で気づくのか」
それ自体が、企画の中心になっていたのです。
その瞬間を逃さないため、嬉野Dはカメラを回し続けます。藤村Dとミスターも会話を終わらせず、大泉さんが考え続けるための材料を次々に与えていきました。
後の解説で藤村Dは、大泉さんについて、その場にある材料を使い、できる限り面白くしようとする人だと語っています。自分がだまされているかもしれない状況でも、黙って答えを待つのではなく、目の前の情報を使って話を広げていきます。
仕掛ける側が会話を続け、大泉さんがその会話へ食いつく。大泉さんを目的地まで運んだのは車ですが、だましを新千歳空港まで運んだのは、4人の会話だったのだと思います。

(引用元:DVD「サイコロ4〜日本列島完全制覇〜」より)
編集が「大泉洋との勝負」を作った
番組で表示された「第1ポイント」「第2ポイント」といった区切りは、撮影時から決められていたものではありません。後の解説では、編集するときに思いつき、後から加えたものだったと明かされています。
実際の車内では、バスケットボールの話や温泉の話など、さまざまな会話が長く続いていました。その中から必要な場面を選び、順番を組み替え、チェックポイントを加えることで、「気づくか、気づかないか」という一本の流れが作られています。
笑い声や会話の一部も、必ずしもその場所で起きたものだけが使われているわけではありません。車窓の映像には、ロケ後に撮り直したものも含まれていました。
藤村Dは、こうした編集を「トムとジェリー」のようなものだと表現しています。起きたことをそのまま並べるのではなく、追う側と逃げる側の関係を整理し、漫画のような分かりやすい勝負へ作り替えていたのです。
『水曜どうでしょう』は、偶然をそのまま流すだけの番組ではありませんでした。偶然の中に生まれた小さな面白さを見つけ、それが最も伝わる形へ編集する番組だったのです。
空港で始まったのは、怒りではなく次の旅だった
大泉さんが異変に気づいたのは、新千歳空港が目前に迫ったところでした。
ここまで来れば、生田原町へ向かっていないことは明らかです。カントリーサインの続きではなく、別の旅が用意されていたことを知ります。
しかし、すべてを知らされた大泉さんの反応は、強い拒絶ではありませんでした。
「じゃあ、どこか行こうか」
すでにサイコロを三度経験し、その過酷さを知っています。それでも、カントリーサインで北海道を走り続けるよりはいいと考えたのか、大泉さんは新しい旅を受け入れました。
しかも、この時点では、まだ島根県へ行くことさえ知らされていません。新千歳空港から羽田空港へ着いた大泉さんは、東京で旅が始まると思っていました。
ところが、そこでもう一度飛行機へ乗り、島根県へ向かうと告げられます。最初のだましが終わったあとに、さらに次の行き先が明かされる。こうしてサイコロ4は、北海道から遠く離れた出雲大社を出発点に始まりました。
出雲で生まれた「神様の話」
出雲大社でサイコロを振った一行は、列車で宍道湖の横を進みます。
この車内で生まれたのが、大泉さんによる「神様の話」です。出雲大社を神様が泊まるホテルのように語り、神様同士が集まって会議や宴会をしているかのように話を広げていきます。
完成した場面だけを見ると、大泉さんが突然、神様の世界を語り始めたように見えます。しかし後の解説では、その前に十数分ほど、ごく普通のルート説明や会話が続いていたことが語られています。
特別な話題が用意されていたわけではありません。長い移動の中で話すことがなくなり、それでもカメラを回し続けていたからこそ、出雲という場所から「神様」という言葉が拾われ、一つの物語へ育っていきました。
藤村Dと嬉野Dは、この撮影を釣りに例えています。糸を垂らし、餌を変えながら、大泉さんが食いつくまで待つ。大泉さんが一度食いつけば、そこから架空の世界を膨らませていくのです。

(引用元:DVD「サイコロ4〜日本列島完全制覇〜」より)
だまされた大泉さんが、企画を完成させていた
サイコロ4第一夜の面白さは、大泉さんが新千歳空港まで何も知らなかったことだけではありません。
疑いながら考え、与えられた説明の中に答えを探し、自分から会話を広げた。その結果、本来なら短い企画発表で終わるはずの時間が、どうでしょう班と大泉さんの長い勝負になりました。
そして、だましが明らかになったあとも、大泉さんは「じゃあ、どこか行こうか」と旅を受け入れます。出雲へ着けば、今度は神様の話を始め、移動時間そのものを番組へ変えていきました。
仕掛けを用意したのは、ミスターと藤村Dです。その瞬間を撮り続けたのは、嬉野Dでした。しかし、その仕掛けへ考えながら入り込み、物語として完成させたのは大泉さんです。
大泉さんがだまされるほど面白くなるのは、受け身の被害者だからではありません。だまされている時間さえ、自分の言葉と想像力で面白くしてしまう人だったからではないでしょうか。
「サイコロ4」は、新千歳空港へ着いた瞬間に始まったのではありません。
大泉さんがカントリーサインの続きだと信じ、疑い、話し、最後に自分で間違いへ気づく。その過程から、すでに旅は始まっていたのです。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回、第88夜では、「『水曜どうでしょう』もみじ饅頭から始まった『甘いもの攻め』の生き地獄」について考えます。
この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
📌今回の内容を踏まえて、皆さんは……
A:大泉さんが最後まで気づかない「だまし方」が面白かった
B:疑いながら会話を広げる大泉さんの「だまされ方」が面白かった
どちらに近いでしょうか。理由もあればぜひコメントで教えてください。
(コメントには必ずご返信させていただきます)
今後の『水曜どうでしょう』考察の参考にさせていただきます。
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