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【二次創作小説】アイドルマスターTOURS ~それぞれのColor~(中編-2)

    鳥街


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    6月中旬。
    梅雨真っ只中でも
    雲の切れ目から一瞬だけ降り注いだ光のように、
    1日だけ晴れた日もあったが、
    その日以降、再び空の天気はご機嫌斜めになった。

    まぁ私達の活動はそんな気紛れな空模様に左右されないものだから、
    平常運転である。

    ……平常運転ではあるのだが、
    今日は普段と違うことがいくつかある。

    今現在、私達Re;IRIS一行はMIXING PARADEの
    合同レッスンの集合地に向かっている道中なのだが、
    私達のプロデューサーが駆る自動車には、
    普段より一人多い、
    5人・・の人間がいること。

    「本当に突然のことだったからびっくりしましたよ。
    ……でも、本当にわたしが呼ばれて良かったのですか?」

    Re;IRISのメンバーではない、
    しかし私達のよく知る人物が
    助手席からプロデューサーに声を掛ける。

    「ええ、他のお二人・・・・・はお時間の都合が合わなかったので。
    それに、『初』のご指導ならこれまでいくらでも教鞭を振るって来られたと思いますので、大変心強いですよ」

    ご協力に感謝します。と、
    彼は隣の女性には顔を向けず、頭だけを浅く下げた。
    運転に集中しているからだろう。

    いつもなら助手席には咲季が座るはずだけれども、
    今日はRe;IRISのメンバーは三人で自動車の後部座席に座っている。
    「咲季はこの後別件があるからって聞いて
    あたしと手毬だけで指導なんてできるのかって思ったら、
    こんな助っ人を用意してくれてたなんてな~」

    ことねがプロデューサーの後ろから声を掛けると、
    助手席に座る彼女は・・・手を口に当てて
    くすくすと上品な笑い声をあげる。

    「わたしもびっくりしたけれど、
    間近で現役の有名アイドル達の練習風景を視察できると思ったら
    ……ねぇ?
    休日を返上してでも役得だと思いますよ」

    ライブを観に行っているようなものですので。
    うふふ、と笑う後ろ姿は風に揺れる花のようだった。

    すると私とことねの間に綺麗に両足を揃えてちょこんと座っている
    咲季がプロデューサーに問いかける。

    「でもプロデューサー、わたしが言うのもなんだけれど、
    この三人の中ではダンスはわたしが上手だと思うわ。
    歌は・・手毬も自信あると思うけど、
    役被りになってない?」

    咲季、流石にそれは聞き捨てならないかも。
    それに関しては、とプロデューサーは言いかけるが、
    私は彼の言葉を遮る。

    「咲季のダンスが上手いのは認めるよ。
    でも、私もずっとあなたの隣でパフォーマンス
    してきたんだ。
    慣れてる楽曲ならあなたにだって敗けない自信がある」

    咲季越しにむくれた顔のことねが視界に入る。

    「おーおー、お二人だけで盛り上がらないで欲しいな~。
    手毬の台詞のまんまだけど、
    あたしだってお前らのパフォーマンスを一番近くで見てきたんだからな。
    それに実際にあたしらがやるのと教えるのじゃ必要な技術が違うっしょ?」

    ですよね、Voボーカルトレーナー?と
    ことねは対角の席に座る彼女に声を掛けると、
    ええ、そうですね。とのんびりとした声が返ってきた。

    「良い機会ですし、人に教えるお勉強もできますね。
    最初はわたし達トレーナーの見様見真似でいいから、
    月村さんと藤田さんの指導も見せてくださいね」

    指導の指導ですね、とプロデューサーは言うと、
    またVoトレーナーは私の目の前で肩を揺らしてくすくすと笑った。
    学園外のアイドルを指導するのが楽しみです、
    という雰囲気を隠せていない気がする。
    頼られて悪い気はしないからそれもそうか。

    それで、とプロデューサーは続ける。
    「ダンス指導に関しては咲季さんだけにはお伝えした通り、
    また後日を予定しております」

    咲季は目を丸くして驚いた顔をする。
    「ねぇ、雨期公演まであまり時間はないけれど、
    そんな付け焼刃で大丈夫なの?」
    プロデューサーに言い聞かせようとシートベルトから身を乗り出すほど、
    咲季の意見も尤もっともだ。
    雨期と謳っているからには
    少なくとも7月に入るまでにやらないといけない気がする。
    というか―
    「七夕に夏休み公演、
    来月はRe;IRISの活動だけでも結構スケジュールが詰まっていますが、
    その間のMIXING PARADEのつなぎの状況って把握してるんですか?」

    咲季と私の立て続けの質問にすぐには答えず、
    丁度信号が赤になって、緩やかな重力の移動を身体で感じると、
    事も無げにプロデューサーは、はい、と答えながら
    車体を停止させた。
    ワイパーが動いて小さな雨粒をさらっていく音が
    車中に静かに鳴り響く。

    「雨期公演で『初』を披露する予定は今のところ・・・・・ないそうなので、
    今回はRe;IRISのメンバーが多忙で不在の時でも
    他所の事務所の方同士でパフォーマンスの知識を
    共有できる人員を増やしたいという意図があってのことだそうです」
    咲季は、あらそう、とほっと息を吐いたかと思えば、
    Voトレーナーがまぁ、と手を合わせるのと同時にことねが
    おー、と車中で次々に声が沸き起こる。
    ……電線から大粒の雫が落ちてきたのか、
    天井もついでに、はたたと鳴った。
    「そりゃ外に初星学園の曲が広がる……!」
    「もちろん、今後皆さんも
    他所の芸能事務所のパフォーマンスを覚えて
    レパートリーは増やさないといけません。
    なので、実際に全てやるとなるとかなりハードだと思いますよ」
    信号の色が変わり、自動車を再発進させながら
    それに、と彼は続ける。
    「MIXING PARADEはプロと組める経験は皆さんにとって
    計り知れない恩恵をもたらすとは思いますが、
    我々も・参加の優先順位としては低いです。
    実際、本日参加する他所の芸能事務所のアイドルも
    自身の活動優先で欠席される方の方が圧倒的に多いです。
    例えば、島村 卯月さん達
    『ニュージェネレーションズ』は独自で雨期公演を行うそうですからね。
    皆さんも主戦場はあくまで初星学園なのはお忘れなきように」
    じゃあ渋谷さん、今日はいないのか。
    ちゃんとお話ししてみたかったな。と思った矢先に
    咲季も島村さんいないのね……
    と背もたれに身を預けて残念そうに目を伏せた。
    一度共演したから、思い入れが強いのだろう。
    「それでも、回り道の修行と思えば
    皆さんがより一層輝きを増すのではありませんか?」
    Voトレーナーがバックミラー越しに私達を覗き込み、
    一人一人と目を合わせる。
    学園で見る時と変わらない、
    余裕のある表情と指導者の目をしている。
    「ええ。でも無理だけはさせないように
    俺も案件は慎重に持ってきているつもりです」
    今度はちらりと見てきたプロデューサーとバックミラー越しに目が合う。
    「皆さん、仲が良いので、
    相互監視で俺の目が届かないところで無理しようとすると
    何が何でも休ませようとするはずです」
    咲季が私とことねを交互に見て、吹き出した。
    「何?急に笑い出して気持ち悪いんだけど」
    「普通に失礼だから人の顔見て笑うなよ」
    咲季は笑いながら身体を前後に揺らす。
    ……鍛え上げられたぶれない体幹で
    シートベルトに拘束されて左右にはほとんど動かないからか、
    棺桶の中で笑いながら暴れているミイラとかキョンシーみたいで
    ちょっと怖い。
    しばらくすると落ち着きを取り戻した咲季は
    静かに語り始めた。

    「色んなアイドルグループがあるけれど、
    ここまでメンバー同士でライバル視してるグループって
    なかったな、と思ってね」
    まぁ、プライベートでも一緒に出かけるほど仲が良いグループもあれば、
    この業界だと表では和気あいあいとしていても、
    実はビジネス関係で裏では冷め切ってる、なんていう話も少なくはない。
    MIXING PARADEのメンバーは全員前者だと思うが、
    私達は―
    「私達は同じユニットメンバーでありながら、
    一番星プリマステラの座を競い合う者同士だからね。
    高め合う仲間ではあっても、
    最後は自分のために戦わないといけない。
    でも今は倒れられたら困るから、
    『気遣い』よりも
    『相互監視』って言葉の方が合ってると思うよ」
    ことねもうんうん、と頷く。
    「そ。そういうことなんで、
    仲間意識はあってもギリ仲悪い方が丁度良いんですよ、
    あたしたちは」
    左右に挟まれて私とことねの言葉を聞いた咲季は
    驚きに満ちた悲鳴を上げた。
    会場でもないのにビリビリと耳鳴りがする。
    「さ、三人でトップを目指すんじゃなかったのぉ!?」
    「グループとしてもトップを目指す、個人としてもトップを目指す、
    何もおかしいことはないよ」
    「そうそう、それも含めてのライバルじゃねーの?」
    「わ、わたしはてっきり解散して一人になってから
    本当の戦いが始まるものだと……!」
    プロデューサーは淡く微笑む。
    「咲季さん、Re;IRISを愛して下さってありがとうございます。
    しかし、藤田さんと月村さんが言うように
    いつかはソロメインになる日も来ると思います。
    でも少なくともこうして皆さんが仲良し・・・である内は、
    Re;IRISを解散させる予定はないですよ」
    「これは俺の持論ですが、
    皆さんが嫌い合っているつもりでも、
    互いに興味・関心があるうちは仲良しだと考えております。
    ……と、そろそろ着きますね」
    咲季は何か言いたげにしていたが、
    プロデューサーがそう会話を締めくくると、
    口惜しそうに呻うめいて押し黙った。

    車窓から外を覗いてみると、
    青々と茂る広大な森が広がっていた。

    東京は東京でも、郊外のさらに郊外。

    全国で名を馳せるアイドル達が
    こんな辺鄙へんぴな場所でレッスンを行うとは誰も思わないだろう。

    市民体育館を丸ごと貸し切って、
    関係者以外の立ち入り禁止も徹底しているのだそう。

    遠くでビニールに覆われた何枚もの巨大な鏡が列を作って
    トラックの中からスタッフ総出で運び込まれているのが見える。

    その光景を見たことねがプロデューサーに頭を近づけて話しかけた。

    「うわぁ、たった1日のためにあれちょっと徹底しすぎじゃないですか?」
    「名だたるアイドル達がスタジオから次々と出てきたって
    ちょっとした騒ぎになったらしくてですね、
    MIXING PARADEとしての活躍の知名度が上がってきている反面、
    そういう問題も出てきたようです」
    「嬉しいような、悲しいような。
    そういう意味ではRe;IRISのファンって
    街中であたしらを見かけてもそっとしてくれてる
    気がするからマナー良い方ですよね」
    「……お目当てのユニットやアイドルのファンの分母が増えるほどに
    色んな性格の人も比例して増えます。
    誰もがマナーを守ってくれるとは限らないので、
    ここまで注意するに越したことはありませんね」

    なるほど。
    これまでのMIXING PARADEの公演がやたら不定期だったり、
    ゲリラライブ気味だったり、
    アイドルの全国的な知名度に反して小規模だったのは
    そういった背景があるのかもしれない。
    もちろん実験段階だったのも理由の一つではあるのかもしれないが。

    だとすると大々的に宣伝まで行っている雨期公演は
    MIXING PARADE初の大規模公演ということになるわけだ。

    私も出演できたら良いのだけれど、
    今日が公演メンバー選定の最後のチャンスかもしれない。

    「……手毬、『よし』だなんて、珍しくやる気の高さを隠さないわね」
    「え?何の話?」
    「あなたさっき言ってたじゃない」
    「さっき?」

    ええ、と咲季が頷くと、窓の外を眺めていることねも
    あたしも聞こえたぞ~と続いた。
    するとことねがこっちを見ていたずらっぽく笑った。

    「無意識で声が出ちゃうほど、何を考えてたんですかね~?」
    咲季もね~?と、二人して目を細めて気色悪く笑っている。
    二人とも私が何を考えてるのか分かってる時の顔だ。
    Voトレーナーがこらこらと窘たしなめた。

    ことねはすんといつも通りの表情に戻り、
    まぁあんまり気を張らなくても大丈夫だぞ、と言うと
    また窓の外へと視線を外した。

    「そういえば、島村さんがいないってことは、
    外部で教えられる人は一人確定でいないってことになるわね」
    「どういうこと?」
    「『初』っていわゆるユニットにおける担当カラーでいうところの、
    赤色の人しかまだ付きっきりでは教えていない
    ……はずよね、プロデューサー?」
    敷地内に入ってからはゆっくりと自動車を進めていたプロデューサーは
    はい、と頷く。
    「各々で自主練習はされて来ていると思いますが、
    以前、天海さんと島村さんとの共演に向けて折角だからということで
    男性の天道さんを除いた、
    櫻木さん、春日さんも一緒に特訓しましたね」
    ということは……。
    「ある程度は他所の事務所の方々も
    赤担当の子が事前に指導している可能性が高いということですね」
    「今日は本場・・を知るあたし達が最終チェックをするって感じで、
    ダンスに関しては後日咲季が詰めるってことだったんですね~」
    「そうです。
    なので一から全て教えるわけではなく、
    あまり荷が重くならないと判断しての今日というわけですね」
    自動車が一度ガクンと止まると、
    プロデューサーはバック駐車を始めた。
    「じゃあ誰が指導係で来るのか予想はできるわね。
    んーと、島村さんはいなくて、櫻木さんは雨期公演で桜庭さんと渋谷さんと参加が決定しているのよね?
    じゃあ……天海さんと春日さん?」
    プロデューサーは自動車を停め、
    エンジン音も聞こえなくなると、いえ、と断りを入れた。
    「天海さんも星井さんと同事務所のメンバー数人と
    遥か南の地へ移動しているそうなので、
    欠席だそうです」
    「じゃあ春日さん、Voトレーナー、ことね、手毬の4人が先生ね」
    「なら2,2で分かれて指導できるわね~。
    月村さんは歌唱力に自信があるでしょうし、
    歌が得意ということで被ることはなさそうですね」
    「お~あたしにVoトレーナーがついてくれるなら百人力です!
    これで間違った指導はなくて安心だな!」
    春日 未来さん……!
    わたしの初めてのお友達になってくれるかもしれない……!
    「ねえ咲季、春日さんってどんな人!?
    身近な人だと誰が近い!?
    好きな食べ物は!?」
    「もう~そんなにがっつかないで頂戴。えーと、」
    咲季が口を開きかけたその時。
    「すみません、申し訳ないのですが、もう時間です」
    「プロデューサー!水を差さないでください!
    あと少しでいいから……!」
    じゃあ、似てる人だけなら。と腕時計を見ながら呟いた。
    私の我儘に付き合わせて本当にごめんなさい。
    「そうねぇ、佑芽かしらね」
    佑芽ね。
    私はドアを勢いよく開け、
    足元に水溜まりがないかを確認して自動車から出た。
    この後助手席に移動するのであろう、咲季も
    のそのそと出て来るとうんと背伸びをした。
    プロデューサーも含めて全員車外に出ると、各々で
    身体を軽く動かした。
    自動車の正面に立つプロデューサーの前で皆横一列に並ぶと、
    雨、今は降ってませんね。と彼は呟く。
    「それでは皆さん、行ってらっしゃいませ」
    出かける主を送り出す執事のように頭を下げ、
    恭うやうやしく一礼すると、
    咲季さんはこっちですと、小さく手招きした。
    咲季は招かれるままプロデューサーの隣につくと、
    健闘を祈るわよ!と手で鉄砲の形を作ってウィンクし、
    私を撃つ身振りをして助手席へと入って行った。

    ありがとう、咲季。
    今日こそは逃げないでMIXING PARADEのライブに参加する足掛かりを作ってみせるよ。





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