
『悲劇でなく、喜劇を。』#5 ネギ坊主とじいちゃんのはたらきものの手。
ほー、ほー、ほーたるこい。
田植えが終わって
青い香りがする頃
祖父母の家に泊まりに行くと
風呂上がりに田んぼの畦道を
弟と祖父と3人で歩く。
土を擦る草履の音が、静かな夜に響く。
ほーほー
ほーたるこい♪
あっちの水はまずいぞ、こっちの水はうまいぞ。
ほー♪ほー♪ほーたるこい♪
蛙の合唱に負けないように歌う。
流れる水の音。
虫の声。
近所の家からもれる灯りやテレビの音。
蛍を捕まえると
じいちゃんの、はたらきものの手が
ネギ坊主を鎌で切ってくれる。
虫籠がわりに入れてあるく。
ほー
ほー
ほーたる
こいっ
ネギの匂いと
ゴツゴツしたじいちゃんの手と
幼い自分と弟の笑い声。
あの手の感触を、私はまだ覚えている。
いまでも、ネギ坊主の季節になると
あの夜の灯りを思い出す。
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