
『悲劇でなく、喜劇を。』#19 お前がむげねぇ。
私にこの言葉を直接かけてくれる人。
母方の祖父だ。
方言だ。
可哀想、気の毒、かわいい
まぁまぁ説明が難しいのだが
ニュアンスで受け取る。
「あなた可哀想ね」
なんて
かけて欲しくはないのだけれど
なぜか、じいちゃんの
むげねぇ。
だけは、心にすーっと入ってくる。
私が就職で上京していた頃
すごく心配をかけた。
地元に戻って、就職して、結婚して
やっとやっと安心させることができたな。
と思った矢先
双子の妊娠、入院、出産。
2つもできたか、良かったな!
でっかい、ゴツゴツした手が
ベビーベッドの柵を掴む。
ぶっきらぼうだけど嬉しそうに
2人を眺める横顔に
心底ほっとした。
双子の障害がわかったとき
絶望と共に沸き起こった感情は
私が喜ばせたい人
私が安心させたい人
私が笑顔でいて欲しい人に
どうやって隠し通すか
だった。
これから、あの笑顔を
じりじりと時間をかけて
むしり取るのか
私は。
じいちゃんは双子のことを、
何にも聞かない。
親戚が集まる食事会でも
ただただひ孫たちのはしゃぎまわる姿を
眺めている。
1年前、
酒の力を借りて、しぼりだすように言った
「お前がむげねぇ」
座敷を走り回る双子を眺めながら。
私はどうしていいかわからずに、
笑って誤魔化した。
じいちゃんの誕生日。
またみんなが集まった。
私は伝えたい言葉があった。
騒いだり、笑ったり、
みんなをすり抜けて
仏壇の前に座るじいちゃんのところにいく。
私を見るなり、視線をそらしながら
「俺は、お前が1番むげねぇ。」そう言った。
私は仏壇に置かれた
秋桜畑で微笑む曽祖母の写真をみる。
ピンクが綺麗だ。
じいちゃん、
色々あったけど
やっと安心させることができると思ったけど、
心配かけるなぁ。
そういってくれて、ありがとう。
「ありがとうじゃねぇ」
ゴツゴツの手が
飲むわけでもない
冷えたグラスに注がれたビールを揺らす
「お前が、むげねぇ。」
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