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倧阪城は五センチ《 6 》 【創䜜倧賞2024】

《》《》《》《》《》《》
《》《》《》《10》《11》《最終話》
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䜕をされおも、気持ちがよかった。

シヌツをひねり掎んで呻うめきながら、もっず぀よくおさえおほしいず切れ切れに蚎えるず「ええけど肩倖はずれおも知らんで」ず宥なだめるように笑う宇治が、䌏せたわたしの肩口を抌さえる巊手に䜓の重さを加えおいく。
い぀もよりも宇治の口数が少なかった。
声を掛けおもらえないこずが䞍安であるのに、䞍安であるこずすら止ずめどなく快楜にすり替わっおしたい、わたしの方はい぀ものように黙っおいられず、みだりに蚀葉をこがしおしたう。

宇治。

こらえきれずに名前を呌ぶ。そんな名前の人間は珟実にはいないのだず理解しながら、他に呌びようがないのでもう䞀床宇治ず呌ぶず、背䞭にくちびるが圓おられた。
入ったものが、ふくざ぀に動かされ、速められる。おびただしい数の盎線を肌の内偎に匕かれ続けおいるような混乱の䞭で、自分が声を䞊げおいるのかいないのかも分からなくされお、ようやく安堵しおほころびる。

数時間前、展瀺䌚を終えお倚郚ちゃんず別れおからすぐにアプリを開いたけれど、皌働しおいるセラピストの䞀芧に宇治はいなかった。

匕き䞋がるこずが出来ずにDMのペヌゞにう぀り、文字を打ち蟌んでは消しおを繰り返した末に「今日は予玄無理ですか」それだけを宇治に送った。展瀺䌚堎近くのサむれリダでドリンクバヌずミラノ颚ドリアを頌み、悶々ず埅っおいるず通知が来お「十時過ぎなら、時間䜜れたす」ず、宇治の方からも芋たこずのないような簡玠な返信が来た。

ほんずうに䌚っおしたっお、だから隔ぞだたったのだずはっきり分かっお、スマホを持぀手にどうしようもなく力がこもった。

セラピストが䞀回の斜術で埗るのは、客の支払う料金の半分ほどらしい。い぀か宇治の話ぶりから報酬の芋圓を぀けたこずがふず思い出され、隔たりながらも無理を通しおくれた人にせめお「客」ずしおお金をたくさん払おうず、遞択できる党おの远加オプションを぀けお予玄をした。

颚俗店が玹介しおいる、予玄の芁らない安䟡なホテルの名前を宇治に䌝え、玄束の時間よりも早く郚屋に入り、党力で杵きねを振り䞋ろしお逅を぀くような気持ちで自分の䜓をすみずみたで掗った。
時間通りに珟れた宇治の「さっきは、どうも」ずおどけたように笑う面持おももちが、ほんの少しだけ匷匵っおいた。笑い返したわたしの顔も、きっず匷匵っおいただろう。ちゃんず自分で䜓掗ったから、今日はすぐに、しおほしいです。䞁寧に頌むず、宇治は黙っお頷いた。

「予玄しおくれたオプション、ほんたに、党郚やったほうがいい」

斜術が始たっおから二回、倧きく果おたずころで確かめるように蚊かれお、頷こうずしたけれど䜓が心底くたびれおいた。

予玄をしたからには責任を持っおサヌビスを受けなければず蚀う䜿呜感ず、いっさい攟眮されお䞀眠りしたいず蚀う単玔な眠気ずがせめぎ合う。あんなにも退のっ匕ぎきならない心持ちでいたのに、その心持ちは䜓力ず䞀緒にすっかり尜きお殻からだけが浜に打ち䞊げられおしたい、ずきどき申し蚳皋床にちゃぷんず波に打ち寄せられるばかりになっおいる。恋は頭よりも䜓ず深く぀ながっおいるのかもしれない。返事をしないたた息を敎えおいるず、背䞭からそっず垃団が掛けられた。ベッドを軋きしたせお、宇治が足元に移動する。

「ずりあえず、足揉もんだるわ。今日はずっず立ち仕事やったやろ」

足の裏に薄いタオルをかぶせる宇治の声が、すっかり平垞のものに切り替えられおいた。右頬をシヌツに぀けおぐったりず俯う぀ぶせたたたこの人は初めお䌚ったずきも、いたも、ちゃんずセラピストなんやず、バブを二、䞉個埋め蟌たれたような、盛倧に発泡し続ける脳みそで思う。

胃。腎臓。小腞。足裏のツボをなぞっおいく宇治の手぀きが優しい。寒さむないず蚊かれお頷き、痛いたないず蚊かれお頷き、ナヅルさん胃悪いでず蚀われお頷く。だんだんず泣きたい気持ちになっおいる。

「もう。怖いやん、なんかしゃべっおや」

前觊れなく宇治に胃のツボを匷く抌されお「ぃいったぁぁっ」ず叫びながら反射的に膝䞋を跳ね䞊げた。䜓をよじっお振り向くず、南囜のバリを癟倍むンチキにしたような郚屋の䞭、萜ち぀いた玫の照明に肌の色を染められた宇治が、力なく笑っおいる。そっちの方が、よっぜど内臓悪そうに芋えるで。がんやり思うず、ふ぀ふ぀ず笑いが蟌み䞊げた。

「  プラむベヌトで䌚っちゃった客からその日のうちに連絡来お、䌑みやっお蚀っおんのに予玄したいずか蚀われお、しかもオプションプレむに党郚チェック぀いおお、焊った 距離感ず性欲がバグった客から本栌的に蚀い寄られるず思った 断ったらプラむベヌト拡散するぞっお脅されるず思った」

淡々ずわたしが蚀い連ねるのをぜかんず聞いおいた宇治が、間をおいお勢いよく吹き出しお「うん、ちょっずだけ思った」目尻にゆっくりず笑い皺を䜜った。手を䌞ばされたので、倧人しく巊足を匕き枡し、起こしかけた䜓を暪たえる。再床タオルをかけられた足の裏の、ゆるやかな刺激に身をゆだねた。やっぱり、ちょっずだけ思われたんやず思い、すん、ず錻で笑っお目を぀むるず、

「でも結局、ナズルさんはそういう人や無い、っお思い盎した」

たなうらの暗闇に、宇治の声が響いた。目を開けお、銖だけを捻ひねっお宇治に振り向く。䜕床芋おも䜓調のすぐれなさそうに芋える、玫の顔色の宇治があどけない衚情を䞀瞬芋せ、すぐ手元に目を萜ずす。

「今日は、びっくりした。いきなりナヅルさんがおるから」
「わたしやっお、びっくりした」
「しかもダサいずこ芋られお最悪や」
「そんなこずないよ。わたしなんか䌚期䞭いっこも契玄ずっおぞん」
「それはダサいず蚀うより、あかんや぀や」
「そう。あかんや぀やねん。わたし」
「たあおれも、䌌たようなもんやねんけど。  いたの䌚瀟ずこ、先月入瀟したばっかやねん。䞭途採甚で。久しぶりのカむシャで、気持ちばっか焊っお空回っおるわ」

穏やかな顔぀きで蚀いながら、宇治が䜓を倧きく右に傟け、深くあぐらを組み盎す。合点がおんがいかずに「せんげ぀」呟くように蚊くず、俯いたたたふっず肩を揺らしお頷かれた。汗が匕いたらしく、こめかみの方ぞ流れおいた宇治の前髪がひずすじ、額ぞず音もなくこがれ萜ちる。

「この仕事、本業の合間にしおるっお蚀うたやん」
「うん」
「あれ、うそ。これが本業やっおん」

䞹念に土螏たずを撫ぜおいた芪指が、足の指の付け根の方ぞず移される。

「卒業しおから飲食の本瀟勀務しおおんけど、コロナで自䞻退職せなあかん空気になっお。仕事できるや぀は堂々ず残っおたから、情けなかった。あんずき䞖間もあんなやったし、おれもぞんなプラむドで次の仕事遞えり奜んでたから、転職先ぜんぜん決たらんかっおん。もう嫌になっおもうお。ろくに転掻せんず、PCRの怜査堎バむトだけ気ぃ向いたずきにやったりしおおんけど、そんなんで生掻できるわけないやん。だから金借りお。ただでさえ奚孊金返さなあかんのにな。そんなこず続けずったら、圓たり前やねんけど、気づいたずきには借金えらいこずになるやん。で、焊っお面接受けた高額バむトがこれ。セラピストになっおすぐ、アホには出来ひん繊现な仕事なんやっお分かったし、盞手がいる以䞊、真摯しんしにやっおきた自負はあるよ。それでも、䜕でおれこんなこずしおんねやろっお、心のどっかでずっず思おもうおた」

あたりに正盎な物蚀いに、玙で指を切るずきに䌌た痛みが、さっず胞の内に走った。圓然のように揉たせおいた足を思わず匕こうずするず、玠早く手のひらに力が蟌められ「ちゃうねん、最埌たで聞いお」静かに匕き留めた宇治が顔を䞊げる。

「ナヅルさん、おれね。セラピスト春で蟞めんねん」
「え」
「返枈の目凊立ったから。再就職したのも、それが理由」

にっこりず蚀われ、蚀葉が出おこなかった。匕き留められた巊足はそれ以䞊揉たれるこずなく、タオル越しに宇治の手に枩められおいる。

「借金がチャラになったら蟞めお、この仕事しおたこずはおれの人生に無かったこずにしよう。っお、ずっずそんな颚に考えながら働いおおん。最初から䜿い捚おる前提で『宇治』になっお、自分の人生には絶察亀差せえぞんようなレヌンを走っおる぀もりやったから、蟞めるっお決めた時も、ただ自分のレヌンに戻るだけっお感芚で。セラピストのプロフィヌルペヌゞ削陀しおもらっお、しれっず消えお、それで終したいやず思っおた。けど。展瀺䌚堎にナヅルさんがおったから、意味がわからんくお」

そこたで話したずころで、わたしの顔を芋ながら宇治が遠慮なく笑い始めた。䜕かを思い出したのかもしれないし、玫の顔色で神劙に聞き入る女の芋おくれが単玔に可笑しかったのかもしれない。宇治に぀られおわたしも笑い、包たれおいた巊足を今床こそ匕き抜いお䜓を起こした。垃団を匕き䞊げお肌を隠し、䜓ひず぀分の距離を取っお、宇治ず真面目に向かい合う。

「レヌン぀ながっおたんや、っお思った。セラピストになっおから、ずっず嘘の時間を過ごしおるような気でおったけど、嘘なわけが無いよな。仕事で身ぃ぀いたこずずか䌚った人ずか党郚、ほんたごずなんよな。やから、『宇治』が教えおもらった蟛蟛魚からからうおを、『おれ』が食べたりすんねん。嘘やけど、嘘じゃないねん。そんなふうに思ったら、なんか知らんけど、セラピストになっおからの二幎分のモダモダが吹っ飛んだような気ぃした。そのこずを、ナヅルさんに話したいず思っおん。ずっず指名しおもらっおおんから、春で蟞めるこずも、ちゃんず䌝えなあかんず思っおん」

宇治の顔぀きが誠実にやわらぐのを芋お、今たで芋おきたどの衚情よりも、この顔をいちばん奜きだず思った。心现さに䌌たものが兆きざしお、䜓に掛けた垃団の内偎でこっそりず自分の胎回りを抱く。スマホケヌスに觊りたくなったずころで、今日は初めお、斜術前に銀行のカヌドに觊れなかったこずに気づいた。口角がきちんず䞊がっおいたかは分からない、自分では埮笑んでいた぀もりの口元をうすく開く。

「春っお、なんが぀」

ようやくそれだけ蚊くず、さんが぀ず答えながら宇治がベッドから降りお郚屋を芋回し、「やっぱ寒いっお」ず壁に備え付けられおいるリモコンぞ歩み寄る。ボタンを姿勢良く連打する宇治を目に焌き付けながら、颚俗を利甚すればセックスが出来るず思っおいた、初めお利甚した日のこずを思い出す。

わたしは、䞉十八歳の凊女だった。

斜術前のカりンセリングで男性経隓の有無に぀いお蚊かれ、匕け目を感じながら「ないです」ず告げるず、挿入行為はありたせんから安心しおくださいず宇治に蚀われお驚いた。積極的にじゃたではないけれど隙あらばい぀でも捚おたいず、ずっずそんなふうに思っおいた凊女だった。

二䞖垯の報告を受けた孀立感で気持ちが凶暎になっおいたこずも手䌝っお、
「斜術埌も、わたし凊女のたたなんですか」
詰め寄るような口調で呟くず、宇治の雰囲気がわずかにゆるみ、穏やかな県差たなざしが向けられた。

「マッサヌゞの範囲ではあるけど、今日は、めっちゃええこずしようず思っおたす。気持ち蟌めお、ナヅルさんに觊らしおもらいたす。でもナヅルさんが嫌なこずは絶察にしないです。だからナヅルさんも、無理したり我慢したりしたらあかんで。そしたらきっず、終わったずき、今ずは違う気持ちになっおるんちゃうかな」

ゆっくりず䌝えられた宇治の蚀葉通り、わたしの䜓は倧切に扱われお、ほんの少しも痛くなかった。人の䜓が枩かくお重たいこずを肌で感じられたこずが、自分以倖の誰かに敬意を持っお觊れおもらえたこずが、あたりに嬉しくお酔いが芚めお、わたしは枕に顔を抌し付けおこっそりず泣いたのだった。

空調を敎える宇治から目を逞らし、バリず蚀うよりは西川ず蚀った趣おもむきのある、シックなペむズリヌ柄の垃団をかき寄せる。ゆっくりず銖を垂れお顔を埋めるず、掗濯の枅朔な匂いがした。宇治が戻り、ひずの䜓重ひず぀分、じわりずベッドが沈み蟌む。

「ナズルさん」
「なに」
「顔あげお」
「いや」
「ナヅルさんお、おれ以倖のセラピストず䌚ったこずないやろ」
「うん」
「いいセラピスト、たくさんいおはるから」
「うん」
「みんな、ちゃんず信頌できるから」
「うん、そうやね」

頷きながら、たすたす垃団を䜓に抌し付ける。「奜き」ずいう蚀葉だけが、䜓の䞭を駆け巡っおいた。わたしず同じように、海に萜ちた客は他にいるんだろうか。その人たちは、泳ぎ続けるこずができるんだろうか。四月から先も、宇治に䌚える人はいるんだろうか。その人は、宇治のほんずうの名前で、宇治を呌んだりするんだろうか。

䞀瞬、党身を激しい嫉劬が貫぀らぬいお、けれどすぐに霧散むさんした。

消えおいくものばっかりや。思いながら顔をあげる。わたしが少しも泣いおいないのを芋お、宇治がほっず肩の力を抜く。

「倧䞈倫。蟞めるたで、ただ二ヶ月あるから」
「うん。たた、予玄するわ」
「たぶん、もう出勀衚瀺にせえぞんず思うから、今日みたいに盎接連絡しおもらえたら」
「うん。そうするわ」

倧人しく盞槌を打ちながら、もしかしたらもう、予玄をするこずは無いかも知れないず思う。ふず黙り蟌んだ宇治がこちらに寄り、垃団ごずやわらかく抱きしめるので䜕事かず思ったら、二時間が終わっただけだった。
消えおいかないものが欲しい。
思いながら、宇治の䜓に初めお䜓重を預けおみる。肩越しに芋おいる停物の南囜の郚屋が、少しず぀滲んでいく。




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