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倧阪城は五センチ《 10 》 【創䜜倧賞2024】

《》《》《》《》《》《》
《》《》《》《10》《11》《最終話》
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倚郚ちゃんが、キャベツの䞭から青虫が出おくる歌をうたっおいる。

にぎった手の右ず巊の芪指を順に立お「にょき、にょき」ず歌う倚郚ちゃんに合わせお、ナッチが同じ圢に芪指を立おおいく。
おずうさんあおヌむしヌ。
楜しそうに歌うナッチの、ポニヌテヌルにたずめ損なわれた现くお頌りない埌おくれ毛が、癜いうなじをほわほわず芆っおいた。こんな小さな子どもの盞手の仕方を、倚郚ちゃんが知っおいるこずが意倖だった。昚日ず同じ和宀でお茶をすすりながら、ふたりの手遊びを芋孊する。

昌を少し過ぎおから、倚郚ちゃんは芋知らぬ家族ず共にマカロニさんの家にやっおきた。たたたた電車で隣り合い、ナッチに話しかけられたのをきっかけに䌚話をするうち、目的地が同じであるこずが分かったのだず蚀う。宿泊予定の倚郚ちゃんず家族を和宀に通し、お茶を出したマカロニさんは、今日はナッチの父芪を匕き連れお二階に䞊がり、垃団を郚屋に運び入れるのに忙しくしおいるようだった。

「これ、去幎の倏に四囜の家に行ったずきの写真です」

正面に座っおいるナッチの母芪が、スマホの画面をこちらに向ける。反射しない角床を探しながら芋おみるず、独創的なデザむンの䞀軒家を背景に、家族䞉人が楜しそうに寄り合っおいた。

写真は家の裏手で撮られたものらしい。䞀垯は原っぱになっおいお、朚補のすべりだいやブランコが眮かれおいた。敷地の向こうは田んがなのか畑なのか、豊かな緑色が山裟たで続いおいる。リビング、バヌカりンタヌ、図曞宀、キッチン。䞀定のリズムで、ナッチの母芪が画面をスラむドさせおいく。

「ここは斜蚭がすごく綺麗でした。枩泉も湧いおたので、おすすめですよ」
「いいずこですね。あ、ケヌキ食べおる。このずきナッチ誕生日やったんですか」
「そうです、五歳の誕生日でした。家䞻さんにも滞圚䞭の方にも祝っおいただいお。名知銙なちかも喜んでたした」
「いいですね、そう蚀うの」
「うちは、時間が蚱す限り色んなずこに滞圚したいず思っおお。幌児期にふれたものっお、生涯を通しお『圓たり前のもの』になるような気がしたせんか。ネむバヌを利甚するず、知らない土地に滞圚するこずも、そこで生掻しおる人に出䌚うこずも、その人たちず仲良くなるこずも、党郚圓たり前だから。それがいいなず思っお」
「ああ。確かに、そうかもしれないですね」
「地図を芋お人間が䜏んでるこずを知ったずきに、誰かの顔を思い浮かべられるような子になっおもらいたいんです。芋たこずないものを、自分の倧切にしおるものに繋げおいけるような。ネむバヌを利甚するこずが、そういうこずに぀ながっおいくのかは分かりたせんけど」

熱量高く語る母芪から、心酔しんすいしおいるのか思い詰めおいるのか分からない、䞍安げな笑顔を向けられお返事に困り、倚郚ちゃんがお土産ずしお持っおきたキャラメルサブレを「よかったら食べおください」ず勝手に勧めた。

玍戞から家族分の垃団を郚屋に運び終えお、二階からナッチの父芪が䞋りおくる。倫婊で䞊び座り、嚘の様子を眺めながら午埌の予定に぀いお盞談を始めたので、わたしも倚郚ちゃんに振り向いた。もう䜕回目になるのか分からないキャベツの歌は、ちょうど䞉番にさしかかっおいる。

䞀番で芪指だけを立お、二番で人差し指だけを立おる手遊びの、䞉番のおにいさん青虫はたさかず思っお芋おいるず「にょき、にょき」ず蚀いながら倚郚ちゃんが勢いよく䞭指を立おた。ナッチの母芪はこの手遊びを芋慣れおいるのか、おにいさん青虫を巊右にゆらす嚘を芋ながらくすくすずお菓子の袋を開けおいる。

「みんな今日はこのあず、どうするか決めおるん 叀墳もあるし、海もあるよ。子どもさんが喜ぶのは、海のほうかも知れん」

遅れお䞋りおきたマカロニさんが、階段から声を掛けおくる。母芪がすぐにGoogleマップを開き「この海なら歩いお行けそう」ず父芪に画面を芋せた。倫婊の様子を眺め぀぀、暇を持お䜙しながら䞉぀目のキャラメルサブレの封を開けお、がりがりずお菓子を噛む。せっかく倚郚ちゃんが来おいるのだから、わたしだっお早く倚郚ちゃんず遊びたい。

お菓子を食べおお茶を飲み切り、手遊びの様子をうかがった。にょきにょきず生えた倚郚ちゃんの十本指の青虫は、今日䜕床目かのちょうちょになっお、ひらひらず郚屋を飛んでいる。

◇

和宀を出お郚屋に荷物を䞋ろしおから、すっかり倚郚ちゃんに懐いたナッチにせがたれ、結局党員で海に出た。

府営公園の敷地内にある人口の海氎济堎は、癜砂の浜が遠くたで続き、海に沿っお遊歩道が敎えられおいる。公園の入り口からぞろぞろず海に向かい、けれど砂浜たで降りるのは面倒だったので、わたしは手前の石段に腰を䞋ろした。

波打ち際に父芪ず母芪が立ち、その前をナッチが悲鳎たじりの笑い声をあげお、倚郚ちゃんから逃げ回っおいる。肩ず氎平になるたで䞊げた肘の、そこから䞋の腕をぶらぶらず揺らしながらがに股で浜を走り抜ける倚郚ちゃんを芋お、さっきたでごく普通の鬌ごっこを繰り広げおいたナッチの父芪が匕いおいる。

色の鈍い冬の海岞を、゚メラルドグリヌンのフリヌスが跳ね回り、挙動の䞍気味なショッキングピンクのコヌトが远い回しおいた。

たるで芪子みたいなふたりの様子を、倧笑いしながら動画におさめ、こちらに気づいお手をふる倚郚ちゃんに倧きく手をふり返す。録画を終了しおスマホをしたいながら、そう遠くない未来で、本圓に誰かのお母さんになっおこんな颚に遊んであげおいる倚郚ちゃんを、わたしは芋るこずになるような気がした。ちく、ず淋しさが胞をさしたので、

いや。祝っおあげられなくお、どうすんねん

嗜たしなめるように思い、膝をしっかり抱えお座り盎す。冷たい海颚に䜓が冷え始めおいた。ショッキングピンクのコヌトが゚メラルドグリヌンのフリヌスを぀かたえ、しっかりず抱き蟌むのを芋届けお立ち䞊がる。

駐車堎の入り口たで戻り、自動販売機で枩かいお茶を二本買っお戻るず、い぀も通りの沈着した様子で倚郚ちゃんが石段に座っおいた。家族は、ず芋枡すず、砂浜にしゃがんで頭を寄せ合っおいる。䞉人で山を䜜り始めたらしかった。

「お぀かれさた。はいお茶」
「ありがずうございたす」
「倚郚ちゃん、子どもの盞手すんの䞊手いな。びっくりした」
「子ども奜すきなんです」
「手遊びずかどこで芚えんの」
「キャベツは自分が小さいずきに保育園で。あずはYouTubeずか。暇なずき芋おるんです」
「ぞええ。そうなんや、知らんかった」
「わたしほんたは、保育士になりたかったんです。でも保育士の絊料やず、二十代で家買うの難しいず思っおやめたした。家のために倢蹎っお、アホやず思いたす」
「思うわけないやん、えらいよ。倚郚ちゃんは立掟。仕事でもそれ以倖でも、いっ぀も思っおるよ」

ペットボトルで手のひらを枩めながら蚀う。぀いでに銖元や頬にもあおお暖をずっおいるず、しばらく海を向いお銅像みたいに固たっおいた倚郚ちゃんが口を開いた。

「由鶎さん。たた突然の話、しおいいですか」
「いいよ。今床はいくらの家買うたん」
「わたし昚日トモリず別れたした。ずいうか振られたした」
「え。  えっ、ええっ なんでや、嘘やろ」
「ほんたです。今月の始めくらいに別れ話が出お。䜕べんかに分けお話し合っおたんですけど、昚日正匏に別れるこずになりたした」
「そんな。だっお。結婚考えおるっお蚀うおたやん」
「本人は最埌たで口に出したせんでしたけど、家がきっかけです。わたしが家買こうたんが、トモリにずっおは䜕かの止ずどめやったんです。だからしゃあないんです。家を買わない遞択は、わたしの人生になかったんで」

立ち䞊がったナッチが䞡手を振りながら「たべちゃん芋おヌ」ず高く積たれた山の前で跳ねおいる。ナッチの声を掻き消すように、沖に浮かぶ空枯からごうごうず飛行機が䞊がっおいく。蚀葉を倱っおいるわたしの暪で「すごいやヌん」ずナッチに返事をした倚郚ちゃんが、䞀息にお茶のふたを捻じり開けた。

海面にほど近いずころを連なっお飛ぶ鳥が、矀れたり広がったりを繰り返す。先頭に抜け出た䞀矜がペットハヌバヌのほうぞず飛んで行くのを目で远いながら、にじるようにお茶の蓋を開けた。

トモリくんは、初めお付き合った人なのだず蚀っおいた。今幎で十幎になるのだずも蚀っおいた。なんず声を掛けたらいいのか分からず、混乱しながらお茶を飲む。䞀盎線に飛んでいた先頭の鳥が、急に方向を波打ち際ぞず倉えお着氎した。ず぀ぜん呑気に波間に浮かび始めた鳥を芋ながら、盞応しい蚀葉を懞呜に探しお、もう䞀口お茶を飲む。

「由鶎さん、さっき沖のほうで鳥が䜕矜飛んでたか分かりたす」

ほずんど䌚議のずきのテンションで蚊かれ、海に挂う鳥ず倚郚ちゃんの暪顔を、あわおお亀互に芋比べた。「増えたり枛ったりしおた鳥のこず」正解をはかりかねお自信なく答えるず、しんず沖合を芋぀めたたた、倚郚ちゃんが小さく銖を振る。

「数はずっず䞀緒です、党郚で五矜飛んでたした。由鶎さんが芋おた先頭の䞀矜を他の四矜が远いかけお、そのうちの䞀矜が矀れからはぐれお行きたした。トモリはそういう、はぐれお行くものをハラハラず目で远うタむプなんです。わたしは鳥を芋たら、䜕矜おるか数えたくなりたす。数えたら終わりです。でもトモリず長くおったから、わたしは鳥が五矜飛んでるこずも、䞀矜がはぐれたこずも、䞡方芋えたんです。トモリず同じ䞖界を芋おみたいず思っお、自分の目ぇの䞭にトモリの目ぇを䜏たわせ続けおきたんです。なのになんで。あんなこず蚀われなあかんねん。わたしほんたに、トモリのこず奜きやったんですよ」

倚郚ちゃんの目から、涙がひず぀ぶ䌝い萜ちた。おろおろしながら背䞭に手を圓おるず、それ以䞊泣くのを堪こらえおいるらしい䜓が、こわばったたた震えおいる。

「倚郚ちゃん、我慢せんず泣いちゃえば」
「いやです。これで泣いたら悔しすぎたす」
「じゃあ今からそい぀を殎りにいこうか」
「チャゲアスですか。なんでこのタむミングなんですか」
「ごめん䜕ずなく。ずいうか、よう分かったな今」
「䞖代ちゃうのにファむンプレヌでしょ。耒めおください」
「えらい。倚郚ちゃんはえらい。倚郚ちゃんは、ほんたにえらい」

背䞭を撫ぜながら連呌するず、錻をすすった倚郚ちゃんが、ふっず䜓の力を解いお笑った。高く積んだ砂山に、トンネルが貫通したらしい。ナッチが興奮した様子で立ち䞊がり、たヌべヌちゃヌん。ず走り寄っおくる。倚郚ちゃんが真面目な顔぀きになり、さっきの鬌ごっこの角床で肘をさっず䞊げた。キャヌず甲高い声でナッチがのけぞり、わらいながら砂の䞊に尻もちを぀く。

「由鶎さん、わたしはい぀か結婚したい。子どもも産みたいです。たくさん」

コの字にした腕をぶらぶらず揺らしながら倚郚ちゃんが蚀う。腰をぬかしたたた笑い転げるナッチを、父芪がいずおしそうに抱き䞊げお砂を払っおやっおいた。完成した砂山を念入りに写真におさめおいた母芪が、スマホをしたっおふたりの元ぞず歩み寄っおいく。

「倚郚ちゃんはきっず、いいお母さんになるず思うよ」

玠盎に思い、倚郚ちゃんにそう蚀うず「由鶎さんは」ず蚊き返されたので銖を傟げた。

「なにが」
「由鶎さんは、展瀺䌚のずきの平和顔の人ず、そう蚀うこず考えたりしないんですか」
「え」
「どう蚀う関係なんかは聞きたせんけど。あの人のこず、奜きなんですよね」
「いや。あの。初めお䌚うたひずやけど」
「無理ですよ、あんなん誰が芋おも分かりたすっお。それに由鶎さん、去幎くらいから顔぀きが優しくなっお。だから展瀺䌚で芋たずき、あぁこの人の圱響やったんや。っおすぐ思いたした」

ほずんど確信した口ぶりで、倚郚ちゃんが蚀い圓おる。ぐうの音も出ずに口ごもっおいるず、目の前に草原が思い浮かび、その䞭をうれしそうにマレヌバクが歩き始めた。

ながい錻をこころもち䞞めお、぀ぶらな目をたぶしそうに现めお、耳の産毛うぶげはやわらかな颚を受けおそよそよずなびいおいる。黒いからだに癜いおしりをゆらしお、気持ちよさそうに歩を進めるマレヌバクの草原が、あたりにもいい倩気で泣けおきた。このやすらかな颚景が、この先もほんの少しだっお壊れお欲しくないず思った。マレヌバクが幞せそうに歩いお行くのを䞀心に芋぀めながら、

「そう蚀うこずは考えたこずないし、きっずこれからも考えぞんず思う」

迷いなく答えお、お茶を飲む。「そうなんですね」ず呟いた倚郚ちゃんが、それ以䞊詮玢するこずなく石段から腰を䞊げた。ナッチを真ん䞭にしお手を぀なぎながら、家族がこちらに向かっお歩いお来おいた。倚郚ちゃんに続いお立ち䞊がり、尻の砂をさっずはらう。

◇

その日の倜は、倚郚ちゃんの寝息が聞こえ始めおも眠れなかった。

垃団を頭からかぶっお颚俗のアプリを開き、DM画面をどれくらい眺めおいたのかは分からない。耳鳎りを聞きながら入力画面を衚瀺しお、
「䌚いたいです。予玄できたすか」
指先でず぀ず぀文字を打ち蟌み、笹舟を攟぀ようなさりげなさで宇治に送った。

ありがずうございたす。次の日曜ずかどうですか

息を殺しお芋぀めおいたDM画面に、数分も経たないうちに返信が぀く。ほんの少しの軜薄けいはくさも滲たせずに、誠意を持っお隔たる宇治のメッセヌゞが、にくたらしくお、少しさみしい。䞊べられた蚀葉を䜕床も読み返しお、了承の返信を打った。あのずき、初めお䌚ったセラピストが宇治でよかった。抱きしめるように思いながら画面を閉じ、スマホを枕の䞋に突っ蟌んで目を぀むる。




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