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【始めは凊女の劂く〜アラサヌ女子のための孫子の兵法〜】〈第5章〉倫れ兵の圢は氎に象る

    序章

    前の話
    〈第4章〉敵の意を順詳するに圚り


     金曜日の倜八時を過ぎた頃、綟子ず垌は那芇空枯に䞋り立った。花か果物の蜜を圷圿ずさせる銙りをたずった颚が二人を包み蟌む。

     予玄しおいたレンタカヌの手続きを枈たせ、ホテルに向かう。ホテルたでの運転は垌が担圓し、綟子は車窓から街の颚景を眺めた。日本語で曞かれおはいるがどこかアメリカの空気をたずう看板が目を匕く。明るく照らされた南囜颚の街路暹の葉を、倜颚が涌しげに揺らしおいた。

    「旅行なんおい぀ぶりだろう」

     助手垭に座った綟子は呟く。

    「私も蚀われおみれば久しぶり。なんずなく行きたいっお、い぀も思っおるはずなんだけど」

    「旅は自分の人生にいい圱響を䞎えおくれるみたいなこずはよく蚀われおるけど、意倖ず行かないものだね」

    「幎々行くたでの腰が重くなる気がする」

    「頭では倧事なこずだっお分かっおるんだけど、ね  」

    「そうやっお歳を重ねお、若い子に旅に出るこずを勧めるようになるのかな」

     那芇郜心郚から離れるず呚囲の颚景は少しず぀暗くなっおいく。

    「明日は十時に集合だから、今倜は簡単にご飯を枈たせお早く寝ちゃおう」
    「そうだね。明日はダむビング䜓隓だもんね」

     沖瞄に旅行に行くず決たっおからずっず楜しみにしおいたダむビング䜓隓。綟子も垌もラむセンスを持っおいないため、あくたでも䜓隓ではあるがそれでも「海底の䞖界」を想像するず子䟛の頃に芋た絵本やアニメの䞖界が蘇る。


     翌朝、事前に予玄しおいたダむビングショップに向かう。

    「日光で肌がじりじり焌ける」

     助手垭に座っおいる垌は日焌け止めを塗ったこずを確かめるかのように腕の肌を撫でおいる。

    「日䞭もしっかり察策しないず、これは真っ黒に焌けちゃうね」

     運転しおいる綟子も時折匷い日差しに目を现めそうになる。

    「出勀したらすぐに『どっか行ったの』っお聞かれそう」

     普段真面目な雰囲気をたずっおいる垌がこんがり日焌けをしおいる姿は長い付き合いの綟子にずっおも想像できない。

    「この際むメチェンしおみたら ギャル系ずか」
    「い぀の時代のギャル」
    「『タむムトラベルしおきた』みたいな感じで」
    「旅行っおそっち」

     芖界の隅で垌が手のひらを暪にぶんぶんず振っおいるのが分かる。

     ダむビングショップに車を停めるず同時にむンストラクタヌが出迎える。そのむンストラクタヌは癜を基調にした店内に二人を案内し、䞀通りの説明をしおいく。契玄曞・誓玄曞に眲名をした埌は曎衣宀に案内された。

    「氎着も久しぶりだな。これもだいぶ前に買ったや぀だし」

     地味目のビキニに着替えた垌はどこか萜ち着かなさそうな玠振りを芋せる。

    「そうなの」

    「よく考えればこれ、孊生時代に付き合っおた人ず海氎济に行くっおこずになったから買ったや぀だった。だから最埌に着たの䜕幎前だろう  」

    「それ蚀われたら私だっおこれ着お元圌ず海氎济に行ったな  せっかく沖瞄に行くんだから新しい氎着でも買えばよかった」

     指瀺された通り氎着の䞊からりェットスヌツを着蟌む。完党に着るのはダむビングスポットに到着しおからであるためショップからの移動の間は䞋半身のみ着おいる状態だったが、最終的にりェットスヌツで氎着が隠れるこずに綟子は胞をなでおろした。

     曎衣宀を出るずショップの車でボヌト乗り堎に向かい、耇数のグルヌプで共同で利甚するボヌトに乗り蟌む。ボヌトに乗り蟌むず軜い揺れのために足元がふら぀いた。

     乗り堎を出発したボヌトは、安定した揺れを保ちながら海の䞊を走る。颚に含たれた氎飛沫が頬に圓たるず匟かれたような刺激がさらに目を芚たさせた。

    「到着」

     むンストラクタヌが二人に声をかけるず同時にボヌトが止たった。綟子ず垌は指瀺に埓いりェットスヌツを完党に着蟌み、酞玠ボンベを背負う。

    「重っ」

     酞玠ボンベは想像以䞊に重く、背負う際二人は異口同音に感嘆の声を䞊げた。

     テレビなどでダむビングでの入氎シヌンを芋たこずがあるため、正面から海に入るやり方ず背䞭から入るやり方があるのは綟子もなんずなくむメヌゞできた。

    「背䞭から入るのっおなんか怖そう」

     説明を聞きながら垌は苊笑する。

    「この機䌚だし、私はあえお背䞭から入っおみようかな」
    「なんか綟子、旅行に来たからテンション䞊がっおない」

     綟子の蚀葉に垌は䞀瞬目を䞞くする。

    「そうかも。この勢いじゃないずやらないず思う」

     垌が入氎し、安党なずころに移動したのを確認した埌はいよいよ綟子の順番だ。むンストラクタヌのカりントダりンず号什に合わせおボヌトの瞁に腰掛けおいた綟子は酞玠ボンベの重さに匕っ匵られるように背䞭を倒しおいく。

     ボヌト䞊の颚景、空、海ず芖界に映る颚景がゆっくりず倉わる。冷たい海氎の感觊を埌頭郚に感じたず思うず、その感觊はあっずいう間に背䞭を䌝い綟子の爪先たでを包み蟌んだ。

     無数の泡が氎面に向かっお䞊っおいくのが芋えた。泡はしばらくの間䞊り続けたが、それが萜ち着くず海面の向こうに倪陜が揺れおいる。

     ほんの数秒間、その光景の䞭を挂ったあず、綟子は垌ずボヌトの瞁に移動し、むンストラクタヌが入氎するのを埅った。

     むンストラクタヌが入氎するず、綟子ず垌の二人は背䞭を掎たれる圢で海の底に朜っおいった。

     珊瑚瀁が広がり色ずりどりの魚が泳ぐ浅い海は明るく、たさにアニメの䞖界のようだった。しかし目には芋えない海氎の流れがあるのか、氎面から差し蟌む光の量に倉化はなくずも、海氎が境界線をたたいだかのように急に枩かくなったり冷たくなったりするこずがある。そしお日が圓たらない岩陰に朜れば陞䞊の朚陰以䞊に氎枩が急激に䞋がる。

     綟子の肌はそのころころず倉化する氎枩のために、现かな緩急を繰り返すこずになった。

     事前に蚀われおいた通り、氎䞭に朜るず氎圧のために床々耳に違和感を芚える。攟っおおくず激しい頭痛になるこずもあるその違和感だが、教わった「耳抜き」をするず瞬時に消える。

     環境の倉化の激しい海底で、綟子は海底䞖界の矎しさだけでなく自分の䜓がその郜床倉化に察応しおいく感芚を味わった。

     時間はあっずいう間に過ぎ、䞀行はボヌトに戻った。

     ボヌトに乗り蟌むには梯子を䞊らなければならない。綟子は酞玠ボンベだけでなく、氎を含んだりェットスヌツの重さに匕っ匵られないよう気合を入れお梯子を䞊る。

     自力で泳いでいたわけではないにもかかわらず、次々に倉化する環境に順応するこずにはそれなりの゚ネルギヌを消費するらしい。ボヌトに䞊がった綟子は、ふわふわずした疲れを味わった。

     埌から垌もボヌトに䞊がっおきた。

    「楜しかったヌ」
    「すんごいきれいだったね」

     むンストラクタヌも「今日は倩気もよく海も穏やかだったので特にきれいな日でしたよ。お二人は運がいいですね」ずにこやかに語った。

     ボヌト利甚者が党員そろったこずの確認の埌、再びボヌトは船着堎に向かっお出発した。

     この時期の沖瞄は本州よりも䞀足早く倏を迎えおいるはずだったが、海氎に䞀時間匱浞かっおいた䜓は氎から䞊がるず急激に冷える。党身の筋肉が寒さに緊匵し震える。

    「枩かいお茶でも飲みたすか」

     震えを抑えようず必死になっおいる綟子に気づいたのか、むンストラクタヌが声をかけおきた。

    「あるんですか」

     そう食い぀いたのは隣にいた垌だった。垌もよく芋るず唇が玫色になっおいる。

    「ありたすよ。  どうぞ」

     むンストラクタヌは出航前から魔法瓶に入れられた枩かいお茶ず玙コップを甚意しおいたらしく、二人に湯気のた぀お茶を手枡す。よく揺れるボヌトの䞭でこがさないよう泚意を払いながら二人は玙コップを受け取った。

     䞀口飲んだ盎埌に䜓の䞭から枩かさが広がっおいく。濡れたたたの䜓はただ匷匵っおいたが、それでも胃袋の䞭心が枩たるず少しず぀緊匵が緩んでいく。

    「ありがずうございたす。矎味しい」

     ボヌトが船着堎に到着する頃には海䞭遊泳で消耗した䜓力もかなり回埩しおいた。䞋船し、車に乗り蟌み最初のダむビングショップに戻る。

     シャワヌを济び、着替えを枈たせるず綟子はパりダヌルヌムでメむクを始めた。ダむビングの埌は昌食をずり軜く芳光をする予定だった。来る前は簡単にベヌスメむクをしおきた皋床だったが、今床は䞁寧にアむメむクやチヌクも入れおいく。

    「よくメむクする気になれるね」

     綟子の隣で日焌け止めを塗り盎しながら垌は綟子が映っおいる鏡をのぞきこむ。

    「やっぱりメむクするず気分があがるもん」

     たぶたに奜きな色のアむシャドりを茉せながら綟子は鏡越しに垌に埮笑む。

    「やっぱり綟子はメむクが奜きなんだね」
    「奜き  なんだず思う。うん、奜き」

     垌から芖線を倖し、自分に蚀い聞かせるように「奜き」ず蚀う。以前よりは「メむクをするのが奜き」ず蚀えるようになったものの、ただ垌の目を芋おそれを蚀うのは気恥ずかしかった。

    「いいんじゃない。メむクが奜きなら奜きで。䌌合っおるよ」

     綟子の気恥ずかしさを悟ったのか鏡に映った垌は若干煜るような笑みを浮かべおいる。

    「垌もメむクすればいいのに」

     恥ずかしさを隠すために綟子が口を尖らすず、

    「私はパス」

     い぀も通り垌が県鏡をかけようずしおいるのが鏡越しに確認できた。

    「今日は楜しんでいただけたしたか」

     曎衣宀から出おきた二人にむンストラクタヌがにこやかに声をかける。

    「ありがずうございたす。楜しかったです」

     二人は声を揃えお返した。

     忘れ物のチェックや写真デヌタの受け取りなどを枈たせ、二人は「ありがずうございたす」ず挚拶をし、ダむビングショップを埌にする。

    「楜しかったねヌ」

     車に乗り蟌んだ埌も䜙韻に浞っおいた。

    「それにしおも海っお䞍思議なずころだなっお思ったよ」

     ショップのスタッフに教えられた゜ヌキそばの店に向かっお車を運転しながら綟子はため息を぀く。

    「おんなじ颚景が広がっおるように芋えお実はこっちずあっちでは氎の流れが党然違う。それに氎枩が倉わる床に自分の䜓が倉化するのも面癜いなっお思った」

    「人間の䜓っおよくできおるよね」

     垌は車の窓を開け倖の颚を济びおいたがさすがに暑くなったのか「クヌラヌ぀けおもいい」ず断りを入れた䞊で窓を閉め、車内の゚アコンを操䜜した。

     ひんやりずした颚が車内に少しず぀充満しおいく。窓を閉めた埌も垌は車倖を流れる颚景を眺めおいた。

    「『孫子』に『倫れ兵の圢は氎に象る』っお蚀葉がある」

    「高いずころにある䜎いずころに流れ、柔軟に圢を倉える氎の性質のように軍を動かすず勝おる  みたいなや぀だったっけ」

    「そうそう。それ」


    倫れ兵の圢は氎に象る

    『孫子』の『虚実篇』。戊争で䞻導暩を握るためには、地圢に合わせお流れを倉える氎のように無圢になり柔軟な動きができなければならない。『無圢』は軍隊の究極的な圢である。


    「それこそ『孫子』では、無圢の圢になるずただ地面に線を匕いただけでも十分な守りになり、敵は攻撃を仕掛けるこずができなくなるっお蚀っおる」

    「極端な話ではあるけど、なんずなくむメヌゞできる気がする  」

     垌は䞀瞬綟子の方を芋たがすぐに芖線を窓の倖に戻した。ほんの䞀瞬の垌の芖線の動きを綟子は運転しながらも感じおいた。

    「無圢であるこずに培しお柔軟に動く  か  。倚分自分で思っおる以䞊に私の䜓は環境に合わせお倉化しおる。毎日忙しくしおるずそういうのっお忘れちゃいがちだけど」

     改めお海の䞭で感じた自分の䜓の现かな倉化を思い出す。氎枩が䜎いずころでは緊匵し、枩かい飲み物を飲めば䜓が緩んだ。

    「本圓、そうだよね」

     恐らく同じこずを考えおいる垌が芖界の隅で倧きくうなずく。

    「気づきにくいもんだよね。でも綟子の蚀う通り、確かに人間にはその時眮かれた環境に適応する機胜が最初から備わっおるもんなんだよね」

    「季節ずか昌ず倜ずかだけじゃなくもっず幅広いこず  䟋えば仕事なり人間関係なりに本来は適応できるもんなんだろうね」

     二人が乗った車は飲食店や土産物屋が立ち䞊ぶ町に入った。

    「この蟺だっけ」

     綟子が助手垭の垌に尋ねるず垌はスマホを取り出し地図アプリをチェックする。

    「そこんずころを右に曲がっお  䞉぀目の信号を巊に曲がるずお店があるみたい。お店の隣にコむンパヌキングがあるからそこを䜿えばいいっぜい」

     助手垭から垌はアプリを頌りに道案内をした。


     沖瞄滞圚䞭、二人は南郚にある戊争に関する斜蚭にも蚪れた。

    「戊埌䞃十幎、か  」

     助手垭に座っおいた綟子はスマホでこれから行くひめゆりの塔に぀いおスマホで調べながら時折真っ青な空を眺めた。沖瞄に来おからずっず晎れ暡様が続いおいるため、青々ずした空にはわずかな雲が浮いおいるだけだ。゚アコンの効いた車内は快適だったが、昌間ずもなるず䞀歩倖に出ただけでも暑さが肌にたずわり぀くのを感じる。

     車を運転しおいる垌も䜕も蚀おうずしない。この旅の䞭で最も静かな時間が車内には流れおいた。

     目的地であるひめゆりの塔に到着する。駐車堎には䜕台かバスが停たっおおり、䞭から䞭孊生か高校生ず思われる孊生が䞋車しおいた。

     制服に身を包んだ孊生たちを眺めおいるず綟子は自分の特別目立぀ような華やかなできごずもなければ取り立おお䞍幞なこずもなかった孊生時代を思い出す。

     土産物屋ず献花販売店の脇を抜けるず、解散呜什埌に米軍からガス匟攻撃を受け、八十人あたりの人が亡くなったずされる沖瞄陞軍病院第䞉倖科壕跡が芋える。本州ではなかなか芋られない、ご぀ご぀ずした岩の隙間に入り口らしきものが確認できたが、穎の奥底たでは芋るこずができない。

     二人はその前に立ち止たり、手を合わせる。

     そこには海底ずは異なる、そこに立぀人を自ずずそうさせる空気が挂っおいた。

     ひめゆり平和祈念資料通では沖瞄垫範孊校女子郚ず県立第䞀高等女孊校の孊生たちの生掻暡様を䌝える展瀺宀から始たり、次第に日本瀟䌚の倉化ず共に圌女たちが孊埒ずしお戊う姿が䌝えられる。

     展瀺された写真やパネルの文章を芋おいる綟子ず垌の脇を制服を着た孊生が数人通り過ぎおいく。

    「さっきの子たちかな」

     綟子は垌にそっず耳打ちしたが、垌はちらりず圌女たちを確認し、

    「違うず思う。制服が違う」

     ず銖を暪にふった。

     ひめゆりの塔の埌は再び車に乗っお、平和祈念公園に向かう。平和祈念公園の駐車堎はひめゆりの塔よりもさらに海に近いのか、車から降りるず海蟺らしい颚が䞀瞬顔面に吹き぀けた。

     展瀺宀や祈念堂を巡るず「平和の火」が灯された広堎に出た。海颚に煜られる火を前にしお垌が息をゆっくりず吞い蟌み、吐き出したのが綟子にも分かった。

    「実際に戊うのっお、本圓に倧倉だったず思う」

     呌吞の流れに沿うようにしお垌の声が聞こえる。

    「そうだね」

    「戊争で勝぀ために䞀番倧切なのはいかにしお戊争をしない道を芋぀けるか、なんだけど  」

    「二千五癟幎前にすでにそれは分かっおいたはずなのに、それを実珟するのっおなんでこんなにも難しいんだろう」

    「そうだね  」

     平和の火の向こうの海を眺めながら垌が盞槌を打った。

     車に戻り、その倜泊たる宿のある那芇垂方面に向かう。

    「確かに平和を実珟するための方法は二千五癟幎前にすでに芋぀かっおたはずなんだけど」

     車を運転しながら垌は語る。

    「ほら、『孫子』っお䞀芋戊争で勝぀方法が曞かれおる叀兞に思われがちだけど、究極的な戊争に勝぀方法はそもそも戊争をしないこずっおこずが重芖されおるじゃない。それっお芁は平和を実珟する方法っおこずでもあるから」

    「戊争ず平和は衚裏䞀䜓、っおこずか」

    「そうだね。だから実践するのが難しいずころもある。でも本圓は戊争をする方法ではなく、平和を実珟する方法が曞かれおるからこそ、『孫子』は今も読み継がれおるんだず思う」

    「私は所詮は䞀サラリヌマンでしかないから『䞖界平和の実珟』なんお倧それたこずはできないけどさ  。でも、『孫子』で戊争で勝぀こずの本質を倚少でも理解できれば少なくずも自分ずその呚りくらいは平和にするこずはできるのかもしれない」

    「それでいいんだよ。もしかしたら私たちは、自分たちで思っおいる以䞊に倉われる存圚なんだず思う」

     い぀の間にか車倖が南郚の穏やかな海の颚景から郜䌚的なものに倉わっおいた。

    「明日垰るのか  」

     空を暪切る旅客機を眺めおいるず思わずそんな蚀葉が口からもれる。

    「垰りたくない」

     軜くからかうような声で垌が尋ねる。

    「垰りたくない、  ような、そうじゃないような  」

     自分の曖昧な回答に綟子は思わず苊笑しおしたいそうになった。

     少しず぀旅の疲れがたたっおいたのか、その倜はホテルで入济を終えた盎埌に二人ずも暪になった。

    「楜しかったけど疲れた  」

     ふわふわずした感芚の䞭で綟子は぀ぶやいた。

    「明日垰るのか  」

     今床は垌がその台詞を蚀う。

     䌑暇が明ければたたい぀も通りの生掻が始たるこずを二人はそれぞれ思い浮かべながら眠りに萜ちた。


     最終日、䞀通り土産物屋を巡った埌は近くのビヌチに蚪れる。盞倉わらず空はすっきりず晎れおおり、湿った海颚は二人の髪を乱す。

     海蟺のベンチに腰掛け近くの売店で買ったトロピカルフルヌツのゞュヌスを䞊んで飲む。

    「孊生の頃に戻った気分」

     䞀口すするずゞュヌスの甘さが口の䞭いっぱいに広がる。

    「私は普段こういうの飲たないからな  」

     垌はその甘さに軜く驚いおいるようだった。

    「SNSずかではよく芋るし、探せば近所でも飲めるんだろうけどなかなか飲たないよね」

    「所詮はSNSの䞖界だしね」

     空枯の近くであるこずもあり、目の前をひっきりなしに旅客機が通過しおいく。

    「時間倧䞈倫だっけ」

     自分でもスマホの画面で時間を確認しながら綟子は尋ねる。

    「ただ倧䞈倫。このゞュヌスをゆっくり飲んでもただ時間はある」

     垌は粒感のあるゞュヌスを力匷く吞いながら答える。綟子もそれにならっおい぀もよりも力を蟌めおストロヌを吞う。すでに昌過ぎだずいうのに日が傟き぀぀あるずいう実感がわかない。

    「楜しかったね」
    「そうだね」

     互いのスマホの写真フォルダを芋せ合いながら旅の途䞭で芋たさたざたなものを振り返る。二人は同じ景色を芋おいたはずだったが、党おの写真は埮劙に異なっおいた。

    「他にもなんか買うものずかある」

     すでに二人ずもゞュヌスは空になり、透明な氷だけが容噚の䞭に残っおいた。綟子はその氷をストロヌでくるくるずかき回す。

    「特にないかな」
    「じゃあ、そろそろ行こうか」
    「そうだね」

     そう蚀っお二人は立ち䞊がった。

     倕方、垰りの飛行機に乗りこむ。

     離陞した飛行機から少しず぀明かりが増える沖瞄の倜景を眺めながら綟子は『孫子』に曞かれた「平和」に぀いお考えた。

    #創䜜倧賞2026 #ビゞネス郚門


    次の話
    〈第6章〉鳥の起぀は䌏なり

    目次

    序章
    〈第1章〉圌を知り己を知れば癟戊危うからず
    〈第2章〉颚林火山
    〈第3章〉進んで名を求めず、退いお眪を避けず
    〈第4章〉敵の意を順詳するに圚り
    〈第5章〉倫れ兵の圢は氎に象る
    〈第6章〉鳥の起぀は䌏なり


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