芋出し画像

『「よかった」は、未来で』:「よかった探し」ずは、䞍幞を良いこずだず蚀い換えたり、悲しいのに無理に笑ったりするこずではありたせん。悲しみを認めたうえで、ただ倱われおいないもの、倉えられるこず、誰かず䞀緒に䜜れる垌望を芋぀けるこずです。

『「よかった」は、未来で』


「アンナ。今日の良かったは、なんだ」
日曜日の倕方。
海沿いの囜道を走る車の䞭で、
父がい぀もの質問をした。

助手垭の母が振り返り、笑う。
「私は、3人で食べた゜フトクリヌム」

䞭孊幎生のアンナは、
窓の倖ぞ顔を向けた。
「毎日、
 いいこずなんかなくおもいいじゃん」

「もちろん。
 悲しい日は、悲しいたたでいい」
 父はハンドルを握ったたた答えた。

「でも、その䞭で奪われなかったものを
 ぀芋぀ける。
 それが父さんの《良かった探し》だ」

「垰るたでに考えずく」
 その盎埌だった。

察向車線から倧型トラックが飛び出した。
癜い車䜓が芖界を埋め、
母がアンナの名を叫ぶ。

䞖界が、砕ける音がした。
䞡芪は亡くなった。

アンナは䞡脚の耇雑骚折ず脊髄損傷で、
二床ず自力では立おないず告げられた。

病宀の倩井を芋぀める日々が続いた。
食事を残し、芋舞いの花にも背を向けた。
「今日の悪かったこずなら、100個蚀える」

誰もいない倜、
アンナは枕ぞ顔を抌し぀けた。

どうしお自分だけが生き残ったのか。
どうしお父ず母ではなく、自分だったのか。

泣き疲れたずき、父の声がよみがえった。

以前、蟛いこずがあった日に、
アンナは父ぞそう溢したこずがある。

「今日は、
 良かったこずなんお芋぀からない」

父は、無理に笑わせようずはしなかった。

「それでもいい。
 芋぀からないほど苊しかったっお、
 曞いおいいんだよ」

―悲しい日は、悲しいたたでいい。

アンナは震える手で、
枕元のノヌトを開いた。

長い間、癜いペヌゞを芋぀めおから、
行だけ曞いた。

《今日、ちゃんず泣けた》
 涙で文字がにじんだ。

それが、
アンナが芋぀けた最初の「よかった」

次の日は、
《看護垫さんがスヌプを枩め盎しおくれた》
その次の日は、《窓から倕焌けを芋られた》
《ただ鉛筆を握れる》

良かった事を぀曞いおも、
䞡芪は垰らない  脚も動かない。
それでも、真っ黒だった日の隅に、
小さな癜い点が残った。

半幎埌、アンナは車いすで孊校に戻った。

正門には階段があり、
教垫は校舎裏の搬入口ぞ案内した。
来客甚玄関の《おかえりなさい》ずいう
食りは、アンナからは芋えなかった。

倚目的トむレには段ボヌルが積たれ、
机の間は車いすが通れない。
教垫はアンナではなく、付き添いの叔母に
話しかけた。クラスメヌトは芪切だったが、
断りもなく車いすを抌す者もいた。

垰宅したアンナはノヌトを開き、
鉛筆を止めた。
「これの、どこが良かったのよ」

無理に良いず蚀えば、
぀らかった自分たで嘘になる。

アンナは《良かった》の代わりに、
こう曞いた。《困る堎所を5぀芋぀けた》

その瞬間、気づいた。

芋぀けたなら、倉えられるかもしれない。
自分が困った堎所を盎せば、
次に来る誰かの「よかった」になる。

アンナは町を車いすで回り始めた。
急すぎる坂、途䞭で切れる歩道、
荷物眮き堎になった倚目的トむレ、
車いすでは乗れる時刻が分からないバス。

写真を撮り、坂の角床や段差の高さを枬り、
《車いすで困る町の地図》を䜜った。
病院や犏祉斜蚭で話を聞くず、
ベビヌカヌを抌す芪、高霢者、
けがをした人からも同じ声が集たった。

◇

䞭孊幎の春、
アンナは垂圹所の䌚議宀にいた。

担圓者は地図を眺め、困った顔をした。
「必芁性は分かりたす。しかし 
すべおを䞀床に盎す予算はありたせん」

アンナは膝の䞊で拳を握った。
逃げたくなったが、
机の䞊には父のノヌトがある。
「党郚を今すぐ、ずは蚀っおいたせん」

声の震えを抌さえ、写真を枚ず぀䞊べた。

「倚目的トむレの荷物をどけるのは、
今日できたす。図曞通に携垯甚スロヌプを
眮くのは、来月できるかもしれたせん。
䜎床バスの時刻を衚瀺するのは、
その次です。できない理由ではなく、
できる順番を䞀緒に探しおください
」
䌚議宀が静たり返った。

やがお担圓者が、赀いペンを取った。
「では、
 今日できるこずから印を぀けたしょう」

翌幎、
孊校の正門に緩やかなスロヌプが完成した。

登校初日、
車いすに乗った小孊幎生の男の子が、
スロヌプの䞋で目を茝かせた。
「ここ、本圓に孊校の正門」

「うん。今床は、正面から入れるよ」
 少幎が先に䞊り、アンナが埌を远った。

ノヌトには、こう蚘した。
《今日の良かったは、
私だけのものではなかった》

高校ぞ進んだアンナは、犏祉、法埋、
機械工孊を孊んだ。
倧孊では犏祉工孊を専攻した。
犏祉工孊ずは、䜓の状態や幎霢に関わらず
生掻しやすくする技術を研究する分野だ。

研究宀で、
機械蚭蚈を孊ぶタクミが枚の図面を芋せた。

「䞋半身に着ける歩行ロボットだ。
 これで立おたら、人生が良くなるかな」

アンナは図面を芋たあず、
タクミを真っ盎ぐ芋た。
「立おない人生は、倱敗じゃないよ」

タクミの顔から笑みが消えた。
「ごめん。そんな぀もりじゃ  」

「分かっおる。でも、私は車いすでも幞せ
 になれる。ただ、立ちたい瞬間もある。
 高い棚の本を取りたい日も、
 子どもず同じ目線になりたい日もある。
 立぀座るか、自分で遞べる機械にしよう」

その日から、
開発の䞭心にはい぀も利甚者に寄り添った。

䞋半身ぞ装着し、立䜍ずゆっくりした移動
を支えるロボット。

完成予想図

砂利道や小さな段差では本の脚で機䜓を
安定させ、平らな道では車茪で滑らかに
進む足歩行車いす。

完成予想図
完成予想図

 軜い普通の車いすも含め、目的や䜓調に
 合わせお遞べる仕組み
を目指した。

詊䜜機は䜕床も止たった。
右脚だけが遅れ、
雚の日にはセンサヌが誀䜜動し、
足歩行車いすは研究宀の
段差で立ち埀生した。

183回目の倱敗の日、
タクミが床ぞ座り蟌んだ。
「今日のよかった、ある」

アンナは故障蚘録を保存しながら答えた。
「利甚者が乗る前に、
 183個目の危険を芋぀けた」

タクミは吹き出した。
「それ、匷匕じゃない」

「良かったに倉えるのは、これから。
 原因、探すよ」
 人は倜明けたで図面を盎した。

◇

長い幎月を経お、機䜓は実甚化された。

完成発衚の日、
足歩行車いすに乗った少女が芝生の坂を
䞊り、家族のもずぞ駆けおいった。
別の利甚者は装着型ロボットで立ち䞊がり、
長い間芋䞋ろしおいた劻ず同じ高さで笑った。
映像が映し出されおいる。

アンナは壇䞊で蚀った。
「この機械は、歩けない人を歩ける人に
 するためのものではありたせん。
 人生の遞択肢を増やすためのものです」

䌚堎の埌ろで、
タクミが誰よりも倧きく拍手しおいた。

◇

やがおアンナずタクミは結婚した。

結婚匏の日、
アンナは車いすで父ず母の写真の
前たで進み、そこから装着型ロボットで
ゆっくり立ち䞊がった。

「今日は立぀。明日は車いす。どちらも私」
タクミが差し出した手を取り、
アンナは笑った。

数幎埌、2人の間にヒナタが生たれた。

ある雚の朝、
楜しみにしおいた遠足が䞭止になり、
ヒナタは頬を膚らたせおいた。
牛乳たでこがし、
アンナの装着型ロボットも
充電を忘れお動かなかった。

「今日は悪いこずばっかり」
アンナは車いすに乗り換え、
ヒナタず䞀緒に床を拭いた。

「じゃあ、ゆっくり探そうか。
 今日の良かったは、なヌんだ」
ヒナタはしばらく考え、
 窓を打぀雚に耳を柄たせた。

「傘に圓たる雚の音、聞けた」

「うん。お母さんは、
 ヒナタず䞀緒に聞けた」

「もう぀あるよ」
 ヒナタはアンナの銖ぞ抱き぀いた。

「お母さんずゆっくりお話が出来たこず」
食卓の棚には、父ず母の写真があった。

アンナは新しいノヌトを開き、
ヒナタの蚀葉を曞き留めた。

良かったこずは、
悲しみを消す魔法ではない。
暗闇の䞭で、
ただ自分の手が届くものを教えおくれる、
小さな灯り。

そしお灯りは、芋぀けるだけではない。
誰かず力を合わせれば、
明日のために䜜るこずもできる。

アンナは窓の雚を芋぀め、
遠い日の父ぞ答えた。
「今日も、芋぀けたよ。今床は私が、
誰かの良かったを䜜っおいくね」

曎に進んだ未来では、人の足ず芋分けが
぀かなくなっおいた。

おわり



教 蚓

「よかった探し」ずは、䞍幞を良いこずだず蚀い換えたり、悲しいのに無理に笑ったりするこずではありたせん。悲しみを認めたうえで、ただ倱われおいないもの、倉えられるこず、誰かず䞀緒に䜜れる垌望を芋぀けるこずです。

幞せは、䞎えられるのを埅぀だけのものではありたせん。自分ず他人の遞択肢を1぀ず぀増やすこずで、小さな「良かった」は、やがお未来を倉える力になりたす。

【あずがき】

䞖界児童文孊オマヌゞュシリヌズ第匟は
「愛少女ポリアンナ物語」でした。

あらすじは、幌い少女に次々ず襲い掛かる
䞍幞な出来事。だが、
父の教えの「よかった探し」で前向きに
生きお幞せを掎んいく物語。
それを、珟代版にアレンゞしたした。
よろしければ、感想を聞かせおください。

䞖界児童文孊オマヌゞュ
シリヌズ

1.『ゞィゞの山に舞い降りた倩䜿』(アルプスの少女ハむゞ)

『おじいちゃんは、枅掃員』(フランダヌスの犬)