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『オヌロラより先に、君を芋぀けおしたった』 第䞀章③「叀いゞャズず深入りの店」

    枡蟺らいむ

    第䞀章③「叀いゞャズず深入りの店」



    翌日の午前十䞀時二十分、加茂川は本圓に来た。
    昚日ずほずんど同じ時間だった。

    「マスタヌ、深いや぀」

    「ブレンドですね」

    「そうずも蚀う」

    二日目も、加茂川はよく喋った。
    昔、マルセむナの枯で財垃を盗たれた話や、ノルりェヌの持垫に酒で負けた話、さらにはシンガポヌルの屋台で蟛い麺を食べお䞉日埌悔した話など、どの話も少し胡散臭くもあり、少しだけ本圓の匂いもした。

    䞉日目も、四日目も来た。

    五日目には、店に入るなりこう蚀った。
    「遌平ちゃん、今日は少し薄めにしおくれ」

    遌平は手を止めた。
    「もう、そう呌んでくれるんですね。早くないですか」

    「䜕が」

    「呌び方の距離の詰め方です」

    「五日も来たら芪戚みたいなもんだよ」

    「芪戚よりフレンドリヌです」

    「四十過ぎた男に、今さら他人行儀も気持ち悪いしね」

    「急に距離近いですね」

    「距離はな、遠過ぎおも近過ぎおも危ない。だが、遠いたた死ぬより、少し近付いお怒られた方がマシだよ」

    それを聞いお、遌平は返事に困った。

    加茂川はカりンタヌに座り、い぀ものように店内を芋回した埌、遌平を真正面から芋た。

    「遌平ちゃん」

    「はい」

    「君、考えるのは埗意だが、決めるのが䞋手だな」

    カりンタヌの䞭で、遌平は動きを止めた。
    湯気だけが、ゆっくりず䞊がっおいた。

    加茂川は、䜕でもないこずのように続けた。
    「看板の䜍眮、毎朝倉えおいるだろう。メニュヌ衚も、ただレモンタルトを入れるか悩んでいる。豆の配合も、日によっおほんの少し違う。悪いずは蚀わんよ。でもさ、君は良くしようずしおいるんじゃなくお、倱敗しない圢を探し過ぎおいるんだよ」

    遌平は笑おうずしたが䞊手く笑えなかった。
    「コヌヒヌだけで、そこたで分かるんですか」

    「コヌヒヌだけじゃない。君の手぀きだずか、物を眮く堎所だずか、それに、うん、客ぞの盞槌だずかさ。あずは䜕だろう 時蚈を芋る回数もかな。党郚、決め切れない人間の癖が出おいるよ」

    「加茂川さん、探偵ですか」

    「元船乗りだ」

    「船乗りは、そこたで人を芋たすか」

    「芋なきゃ死ぬこずもある。海ではな、迷っおいる顔の奎が䞀番危ない。嵐より危ない」

    遌平はポットを持ち盎した。
    湯を萜ずす手が、少しだけ震えた。

    「別に、迷うのは悪いこずじゃないず思いたすけど」

    「もちろん悪くない。ただし、迷うこずを誠実さず勘違いしなければだけどな」
    加茂川は静かに蚀った。

    店内の音が遠くなった気がした。

    チェット・ベむカヌのトランペットが、針の先ほど现く響いおいる。
    窓の倖を車が通り、近所の商店のシャッタヌが半分だけ開いおいる。
    い぀もの朝で、い぀もの店だった。

    なのに、その䞀蚀で、遌平の䞭の䜕かが倧きく傟いたのだ。

    “迷うこずを誠実さず勘違いする”ずいう蚀葉は、遌平の奥深くにある叀い箱の蓋を無遠慮に叩いた。

    その箱の䞭には、東京の出版瀟で過ごした日々が仕舞い蟌たれおいた。
    締切前のデスクの明かりの䞋に、赀字だらけの原皿があった。

    そしお、穏やかな笑顔で埅っおいた䞀人の女が居た。

    『灯あかり』

    名前を思い出した瞬間、遌平は湯を止めお、静かに溜息を぀いた。

    「どうした」
    加茂川が蚀った。

    「いえ、別に」

    「今、誰かを思い出したな」

    「うわ、本圓に探偵じゃないんですか」

    「探偵は金を取る。俺はコヌヒヌ代を払っおいる」

    「ややこしいですね」

    「そうだ。ややこしくお厄介な客は、店を育おるもんなんだよ」

    遌平は苊笑した。
    「それ、自分で蚀いたすか」

    「自分で蚀えるうちは、ただ可愛いもんだ」
    加茂川は出されたコヌヒヌを飲み、少し銖を傟げた。

    「今日は昚日より矎味いよ」

    「薄めにしたからですかね」

    「違う。少し腹が立っおいる味がするからだよ」

    「それ、耒め蚀葉なんですか」

    「かなり耒めおいる」

    遌平は䜕も蚀えないたた軜く䌚釈し、カりンタヌを拭いた。

    倖では、昌前の光が少しず぀匷くなっおいた。
    仙台の街は、い぀ものように人々がごそごそず動いおいる。

    『MINOR SEVEN』の䞭には、叀いゞャズが流れ、深煎りの銙りが満ちおいた。
    そしお、神田遌平の平坊な日垞に、加茂川賢治ずいう男が、勝手に怅子を持ち蟌んで座り始めおいた。

    遌平は、加茂川がやがお自分の止たった時間を動かすこずも、この店に五幎前に途切れた䌚話が戻っおくるこずも、ただ知る由も無かった。
    そしお、景色ずいうものが、䜕を芋たかではなく、誰ず芋たかで蚘憶に残る残らないが決たるのだずいうこずも。

    その日の昌䞋がり、加茂川は䞉杯目のコヌヒヌを頌んだ。

    「飲み過ぎじゃないですか」

    「幎寄りだしな、残り時間で割れば倧したこずはない」

    「その理屈、よく分かりたせんが、ずりあえず医者に蚀ったら怒られたすよ」

    「医者は怒るのが仕事だ。マスタヌは淹れるのが仕事だ」

    「客は」

    「黙っお味わうのが仕事だな」

    「党然黙っおないですよね」

    加茂川は倧きく笑った。
    その笑い声は、叀いゞャズの隙間に䞍思議なくらいよく銎染んだ。

    遌平は䞉杯目の豆を挜きながら、ふず思った。
    この店は、加茂川が来るようになり、もしかするず色々倉わっお行くのかもしれない。
    倉わるこずは面倒だし怖くもあるが、䞍思議なこずにそれが悪いこずではないような気がしおならなかった。



    第二章①「もっずちゃんずしおから」ぞ進むにはこちら↓

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    フリヌラむタヌ・講垫。短線および長線小説ず、たたに゚ッセむを投皿しおおりたす。コメディ、ヒュヌマンストヌリヌ、SFを軞に執筆掻動䞭です。メッセヌゞ、コメント、フォロヌ、お気軜にどうぞ。 超短線小説祭Solispia Summer Short Stories 優秀賞受賞

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