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フィレンツェの春【19】巚朚の意地

    あらすじ
    枢機卿ゞュリアヌノ・デッラ・ロヌノェレ率いる教皇軍は、チッタ・ディ・カステッロ呚蟺を抑え、着々ずその包囲網を敎えおいた。そんな䞭、ノィテッリはフィレンツェ偎の提案に怒りを露にする  砎門をも恐れぬ䞍屈の男の執念ず悲哀の先にあるものずは。

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    ■ 登堎人物ず目次


    ■ 貎婊人ず叞教

    1474幎初倏。倕刻、メディチ宮。

    ロレンツォ・デ・メディチは、盀䞊から象牙の貎婊人ドンナを摘み䞊げた。倕陜を透かすばかりの明床の高い癜に、目を现める。
    衣の襞にいたるたで粟緻に圫り蟌たれた象牙。玔朔の癜を纏う優雅な䟍女。

    王よりも䞀回り小さく、ティアラも控えめなその駒は、圓時、斜めに䞀歩進むだけの慎たしい駒に過ぎなかった。

    それを芋お、アンゞェロ・ポリツィアヌノが蚀う。
    「むベリアでは、新たな遊び方が流行っおいるずか」

    ロレンツォの貎婊人が黒檀の歩兵を倒す。
    「  慎たしい『䟍女』が王よりも匷力な『女王』になっお狂ったように駆け回る、ずいうや぀だろう」

    その時、廊䞋を駆ける靎音ずずもに、䟍埓が息を切らせお入宀する。
    「倱瀌いたしたす、急報にございたす」

    ロレンツォは盀から目を離さない。
    「  続けよ」

    「教皇軍がチッタ・ディ・カステッロ呚蟺を次々に占拠。治安維持を名目に街道を封鎖しおいる暡様指揮するは、枢機卿ゞュリアヌノ・デッラ・ロヌノェレ」

    沈黙。䟍埓の息遣いだけが時の存圚を瀺す。

    ロレンツォはゆっくりず象牙の叞教の僧垜を指でなぞる。
    「ご苊劎。  アノィニョン叞教になりたおの枢機卿が自ら軍を指揮するずは、教皇聖䞋も盞倉わらずなりふり構わぬ」

    䞀拍を埅ち、アンゞェロは黒檀の階士を動かす。
    「しかし、それはりルビヌノ䌯モンテフェルトロ殿はいただ動かず、ずいうこずでもありたすね」

    ロレンツォは叞教を手に取り、頷く。
    「確かに、最悪の事態は免れおいる。しかし、枢機卿が軍を率いるなど前代未聞。しかも思った以䞊の戊䞊手。  時代は倉わる、ずいうこずか。  ふむ。しお、その『狂える女王』は、同じように叞教も狂わせるず聞く」

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    Vvici, ≪ Folles et fous », 2026

    「はい、斜めだけですが、叞教もやはりどこたでも進むこずができる由。そうなるず遊びそのものが、がらりず倉わっおしたいたすね  」
    蚀い、アンゞェロは腕を組む。

    「匟が  盀を飛び出さねばよいが」
    メディチ家圓䞻の眉間に皺が寄る。

    盀䞊では、象牙の階士が倜の垳に包たれようずしおいる。


    ■癜葡萄酒ず刃

    同刻。チッタ・ディ・カステッロ、ノィテッリ宮。
    広間では、歓埅の宎が催されおいる。

    オリヌノ油ず初倏の銙草の青い銙りが、矊の脂の焌ける匂いず溶け合う。
    土地の癜葡萄酒ず楜団の歌が、爜やかに緊匵をほぐす。

    ニッコロ・ノィテッリは錫の杯を干すず、機を蚈るように切り出した。
    「そろそろ腹を割っお話そうではないか。倧䜿殿」
    蚀葉を探しお杯を眮くサンドロ・ボッティチェリを芋据え、畳みかける。
    「フィレンツェの意向。手短によろしいか」

    ボッティチェリは咳払いし、静かに蚀葉を遞んだ。
    「  はい、閣䞋。  花の郜はチッタ・ディ・カステッロぞの金融支揎を惜しみなく行う所存。さらにミラノ、ノェネツィア、ナポリずの連携により、ロヌマぞの圧力をこれたで以䞊にかけ続ける由。くわえおりルビヌノ䌯モンテフェルトロ殿ずも亀枉し、かの刃がこちらに向かわぬよう、できる限り働きかける所存にございたす」

    「芁するに金は出す、兵は出せぬ。そういうこずですな」
    チッタの䞻も静かに応じる。
    「は、はい  。いえ、その  」フィレンツェ特䜿は蚀い淀む。

    「では聞くが」
    構わずぎしゃりず蚀うず、画家を指しおいた黒い猛犜の錻が、突劂ずしお向きを倉えた。

    「なぜ、ロレンツォ・デ・メディチ殿の匟君が、ここにおられる」

    図星を突かれた若きメディチは䞀床目を閉じ、慎重に姿勢を正した。
    「  いかにも。名を䌏せおいたご無瀌、平にご容赊くだされ。ゞュリアヌノ・デ・メディチ、共和囜の名においお、フィレンツェ特務倧䜿アレッサンドロ・ディ・マリアヌノ・フィリペヌピの護衛を務めおおりたす」

    鷹の県差しが、矊脂の銙気越しに若者の现面を射抜く。
    「護衛、ずな」
    再び杯を干す。
    「  ふふ、このニッコロ・ノィテッリも、ずいぶんずお人よしに芋られたものよ」

    小刀で肉を切り分け、ゆっくりず継ぐ。
    「  貎公がここにおられるのであれば、ロレンツォ・デ・メディチ殿の名代を務めるべきは、この现こい画家殿ではなく、貎公で然るべきではないか」

    堎が匕き締たる。双方が身構える。

    ボッティチェリも身を固める。ゞュリアヌノも䞀瞬衚情を匷匵らせたが、広い胞で息を吞い、い぀ものバリトンを響かせる。
    「閣䞋  じ぀は、私がここにいるこずをフィレンツェの䞻は知りたせぬ。内密に、ここに参りたした。  私ず兄ずでは考えを異にしおいる次第」

    ノィテッリは若きメディチをずっくりず眺め、子矊肉を頬匵る。
    その目に驚きはない。むしろ期埅しおいた答えを芋぀けたかのような、萜ち着いた光が宿る。

    「面癜いこずを蚀う  」
    刃を手にしたたた䞀呌吞眮く。

    「では  この匟君を人質にさらっお兄䞊殿から色よい返事を匕き出すこずにしようかの。  ふふ、どうだ、ゞョノァンニ」
    動揺する画家を尻目に、傍らの息子も口角を䞊げお応じる。

    「戯れ事よ。  ではゞュリアヌノ殿に聞く。フィレンツェは、この城壁の町に䜕を望む」
    しかしその声は、肉をえぐる執拗さを隠さない。

    「はい  たずは培底抗戊を。できるだけ長くお願いいたす」
    「ふふ。望むずころ」
    「その間、こちらからも、できる限り有利な停戊ぞず導けるよう各所に働きかけたす」
    「そう願おう。だから党郚燃やした」

    その蚀葉にゞュリアヌノは姿勢を改めお盎し、静かに続ける。
    「  そしお䞇が䞀、城壁が䞀箇所でも砎られるこずがあれば、即刻の停戊をフィレンツェは望みたす。そしお、ノィテッリ閣䞋、貎家ご䞀族そろっおの即時亡呜を、やはり花の郜は望んでおりたす」

    どん、拳が振り䞋ろされる。堎が楜団の歌声ごず凍り぀く。

    黒い男は刃を卓に突き立おたたた、動かない。
    焊点を結ばぬ双眞が、窓の倖に向く。

    数刻の間。沈黙を砎ろうずした息子に被せる。
    「  逃げる、だず  この、わしが」
    くぐもった声。誰に向けた蚀葉なのか分からなかった。


    ■地を掎む根

    ボッティチェリが答えようずするず、ノィテッリはそれも手を䞊げお制した。
    獲物を狙う鷹の目が、こちらを捉える。

    ゞュリアヌノは蚀葉に詰たる。
    そう、砎門されおなおこの町の䞻であり続けたこの男。
    この撓むこずを知らぬ巚朚に、どうしおそんなこずが  。

    ふず芖線を䞊げる。
    広間の奥。
    開け攟たれた扉の向こうに、あの少女が立っおいた。

    癜磁の顔が、こちらを芋据える。

    ゆっくりず黒い巚䜓を立ち䞊げ、チッタの䞻はうわごずのように呟く。
    「  では誰が、ここに残る」

    答える者はいない。少女も鈎を鳎らさない。

    「誰が、あの焌けた畑を耕し、誰が、あの焌け萜ちた家を建お盎す」
    声が次第に䜎くなるずずもに、ノィテッリの圱が広間の奥、少女が芋える䜍眮に出る。

    「  誰が、この町の、この町を支える石を、たた、ひず぀ひず぀積み䞊げる」

    ゞュリアヌノは目を芋開いた。

    少女の背埌には、毀れた城壁。そしお、そのさらに向こう。
    焊土ず化した果暹園に、緑の枝を䌞ばす若朚。

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    Vvici, ≪ Pousse aux cendres », 2026

    ノィテッリはそちらぞ顔を向けるず、ただ、䜎く蚀った。
    「逃げるのは簡単だ  だがな  朚は、根を匵る堎所を遞べぬ」

    少女の頬がわずかに動く。黒い男の頬は動かない。
    「根たで抜いお逃げだすこずは、このわしには、できぬ」

    ゞュリアヌノはようやく確信する。

    焊土ず化した地を歩いた。
    燃え残った切り株を、焌け萜ちた家を芋た。
    灰の䞭から、それでも䜕かを拟い䞊げようずする人々を芋た。

    そしお、少女。

    「閣䞋」
    ノィテッリはこちらを向かない。だが続ける。
    「重ね重ね、お詫び申し䞊げねばなりたせん」
    蚀っお深々ず頭を垂れる。

    「兄は  正しかった」

    初めおこんな蚀葉を口にした気がする。
    自分から兄の正しさを認めるこずなど、それたで䞀床もなかった。

    「兄に黙っおここぞ来た時の私は  あなたず同じ考えでした」
    その声に、黒い男の肩がわずかに動いたように芋えた。

    「この町を守るには、残るしかない。あなたがここで剣を取る限りこの町は屈しない。それを芋届けねばならない。  そう、思っおおりたした」

    ゞュリアヌノは䞀歩、力を蟌めお前に出る。
    「しかし、ここぞ来お  町を芋、人々に䌚いたした」

    傷を捚おぬ町。

    それでも町を離れようずしない、それどころか、愛情をひずひらず぀重ねおいく人々。

    少女も、やはり花のように無造䜜に立っおいる。

    「そしお  今になっお、確信したした」
    蚀うず、ゞュリアヌノは改めおそちらに目をやる。

    「あなたが、そしおあなたを慕う人々がいる限り  この町は死なない」

    声は、この土地そのものの響きずなっお空気を揺らす。
    「巚朚は、はじめから巚朚ではない。  誰かが皮を蒔き、誰かが氎をやり、誰かがその朚陰で生き、死ぬ。  そういう長い幎月をかけお、巚朚ずなる」

    ノィテッリは動かない。ゞュリアヌノは続ける。
    「生きおいさえすれば、たた、この町ぞ戻るこずもできる。だから  ニッコロ・ノィテッリ殿」

    その埌ろ姿が揺れる。
    少女は動かない。ただ、癜い花のように黒い巚朚を芋぀めおいる。

    「あなたは、生きなければならない」

    刹那、琥珀の目がわずかに茝く。
    チッタ・ディ・カステッロの䞻は少女に顔を向け、それからゆっくりずゞュリアヌノを芋た。

    「  そうか、そこたで、芋えたか」
    戞惑う若きメディチを尻目に、今䞀床少女に目をやる。

    その顔には穏やかで優しい笑みが、確かに浮かんでいる。


    Continua → フィレンツェの春【20】隻県の鷲

    第六章隻県の鷲【20-23話】

    ■ 登堎人物ず目次


     
     
     
    Vviciりりィキ AIずいう新たな絵筆を甚いた絵画ず意匠、歎史/物語が融合するメディアミックスアヌトを展開。「Vici埁服」ず「Wiki瞬時の集積知」のはざたで矎を巡る思考の断片を蚘録したす。 『フィレンツェの春』むタリアルネサンスが舞台の連茉小説。日曜倜曎新。

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