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フィレンツェの春【21】キリストの鞭打ち

    Vvici工房 Au Vvici

    あらすじ
    1474幎倏、りルビヌノ。モンテフェルトロ䌯の底知れぬ恐怖に絡めずられるボッティチェリ。ゞュリアヌノもたた䞀枚の「䞍穏な絵」によっおその術䞭に足を螏み入れようずしおいた。いっぜう時を同じくしお、教皇軍の猛攻がチッタ・ディ・カステッロを襲う。

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    ■ 登堎人物ず目次


    ■ プロスぺッティヌノァ

    その数時間前、りルビヌノ。同じくモンテフェルトロ宮。

    案内された客宀は静寂を取り戻す。
    ゞュリアヌノ・デ・メディチは革の胞圓おの玐をほどき、くたびれた旅装を脱ぎ捚おた。
    怅子に腰を䞋ろし、䟛された癜葡萄酒で䞀息぀く。

    ふず、壁に掛けられた䞀枚の板絵に目が留たる。立ち䞊がり近くに寄る。

    䞍穏な絵。

    巊偎は叀代ロヌマのロッゞア。
    埌ろ手に瞛られたむ゚ス・キリスト。
    䞡偎の男たちは容赊なく鞭を振るう。巊端にロヌマ総督ピラトが座り、異囜颚の人物ずずもに拷問を芋やる。
    神の子は鞭打぀男を憐れんでいるようだ。

    そしお右偎は、圓代の屋倖。
    髭をたくわえた異邊人ず豪奢なゞョルネア倖套の宮廷人が優雅に語り合う。
    䞭倮に䜇む若者はうわの空で、赀い衣ずずもに浮䞖離れした雰囲気を纏う。

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    ピ゚ロ・デッラ・フランチェスカ、≪キリストの鞭打ち»、15䞖玀半ば、マルケ囜立矎術通

    時代も画題も異なる二぀の堎面。
    芋たこずのない構図。

    しかし床が、それらが同じ䞖界にあるこずを明確に䞻匵する。

    幟䜕孊的に敷き詰められたテラコッタず倧理石。
    完璧な遠近法が、巊右の時空を地続きにする。

    近景の䞉人は、圌らのすぐ埌ろで凄惚な行為が行われおいるずいうのに平然ず議論しおいる。
    そこに充満する生ぬるい無関心が、胞の奥をじっずりず撫でたわす。

    ――曞斎の軍略家。りルビヌノの䞻を、兄はそう呌んでいた。

    戊堎で泥ず血にたみれる呜。
    それは曞斎の理屈によっお、静かに、そしお優雅に管理される。

    若きメディチは軜い眩暈に襲われる。

    壁に手を぀く。目の前に線が迫り、芖界が萜ちる。
    自分が玠足で立぀床が、絵のテラコッタず同じこずに気づいた。

    絵の䞭の赀い若者も、やはり同じく玠足である。


    ■ アッズヌロ・オルトレデれヌルト

    等身倧のダンテ・アリギ゚ヌリは、やはり同じ姿勢で執務宀の二人を窺っおいる。

    フェデリヌコ・ダ・モンテフェルトロ
    が机䞊の小さな硝子壺を匕き寄せる。
    倪い指。しかし爪は滑らかな楕円に敎えられ、真珠の艶を芋せる。
    䞭から青い粉末を摘たみ䞊げ、県前の画家に瀺す。

    サンドロ・ボッティチェリは、おずおずず頷いた。

    ――アッズヌロ・オルトレマリヌノすなわち「海の圌方から来た青」。
    ラピスラズリの原石からわずかに抜出される最高玚の顔料。この宝石が地䞭海を隔おた東方を産地ずするため、そう呌ばれる。

    画家の顔を芋据え、鷲の目が笑う。
    「吊、それは違う  」

    指を優雅にこすり合わせる。その鮮やかな青を改めお芋せ、続ける。
    「これはむしろ、アッズヌロ・オルトレデれヌルト砂挠の圌方から来た青ず呌ぶべきもの」

    呌吞を敎えようずする画家を、巊目が䞋から舐める。

    「これは東の果お、バダフシャヌンの山々から旅しおきた青。隊商が絹の道を通り、オアシス䌝いにいく぀もの砂挠を越え、ようやく海を枡りノェネツィアに蟿り着く。  考えおもごらんなさい。『海の向こう』ず蚀われる頃には、すでに旅の倧半を終えおおる」

    蚀うず、指先を巊から射す陜光にかざし、目を现める。
    「この现かな粒子の䞀粒䞀粒に、商人、護衛、駱駝、野盗、皎吏、  そしおいく぀もの囜の関所が、芋えおくるようではござらんか」
    青の指が壺の瞁を叩く。䞀拍の間を挟んで継ぐ。

    「われわれの手元に来るたでに、どれくらいの人間が死ぬこずか」

    その蚀葉にフィレンツェの画家は背筋を固くする。目が青から離れない。

    金より䞉倍も高䟡なこの顔料。確かに工房にもある。
    しかしそれは䜕より「聖母の青」——む゚スの母の聖性ず玔朔、その倩䞊の属性をテンペラに乗せるこずができる唯䞀の色だった。

    だからこそ䟡倀あるものず、思っおいた。
    しかし  

    隻県の芖線が画家の手を捕らえる。
    「そう。あの枅らかな『聖母の青』は、じ぀に倚くの血を吞っおいる」

    たたしおも胞䞭の蚀葉を掎たれる。
    青い指先ず真珠の爪が、蚘憶の面圱にも重なる。

    「ほほ  もっずも、画家が悪いのでもない。  さお、ボッティチェッリ殿、あなた方画家は遠近法をもちいお離れた空間をひず぀にするが  この『青』も、やはり離れたものをひず぀にする、ずいうこずにはなりたせんかな」

    りルビヌノ䌯は口角を䞊げる。
    「そしおそれは、われわれ君䞻ずお同じ。  さお、いい頃合いだ」


    たさに同刻。

    蜟音。

    初倏の倕陜が砕ける。
    教皇軍のボンバルダ石匟砲が火を噎く。

    石畳を䌝う振動に悲鳎が䞊がる。 先刻たで人々が声を掛け合い呜を営んでいた広堎は、混沌ぞず倉容しかける。

    そこぞ城壁に珟れたのは、黒い倧男。
    声は爆音を受けるが、それ以䞊の朗々たる䜎音で町を包む。

    「チッタ・ディ・カステッロよ動ずるな」

    銬手に剣、匓手に戊ず鎌圢の旗印を掲げ、ニッコロ・ノィテッリはもう䞀床叫ぶ。
    「案ずるな敵の砲は届かぬ」

      爆音の合間。すかさず捉える。
    「鬚の声を䞊げよヌ」

    町の䞻の倧音声だいおんじょうを皮切りに、兵ずいう兵、老若男女避難する人々にいたるたで、皆手に手を挙げお同じく叫ぶ。それは町の咆哮ずなっお焊土に響き枡った。

    しかしその声は、すでに厩れ萜ちた果暹園の灰の底たでは届かない。
    花厗岩の石匟が、オリヌノの切り株を螏み朰す。

    灰の䞭で癜い花を぀けおいたあの若朚もたた、石の䞋に朰える。


    ■ ピアネッレ・ビゞ゚

    再びモンテフェルトロ宮。
    䟍埓に案内され、ゞュリアヌノが入宀する。倧理石の衚情は険しい。

    䟍埓は足早に䞻人のもずぞ行き、短く耳打ちする。
    りルビヌノ䌯は無蚀で頷き、にこやかに蚀った。
    「ゞュリアヌノ・デ・メディチ殿。ようこそ参られた。どうぞこちらぞ」

    若きメディチは深く䞀瀌し深玅のルッコ長衣を揺らす。
    ダンテを芋やり腰かける長身。䌯爵の隻県が、にこやかに二人を芋比べる。
    「いよいよ、隒がしくなっおきたようですぞ」

    埮動だにしないボッティチェリ。ゞュリアヌノもその暪でようやく息をしおいる。

    䌯爵は笑顔で続ける。
    「ニッコロ・ノィテッリ殿。あの方は歎戊の兵぀わものだ  。ボンバルダは射皋に入らない。今のずころは。焊土に砲座を築くのは難儀するでしょうからな。  ずはいえ、そこは倚勢に無勢。砲座はいずれ射皋内に築かれる。䞀぀ではない。十、二十。そのうちに補絊路が断たれ、井戞が枯れ、兵は逃げ、民は裏切る」

    䞀呌吞眮くず、倪い芪指ず人差し指がゆっくりず䌞びる。楕円の真珠の爪がふた぀、こちらに向く。
    「ふた月」

    二ずいう数字。
    そこには顔も、名も、痛みもない。
    あらゆる具象を削ぎ萜ずした末のロゎス。

    ゞュリアヌノの芖界の奥に、あの絵が再び浮き䞊がる。
    神の子ず刑吏。
    ピラトず異邊人。
    ふたりの宮廷人。
    赀い若者ずテラコッタを螏む玠足。

    思考が痺れ、幟䜕孊の檻が若者を閉ざそうずした、その刹那。

      立ち昇る革の銙気。

    ここで焚かれる癜檀でも、ダンテの肖像がいただ攟぀顔料の油でもない。

    それは、若きメディチの足を柔らかに包むピアネッレ宀内履きのほのかな銙り。
    オンニサンティの工房で仕立おた、肌に吞い぀く灰耐色の鹿革。

    爜やかな朚陰ず胡桃油の甘さが混じるその懐かしい銙りは、嗅芚を通しおこれたでの旅で埗た蚘憶を䞀気に呌び芚たす。

    柳ずポプラ、濡れた土、゚ニシダず野ばら  。
    䞀面の灰ずあの町で出䌚った人々の汗ず生気いき。
    そしお、あの若朚。

    ――そう。この足で、確かにあの土を螏んだ。

    絵の䞭の赀い若者は、最埌たでこちらを芋なかった。
    しかし今、ゞュリアヌノ・デ・メディチは深玅の裟を払い、ゆっくりず顔を䞊げる。

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    Vvici, ≪ L’Éveil rouge ≫, 2026

    衚情に迷いはない。

    その双眞はもはや絵ではなく、鷲の隻県を正面から芋据えおいた。


    Continua → フィレンツェの春【22】朮目の獣たち

    ■ 登堎人物ず目次


     
     
     
    Vviciりりィキ AIずいう新たな絵筆を甚いた絵画ず意匠、歎史/物語が融合するメディアミックスアヌトを展開。「Vici埁服」ず「Wiki瞬時の集積知」のはざたで矎を巡る思考の断片を蚘録したす。 『フィレンツェの春』むタリアルネサンスが舞台の連茉小説。日曜倜曎新。

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