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【毎週ショートショートnote裏】火星馬券

    はらとけい

    「火星競馬、意識同期すれば馬券がタダらしいぜ」

    興味本位だった。
    金もかからないし、体験もできるという。
    スマホに出た規約は、長すぎて読まなかった。

    投票ボタンを押した瞬間、視界が裏返った。

    金属の脚。四本の蹄。火星のスタジアム。
    ベルが鳴ると、身体が勝手に走り出す。
    風を裂く感覚は、思ったより悪くなかった。

    最初のレースは4着。悔しかったけど、楽しかった。
    2レース目は6着。それでも、走るのは気持ちよかった。
    レースが終わるたびに、脳のどこかがふわりと軽くなる。

    3レース目、呼吸が少し浅くなった。
    4レース目、脚が重い。景色が歪む。
    でも、スタートの合図は容赦なく響く。

    5レース目を終えたあと、スピーカーから流れる声が聞こえた。
    「敗北継続。賭け金未納のため、騎乗義務を継続します」

    ……は?

    次のゲートが開く。
    筋肉が悲鳴を上げる。肺が焼けるようだ。
    けれど止まれない。立ち止まる自由は与えられていない。

    そのときやっと気づいた。
    自分の意識を、馬として「貸し出す」契約をしていたことに。

    そして今も、俺は走っている。
    火星の赤い砂の上を。観客の声も届かない場所で。
    ただ、走って、走って、走ってーーー。

    (484文字)

    表のお題はこちら⇩

    もういっちょ⇩


    *この記事は下記企画に参加しています*

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