メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【毎週ショートショートnote】蘇生試験

    はらとけい

    彼女が突然倒れたとき、俺は急いで蘇生試験に申し込んだ。
    「もっとも強く願った者の命と引き換えに生き返る」ーーーそれだけが決まりの、最後の希望。

    俺は毎日祈った。命を差し出す覚悟も、とっくにできていた。
    けれど何も起こらず、俺は生きて、彼女は眠りつづけた。

    ある朝、彼女は何事もなかったように目を覚ました。
    夢を見ていたの、と笑った彼女は、どこか遠くを見ていた。

    退院後、彼女はよく空を見上げた。
    俺の話に笑いながらも、その視線は、いつも少しだけ俺を通り越していた。

    ある日、彼女の机に新聞の切り抜きがあった。
    「若い男性、急死。地元病院でボランティア活動」
    顔写真もない、短い記事だった。

    「知り合い?」と尋ねると、彼女は首を振った。
    けれど、記事を静かにファイルにしまいこんだ。

    一瞬見えた地名に、ふと胸がざわついた。
    「昔、好きな人がいたの」と、彼女が話していた村の名前。

    その日、彼女はひとりで帰っていった。
    俺はただ、風の中で手を振るふりをした。

    なんとなく、彼女が戻ってきた気はしなかった。

    (433文字)

    もういっちょ⇩

    裏のお題はこちら⇩


    *この記事は下記企画に参加しています*

    あなたへのおすすめ