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【月を埅぀波-䞊】話 秋雚前線連茉#30


    昌過ぎのニュヌスで、
    台颚の接近が告げられおいた。

    進路はすこし逞れたものの、今倜から明朝にかけお雚颚が匷たる芋蟌みだずいう。

    「先生、今日は荒れそうですね。」

    陜高がリビングのテレビを芋ながらそういったずき、わたしはマグカップに口を぀け、䜕口めかのコヌヒヌをすするずころだった。

    「そろそろテラスも片づけおおいた方がいいかもね。」

    「はい。怍朚鉢ず、干しおいた道具はもうしたいたした。」

    「ああ  ありがずう。さすがだね。」

    手のひらに残ったぬくもりを感じながら、テレビの画面を芋぀めた。

    赀い円が描かれた倩気図の向こうで、どこか別の䞖界のこずのように台颚がぐるぐるず枊を巻いおいた。

    「先生、今日っお䜜業されたす」

    「午埌からすこしやる぀もりだけど。」

    「じゃあ俺も、曞類たわりたずめちゃいたすね。」

    それだけいうず、圌はい぀ものように空のカップを持っお立ち䞊がった。

    動きに無駄がない。

    それでいおその所䜜はやわらかで、芋おいお気持ちがよかった。

    キッチンで湯を流す音が、雚の気配より先に氎気を運んでくる。


    午埌。

    仕事郚屋にこもっお䜜業をしおいるず、い぀の間にか屋根を打぀音が混ざりはじめた。

    ガラスの向こうに淡く煙るような景色。しっずりず濡れた庭の端で、草花が頭を垂れおいる。

    道具を眮いお、窓をすこし開けた。

    倖気がひやりずたずわり぀き、雚が萜ちる軒先の音が耳を包む。

    濡れた朚の銙り。

    ちいさな氎の粒が、肌の䞊に现かく降っおくるような感芚。

    しばらく立ち尜くしおからリビングを振り返るず、郚屋はひっそりずしおいた。

    い぀もなら母屋のどこかで䜕かの䜜業をしおいる陜高の姿が芋えない。

    離れに戻ったのかな。

    わざわざ確かめに行くようなこずではない。

    垭に戻っお、途䞭の䜜業を再開するこずにした。

    雚音を聞きながらの䜜業は嫌いじゃなかった。

    それどころか自然ず集䞭力が高たる。

    この雚音のなかにいるず、䞍思議ず気持ちごずすっかり掗われたような気になっお、ただ黙々ず目の前のこずだけに向き合うこずができた。

    たるでこの空間だけが切り離されたみたいに。

           


    倖が暗くなりはじめるず、予定しおいた䜜業も終わった。

    仕事郚屋を出お、テラスに出られる匕き戞の前に立぀。

    郚屋のなかから、ただ倖を眺めた。

    颚はただ穏やかで、雚だけが匷く降り続いおいる。

    しずくに打たれお跳ねる葉の数々に、぀い目を惹かれる。

    こうしお䜕もせずに過ごす時間は、昔よりずっず増えた気がする。

    それを莅沢ず感じるずきず手持ち無沙汰になるずきがあるれど、今日はそのあいだだった。


    ──陜高は䜕をしおいるんだろう。

    昌には確かに同じ郚屋にいお、すこし話もした。

    それだけのやりずりがずいぶん前のこずのように思えるのは、この雚のせいなのかもしれない。


    「先生、そろそろ倕飯にしたしょうか。」

    突然背埌から声がしお振り返る。

    陜高が立っおいた。

    䞡手でステンレス補のバットを持っおいる。

    「  え。」

    そしおそこには、衣をたずったコロッケがきれいに䞊んでいた。

    唐突だった。

    陜高は驚いたわたしを芋お、目を现めるように笑った。

    「前にいっおいたじゃないですか。台颚のずきは、コロッケだっお。」

    䞍意打ちの出来事に、胞が波打぀のがわかった。

    それはい぀だったか、匷い雚の日に冗談みたいに口にした話だった。

    むかし聞いた、ネットの“台颚コロッケ”ずいう颚習。

    それが可笑しくお、
    ちょっずだけ切なくお。

    わたしにずっおは、雚の日のひず぀の蚘憶になっおいるものだった。

    「 おがえおいおくれたんだ。」

    「䜜っおみたかったんです。あのずきから。」

    圌は䜕気なくいったけれど、わたしは思わず顔をそむけたくなった。

    うれしくお。

    けれど
    それを芋透かされるのは、

    なんだかずおもこわかった。

    「  じゃあ、䜕を合わせようか。」

    やっずそういったわたしに、圌はさらりずこう返した。

    「ヒュヌガルデンを。冷蔵庫で冷やしおありたす。」


    なんなの。

     心灞垫なの

    い぀の間に甚意しおいたのか。

    これはもう、立掟な奇襲じゃないか。

     たったく。
    どうしおそんなに。

    「先生、コロッケにからし぀ける掟ですか」

    「 あぁ、うん。」
    「よかった、俺もです。」

    そう圓たり前のように口にする圌の顔を、もはやうたく芋るこずは出来なかった。


      これがわたしか

    だずしたら、い぀から。

    い぀から、こんな颚に。

    垭に着くず、行き堎のない気たずさを隠すようになんずなく手いたずらをしながら、

    目の前でビヌルの栓が抜かれるのを、みたりみなかったりしおいた。

    「也杯。お぀かれさたでした。」
    「いただきたす。」

    瓶を合わせお、ビヌルをひず口。

    ほの甘くスパむシヌな泡を含んだ液䜓が、舌の奥にすっず溶けおいく。

    あらためおコロッケを芋た。

    手䜜りらしい、ずころどころ色味のちがう、すこし薄い衣。

    これを、離れで。

    圌の今日 いや、圌の今日このずきたでを想像したら、たたなんずもいえない気持ちになった。

    「先生、からしどうぞ。゜ヌスも。」

    「うん。でも、最初はそのたたがいい。」

    コロッケに箞を通すず、さくりず音を立おお割れた。

    じゃがいもず玉ねぎの玠朎な甘みず、ほんのすこしの塩気。ひき肉の旚み。

    やさしい味がゆっくりず口の䞭に広がった。

    「  おいしい。」

    だめだ。

    我慢しおいおもやっぱり顔の力が抜けおしたう。

    陜高はなにもいわなかった。

    けれど、ずおもやさしい顔をしおいた。


    「なんだか  懐かしい味だね。」

    「懐かしいですか」

    「うん。家で䜜るコロッケっお、こんなかんじなんだな。はじめおなのに、懐かしい。䞍思議な味。」

    「それ、耒め蚀葉ず受け取っおもいいですか。」

    「もちろん。」


    雚脚は次第に勢いを増しおいた。

    遅れおきた颚ずずもに窓を叩き぀ける。

    「先生、たた台颚がきたら䜜りたすよ。」

    ふず陜高がいった。

    瓶を持ったたた、すこしだけいたずらっぜく笑っおいた。

     たったく。こんな䞍意打ちは困る。

    わたしは、こういうずきには、
    䜕お返せばいいのだろう。

    こういうこずは、普通の人の人生ではあたりたえのこずなんだろうか。

    圌のやさしさに、どんどん甘えおしたいそうになる自分がこわかった。

    ──それでも。

    「じゃあ今季はあず回くらい食べられるかもな。」

    そういっおビヌルを流し蟌むわたしを、圌はたたやさしい顔で芋おいた。

    コロッケず、秋の匂いの混ざり合ったリビングで。

    それは荒倩ずは真逆の、
    倪陜みたいにあたたかい笑顔だった。



    —―きざし連茉#31ぞ぀づく—―

    ひず぀前の話ぞ

    バックナンバヌはマガゞンぞ

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    連䜜短線小説『 月を埅぀波 』䞊巻より

     
    装身具䜜家ずその助手の日垞を描いた連䜜短線 「月を埅぀波」䞊䞋巻構成党55話を掲茉しおいたす。 ※Kindleは諞事情により販売停止䞭です。

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