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【月を埅぀波-䞊】話 きざし連茉#31


    月のはじめ。

    午前䞭の颚はすこしず぀冷たさを増しおきおいお、窓を開けおおくず、指先からゆっくりず䜓枩が奪われおいく。

    枡り廊䞋のひんやりずした床も、季節の倉わり目を静かに告げおいた。

    母屋からは、やわらかい金属音が聞こえおいる。

    先生が䜜業台に向かっおいるずきの音。い぀もより早くから仕事に着手しおいるようだった。

    削るような、ならすような、
    慎重な気配。

    ただ、その音はい぀ものように滑らかには続かなかった。

    䜕床か間を眮いお、ふず途切れる。

    空気の軜さに逆らっお、倏の疲れが出る頃でもある。無理をしおいないず良いのだけれど。

    「すこし早いですけど、昌食䜜りたすね。」

    戞口から声をかけるず、「ありがずう」ず返っおきた。

    声はい぀も通りだったけれど、そのあずにはすぐに沈黙が戻っおきた。

    返事があったこずに安心しながらも、やはりちいさな違和感が残った。

    それからしばらくし、昌食の支床もほずんど終えた。ふず䜜業郚屋をのぞくず、先生は机に向かったたたなにかを考え蟌んでいるようだった。

    目の前の金属に手を䌞ばしおは、觊れずに戻す。

    鉛筆で䜕かを曞きかけお、結局なにも曞かずに指先で転がす。そうしおたた、芖線が宙を圷埚う。

    集䞭しおいる、ずいうよりもそれはむメヌゞをあたためおいるようにも芋えた。

    俺は声をかけずに、そっずキッチンぞ戻った。

    すこしするず、トヌストが焌ける銙ばしいにおいが郚屋にふんわりず広がる。

    焌き䞊がりに合わせお先生がリビングにきたので、黙っお皿を手に取り、スヌプをよそう。

    い぀もの昌食。けれどやはり、蚀葉はい぀も以䞊にすくなめだった。

    たずえば昚日なら「今日はなに䜜ったの」ず聞かれおいたかもしれない。

    先生は䜕もいわずに、
    庭の方に芖線を向けおいる。

    しんずしたリビングで、食噚を眮く音だけがしずかに響いた。

    「 今日は、ちょっず冷えたすね。」

    思い぀いたように口にするず、先生は「うん」ずだけ返しお、カップを口に運んだ。

    パンの焊げ目を぀぀く手元がい぀もより曎に癜く、すこし血色が悪いようだった。

    気にしすぎかな。

    そう思っお、スヌプを口に運んだ。


    昌を過ぎお、日差しはゆるやかに傟きはじめおいた。

    セレクトショップぞ発送予定の䜜品を梱包し、メヌルの返事を数件。぀いでに買い眮きの確認もした。

    ひず段萜぀いお、倖に出る。

    玄関脇の花壇の、光をさえぎっおいた圱をひず぀だけ摘んだ。これで幟分かは他の芜にも栄逊が届きやすくなるだろう。

    テラス前のバゞルはそろそろ摘みきっおしたっおも良さそうだった。

    剪定ばさみを手に、鉢の前をゆっくりず歩く。

    なんでもない䜜業に身をたかせおいるず、朝の先生の様子もすこし遠くに感じられる気がした。

    ちょうど鉢の手入れを終えたころ、うしろの匕き戞がすこし開いお、先生の声がした。

    「そろそろ䌑憩しない コヌヒヌいれるよ。」

    こちらを芋おいた。

    それは、聞きなれたい぀もの声のように思えた。

    「ありがずうございたす。」

    うなずいお、
    手に぀いた土を軜くはたく。

    袋を片付け、手を掗っおからふたたびテラスに戻るず、先生はすでに怅子に腰を䞋ろしおいお、テヌブルにはふた぀のカップが䞊んでいた。

    自分の分を手に取っお、先生からすこしだけ離れた暪の垭に腰を䞋ろす。

    颚が静かに通り過ぎお、枝の圱が足元でゆらゆらず揺れおいる。

    倖の空気を吞う午埌のコヌヒヌタむムは、やはり静かだった。

    気を抜けば颚の音だけが胞の奥に残っおしたいそうで、俺はカップを持ったたた、すこしだけ背筋をのばした。

    そのずきだった。

    先生のスマヌトフォンが、
    カップの暪でちいさく震えた。

    テヌブルの朚を䌝う、かすかな音。

    先生はすぐに手を䌞ばし、画面を䌏せたたたゆっくりず持ち䞊げた。

    その動䜜に、特別な意味はないのかもしれない。

    それでも。

    かすかに芋開いた瞳は、
    どこか印象に残った。

    そのあず圌女は、聞き取れるかどうかずいうほどのちいさな息を、ふっず吐いた。

    そうしおコヌヒヌを飲み終える頃、

    「ちょっず出おくる。」ずだけいっお、静かに垭を立った。

    たずねるこずでもない。

    けれど──

    俺は家を出おいったであろう先生の気配をテラスから感じながら、その埌もしばらく庭を眺めおいた。

           


    玄関の戞が閉たる音がしお、すこし間を眮いお「ただいた」ず声がした。

    ちょうど噚に春菊を盛り぀けたずころだった。

    先生は䞀旊、奥の自宀に寄っおから、癜い袋をさげおリビングに戻っおきた。

    「どっちかにしようず思ったけど、決められなかった。」

    すこし気たずそうにいうず、すぐに袋をテヌブルの䞊に眮く。

    なかをのぞくず、
    焌き鳥ずたい焌きだった。

    ふわっず挂う甘く銙ばしい銙り。ただほんのりずあたたかい。

    俺はなんだかほっずした。

    「ありがずうございたす。ちょうどサラダず、お浞しを䜜っおいたずころですよ。」

    そういうず

    「よかった。䞀緒に食べよう。」

    先生のその声にも、どこかほっずしたような響きが混じっおいた。

    圌女はすこし埗意げな顔で、
    手を掗いに行った。

    垭に着き、ビヌルで也杯をする。

    颚が匷くなっおきおいたので、今倜はテラスには出なかった。

    窓越しに揺れる朚の圱を芋ながら、ふたりで黙っお最初のひず口を喉に流し蟌む。

    泡が喉を通ったあずで、すこし遅れおほっずするような䜙韻がやっおきた。

    「お疲れさたでした。」

    俺がいうず、先生はビヌルのグラスを持ったたた、

    「お互いにね。」

    そう、ちいさくうなずいた。

    テヌブルには、玠朎な倜ご飯。

    倧根ずツナのサラダ、厚揚げ、春菊のお浞し。先生が買っおきおくれた焌き鳥も軜くあたため盎した。

    今日のメむンは魚にする぀もりだったけれど、それはたた今床でいいず思った。

    サラダを手に取った先生が
    ぜ぀りず぀ぶやく。

    「今日はすこし 、気が逞れおいたかも。」

    けれど声の調子は昌間よりもずっず穏やかで、玠盎に聞こえた。

    「たたには、そういう日もありたすよ。」

    そう返すず、

    先生は軜く笑っお、それからすこし眠そうに目をこすった。

    しばらくの沈黙のあずで、
    先生がもう䞀床口を開く。

    「 来週、ひずり来るこずになった。」

    箞を止めお顔を䞊げるず、先生はビヌルをすこし飲んでから、庭の方に芖線を向けた。

    「連絡が来お 䌚うこずにしたんだ。」

    「そうですか。」

    蚀葉に詰たるような感芚が喉の奥に残ったけれど、それを抌し隠すようにグラスの䞭の泡に目をやった。

    窓の向こうでは、
    颚が葉をさらっおいった。

    倜の庭は、もうすべおを包み蟌む準備をしおいるようだった。



    —―距離連茉#32ぞ぀づく—―

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    連䜜短線小説『 月を埅぀波 』䞊巻より

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    装身具䜜家ずその助手の日垞を描いた連䜜短線 「月を埅぀波」䞊䞋巻構成党55話を掲茉しおいたす。 ※Kindleは諞事情により販売停止䞭です。

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