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【月を埅぀波-䞊】話 倏のあず連茉#29



    倕方、庭に出るず
    先生が畑の前でしゃがみ蟌んでいた。

    倏のあいだにたくさん実を぀けおくれたトマトの茎はもう所々しおれおいお、葉も匱々しく色耪せおいる。

    隣のきゅうりも、支柱から倖れおだらりず垂れおいた。

    「 そろそろ、片付けたしょうか。」

    そう声をかけながら手にした軍手をはめ、土の衚面を軜くならす。

    トマトの根元にハサミを圓おるず、先生がすこしだけこちらに目を向けた。

    「唐蟛子は」

    「 もうちょっず粘りたしょうか。先生、蟛党ですし。」

    冗談たじりにそういうず、
    先生はうれしそうに笑った。

    枝葉をたずめながら、袋の口を瞛る。暑さが萜ち着いたぶん、䜜業もどこかのんびりずしおいた。

    「半分くらいたた冷凍しおおきたすね。次の倏たでも぀ように。」

    唐蟛子の実をいく぀か摘み取りながらいうず、先生は

    「そうだね。 これがないず困るから。」ず返した。


    畑はだいぶすっきりずした。

    収穫した実はキッチンに持ち垰り、冷凍庫ず冷蔵庫にそれぞれ分け入れた。

    先生が手を掗いながら、
    ぜ぀りずいった。

    「しばらくは、土を䌑たせよう。  そしおたた春になったら、䜕か育おようか。」

    聞きながら、今幎の春のこずがもう懐かしかった。

    ──ホヌムセンタヌで、芋぀けた苗を䞡手で包むように持っお立っおいた先生。

    野菜を育おるなんお、自分にずっおは小孊生の頃に授業でやったミニトマト以来だった。

    それがこうしお、
    来幎の畑の話をしおいる。

    「今床はビヌルに合うものがいいですね。」
    「賛成。」

    そのあず、冷たいお茶をいれおふたりでテラスに腰かけた。

    涌しくなった颚が、庭の草をやさしく揺らしおいた。

    「  季節が倉わったなぁ。わたしは秋が䞀番奜きだからうれしいけれど。」

    そう぀ぶやく先生の暪顔は、それでもどこか名残惜しそうだった。


    グラスの氎滎が、指先を぀たった。

    草の間で、ちいさな虫が矜音を立おおいる。

    颚が吹くず、生え残ったバゞルの葉がかすかに揺れた。

    先生はずっず、庭のほうを向いおいた。

    䜕も発さず、揺れる怍物のひず぀ひず぀の行方を远うように芋぀めおいた。

    倕方の光が、
    その頬を静かに照らしおいる。


    「  そろそろ、倕飯にしようか。」

    しばらくするず、グラスを眮いた先生がそういった。

    うなずいお立ち䞊がり、空になったコップをふた぀手に取る。

    再びキッチンに戻るず、昌に䜜っおおいた煮物を火にかけた。

    冷蔵庫からは、浅挬けにしおおいたきゅうりずカニカマサラダを取り出した。

    味噌汁の具は、倧根ず油揚げ。

    あたためおいるあいだに、冷蔵庫から出した猶ビヌルをひず぀、カりンタヌに眮いた。

    先生はずなりで、めずらしくごはんをよそっおいる。

    「先生 今日は、本圓に飲たなくおいいんですか」

    「うん。今日はこのあずただやるこずがあるから。  䞀杯だけにしおおく。」

    「飲むは飲むんですね。」

    「君が芋せるからだろう。」


    なんおこずのない䞀日の、
    なんおこずのない倕飯。

    食卓に䞊んだそれは、どこにでもあるようなありふれた倜ご飯だったけれど、

    湯気の向こうで手を合わせ、「いただきたす」ずちいさくいう声に、俺はなんずもいえない安らぎを芚えた。


           


    倕飯を終えお仕事郚屋に戻るず、䜜業台の掃陀に取り掛かった。

    工皋別に机をわけおいおも、油断するずすぐに散らかっおしたう。

    やすりの隙間に぀たった粉を真鍮ブラシで払い、圫金机の匕き出しに溜たった削りくずなども子垚で集めおいく。

    䞀床リセットするず、次の仕事ぞ向かうずきの姿勢がたるで違う。

    そうはわかっおいおも、以前はあたりサクサクず片付けができなかった。

    キッチンからは、陜高が掗い物をする音が聞こえおいる。

    こうしおのんびりず切り替える時間を持おるこずは、特に芁領の悪いわたしにずっおはありがたい。

    そう考えるず、暮らしず仕事はやはり぀ながっおいるのだなず思う。


    ぀いでに刺繍甚の机のビヌズの配眮なども芋盎す。

    小瓶に入った䞍揃いの粒たち。

    こうやっおう぀くしい玠材を眺めおいるだけで、心は癒された。

    これを装身具に仕立おおいくずなるず、話はたた別になるわけだけれど。

    それでも目の前の玠材たちに、わたしは䜕床だっお恋をしおしたうんだろう。


    「先生、このあず矊矹食べたせんか」

    振り返るず、い぀ものようにシャツの袖をたくった陜高が郚屋の前に立っおいた。

    「うん。あ぀ヌいお茶がこわい。」

    「たんじゅうじゃありたせんよ。」

    そんなやりずりをしお笑う。


    机に向き盎り、瓶の向きを敎えおいくず、ふずカレンダヌが目に入った。

    もうすぐ月。
    あれからひずめぐりだ。

    い぀もよりあっずいう間に時間が過ぎたように感じられるのは、圌ずのこうした日々があったからだろうか。

    倜の空気は、すこしず぀肌に冷たくなっおきおいる。

    窓をすこし開けたたたにしおいたせいか、机の䞊の玙がふっずめくれお、たたゆっくりず戻った。

    倏の最埌の䞀滎ず、あたらしい秋の気配をそっずあわせたような颚。

    その心地よさが、しずかに郚屋に入り蟌んできおいた。



    —―秋雚前線連茉#30ぞ぀づく—―

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    連䜜短線小説『 月を埅぀波 』䞊巻より


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