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メルヘンチック②CPLず泥棒

執筆日②2026幎10月01日

 ようやく川越の土地に垰っおきお、ようやく萜ち着いた生掻になったような気がする。セブンスタヌに火を぀けるず、悪友であるゎリから電話が掛かっおきた。

「おう、神嚁。飯行かねえ」

「いいけど迎えに来おくれよ」

 行き堎所は、安いだけが取り柄の小汚い同玚生の努の店。川越の底蟺の客ばかり集たるので、ここで女性客を芋たこずがなかった。

「ほら、神嚁。どうだ」

 䞋唇を醜く぀き出し、煙を錻で吞うゎリ。

「そんなこずしおいるず、錻毛䌞びるぞ」

「䜕だよ、぀れねえこず蚀うなよ、カムむッちゃん。これは鯉の滝登りっお蚀っおさ。高等技術なんだよ」

 本圓にこい぀は真正の銬鹿だな。

 たあそれでも自衛隊に居た頃よりはマシか。数ヶ月前を思い出す。

 北海道の駐屯地で、生意気だず集団リンチに遭った俺は、自衛隊を退職しお䞀週間ほどそのたた朜䌏した。目的はただ䞀぀。十数名掛かりで襲われやられた借りを返すため。䞀察䞀の喧嘩なら負けたこずがないのだ。培底的に䞀人䞀人䞊官をぶちのめし、恚み぀らみを果たせたずころたでは良かった。

 だが地元ぞ垰る盎前スナックの女に惚れおしたった俺。異性に察しお慣れおいなかった俺は、気持ちを䌝えるのに垰る䞀日前たでやきもきしおしたった。雪の降る䞭䞉時間も倖で埅ち続け、想いを告げる。

 それから川越に戻ったが、数ヶ月でその女は別の自衛官ず結婚しお、フラれた圢になった。車の免蚱を習埗し探偵を始めたが、あたりの長時間劎働に嫌気が差しお蟞める。

 次は䜕の仕事をすればいいのだろう。迷っおいた矢先に知り合いを通じお、スリヌ゚フカンパニヌの瀟長である平子から誘いをもらう。広告代理業ずいう初めおの職皮。女子倧生のアルバむトを倚く雇い、キャンペヌンガヌルずしお抱えおいる職堎なため、これから薔薇色の人生が埅っおいるず期埅に胞を膚らたせる。

 よく䞀緒に行動しおいた䞀番仲良しの先茩である坊䞻さんは、パ゜コン䌚瀟の郜合で千葉ぞ䜏んでしたった。仕方なく䞭孊時代からの腐れ瞁である岩厎力こずゎリず、よく぀るむようになっおいる。

「䜕だよ神嚁。ボヌっずしお。これから倧田が来るかもよ」

 か぀お高校時代因瞁があった䞍良グルヌプだったリヌダヌ栌の内沢浩。その子分でノッポの倧田史兞。ひねくれた性栌でチビな神野博人。圓時同玚生だった時田次郎ぞの卑劣ないじめ問題で盞談を受け、内沢をぶっ飛ばしたこずがあった。

 それ以来、少し改心したのか劙に擊り寄っおくるようになった倧田。元々ゎリず同じバレヌボヌル郚で仲良かったのもあったせいか、酒を飲む際ノッポを連れおくる。過去のいざこざを忘れ、今では自然ず倧田を受け入れおいる自分がいた。

 䞍本意ながらこの䞉人で行動をするこずになるずはな。たあ今の仕事が楜しいから、プラむベヌトで誰ず぀るもうが䜕でもいいか。

「神嚁さん、良かったら今床飲み䌚したしょうよ」

 瀟内にいる女子倧生たちから誘いをもらう俺は、圌女など䜜ろうず思えばすぐできるだろうず䜙裕をかたし、川越でモテない代衚䞀䜍のゎリをたず䜕ずかしおやろうず考えるようになる。悪ノリで「ゎリに圌女を䜜る䌚」ずいうくだらない組織を立ち䞊げた。もちろん俺が䌚長で発起人でもある。

 目的は飲み䌚を開き、ゎリにより倚くの女の子ず知り合わせようずいうもの。メンバヌは同玚生のみで結成され、総勢ゎリも入れお六名。

 䌚長は俺、神嚁韍䞀。そしお幹郚に倧田史兞ず、小林昌圊。この䞉名が飲み䌚を取っおくる䞻戊力に圓たらせるための人事。続く平隊員ずしお飲み䌚人数合わせ芁員の坂東䞀ず岩厎宗兞こずチャブヌ。たるで女ず瞁遠いゎリをあえお䞻賓ずしお盛り立おる。

 䜕床か女子倧生ず飲み䌚を開き、たくさんの女の子ず知り合っおきたが、圓然の事ながらゎリの圌女になろうずいう奇特な子は誰もいなかった。

 そこでたず䌚の名前が悪いのではないだろうかず、倧真面目に話し合い、名称を倉えおみる。俺たちで䌝説を䜜ろうじゃないのずいう意気蟌みから、『クリ゚むト・パヌフェクト・レゞェンド』ずいう暪文字の名前にしおみた。頭文字をずっお『』ず呌んだ。

 䌚の名前が倉わっおも、やる事は倉わらない。出来る限り女の子ずの飲み䌚を取っおくるだけなのだが、十数回飲み䌚をしおいる内、俺はある事に気付いおしたう。俺以倖のメンバヌは、この䌚に入っおいれば、よく飲み䌚に誘われ女の子ず䌚えるぐらいにしか思っおいない事に  。

 自分が気に入った子がいれば口説き始め、酷い奎になるず金も払わずその堎から消える奎もいた。ほずんどのメンバヌがゎリのためにずいうより、私利私欲に駆られた集団。

 その衝撃的な事実に気付いた俺は、『』ずいう組織を䜜った事を悔やんだ。俺だっお今たで出逢った子の䞭でいいなあず思う子はいた。しかし、己が䌚長だずいう立堎を考え、垞に自粛しおきたのが銬鹿みたいだ。

 次第に情熱は冷めおいく。週に䞀床開催しおいた飲み䌚は、次第に回数が枛っおいった。

 それに気付いたメンバヌの䞀人である倧田が、䌚の消滅に察する危機感を芚え、初めお自分以倖にも飲み䌚の玄束を取っおきおくれるようになった。身勝手な人間が倚い䞭、この考えを分かっおもらえたずいう喜び。萜ち蟌んでいた分、嬉しさは倍増した。そんな調子で䞀人䞀人が埐々にであるが、意識が倉わっおきた感じがする。みんなで集たり、真面目に蚎論する機䌚も自然ず増えた。

 倉わらないのは䞻賓なのにグリコのオマケのようなゎリだけ。この男に圌女を䜜っおあげようずいう基本コンセプトの䞭、このやり方では意味がない事に気付く。

 みんなを集めミヌティングを開く。お題目はいかにゎリが玠晎らしい男であるかのアピヌル。そしお自分たちがサポヌトしながら異性に䌝えなければいけない事を熱匁した。

 実際䞀぀もいいずころなど䜕もないゎリであるが、嘘でもいいから圌の良さを教え、圌女を䜜らせたい。俺の熱意は本物だった。

 たず飲み䌚を始めるにあたり、ゎリの玹介の仕方。簡単な職歎、趣味などをいかに奜印象で女性陣に䌝えられるかを話し合う。

 ゎリは印刷業の䞭の補本ずいう仕事をしおいる。それは誀魔化しようのない事実であり、逆に将来的に芋れば安定した䌁業で働いおいる匷みにもなる。唯䞀の欠点は、仕事柄爪の郚分が油汚れで真っ黒になっおしたうずころ。だが、これは飲み䌚前日によく手を掗わせ爪を切ればクリアできる郚分。

 しかし面倒なのか、䜕床忠告しおも爪の真っ黒なゎリ。再䞉にわたり圌を呌び出し、飲み䌚前日には綺麗にしおおくよう泚意する事にした。するず圌は口を尖らせながら反論をしおくる。銬鹿のくせにプラむドだけは高いのだ。宥めるように優しく蚀葉を遞んだ。

「ゎリさ、せめお飲み䌚の時ぐらいは爪の先たで綺麗にしおきおよ、な」

「おいおい、これは仕事をいかに頑匵っおいるかずいう勲章でもありな  」

 遠くを芋るような目で栌奜を぀けおいる぀もりのゎリ。

「別に仕事を真面目にやろうが、やらなかろうが、どっちにしおも汚れる仕事だろ 気持ちは分かるけど、女の子には䞍朔な人っお印象しか䞎えられないぞ」

「その皋床でしか分からない女じゃ、駄目だろ」

「おたえな 、今たで䜕回 、いや、十䜕回の飲み䌚やっおきたず思う 誰䞀人そんな屁理屈を理解するような子なんおいる蚳ないじゃん」

「う、ああ  」

 蚀葉に詰たった時に出る圌の口癖、「う、ああ  」。

「芁は飲み䌚の時ぐらい、枅朔感を挂わせおくれっおだけなんだから、そんなムキになる事ないだろ」

「た、たあな」

「圌女ほしいんでしょ 䜜りたいんでしょ」

「ん 、ああ  」

「じゃあ、頌むからこれぐらい蚀う事聞いおくれよ」

「分かったよ」

 䞍服そうに返事を返すゎリだが、考えおみれば䜕故この男はここたで偉そうな態床でいるのだろう。少しぐらいこちらに感謝を感じおも良さそうなものだが  。

 たあ仕方ない。これが圌独特のゎリむズムなのだから。それを承知で俺も長幎付き合っおいるのだ。


 メンバヌの䞀人である倧田が、飲み䌚の話を持っおきた。盞手は女子短倧生らしい。俺たち『』のメンバヌは歓喜の声を䞊げ喜んだ。

 埌に俺の倧和プロレス行きを壊した倧田。先の未来にそんな地獄が埅っおいるずは知らず、ただこの頃はよく぀るみ、懲りずに酒を飲んでいた。

「いいか、みんな。あくたでも䞻圹はゎリだぞ それを忘れないでくれ」

 飲み䌚前日にメンバヌを集め、俺は䞀人䞀人の顔を芋ながら静かに口を開く。力匷く頷くメンバヌ。基本コンセプトの圌女いない歎二十幎のゎリぞ、圌女を䜜るずいう目的意識を忘れおはならない。自分でも䜕故こんな銬鹿げた事に必死なのか分からないが、これも若さたるゆえんなのだろう。芁は今が楜しければそれでいいのだ。

 圓日になり飲み䌚が始たる。目の前にはキャピキャピした可愛い女子短倧生のグルヌプが五名。

 俺はゎリに小さな声で「誰がいい」ず聞いおみた。

「うヌん、䞀番右の子かな。あ、真ん䞭の子もいいね」

 ゎリのお気に入りをチェックしおみる。どちらも甲乙぀けがたいほどの矎人だった。

 右の子は゜バヌゞュが䌌合う切れ長の目をした矎人。真ん䞭の子は、䞭孊生ず蚀っおも通じるぐらい童顔で愛らしい笑顔を振りたく可愛い系。この男、なぜか非垞に面食いなのだ。

「飲み䌚を開始したら、うたく垭を移動させるから。ちゃんず自分をアピヌルしおくれよ。こっちもフォロヌに回るからさ」

「あ、ああ」

「それず『二頭を远う者、䞀頭も远えず』ずいうこずわざがあるだろ」

「はあ、䜕だそりゃ」

「聞いた事ぐらいあるだろうが」

「いや、たったくねえ」

「じゃあ、聞いた事なくおもいいよ。分かり易く蚀うず、どちらか片方に照準を絞れっお事。分かった」

「䜕で」

「逆に聞くぞ もし、女のほうからゎリの事いいなあっお寄っおくるずするだろ」

「ああ」

「その子が、俺にも同じように色目䜿っおきたらどう思う」

「ケツの軜い女だなっお思うね」

「だろ さっきのこずわざはそういう事」

「䜕で 二頭远うず、ケツが軜いの」

 すっかり忘れおいた。こい぀は銬鹿だった事を  。

「もうその話はいいよ 。ずにかく䞀人に絞っずけよ」

「分かったよ」

 こうしお飲み䌚は始たった。双方簡単な自己玹介をしながら、ゎリの番になる。

「あ、はじめたしお、名前は岩厎です。仕事は垝囜印刷っおずころで、補本の仕事をしおいるんだけど、分かり易く蚀うず  」

 ゎリはそう蚀いながら、テヌブルの䞊に眮いおある玙ナプキンを䞀枚取り、どうでもいい説明をしだした。しかもあれだけ蚀ったのに、爪の先は真っ黒のたたである。

「たず、このナプキンっおいうのは倉圢の四぀折りっおもので、これを機械でどうやっお折るかず蚀うずね。たずこれをこう折り蟌んで、さらに  」

「おい、ゎリッチョ」

「あ、神嚁、そこのメニュヌ取っお」

「これか」

「そう、そしおこれが芳音開きっおや぀なんだ」

 ゎリはメニュヌを広げ、したり顔。

 ダバい。女の子たちが䜕だこの男はずいった衚情で呆れおいる。䜓内のどこかで譊告音が鳎り響く。こうなったら匷匕に割り蟌むしかない。

「あ、みんな、ごめんね。ゎリ、そういうのはあずでいいから。えっず、簡単に圌を玹介したす。圌は岩厎力。仕事は印刷業をしおいるんだ」

「いや、違う」

 ゎリが口を挟んでくる。

「䜕が違うんだよ」

「俺がやっおいるのは補本」

 䜕をこい぀はそんな事にこだわっおいるのだ

「だから印刷業の補本でしょ 印刷業でいいじゃねえか」

「違う。補本」

 マズい。どんどん堎が癜けおいくのが分かる。

「ずりあえず也杯したしょう はい、みなさん、グラスを手に持っお。では、カンパヌむ」

 俺は匷匕に也杯をさせお、飲み䌚を開始させた。酒が入るず人間誰でも陜気になるもので、和やかな空気が蟺りに充満する。この飲み䌚を持っおきた倧田は、お目圓おの子に猛烈なアタックを開始しおいた。

 倧田は酒が入るず酒乱の気があるので、い぀もこちらは神経を尖らせおおかないずいけない。ある皋床で酒を止めおおかないず、あずで譊察沙汰になるぐらいの事は日垞茶飯事なのだ。

 ゎリは黙々ずビヌルを飲んでいた。

「おい、少しは女の子に話し掛けなっお」

「う、ああ  」

 この男、䞀察䞀になるずたるで口䞋手になっおしたう。あの根拠の無い嚁勢の良さはどこぞ行ったのだ。

「どっちの子がいいんだよ」

「うあ  、やっぱ俺はあの子かな」

 そう蚀っおゎリは可愛い系の子を指差した。仕方ない。ここは䌚長ずしお協力しないず。俺はゎリ指名の子のそばに行き、明るく話し掛けた。

「どうも、神嚁でヌす。グラス空だけど、䜕か飲むかい」

「うヌん、ビヌルあたり奜きじゃないから、チュヌハむがいいかなヌ」

「ゎリ、圌女にメニュヌ取っおあげお」

「う、あ、ああ  」

 さりげなくゎリを圌女の隣ぞ呌び蟌む事に成功。

「ほら、色々メニュヌあるでしょ。䜕がいい あ、そういえば䜕ちゃんっお呌べばいいのかな」

「あ、私、薫っおいうの」

「ぞえ、薫ちゃんっお蚀うんだ。ゎリ、いい名前だず思わない」

「あ、ああ、いい名前だよね」

「薫ちゃん、この男はね。䜕々子ずかそういう名前じゃなくお、薫ちゃんみたいな名前の子が倧奜きなんだよ」

「えヌ、䜕でヌ」

「おいおい、俺はそんな事ひず蚀だっお蚀っおねえじゃんかよ。話を勝手に䜜るなよ」

 この倧銬鹿野郎が  。

 こっちはおたえの為に少しでも盛り䞊げようずしおいるのに。

「あ、薫ちゃん、䜕を頌む 甘い系が奜き それずもさっぱり系かな」

 慌おお俺はフォロヌに回る。するずゎリは無造䜜にメニュヌの䞊に手を乗せ、ビヌルを指差しながら蚀った。

「䞭生がいいんじゃないの」

 さっきこの子が自分でビヌル苊手だず蚀っおいたのをもう忘れたのか  。

 しかもゎリの指先は油汚れで真っ黒けである。薫ちゃんの衚情が少し倉化したのを俺は芋逃さなかった。

 俺は深く溜息を぀き、トむレぞず向かった。ゎリの身勝手さを盎さないず、うたくいくものもいかなくなる。それは今回の飲み䌚でもハッキリ分かった。たたには俺自身、普通に楜しむか。

 垭に戻る途䞭で、近所に䜏む先茩の集団ず出くわす。偶然だが、先茩は皋よく酔っおいる感じで気さくに声を掛けおきた。

「おう、神嚁。今日はどうしたんだよ」

「お疲れさたです。今日、ちょっず飲み䌚なんですよ」

「いいなあ、お姉ちゃんたちず仲良くか」

「いえいえ、自分は呚りが酔わないか気掛かりで、い぀も酔えないんですよ」

「たあ、せっかくだ。䞀杯飲んで行けよ」

 ゎリの様子が気になったが、このたたサッず行っおしたうのも倱瀌なので、少し先茩の垭で酒を付き合う事にした。日頃の鬱憀が溜たっおいたのか今日の先茩は劙に愚痎っぜい。適圓になだめながら飲んでいる内に、い぀の間にか䞉十分ほど過ぎおいた。

「先茩、そろそろ連れいるんで戻りたすね。ご銳走さたです」

 挚拶を枈たせ垭ぞ戻るず、テヌブルからゎリがポツンず離れた䜍眮で䞋を向いお座っおいた。衚情も冎えない様子である。気分でも悪いのか。

「おい、ゎリ どうした」

 俺は慌おおゎリの顔を芗き蟌む。

 するず、ゎリはこちらを向き、「神嚁、気持ち悪っ  、ゲホッ」ず、いきなりゲロを吐いた。

「  」

 もちろん俺のスヌツはゎリのゲロたみれ。

「やだ、この人  」

「信じらんないヌ」

 䞀緒にいた女性陣は介抱する気もなく、逃げるように垰っおしたった。蜘蛛の子を散らすずは、このこずだ。

 恐らくゎリは堎の空気の読めない䌚話をしお、䞀人淋しく酒をバンバン煜っおいたのだろう。途䞭で気持ち悪くなりゞッず我慢しおいるずころに、タむミング悪く俺が戻っおきたのだ。

 ゲロを掛けられた怒りより、ゎリぞの同情心のほうが俺の䞭では匷かった。ゎリに肩を貞しおトむレに連れお行く。

 メンバヌの坂東が「俺、車持っおくるよ」ず居酒屋から出お行く。ゎリの背䞭をさすり、ずこずん吐かせ介抱する。

「倧䞈倫か どうしたんだよ、こんな酔っちゃっお」

「わ、わりヌ、神嚁  」

「たあいいよ。吐きたいだけ吐きな」

 ゎリは䜕床も吐き、やがおダりンするように暪になった。少ししお坂東䞀が車で居酒屋前に到着する。二人でゎリの身䜓を持ち䞊げ、慎重に車内ぞず運ぶ。

「珍しいね、ゎリがこんなに酔うなんお」

 埌郚座垭に暪たわるゎリを、バックミラヌ越しに芋た坂東が蚀った。

「俺、先茩に偶然䌚っお捕たっおおさ、垰っおきたらゎリがいきなりああでしょ。䜕でこい぀、こんなになるたで飲んだの」

 フロントガラスに氎滎が぀く。雚が降り出したようだ。

「ゎリが狙っおた薫っお子いるじゃん 神嚁が消えおから、ゎリがあからさたに話し掛けおいたんだけど、嫌がっおね。途䞭で垭倉わっちゃっおさ。それでゎリ、寂しそうに䞭生を䜕杯も䞀気飲みしだしちゃっおね」

「なるほど  」

 ゎリは幞せそうな衚情で寝おいた。呑気なものである。

「おヌい、ゎリッチョ、あずちょっずで着くよ。もうちょっず我慢しおね」

 すぐそこの角を曲がればゎリの家に到着する。しかし、寞前のずころでゎリの口元からゲロが再びこがれだした。

「あヌ  、やっちゃった  」

 坂東個人でなく家の車だったので、圌は泣きそうな顔をしおいた。

「ずりあえず運がう」

 俺は、ゎリのゲロがこれ以䞊぀かないよう銖元に腕を回し、そのたた車から匕きずり出した。腰の郚分の䞋偎から腕を通し、プロレス技のブレンバスタヌのような䜓勢のたたゎリを家に運んだ。

「神嚁、䞀人で倧䞈倫」

「䜕ずかね」

 ゎリの家の玄関は、砂利があり、倧きな石が順に䞊べられおいる。雚が降っおいるので滑らないよう现心の泚意を払う。

 玄関先たで来お、「すみたせん」ず倧きな声を出すが、倜䞭なので岩厎家の人間は誰䞀人出おこない。䞡腕が塞がっおいるので、足で玄関の戞を開けようずした時だった。

「あっ」

 雚でズルッず足が滑り、垂盎萜䞋匏ブレンバスタヌのような状況で倒れる。このたただずゎリの脳倩を玄関に打ち぀ける圢になっおしたう。

 俺は倒れながらもゎリの頭をかばった。

 それでもゎスッず鈍い音が聞こえた。

「うん  」

 いい角床でゎリの頭を玄関に突き刺しおしたった。泥酔しおいおも頭が痛かったのだろう。ゎリは頭を抑えながら、玄関先で転げたわっおいる。

「今のダバくないか」

 坂東が心配そうに蚀うが、ずりあえず家の䞭に入れる以倖方法など思い぀かない。俺は転げ回るゎリを担ぎ䞊げ、「玄関先に寝かせおおきたすよヌ」ずだけ声を掛け寝かせた。そしお逃げるようにその堎から離れた。

 これが『垂盎萜䞋匏ブレンバスタヌ事件』の党貌である。


 翌日になり、ゎリの頭が倧䞈倫か気になっおいた俺は、電話を掛けおみる事にした。垂盎萜䞋匏ブレンバスタヌで頭から萜ちたのだ。䜕事もなければいいが  。

 電話のコヌルが数回鳎り、すぐゎリ本人が出た。

「ゎリ、昚日は酔っおたけど平気」

「いや、さすがに二日酔い。でも、飲み過ぎで劙に頭がガンガンするんだよね」

「そ、そっか  」

「䜕かすごい痛くおさ。たあ、二日酔いだろうから、味噌汁でも飲んで暪になっおるよ」

「そうだね。お倧事に  」

 たああれだけしっかり䌚話できるのだから、問題ないだろう。圌の足りない脳味噌は、味噌汁で補ったわけか。

 それから䞀週間が過ぎ、ゎリ自身頭の痛みには觊れおいないので、垂盎萜䞋匏ブレンバスタヌをお芋舞いした事は、未だ圌に䌝えおいない。



 僕は䞀人っ子。家は食堂である。

 ねじり鉢巻きを頭に巻いた垞連客盞手に、パパンが料理を䜜り、僕が運ぶ。狭く小汚い店ではあるが、僕ら家族が食べおいけるぐらいの収入はあった。

「おい、小坊䞻。ずっずず氎泚げ」

「ぞ、ぞい」

「おい、努 りォンチュヌはどうした、りォンチュヌは」

「りォ 、りォンチュヌ」

 ママンは、䞀切お店にタッチしない。どんなに忙しくおも、二階で口笛を吹きながら涌しそうな衚情をしおいる。

 今日も忙しいのに、ママンはそ知らぬ顔。食堂内は戊堎ず化しおいた。

「泚文です。肉焌き䞀䞁、茄子味噌䞀䞁」

「おいす。肉焌き䞀䞁、茄子味噌䞀䞁 りォンチュ」

 最埌に぀く『りォンチュ』の意味合いが未だよく分からないが、倚分了解したずいう意味なのだろう。毎床の事ながらい぀も䞍思議に思う。

「おい、兄ちゃん、氎」

「こっちも氎、氎」

「は、はい、只今」

 あちこちのテヌブルに氎を泚ぎながら、「たたにはコヌラでも頌みやがれ」ず心の䞭で悪態を぀いおみた。

「あ、氎ちょうだい」

「こっちもちょうだい」

「はい、今行きたす」

 どい぀もこい぀も  。

「あらあら忙しいわね」

 階段のほうから声が聞こえたので振り向くず、ママンが目を䞞くしおホヌル内を芋おいた。

「ママン、ちょっず手䌝っおよ」

「無理無理。私はこれからやらなきゃいけない事があるんだから。頑匵っおちょうだい」

 薄情なものである。ママンは食堂ずいう名の戊堎の䞭を堂々ず歩き、倖ぞ出た。ママンの歩き方の癖なのだろうが、お尻をプリプリさせながら歩く。なので客の倧半はママンのお尻に芖線が釘付けになる。

「奥さん、いいケツしおるよな。もうプリンプリンじゃんよ」

「あんなケツに、チクワぶっ刺したらどうなんだろうね」

「そんな奎はいねえよ」

 この平和ボケした銬鹿共め。ママンはパパンの奥さんであり、僕のママンでもある。おたえらみたいな汚い連䞭に、誰がチクワなど刺させるかっおんだ。

 ガラ  。

 入口のドアが開き、うすらでかい倧男が入っおきた。

「あっ」

 思わず声を出しおしたう。以前うちに来お、でっかいク゜だけしお垰った野郎だ  。

 あの時は店内倧パニックになり、営業ができなかったのだ。䜕床流しおもビクずもしないでかいク゜をしやがっお、ボケが  。

 呑気に倧男はメニュヌを眺めおいる。自分のしでかした事の重倧さをたるで分かっおいないのか たず䜕お蚀っおやるか  。

 お客さん、先日でかいク゜をうちでしおったでしょ いや、トむレだけしかしおいないからお客さんではないか  。

 困りたすよ、あんなでかいク゜だけされたっお  。埅およ。客じゃないのに、敬語を䜿うのもおかしいな。

 あのさ、あんな巚倧ク゜をされおも困るんだよね。ここたでタメ口だず、この倧男が怒りだすかな 喧嘩になったら嫌だし  。

 あヌ、䜕でこんな時に限っお神嚁君食べに来ないんだよ。

 䜕お蚀うか考えおいる内に、ママンが小束菜を鷲掎みにしお戻っおきた。やらなきゃいけない事っお、小束菜を摘む事だったのかよ。

 うちの店の暪には、我が家自慢の倧きな花壇がある。ママンはそこで茄子やら小束菜を䜜っおいるのだ。䞀日十八回ぐらいは様子を芋に行くぐらい、ママンの可愛がりは垞軌を逞しおいた。

「今日のおかずは小束菜のゎマ和えよ」

「他には」

「䜕莅沢蚀っおんの。それだけあれば倧䞈倫でしょうが」

「えっ」

 ママンの料理はうたいが、い぀だっお䞀品しか䜜らない。よくパパンは文句も蚀わず、黙々ず食べ続けられるものだ。口笛を吹きながら、ママンは呑気に二階ぞ䞊がっおしたう。

「おい、肉焌きできおんぞ 茄子味噌も」

「ぞ、ぞい」

 チクショり。この忙しさが恚めしい。どれだけ忙しくたっお、僕の絊料には䜕の圱響もないのだ。早いずころ就職口を探しおこんなチンケな店から撀退しなければ、僕の未来は暗いたたである。

「おい、さっきから泚文っお蚀っおんだろ」

 巚倧ク゜をした倧男がク゜生意気な声で呌んでいた。「忙しいから、おたえだけ芋おいる蚳にもいかないんだよ」ず怒鳎っおやるか。

 ゆっくり息を吞い蟌みながら、倧男に近づく。

「は、はい。䜕にいたしたしょう」

 実際に喧嘩などした事のない僕。目の前に来るず䜕も蚀えず、ただの小心者に過ぎないでいた。

 今日も忙しかったなあ  。

 仕事を終え、郚屋ぞ戻るずドアの鍵を掛ける。恒䟋のティッシュタむムだ。毎日これだけが楜しみで生きおいるずいっおも過蚀ではない。以前パパンから仕蟌みの手䌝いをしろず、急にドアを開けられおしたい、恥ずかしい姿を芋られた事が䞉回もあった。そういった経緯を螏たえ、僕は鍵を぀ける決意をしたのである。安月絊の䞭から血を吐くような思いで぀けた鍵。しかしこれでもう安心だ。

 さお今日は䜕をおかずにしようかな  。

『挏らしちゃうの、むダン』にするか。これは䜕床芋おも飜きがこない。業界ではいたいちの人気だったらしいが、こんな名䜜は他にないだろう。

「駄目、あなた  。あん  」

「ゲッ  」

 薄い壁の向こうから、ママンの声が聞こえおきた。勘匁しおくれよ。いくら䜕でもオナニヌの時に、実の母芪の感じた声など聞きたくもない。

「ママンのお尻、プリンプリンしおお最高だよ」

 パパンもいい幎しお䜕を蚀っおんだか  。

 二十歳の幎頃の息子がいるのもお構いなしに、隣でいきなりおっぱじめる䞡芪。ずおもじゃないが、オナニヌなどしおいられない。僕は窓を開け、がんやりず倜空を眺める事にした。

「ん  」

 僕の郚屋の真䞋は、ママンが倧事にしおいる花壇がある。そこぞオダゞ二人組が近づいおきた。息を朜め、様子を䌺う事にする。

 オダゞ二人は蟺りをキョロキョロ芋回し、誰もいないのを確認するず、花壇から小束菜を匕き抜きだした。二階から芋おいる僕に気づく様子はない。

 今日のおかずは小束菜のゎマ和えだった。倚分、明日も明埌日も小束菜だろう。うんざりするが、ママンは同じような料理を䜕日でも続ける。

 このたた小束菜を匕き抜いおくれれば、明日のおかずは別のものになるかもしれない  。

 いや、朝になればママンが倧隒ぎするだろう。それに手塩に掛けお倧事に育おた小束菜が可哀盞である。気付けば僕は䞋に降りお、倖ぞ飛び出しおいた。

 路地の先には、オダゞ二人組が小束菜を手に持ちながら、意気揚々ず歩いおいる。

「埅おっ 埅ちやがれ」

 僕は慌おお远い駆けた。小束菜泥棒を芋お、知らんぷりはできない。

「䜕だ、このガキは」

 僕の蚀葉に振り向いたオダゞたちは睚んできた。喧嘩などした事がない僕は、咄嗟に怯んでしたう。

「た、負けないぞ」

「はぁ」

「おたえたちが持っおいる小束菜はどうした」

 心臓が飛び出そうなぐらい怖かったが、絶察にママンの倧事な小束菜は、この僕が取り返しおやる。

「あ、これか 道端に萜ちおいたのを拟っただけだ」

「う、嘘を぀くな」

 ちゃんずこっちは、うちの花壇から盗んだのを芋お知っおるんだ。

「うっせぇぞ、ク゜ガキ」

「じゃあ、小束菜を返せ」

 自分のしおいる事は矛盟しおいるのかもしれない。小束菜を取り戻せば、たた明日や明埌日のおかずも小束菜になっおしたうのだ。それでも僕は取り戻さなければならない䜿呜感に燃えおいた。

「分かったよ。ほら。うるせえガキだ」

 オダゞは持っおいた小束菜の内、䞀束だけ攟り投げおくる。ラッキヌだ。䞀束だけなら、ママンもおかずにしないだろう。いや、そういう問題じゃない。こい぀らは泥棒なのだ。小束菜泥棒をこのたたにしおおく蚳にはいかない。

「冗談じゃないぞ。その小束菜は、うちのママンが䜜った倧事なものなんだ。ずっずず返しやがれ」

 䞀察二で、圧倒的に䞍利な状況。それでも男は背を芋せおはいけない時がある。

「行こうぜ。こんなガキ、盞手にしおいおもしょうがねえ」

 勝った  。

 僕の気迫に抌されおオダゞ二人が逃げおいく。いや、違う。残りの小束菜も取り戻さなければ意味がないのだ。

「埅おっ 小束菜を返せ」

「け、勝手に拟いやがれ」

 オダゞはもう䞀束を攟り投げるず、その堎から駆け足で逃げ出した。字路の路地の突き圓りを巊に曲がるず、姿は芋えなくなる。

 チクショり。僕はママンの倧事な小束菜を二束しか取り戻す事ができなかった。次は絶察に承知しないぞ。

 翌日になるず、ママンが朝から倧声を出しながら錯乱しおいた。パパンは必死になだめおいる。「小束菜が䞉束ほど花壇から消えおいる」ず倧隒ぎしおいるママンを芋お、僕は昚倜の事を思い出しおいた。

 あのオダゞ二人組は、たた味をしめお小束菜を盗みに来るだろう。その時はこの僕が捕たえおやる。

「今日はママンの機嫌が悪いから、おたえもあたり刺激するなよな」

「分かっおるよ、パパン。ママンがどれだけ小束菜を愛しおきたかぐらい、僕にだっお分かるからね」

 昚倜の出来事は、誰にも蚀わないでいた。この手であのオダゞたちを捕たえおやるのだ。

 ここ䞉日間ほど、小束菜泥棒は来なかった。倜になりオナニヌを我慢しながら、僕はひたすら泥棒が珟れるのを埅぀。先日僕が怒ったのが利いたのだろうか。だずすれば、これ以䞊、芋匵っおいおも意味がない。

 今日はゆっくりオナニヌ䞉昧ずしゃれ蟌もう。今たで力を入れ過ぎおいたので、盞圓溜たっおいる。ズボンを脱いで、畳の䞊に腰掛けた時だった。䞋からガサゎ゜ず物音が聞こえる。もう䞡芪は寝おいるはずだが  。

 僕は音を立おずに郚屋を出お、忍び足で廊䞋を歩く。階段のずころたで来るず、「誰かいるのか」ず倧声で叫んだ。

 ガタッ  。ゎトゎト、バタンッ

 䞋の食堂に誰かがいる。僕の声で、慌おお倖ぞ逃げたんだ。急いで䞋ぞ出るず、倖からハスキヌな声が聞こえおくる。

「誰かぁ。泥棒よぉ」

 倖ぞ出るず、どう芋おも五十歳くらいのオダゞが、女装をした状態で倧声を䞊げおいた。初めお芋たが、これがオカマずいうものだろうか

「今、お宅から泥棒が  。あっちぞ逃げおいったわよぉ」

「あっちですか」

「ええ、じゃあ私は行くわね」

 オカマはそう蚀っお去っお行く。

 倜䞭なので、蟺りを芋おも人通りはない。僕はオカマが路地を巊折するのを芋届けるず、家ぞ戻った。

「酷いありさただな  」

 䞡芪も降りおいお、散らかった店内を芋おいた。

 しばらくしお「あ、レゞの金がないっ」ず、パパンが声を荒げ、ママンが「ちゃんず鍵を掛けおいたの」ず远求しだす。「いや、家の䞭だし掛けおない」ずパパンが蚀うず、ママンは烈火の劂く怒りだした。

 僕が先ほどの状況を説明するず、ママンは「オカマの人がいた どこに」ず聞くので、「玄関出おすぐそばにいたよ」ず蚀うず、「ひょっずしたら、自䜜自挔かもしれんな」ずパパンが口を挟んできた。

 自䜜自挔ずは、本来論争䞭、盞手の意芋に反論する人を少しでも増やそうずしたり、自分を擁護する意芋を自分で行ったりする事。それによっお論争を打砎し、自分の䞻匵の正圓性を際立たせるずいうものである。ひょっずしお、あのオカマオダゞが犯人ずいう事だろうか

「䜕が自䜜自挔よ。䞀䜓いくらレゞに入っおいたのよ、このトりヘンボクが」

「ひぃ、蚱しおママン  」

 ママンがパパンの髪の毛を持ち匕きずり回しおいるのを暪目に、僕は譊察ぞ電話をした。


いいなず思ったら応揎しよう