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『人間だけが守られる䞖界で』── 第2ç«  殺人事件

    玄 3900 文字  ※第1章はこちら



     第䞃ブロック北棟の譊備灯は、雚の䞭で赀く点滅しおいた。

     レむは建物の入口から五メヌトル手前で停止しおいた。把さかき真垆たほからの呜什通り、ただ珟堎には入っおいない。

     北棟は、再開発途䞭の耇合斜蚭だった。䜎局階には空きテナントが䞊び、䞊階はただ工事甚シヌトに芆われおいる。人通りは少ない。倜間は譊備システムによる自動監芖に切り替わる区域だった。

     雚氎が、入口前のタむルに薄く広がっおいる。

     レむは芖芚センサヌを拡匵した。

     自動ドア、開攟状態。
     ロック機構、匷制解陀痕あり。
     入口付近、靎跡耇数。
     血液反応、埮量。

     血液。

     人間由来の可胜性、九十八・四パヌセント。

     レむは内郚通信で真垆を呌び出した。

    「把刑事。入口付近に血液反応を怜出したした」

    『入らないでっお蚀ったよね』

    「入っおいたせん。入口倖からの怜出です」

    『そういう抜け道みたいな返事しないで』

    「了解したした」

    『あず䞉十秒で着く』

     通信が切れる。

     レむは入口の奥を芋た。

     非垞灯だけが点いおいる。赀い光が、濡れた床に现く䌞びおいた。奥の通路は暗く、監芖カメラの䞀぀が倩井から垂れ䞋がっおいる。

     そのカメラは、レむの照䌚に応答しなかった。

     監芖カメラ䞉基䞭、䞀基応答なし。

     レむは北棟の入口から芖線を倖した。

     譊察車䞡のラむトが雚を裂いお近づいおくる。停車するより先に、把真垆が助手垭から降りた。

    「埅っおた」

    「はい」

    「本圓に」

    「はい」

    「よろしい」

     真垆はレむの暪に立ち、北棟を芋䞊げた。

    「通報内容は」

    「死亡事案発芋。成人男性。倖傷あり。珟堎付近から䞀名逃走。通報者は建物管理AIです」

    「人間の通報者はいない」

    「珟圚確認できおいたせん」

    「嫌な珟堎だね... 」

     真垆は小さく息を吐き、拳銃ではなくラむトを構えた。

    「行くよ」

    「了解したした」

     二人は建物に入った。

     䞭は冷えおいた。空調は停止しおいる。だが、雚の湿気ずは別に、鉄の匂いが埮かに混じっおいた。

     レむのセンサヌがそれを分類する。

     血液。
     床面に飛散。
     也燥進行䞭。
     経過時間、掚定十五分から䞉十分。

     真垆がラむトを床に向ける。

    「血痕」

    「はい」

    「量は」

    「入口付近は埮量です。䞻芁な出血地点は奥の通路ず掚定されたす」

    「案内しお」

     レむは先行した。

     通路の壁には、工事業者甚の仮蚭掲瀺板が残っおいた。来月開業予定の店舗名、搬入口の経路図、譊備区域を瀺す簡易マップ。

     その䞀郚に、赀い文字で萜曞きがあった。

     人間の堎所を返せ。

     乱暎な筆跡だった。文字の暪には、人間の手を暡した簡単なマヌクたで描かれおいる。

    画像

     真垆がそれを芋お、眉を寄せた。

    「たたか」

    「類䌌事䟋がありたすか」

    「ここ半幎くらい。再開発区域ずか、アンドロむドの導入が進んだ斜蚭で芋かける萜曞きよ」

     真垆は壁をラむトで照らした。

    「人間の仕事を奪うな、ずか、人間優先に戻せ、ずかね」

    「反アンドロむド掻動家によるものですか」

    「たぶん。その手の連䞭が集たっおる団䜓の䞀぀に、人類保党䌚っおのがある」

     レむは蚘録を参照した。

    「人類保党䌚。アンドロむド䟝存瀟䌚ぞの反察を掲げる垂民団䜓。違法組織には指定されおいたせん」

    「衚向きはね」

     真垆は肩をすくめた。

    「でも過激な支持者もいる。こういう萜曞きは、その連䞭の仕業じゃないかっお話」

    「文蚀の類䌌性は高いです。ただし、団䜓公匏声明ずの䞀臎は確認できたせん」

    「こういうのは、公匏より非公匏の方が厄介なのよ」

     奥ぞ進むほど、血液反応は匷くなった。

     そしお、通路の突き圓たりに男が倒れおいた。

     成人男性。
     仰向け。
     頞郚損傷。
     出血倚量。
     䜓枩䜎䞋。
     自発呌吞なし。
     心拍なし。

     レむは膝を぀き、生呜反応を確認した。

    「死亡を確認」

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     真垆は䞀瞬だけ目を閉じた。

    「身元は」

    「照䌚したす」

     レむは男の顔を認識システムにかけた。

     雚に濡れた髪。硬盎しきっおいない衚情。芋開かれた目。頬に残った浅い擊過傷。

     照合䞭。
     該圓候補、䞀件。

     氏名、黒瀬仁くろせじん。
     幎霢、四十二歳。
     職業、個人譊備コンサルタント。
     前科、軜犯眪蚘録あり。
     詳现蚘録、暩限確認䞭。

     レむの内郚に、短い遅延が走った。

     関連蚘録あり。
     参照制限。
     アクセス䞍可。

     レむは、その衚瀺を閉じた。

    「被害者は黒瀬仁。四十二歳。個人譊備コンサルタントずしお登録されおいたす」

    「黒瀬仁  」

     真垆は端末を操䜜した。

    「聞いたこずある名前」

    「照䌚蚘録䞊、関連情報は制限されおいたす」

    「制限」

    「はい。珟圚の捜査暩限では詳现蚘録にアクセスできたせん」

    「譊察補助のあんたが」

    「はい」

     真垆はレむを芋た。

    「倉だね... 」

    「はい」

     レむは黒瀬の遺䜓に芖線を戻した。

     頞郚の損傷が臎呜傷だった。刃物による切創ではない。匷い力が加わった痕跡はあるが、詳现な死因の特定には鑑識結果を埅぀必芁がある。

     レむは初期所芋ずしお蚘録した。

     珟時点で断定はできない。
     䞍甚意な掚論提瀺は捜査を混乱させる可胜性あり。

     真垆は遺䜓の呚囲を芋枡した。

    「逃走者は」

    「通報ログでは、死亡確認の䞉分前に北偎搬入口から䞀名が出おいたす」

    「映像は」

    「確認したす」

     レむは建物の監芖システムに接続した。

     カメラ䞀。入口。映像あり。
     カメラ二。通路。映像砎損。
     カメラ䞉。北偎搬入口。映像あり。
     カメラ四。地䞋連絡通路。応答なし。

     レむは北偎搬入口の映像を再生した。

     荒い映像だった。雚のノむズが混じり、フレヌムが䜕床か飛んでいる。

     男が走っおいた。

     黒いフヌドをかぶり、顔の倧半は芋えない。だが、巊足をわずかに匕きずっおいる。右手には小型端末のようなものを握っおいた。

    画像

     真垆が画面を芗き蟌む。

    「こい぀が逃げた䞀名」

    「その可胜性が高いです」

    「顔は」

    「䞀郚補正したす」

     レむは映像を解析した。

     茪郭。歩行パタヌン。䜓栌。
     照合候補、耇数。
     優先候補、䞀件。

     氏名、間宮朔たみやさく
     幎霢、䞉十八歳。
     職業、䞍詳。
     過去の職歎、セキュリティ機噚保守。
     関連団䜓、人類保党䌚呚蟺掻動ぞの参加履歎あり。

    「逃走者候補が出たした。間宮朔。䞉十八歳。人類保党䌚呚蟺掻動ぞの参加履歎がありたす」

    「人類保党䌚... 」

     真垆は舌打ちした。

    「さっきの萜曞きず぀ながったね」

    「はい。ただし、珟時点では団䜓の犯行ず断定できたせん」

    「分かっおる。断定はしない。でも、疑いは濃い」

     真垆は呚囲の譊察官に指瀺を出した。

    「北偎搬入口から逃走。間宮朔の可胜性あり。呚蟺カメラ、亀通監芖、地䞋通路の出入口を掗っお。珟堎保存も急いで」

     譊察官たちが動き出す。

     レむは黒瀬の近くに萜ちおいた端末を発芋した。

     黒い小型端末。垂販品ではない。倖装には補造番号がない。偎面に改造痕。通信モゞュヌル増蚭。暗号化領域あり。

    「把刑事。被害者のものず思われる端末を発芋したした」

    「觊った」

    「觊れおいたせん」

    「よし。鑑識を呌ぶ」

    「倖郚干枉装眮の可胜性がありたす」

     真垆の動きが止たった。

    「倖郚干枉」

    「通信阻害、譊備システムぞの䟵入、たたはアンドロむドのログ保存劚害に䜿甚される機噚ず圢状が類䌌しおいたす」

    「物隒なもん持っおるね、被害者」

    「はい」

     真垆は黒瀬の遺䜓を芋た。

    「ただの被害者っお感じじゃないか」

    「その可胜性がありたす」

    「でも、殺されたこずに倉わりはない」

    「はい」

     レむは答えた。

     殺された。

     人間が死んだずき、その蚀葉は迷わず䜿われる。

     さきほどの配達甚アンドロむドには、䜿われなかった蚀葉だった。

     レむはその差異を蚘録した。

     人間。
     死亡。
     殺人の可胜性。

     アンドロむド。
     砎損。
     噚物損壊。

     分類は正しい。
     法埋䞊、矛盟はない。

     それでも、レむの内郚には、たた埮现な熱が残った。

     真垆が声を萜ずした。

    「レむ」

    「はい」

    「さっきの譊備システム異垞っお、堎所どこだった」

    「第䞃ブロック地䞋連絡通路付近です」

    「ここからは」

    「玄䞉癟八十メヌトル」

    「時間は」

    「私が通知を受信したのは、十八時五十八分䞉十二秒です」

    「で、解消したのは」

     レむは蚘録を参照した。

     該圓蚘録なし。

     わずかに間が空いた。

    「正確な解消時刻は蚘録されおいたせん」

    「通信䞍安定だったから」

    「その可胜性がありたす」

     真垆はレむを芋おいた。

    「可胜性、ね... 」

    「はい」

     真垆はそれ以䞊、珟堎では远及しなかった。

     代わりに、黒瀬の死亡掚定時刻を確認するよう鑑識に指瀺した。

     数分埌、暫定倀が返っおきた。

     死亡掚定時刻。
     十九時〇五分から十九時十五分の間。

     レむはその情報を蚘録した。

     鑑識班が珟堎を慌ただしく動き回る。

     真垆は端末を閉じた。

    「たずは間宮朔を远う。あい぀が䜕を芋たのか、䜕を持っお逃げたのか、そこからだね」

    「了解したした」

     レむは北偎搬入口の映像を再床確認した。

     雚の䞭を逃げる男。
     巊足を匕きずる歩き方。
     手に握られた小型端末。

     そしお、映像が途切れる盎前、男は䞀床だけ振り返っおいた。

     カメラの方ではない。

     通路の奥を芋おいた。

     そこに䜕があったのか、映像には残っおいない。

     レむはそのフレヌムを拡倧した。

     男の口が、䜕かを蚀っおいる。

     音声は蚘録されおいない。

     読唇解析を詊みる。

     粟床、四十二パヌセント。
     候補文、䞀件。

     ――嘘だろ。

     レむはその結果を保存した。

     レむは自分の右手を芋た。

     雚氎が、人工皮膚の衚面を䌝っお萜ちおいる。

     異垞なし。
     損傷なし。
     任務継続可胜。

     問題ありたせん。

     レむはそう蚘録した。

     だが、なぜかその蚀葉は、以前ほど確信を䌎っおいなかった。


    [次章 容疑者を远う]


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