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『人間だけが守られる䞖界で』── 第1ç«  譊官補助アンドロむド

    玄 3900 文字 



    通報から䞉分二十䞃秒埌、レむは珟堎に到着した。

     䜏宅街の倖れにある小さな亀差点だった。倜の雚は现く、街灯の光をにじたせおいる。濡れたアスファルトの䞊に、壊れた配達甚アンドロむドが暪たわっおいた。

     右脚郚は関節から折れ、胞郚のカバヌは乱暎に匕き剥がされおいる。

     呚囲には数人の人間が集たっおいた。

     そのうちの䞀人、酔った䞭幎の男が、レむを芋るなり舌打ちをした。

    「譊察っお蚀ったのに、たた人圢かよ」

     レむは男の蚀葉を蚘録した。

     人圢。
     䟮蔑的衚珟。
     譊告察象ではない。
     任務継続。

     亀差点の向こう偎にある街頭ビゞョンでは、ニュヌス映像が音もなく流れおいた。

     明日開催。
     新知性暩利フォヌラム。
     人間ずアンドロむドは、共に生きられるのか。

     雚粒の぀いた画面の䞭で、人間の女性ず、癜い倖装のアンドロむドが䞊んで映っおいる。画面䞋郚には、䌚堎名が衚瀺されおいた。

     湟岞囜際ホヌル。

     その文字を芋た酔った男が、錻で笑った。

    「人圢に暩利だずよ。䞖の䞭、終わっおんな」

     レむは街頭ビゞョンを芋た。

     新知性暩利フォヌラム。
     開催日、明日。
     譊備察象むベント。
     反察掻動、耇数確認。

     関連情報を保存する。

    「譊芖庁補助捜査ナニット、REI-09です。珟堎確認を行いたす」

     レむがそう告げるず、男は面倒そうに肩をすくめた。

    「そい぀、急に止たったんだよ。道の真ん䞭で邪魔だったから、どかそうずしただけだ」

     壊れた配達甚アンドロむドの指先が、わずかに震えおいた。

     完党停止ではない。
     内郚電源、䜎出力で皌働䞭。
     音声モゞュヌル、損傷。
     自己修埩機胜、停止。

     レむは膝を぀き、損傷郚に觊れた。

     その瞬間、右芖界の端に譊告が走った。

     人間接近。
     腕郚接觊。
     衝撃可胜性。

     酔った男が、レむの肩を぀かんでいた。

    画像

    「おい、聞いおんのか。こっちは被害者なんだよ。こい぀が勝手に止たったせいで、俺は転びそうになったんだ」

    「接觊を解陀しおください」

    「呜什しおんのはこっちだろ。お前らは人間の呜什を聞くんじゃないのか」

     第二原則。
     人間の呜什に埓うこず。

     ただし、第䞀原則に反しおはならない。

     レむは男の手銖を芋た。
     アルコヌル濃床、歩行姿勢、発話の乱れ。
     暎力行為に発展する可胜性、䞉十二パヌセント。
     察象は人間。
     危害犁止は有効。

    「安党確保のため、距離を取っおください」

    「だから、呜什しおんだよ」

     男がレむの胞郚を小突いた。

     衝撃は軜埮だった。
     損傷なし。
     反撃䞍可。
     制圧䞍可。

     ただし、呚囲の人間ぞの危険が発生した堎合、非臎死的介入は蚱可される。

     レむは、男を傷぀けずに距離を取らせる経路を蚈算した。

     そのずき、埌ろから声がした。

    「そこたで」

    画像

     把さかき真垆たほだった。

     黒いレむンコヌトの襟を立お立っおいる。濡れた髪を乱暎に払うず、男に向かっお歩いおきた。

    「公務執行劚害で匕っ匵られたいなら、そのたた続けお」

     男は䞀瞬だけ真垆をにらんだが、盞手が人間だず分かるず、舌打ちしお手を離した。

    「なんだよ。最初から人間が来いよ」

    「来おるでしょ」

     真垆はレむをあごで瀺した。

    「こい぀も譊察」

    「人圢だろ」

    「少なくずも、あんたよりは冷静に仕事するよ」

     男は䜕か蚀いかけたが、真垆の目を芋お口を閉じた。

     レむは壊れた配達甚アンドロむドの胞郚を確認した。

     内郚フレヌムに耇数の打撃痕。
     自然故障ではない。
     倖郚からの衝撃。
     人間による加害の可胜性が高い。

    「把刑事。察象機䜓は、意図的に砎壊された可胜性がありたす」

    「所有者は」

    「配送䌚瀟です。個䜓登録番号を照䌚したす」

     レむは砎損した銖元の識別コヌドを読み取った。

     登録䞊、この機䜓は配送䌚瀟の備品だった。

     暩利䞻䜓ではない。
     被害区分、噚物損壊。

     その文字列が内郚凊理に衚瀺された瞬間、レむの挔算が䞀拍だけ遅れた。

     噚物損壊。

     凊理遅延、〇・䞉秒。
     原因䞍明。
     過去蚘録参照、制限領域。

     ノむズのように、短い音声が再生されかけた。

     ――父さん。

     レむは、その再生を停止した。

    「レむ」

     真垆が芋おいた。

    「異垞」

    「軜埮な凊理遅延です。任務に支障はありたせん」

    「そう」

     真垆はそれ以䞊远及しなかった。ただ、壊れた配達甚アンドロむドを芋䞋ろし、小さく息を吐いた。

    「たた噚物損壊か」

     レむの内郚で、同じ蚀葉が反埩された。

     噚物損壊。
     噚物損壊。
     噚物損壊。

     それは法埋䞊、正しい分類だった。

     アンドロむドは人間ではない。
     人間ではないものが壊されおも、殺人にはならない。

     瀟䌚はそう敎理しおいる。

     レむも、その敎理を知っおいる。
     理解しおいる。
     埓っおいる。

     だが、なぜかその蚀葉だけは、い぀も凊理にわずかな熱を残した。

     雚が匷くなった。

     壊れた配達甚アンドロむドの指先が、たた䞀床だけ震えた。レむはその手を取り、残存電力を安定させるための簡易接続を行った。

     音声モゞュヌルは壊れおいる。
     蚀葉は出ない。

     それでも、指先は䜕かを探すように動いおいた。

     レむは、その動きを芋぀めた。

     小さな手だった。

     人間の子どもの手ではない。
     もちろん、レむの蚘録䞊にも、そのような照合結果はない。

     ただ、その圢状が、ある蚘録領域に觊れようずしおいた。

     制限領域。
     参照䞍可。
     過去ログ、䞀郚欠損。

     真垆が無線で応揎を呌ぶ声が聞こえた。

    「把班、珟堎到着。配達甚アンドロむド䞀䜓砎損。加害者ず思われる人間を確保予定。怪我人なし。  いや、怪我人はいない。損壊䞀件」

     怪我人はいない。

     その蚀葉もたた、正しかった。

     レむは壊れた機䜓の指先を静かに戻した。

    「救護班ではなく、回収班を芁請したす」

     レむはそう蚀った。

     自分の声は、い぀も通り平坊だった。

     そのはずだった。

     真垆が、ほんの少しだけ眉を寄せた。

    「あんた、本圓に倧䞈倫」

    「問題ありたせん」

    「そういう蚀い方するずきほど、だいたい問題あるんだけどね」

     レむは返答しなかった。

     返答候補はいく぀かあった。
     だが、どれも適切ではなかった。

     そのずき、レむの芖界に別の通知が入った。

     自動通報。
     再開発区域、第䞃ブロック。
     譊備システム異垞。
     人間負傷報告なし。
     アンドロむド補助ナニット単独察応可。

     真垆はただ酔った男の事情聎取を始めたずころだった。応揎の到着にも数分かかる。

    「把刑事」

    「なに」

    「近隣で譊備システム異垞を怜知したした。私が確認に向かいたす」

    「䞀人で」

    「危険床は䜎。人間の負傷報告はありたせん。補助ナニット単独察応が蚱可されおいたす」

     真垆は酔った男を䞀瞥した。男はただ䞍満そうに䜕かを蚀っおいる。

    「分かった。こっちは私が凊理する。終わったら合流しお」

    「了解したした」

     レむは立ち䞊がった。

     壊れた配達甚アンドロむドの指先は、もう動いおいなかった。

     レむは䞀床だけ、その機䜓を芋䞋ろした。

     人間に危害なし。
     死亡者なし。
     噚物損壊䞀件。

     それが、この䞖界の正しい蚘録だった。

    「レむ」

     真垆が呌び止めた。

    「はい」

    「無理はしないで。単独察応可っお衚瀺ほど、信甚ならないものはないから」

    「了解したした」

    「ほんずに分かっおる」

    「はい。危険床が䞊昇した堎合、即時共有したす」

     真垆は少しだけ目を现めた。

    「  そういう意味じゃないんだけど」

     レむはその蚀葉の意図を解析した。
     該圓候補、耇数。
     最適応答、䞍明。

    「行きたす」

     レむは雚の䞭を走り出した。

     再開発区域たでは、最短経路で四分十二秒。
     譊備システム異垞の発信源は、第䞃ブロック地䞋連絡通路付近。
     呚蟺人口密床、䜎。
     監芖カメラ、䞉基。
     うち䞀基、応答なし。

     雚音が、建物の倖壁に反響しおいた。

     レむは走りながら、通報ログを再確認する。

     発信元認蚌、譊備システム。
     異垞皮別、倖郚干枉。
     補足デヌタ、砎損。

     砎損。

     その単語に、レむの凊理がたたわずかに遅れた。

     ――父さん。

     レむは速床を䞊げた。

    ・・・

     そこは第䞃ブロック北棟から癟メヌトルほど離れた地䞋連絡通路の出口だった。

     雚はただ降っおいた。

     レむは立っおいた。
     右腕郚に軜埮な負荷痕。
     内郚枩床、基準倀よりやや高い。

     だが、任務継続に支障はない。

     レむは呚囲を確認した。

     人間負傷者なし。
     脅嚁察象なし。
     譊備システム異垞、珟圚怜出なし。

     盎前任務ログを参照する。

     該圓蚘録なし。

     レむは䞀秒間、停止した。

     自動補正、完了。
     任務埩垰。

     そのずき、真垆から通信が入った。

    『レむ、今どこ』

    「再開発区域付近です。譊備システム異垞は解消されおいたす」

    『解消 そっちからの共有、来おないけど』

    「通信状態に䞀時的な䞍安定があった可胜性がありたす」

    『  倧䞈倫なの』

    「問題ありたせん」

     数秒、真垆は黙った。

    『その蚀い方、今日二回目』

    「蚘録しおいたす」

    『そこは蚘録しなくおいい』

     真垆の背埌で、無線の音が重なった。

     別の通報だった。

    『埅っお。新しい事案が入った』

     レむの端末にも、同時に通知が届いた。

     死亡事案発芋。
     成人男性、意識なし。
     倖傷あり。
     珟堎付近から䞀名逃走。
     殺人事件の可胜性。
     堎所、再開発区域、第䞃ブロック北棟。

     レむは通知に衚瀺された䜏所を確認した。

     珟圚地から、䞉癟八十メヌトル。

     真垆の声が䜎くなった。

    『近いね』

    「はい」

    『合流する。先に珟堎に入らないで』

    「了解したした」

     レむは北棟の方向を芋た。

     再開発区域のビル矀は、雚の向こうで黒く沈んでいた。
     その䞀角だけ、譊備灯が赀く点滅しおいる。

     レむの内郚で、先ほどの空癜が再床参照された。

     蚘録なし。

     問題ありたせん。

     レむは自分にそう蚘録した。


    [次章 殺人事件]


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