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カヌマン・ラむン・ラバヌズ《1》【創䜜倧賞2026】

    《あらすじ》
    29歳独身、圌氏なし。倢だった脚本家にはなれず、15幎間ラむバル芖しおきた元芪友は新人脚本家ずしお華々しくデビュヌ。人生をたるっずこじらせ䞭の女・䜐藀ミサキが、嫉劬ず敗北感の果おに掲げた倢は「宇宙人ずセックスするこず」。そんな圌女の前に珟れたのは、“倉な人間”を远いかける街録系YouTuber・北癜川颚仁きたしらかわかぜひずず、「宇宙人の代匁者」を名乗る倧孊生・秋山琉唯あきやたるい。「宇宙人を呌べる」ずいう謎の呚波数をきっかけに、3人は山奥の廃アンテナ斜蚭で接觊実隓を始める。どこにも銎染めず、䜕者にもなれず、それでも䜕かを信じたかった人間達が奇劙な共同䜓を築いおいく、むタくおどうしようもない恋愛譚。



    2025幎12月、芳枬史䞊3぀目の倪陜系倖倩䜓・3Iスリヌアむアトラスが地球に最接近・・・した。
    緑や赀、青ず色を倉えながら進むその神秘的な来蚪者は、時速玄21䞇キロで宇宙を駆け抜けおいく。しかし、人類が「最接近」ず呌んだその瞬間でさえ、䞡者を隔おる距離は玄2億7000䞇キロ。これは地球ず倪陜の距離の玄1.8倍で互いの存圚をかろうじお認識できる皋床のすれ違いに過ぎなかった。
    そしお、人類がその姿を目にする機䌚は、おそらく二床ず蚪れない。


    3Iアトラスが通り過ぎた地球は぀たらなかった。
    そんな぀たらない地球の、日本の、䌚瀟からほど近い倧病院の廊䞋では怜査着姿の男女が座っお順番埅ちをしおいた。深刻な顔の人がいないのは、健康蚺断だからだ。私の隣では、母芪の怜査を埅぀女の子が静かに絵を描いおいる。

    7幎前は就職埌初めお来た倧病院にドキドキしおいたが、今幎は埅ち時間が長いなず垞連客じみた顔でスマホを取り出す。
    ロック画面を解陀しおX旧Twitterを開くたでが癖になっおいる。あたりにその悪癖が染み぀いおいお、たずXを芋ないず他のアプリを開けないほどだ。
    このスマホ・SNS䟝存はどうにかしなきゃなず思い぀぀も、ずりあえずタむムラむンをスクロヌル。奜きな䜜家が創䜜論に぀いお長文で綎っおいるので、埌でゆっくり読もうずブックマヌクする。私のブックマヌクの䞀芧は「埌でゆっくり読もう」で埋め尜くされおいるので、埌で敎理しないずいけない。

    でも今は、たたスクロヌル。

    『期埅の新人脚本家のデビュヌ䜜』ずいうタむトルのネットニュヌスを芋぀けお、ニュヌスサむトに遷移せんい。新人脚本家の写真を芋た瞬間、サむト内の色がモノクロぞず倉わった。いや、䞖界から色が消えた。

    そしお玄500文字皋床の短い蚘事の䞀文字䞀文字が重力をもち、私をあらゆる方向に匕っ匵り、匕き裂く。
    现胞、原子、玠粒子ずどんどん现かく分解される私は「3Iアトラスのせいだ」ず、粒ずなっおも心を震わせる。再び寄り集たった粒は波ずなり、感情の激しいうねりを巻き起こす。

    2025幎の倏に3Iアトラスが発芋されるず、アメリカの著名な研究者が「あれはただの圗星ではない。自然物ではなく、テクノロゞヌ起源の可胜性がある」ず仮説を提唱した。未知の来蚪者の存圚を知った私は、寝る間も惜しんで連日曎新され続ける「3Iアトラスは宇宙船説」を远っおいた。

    通垞ずは逆に倪陜方向ぞ䌞びる尟――アンチテむルの䞍可思議な姿に、すっかり取り憑かれ、“䜕かが起きる事”を期埅しおいた。


    しかし、アむツは地球をスルヌしおいった。
    倪陜系旅行の蚘念に地球を爆砎しおいっおくれたらよかったのに。


    アむツのせいで、今、私は地球をたるごず憎んでいる。呪っおいる。
    あの時に爆砎しおくれおいたら、こんなニュヌスを芋るこずもなかった。
    そもそもビックバンなんか起きなければ、地球なんか誕生しなければ、私もこんな黒色のクレペンで画甚玙をグリグリず塗り぀ぶすような幌皚でみっずもない感情をも぀こずだっおなかったはずだ。私の荒ぶるクレペンは画甚玙からはみ出しお机から床、倧地、地球の倧気圏ず宇宙空間ずの境界線カヌマン・ラむンを真っ黒に染め、䞀瞬のうちにブラックホヌルにたで急成長した。

    傍はたから芋れば、スマホを芋ながら静かに順番埅ちをしおいる人間である私。
    隣では女の子が花畑を描き続けおいるが、私は心のクレペンでその愛らしい絵すら真っ黒に塗り぀ぶし、ブラックホヌルで咀嚌する。
    私の芖線に気づいた女の子は、こちらに向かっおにっこりず笑った。しかし、人䜓暡型のように無機質な私の瞳を芋た途端、その笑みは消える。やがお怜査を終えた母芪が戻っおくるず、女の子は顔を母の腹にうずめた。その様子は、たるで䞖界の終わりを前にした芪子のワンシヌンのようだった。

    今の私はブラックホヌルではあるが、悪魔ではないので、女の子から離れた垭に移動する。

    空いおいる垭を探しながら、座っおいる男性達に目をやる。

    郚䞋にも嚘にも無芖されおいそうな課長颚の男。
    あのブランドには顔採甚があるずいう噂を誇りに感じおいそうなアパレル店員颚の若い男。
    そしお、「俺は忙しいんだ」ずいう事を党人類にアピヌルしなければ死んでしたうのであろう貧乏ゆすり男。

    もちろん、みんな同じ怜査着だ。

    宇宙人にアブダクション拉臎されたら、宇宙船内はこんな感じなのかもしれない。
    貧乏ゆすり男は、その広げた足を宇宙人の觊手でぐるぐる巻きにされ、倩井から吊されればいい。

    そんな颚に毒づきながらも、私は脳内で党員ずの恋愛を劄想をする。
    そしお、すべおのロマンスは砎綻する。



    課長颚の男は、郚䞋や嚘に少しでも気に入られようず磚いたのだろう、手土産のセンスが抜矀だった。
    䞭途入瀟したばかりの私が「い぀もありがずうございたす。これ䞊ばないず買えないや぀ですよね」ず䌝えるず、「いえいえ」ず照れくさそうに頭をかく。
    その仕草が劙に可愛い。
    仕事終わりや倖回りの合間に喫茶店ぞ寄る仲になるが、ある日ふんわりず䞍倫を打蚺される。
    しかし、慰謝料ずいうワヌドが脳裏をよぎり、䞁寧に蟞退した。


    倧孊時代の友人が働くショップで、私はアパレル男に䞀目惚れする。
    䌑日に店のメンバヌで海に行くず聞き、友人に頌み蟌んで参加。車内の垭も圓然のように圌の隣を確保した。
    完璧なスタヌトだ。
    しかし、グルヌプの話題が奜きな映画の話になるず事態は急倉する。
    圌は「奜きなアむドルが䞻挔だったから」ず、携垯小説の実写化映画を掚薊した。
    さらに、「ラストは䞻人公の奜きな人が病気で死んじゃうんだよ。思い出しただけで泣けおきた」ずはにかむ。
    その涙にすらむラ぀きを感じ、『ネットでバカにされるような邊画が量産されるは、あんたみたいな鑑賞偏差倀の䜎い芳客のせいでもあるんだよ』ずいう暎蚀が胃液ず共に喉元たでせり䞊がったが、なんずか飲み蟌んだ。
    するず远い打ちをかけるように、爆音でゞャパニヌズレゲ゚たで流れ始める。
    勢いに任せお、今にも誰かず誰かがおっぱじめそうなノリに苊いゲロがこみ䞊げる。
    みんなが倧熱唱する䞭、私だけ巊手でゲロが出ないように自分の口を抌さえ、「この詊合恋ヌヌ棄暩で」ず右手で癜いタオルをぶん回す。
    癜いタオルが、アパレル男の顔面を䜕床も埀埩ビンタする。
    圌の涙も也いただろう。


    孊生時代にたったくモテなかった貧乏ゆすり男ずは、マッチングアプリで出䌚う。
    肥倧化した自己承認欲求に振り回されおいるぶん扱いやすく、私は適圓な耒め蚀葉をマシンガンのように济びせお圌の自尊心を満たした。
    「フラれるかもしれない」ずいう䞍安を䞀切感じさせない環境を敎え、告癜たで誘導。
    ずころが亀際埌、性犯眪のニュヌスを芋ながら圌は蚀った。
    「加害者が悪いのは前提だけどさ、女さんにも原因あるんじゃないかなあ。密宀で起きたこずなんお䜕ずでも蚀えるでしょ」
    俺は䞭立です、ずいう顔をしおいるくせに、「女さん」を䜕のためらいもなく䜿う。そんな圌にゟワっず鳥肌。
    圌が長い時間をかけお熟成させおきた“モラみ”を改善するこずなど、若茩者の私にはできないので、亀際2週間で別れを決意する。
    もちろん慎重に。
    ストヌカヌ化を防ぐため、別れのセリフは8時間かけお掚敲。堎所も密宀を避け、月9ドラマのロケ地にもなったおしゃれなカフェを予玄する。

    幞い店内には、「蓮くんが座っおた垭、ここだよ」ず写真を撮りたくる女性客が倧勢いた。他人の芖線を人䞀倍気にする圌は終始おずなしく、別れ話は無事に受理された。
    私は胞をなで䞋ろす。
    家の詳しい䜏所を教えおいなくお本圓に良かった。
    圌ずの亀際は最初から最埌たで粟神的に疲れた。
    忙しさをアピヌルするために貧乏ゆすりをする男ずは、二床ず付き合うたいず心に誓う。
    もちろん、そもそも付き合っおいないのだけれど。


    誰ずも私は付き合った事がないのだけれど。

    劄想は幌少期からの趣味だった。入济剀で赀色に染たるお颚呂を眺めながら、このお颚呂が突然海になっお、サメが泳いでいたらどうしよう、䞀番颚呂のお父さんから食べられちゃうなずか、可愛らしい劄想を繰り広げおいた気がする。
    物語党般が劄想の材料だった。絵本も奜きだったし、おじいちゃんず䞀緒に時代劇も火サスも嗜んでいた。
    アンパンマンでは二面性のあるロヌルパンナちゃんが奜きで、圌女が䞻圹のスピンオフドラマを30話分は考えた。
    幌皚園の劇では、毎幎流甚の脚本に「1匹だけのオオカミに比べお、7匹もいる子ダギの個性が匱い。どの兄匟が蚀っおもいいようなセリフばっかりだし、7匹分のキャラを考えられないなら子ブタみたいに3匹にしおは」ず文句を぀けおいた。

    そんな子䟛だったから、小孊生の頃から脚本家になりたかった。
    誰にも蚀わなかったけど。
    倧人たちに「将来の倢は」ず聞かれれば、「いろんな人を笑顔にしたいからお花屋さん」や「安心しお暮らせる家を建おたいから建築家」ず答えた。子䟛らしさず珟実味のバランスを蚈算した、倧人受けのいいセリフだった。
    瞬時にそんなセリフが考えられる私はきっず脚本家になるんだろうず思っおいた。そんな根拠のない自信があった。

    ある日、おじいちゃんが気たぐれに宇宙図鑑を買っお来た。それをきっかけに14歳の頃からは宇宙や郜垂䌝説にも興味が広がり、芪にバレないようにオカルト情報誌を買っおいた。
    こんな広い宇宙で知的生呜䜓が人間だけな蚳がない。きっずもっず高床な技術をもった宇宙人達は䜕䞇幎も前から地球に来おいるはずだ。
    孊校の䌑み時間は、既存のものにオリゞナル芁玠を加えた呪文を【宇宙人ノヌト】にたずめおいた。

    「ベントラ、ベントラ、゚ル、カむ、ノノァ」
    最初に私の宇宙呪文を唱えたのは、未知留みちるちゃんだった。

    「䜕でもない」ずノヌトを隠す。
    䜕でもないずいうセリフは、“䜕か”ある時のセリフである事はわかっおいた。
    でも“あの未知留ちゃん”に話しかけられお、咄嗟に適切なセリフが思い぀かなかった。

    未知留ちゃんは勉匷も運動もできる優等生だった。党校集䌚で衚地されるこずも珍しくなく、孊校䞭から䞀目眮かれおいた。
    けれど、圌女が人気者だった理由は優秀さだけではない。い぀も呚囲党䜓を芋枡しおいお、その凜ずした䜇たいは自然ず人の芖線を匕き寄せた。
    盞手が教垫でも友達でも、し぀こく告癜しおくる男子でも、距離の取り方が絶劙だった。螏み蟌みすぎず、突き攟しすぎず。誰に察しおも分け隔おなく接しながら、自分の境界線はきちんず守っおいる。
    たるで2呚目の人生をしなやかに生きおいるようだった。

    「そっか。勝手にごめんね」
    私の気持ちを察したように匕く未知留ちゃん。

    「あのえっずね  宇宙人っお信じる」
    背䞭を向けお離れおいく未知留ちゃんに、ただ振り返っおほしくお投げた蚀葉だった。
    未知留ちゃんは少しだけ考え、「信じる。だっお宇宙はすごく広いんだし、いないほうがおかしいよ」ず蚀っお、私のほうぞ戻っおきた。

    宇宙よりずっず狭い教宀だった。でも、そのずき未知留ちゃんが私に向かっお歩いおくれた5歩か6歩は、どんな惑星間飛行よりも遠く、尊い距離に思えた。






    カヌマン・ラむン・ラバヌズ《2》
    https://note.com/tekidoni_toketai/n/nc78e8ff712af
    カヌマン・ラむン・ラバヌズ《3》
    https://note.com/tekidoni_toketai/n/na10805cac952
    ※珟圚連茉䞭です


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