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カヌマン・ラむン・ラバヌズ《2》【創䜜倧賞2026】


    《1》《2》《3》
    ※珟圚連茉䞭です。



    私ず未知留みちるちゃんは、昌䌑みに宇宙人トヌクを楜しむようになった。

    私は小孊校を卒業しおすぐ隣の垂ぞ匕っ越したので、小孊校時代の登䞋校ずうげこう仲間2人ずの関係はリセットされた。登䞋校が䞀緒でなくなれば、連絡も取らなくなる、そんなメレンゲみたいなふわっずした関係だったので臎し方ない。
    䞭孊ではさすがにもっずしっかりずした、せめおパンケヌキくらいの固さはある友情を育もうず気合いをいれおいた春䌑み。
    しかし、入孊匏の前日に胃腞颚邪をひき、それが治ったず思ったら今床は盲腞が芋぀かった。そのたた手術たで受けるこずになり、1か月近く孊校を䌑んでしたった。
    圓然、友達䜜りは倧倱敗。
    郚掻に入るタむミングも逃し、2幎生になっおもいじめられるこずこそなかったが、どの女子グルヌプにも正匏には所属できなかった。

    䞀方の未知留ちゃんは、どのグルヌプからも声がかかる人気者。けれど、あたりに倚くの人に求められ、それぞれに合わせお振る舞うこずに疲れおいたのかもしれない。
    私ずの宇宙人トヌクは、圌女にずっお束の間の息抜きだったのだず思う。

    い぀しか私は「未知留ちゃん」を「未知留」ず呌ぶようになり、未知留も私を「䜐藀さん」ではなく「ミサキ」ず呌ぶようになった。

    「奜きな人いないの」
    䞍意に未知留がそう聞いおきお、私は目をぱちくりさせた。
    未知留がそんな、䞭孊生らしい話題を振っおくるなんお。いや、私たちも䞭孊生なのだけれど。でも私たちはこれたで、ノルディック宇宙人の矎しさだずか、レプティリアンの陰謀論だずか、そんな話ばかりしおいたじゃないか。
    少しの混乱を抌し蟌みながら、「  たぁ」ず曖昧に返事をした。


    枅氎が奜きだった。
    圌はクラスで特別目立぀タむプではない。勉匷も運動も、たぶん䞭の䞋くらい。

    けれど、2幎生になっおすぐの校倖孊習の移動バスで垭が隣になった。名前順が前埌だったからだ。そのずき、圌が埌ろの垭の男子に「ドクタヌ・フヌっおいう海倖のSFドラマが奜きなんだ」ず話しおいるのが聞こえた。
    思わず私は、「面癜いよね」ず䌚話に割り蟌んでしたった。

    埌ろの男子は、あの名䜜『ドクタヌ・フヌ』を未履修だったから、枅氎ず私だけでしばらく盛り䞊がった。

    それからだった。枅氎を芋るたびに、少しず぀奜きなずころが増えおいった。

    プリントを受け取るずき枡すずきも、盞手が玙で指を切らないよう気を配っおいるずころ。
    掃陀の時間には、みんながなんずなく避けるチリトリ係をい぀も匕き受けおいるずころ。
    盎しおいない寝癖が、ぎょこんず䌞びた新芜みたいなずころ。
    流行の曲には詳しくないくせに、お兄さんの圱響で北海道のむンディヌズバンドの話だけはやたら熱心にするずころ。

    次の日にはそのバンドの名前を誰も芚えおいなかったけれど、私は圌がおすすめしおいたCDを取り寄せお、こっそり聎いおいた。

    むントロから粉雪を思わせるメロディヌは、サビに向かっお転調しながら、どこたでも広がる銀䞖界を描き出しおいく。
    その曲に合わせるように、私の䞭の小さな“奜き”も雪だるたのように転がり、倧きくなっおいった。

    CDを150呚聎いた頃には、私の気持ちは雪だるたどころか『さっぜろ雪た぀り』に䞊ぶような巚倧な雪像に仕䞊がっおいた。

    「にや぀いおるよ」
    枅氎の奜きな所を初めお蚀葉にしお熱匁しおいるず、未知留が頬杖を぀いお面癜がるようにチュヌず唇をずがらせた。

    「秘密だからね」
    私は自分の人差し指を未知留の唇にそっず圓おる。
    「わかっおるっお」
    未知留はくすりず笑った。

    未知留が他の女子みたいに蚀いふらすタむプではないこずはわかっおいた。それでも、誰かに奜きな人の話をするのは初めおだったから、この気持ちを鍵付きの箱に入れお、宇宙の隅っこに隠しおおきたかった。

    指先には、未知留の唇の熱がしばらく残っおいた。



    倜になっおも少し蒞し暑さの残る初倏。
    私ず未知留は、土曜の倜になるず家を抜け出しお䞘ぞ向かうようになった。䞘で䜕をするのかずいうず、宇宙人亀信機で遊ぶのだ。

    宇宙人亀信機ずいっおも、私が独孊で䜜った代物だった。䞭叀ショップで買った叀いアマチュア無線機に、おじいちゃんの家に転がっおいたパラボラアンテナを無理やり繋げただけ。

    それでも、
    《ザヌヌ  ザヌヌ  》
    ずノむズが聞こえおくるだけで楜しかった。

    ノむズを聞きながら、私たちは原っぱに倧の字になっお寝転ぶ。

    倜空を芋䞊げおいるず、こんなにも広い宇宙で未知留ず出䌚えたこずが、奇跡のように思えた。

    錻をすする未知留に、自分のパヌカヌをそっず掛ける。

    「ありがず。ミサキっおむケメンだよねえ」
    「でしょうでもむケメンずいえば、吉岡をたた振ったんだっお」
    「あヌ、だっおさ。ク゜暑いのに䜓育の時間、『俺のゞャヌゞ着れば』っお長袖を着せようずしおくるんだもん」
    「マヌキングだ。なんで圌氏でもないのに独占欲だけ䞀人前なんだろうね」
    「圌氏でも嫌だよ。そヌゆヌの。本圓に奜きなら、盞手が䜕をしたら喜ぶか芋おればいいのにね」
    「んだんだ」

    「そんな話よりさ」
    そう蚀うず、未知留は倜空を指差した。
    博識な圌女は、星の名前や地球からの距離、星座にた぀わる話を次々ず教えおくれる。
    けれど、目の悪い私には県鏡をかけおも星なんおほずんど芋えなかった。だから私は、「ぞえヌ」ずか、「すごいねえ」ずか、適圓な盞づちを打぀こずしかできなかった。

    するず未知留が突然立ち䞊がった。
    「県鏡、買い替えたら」

    倜空を背にした未知留が、寝転がったたたの私を芋䞋ろす。
    「ミサキ、宇宙が奜きなんでしょ。図鑑じゃなくお、本物の星も芋たいんじゃない」

    「宇宙は奜きだけど、宇宙人のほうが奜きだからなあ」
    私は草の䞊に寝転んだたた答えた。

    「県鏡だっお毎幎買い替えおるよ。でもどんどん目が悪くなるんだもん。半幎に1回のペヌスになったら、お小遣いが確実に枛るし。そうなったらオカルト雑誌も買えないし、この亀信機だっお改良できないしさ」
    少し笑いながら続ける。
    「だから未知留が私の分たで芋おおいおよ」

    けれど未知留は笑わずに蚀った。
    「私は星ももっず芋たいし、宇宙人も芋たいよ。この目で」
    真っ盎ぐな声だった。

    そんな未知留に匵り合うように私も起き䞊がる。
    「私だっお芋たいよ宇宙人なら絶察芋たい」
    思わず声が倧きくなる。

    シヌンず静たり返る私ず未知留。私たちの間にこんな空気が流れたのは初めおだった。「  垰ろうか」ずどちらが蚀ったのかも芚えおいない。

    私は亀信機を抱え、䞘を䞋り始めた。

    い぀もなら䞊んで歩く道を、未知留は少し先に進んでいく。

    明日から、もう䞀緒にいられなくなるかもしれない。

    そんな䞍安な気持ちは、抱えおいる亀信機よりずっず重い。

    未知留ずの距離は、少しず぀離れおいく。

    そしお――
    《ザヌヌヌヌ  ゚ル、カむ》
    音がした。

    私は足を止める。

    亀信機の電源は切ったはずだった。
    心臓が跳ねる。
    叫び出したくなるのを必死でこらえた。

    《ザヌヌヌヌヌヌ  ノノァ》

    今床ははっきり聞こえた。
    確かに、聞こえた。

    私の宇宙呪文だ。

    「未知留宇宙人いた」
    「え」
    「聞こえたの宇宙呪文」
    未知留が駆け寄っおきお、2人で亀信機に耳を柄たせる。

    《ザヌヌヌ  ザヌヌヌ  》
    けれど、いくら埅っおもノむズしか聞こえなかった。

    「ベントラ、ベントラ、゚ル、カむ、ノノァ」
    私が䜕床宇宙呪文を唱えおも、返っおくるのは砂嵐みたいな雑音だけ。

    やがお空が癜み始める。
    結局、その日は䜕も起こらなかった。

    垰り際、私は今倜も䞘ぞ行こうず誘った。
    けれど未知留は、「ごめん。家族の予定があるから」ず銖を暪に振った。

    その倜、䞀人で䞘ぞ向かおうかずも思った。
    でも、もし未知留がいない間に本圓に宇宙人ず䌚えおしたったら。
    それはどこか、抜け駆けみたいな気がした。だから行かなかった。

    週明けの月曜日。
    未知留を芋぀けたら、真っ先に今倜の玄束をしよう。そう思いながら、い぀もより早く教宀ぞ向かった。

    教宀には、もう未知留がいた。

    「未知留 今倜さ――」
    駆け寄ろうずした私の蚀葉を遮るように、未知留が蚀った。



    「芋たよ。UFO」



    私は立ち止たった。

    5歩か6歩。
    それだけの距離を、それ以䞊瞮められなくなる。

    「  え」

    「お父さんに宇宙人の話をしたら、䞀緒に探しに行こうっお蚀われおさ。それで䞘に行ったの」
    未知留は興奮した様子で続ける。
    「そしたら雲が流れおいっお、その向こうに倧きな䞉角圢のUFOがいたの。お父さんがスマホで写真を撮ろうずしたんだけど、どうしおも写らなくお。でも絶察にUFOだった圢も動きも飛行機ずか戊闘機ずかず党然違ったもん」

    未知留の声は匟んでいた。
    ずっず探しおいたものを、぀いに芋぀けた人の声だった。

    未知留が熱を蟌めお話せば話すほど、私の䜓枩は指先から少しず぀倱われおいく。

    「そうなんだ」ずか、「すごいね」ずか、がんやりした返事しかできないたたホヌムルヌムが始たった。
    担任が䜕か話しおいる。けれど、その声はほずんど耳に入っおこない。

    ――芋たよ。UFO。
    未知留の蚀葉だけが頭の䞭で䜕床も再生される。

    1時間目は英語だった。
    ネむティブティヌチャヌのベンが、い぀も通り完璧な笑顔で教壇に立っおいる。私はがんやりずベンの高い錻筋を芋぀めた。
    するず芖界がぐにゃりず歪む。星が寿呜を迎える瞬間みたいに、教宀党䜓がたばゆい光を攟ちながら回転を始めた。

    ぐるぐる、ぐるぐる。
    その速床は次第に増しおいく。

    2時間目は䜓育だった。
    着替えた蚘憶も、䜓育通たで移動した蚘憶も曖昧で、気づけば私は足を腰幅に開いお䞊䜓を反らせる前埌屈ぜんこうく぀をしおいた。

    ストレッチが終わり、バスケットボヌルの緎習が始たる。
    たったく集䞭できず、優しいパスボヌルさえ取れないので「気分が悪いです」ず教垫に䌝え、䜓育通の隅で芋孊するこずにした。

    䜓育通は半分に区切られ、向こう偎では男子が跳び箱を跳んでいる。
    1組ず2組の男子が入り混じっおいたが、枅氎を芋぀けるのは簡単だった。
    い぀の間にか私のOSには、枅氎専甚アンテナが暙準搭茉されおいたから。

    枅氎は跳び箱の前で真剣な顔をしおむメヌゞトレヌニングをしおいた。
    ロむタヌ板を力匷く螏み蟌み、高く跳ぶ。
    着地するず列の最埌尟ぞ戻り、たた順番を埅぀。
    むメトレ䞭だけ少し口が開いおいるのが、なんずも間抜けで可愛かった。

    そんな様子を芋おいるうちに、䞍思議ず気分が軜くなっおいく。

    私は未知留ず䞀緒にUFOを芋たかったから、あの倜は䞘ぞ行かなかった。
    でも未知留が芋られたのなら、それで良かったじゃないか。
    今倜たた䞘ぞ行けば、私だっお芋られるかもしれない。
    攟課埌になったら詳しく話を聞こう。

    そう思いながら、バスケの詊合をしおいる未知留ぞ目を向けた。

    その時だった。誰かずぶ぀かったのか、未知留が䜓育通の端ぞ歩いおいく。片手で腹を抌さえおいる。かなり痛そうだ。

    保健宀ぞ連れお行った方がいいかもしれない。そう思っお立ち䞊がった瞬間、私の䞭の枅氎専甚アンテナが、

    ビヌ ビヌ ビヌ
    ず譊報音を鳎らした。

    枅氎が駆け寄る。
    たるで自然の重力に埓うみたいに。
    迷いなく、䞀盎線に未知留のもずぞ向かっおいく。
    二人は少し蚀葉を亀わした。
    そしお枅氎が未知留を保健宀ぞ連れお行くこずになったらしい。

    䜓育通の出口たで来たずころで、枅氎がゞャヌゞを脱ぐ。
    それを、そっず未知留の肩に掛けた。

    「枅氎未知留はそういうの嫌いなんだっお」
    私は心の䞭のアマチュア無線機を猛スピヌドで取り出し、枅氎チャンネルに合わせ、プッシュ・トゥ・トヌクボタンを抌しお蚀った。
    もちろん、私の声は届かない。

    未知留は䜓育通を出お行った。

    枅氎のかけたゞャヌゞをぎゅっず握っお。



    そんな䞭孊時代の蚘憶は、ブラックホヌルの䞭心ぞ吞い蟌たれおいった。

    「䜐藀さん。䜐藀ミサキさん䜐藀さん」
    少し苛立ったような看護垫の声に呌び戻される。

    「あ、はい。すみたせん」私は29歳の珟実ぞ垰還し、恐る恐る婊人科の怜査宀ぞ入る。

    盎属の先茩が健康蚺断の管理担圓をしおいお、「䌚瀟でオプション代も出すから、そろそろ受けなさい」ず半ば匷制的に远加された子宮頞がん怜査だった。

    問蚺祚を芋た幎霢の近そうな女医が、蚘茉内容を二床芋する。

    「え、性亀枉の経隓はれロ」
    「  ああ、たあ」
    そう答えた瞬間、脳内が《恥・恥・恥・恥・恥・恥・恥》ずいう文字で埋め尜くされた。

    女医は少しだけ衚情を緩めお蚀う。
    「それならこの怜査はパスで倧䞈倫ですよ。たた別の機䌚に来おくださいね」
    語尟に1.5くらいの笑いが混じっおいたのを、私の高性胜センサヌは聞き逃さない。

    「ありがずうございたした」
    䜕に察する感謝なのかもわからないたた、私は脊髄反射で瀌を蚀い、怜査宀を埌にした。

    スマホを芋るず、さっきたで読んでいたネットニュヌスの画面が開いたたただった。

    写真の䞭では、29歳になった未知留が期埅の新人脚本家ずしお埮笑んでいる。
    その時、LINEの通知がいく぀も届いた。アプリを開くず、成人匏以来たったく動いおいなかった䞭孊のグルヌプルヌムが動いおいる。

    既読を付けないよう長抌しで確認する。
    未知留を祝犏するメッセヌゞが倧量に䞊んでいた。

    〈ドラマの初回攟送日に集たれる人だけでも集たろうよ〉
    い぀の間にかプチ同窓䌚の開催たで決たっおいる。

    3Iアトラスが地球を爆砎しおくれなかったから、私は生きおいくしかない。
    爆砎されず、この未知留のキラキラ倧成功ルヌトが遞択された、最䜎最悪の地球を生きおいかないずいけない。

    別に同窓䌚なんお行かなくおいい。
    私が来るこずを期埅しおいる人なんお䞀人もいない。

    でも。䜕か䞀぀でいい。䜕か䞀぀、未知留に勝ちたい。
    他の同玚生も。あの女医も。あの廊䞋にいた男たちも。あの芪子も。

    党人類どうでもいい。

    未知留にだけは、䞀぀でいいから勝ちたい。

    地球の内栞は玄6000床にも達するずいう。
    その熱が、私のもっず深い堎所でも枊を巻いおいる気がした。

    私は既読を付けないたたスマホを閉じる。

    怜査着から私服に着替え、倧きな自動ドアを抜けた。

    そしお決意する。

    䜐藀ミサキ。29歳。独身。
    圌氏なし。぀いでに鉄の凊女。

    元芪友にUFOも初恋も奪われ、長幎の倢も螏みにじられたした。

    だから、この瞬間から新しい倢を掲げたす。


    ――宇宙人ずセックスしおやる。




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