
親子の会話を増やしたい。音の出るおもちゃより絵本で親の言葉が1.7倍【論文を読む②】
夕方、ごはんの支度をしているあいだ。ボタンを押すと光って歌が流れるおもちゃを渡すと、子供はしばらくそこから離れません。動画をつけることもあります。
そのあいだ、正直ほっとしています。手が空く。そして少しだけ、うしろめたい。
子供ともっと話したい。親子の会話を増やしたい。そう思ってはいるんです。「赤ちゃんにはたくさん話しかけて」とも言われます。でも一日じゅう向き合っていたら、こちらがもちません。一人になれる時間がほしい。その気持ちも消せません。この2つは、どちらかを選ばないといけないのでしょうか。
知育玩具の選び方を調べても、なかなか決めきれません。音の出るおもちゃは良くないと書いてある記事もあれば、知育効果があると書いてある記事もあります。
ひとつ、気になっていたことがあります。おもちゃの種類によって、親が子供にかける言葉の数は変わるのだろうか。もし変わるなら、話す内容をひねり出さなくても、手元にあるものを変えるだけで会話は増えることになります。
しゃべるのは、もうおもちゃに限りません。話しかけると答えるスピーカーも、珍しくなくなりました。AIに宿題まで任せられる時代に、子供が自分で考え、自分の言葉で返す機会をどう残すか。6歳・4歳・1歳の父として、ずっと気になっている問いです。
この記事は、シリーズ【論文を読む】の2回目です。研究の世界で分かってきたことを、子供の考える力を伸ばす育児に役立てたい。そう思って、論文を1本ずつ読んでいます。難しい言葉はなるべく使わず、使うときは言い換えます。何が分かったか、何がまだ分からないかは、混ぜずに書きます。
そのうえで、この記事には私の解釈や推測を多く含みます。論文に書いてあることと、私がそこから考えたことは、そのつど分かるように書き分けます。
最初の疑問に近いところを、実験で確かめた研究があります。
おもちゃの種類で、親子の会話は変わるのか|音の出るおもちゃ・昔ながらのおもちゃ・絵本を比べた実験(親子26組)
2016年に小児科の専門誌に載った、アメリカの実験です。2013年2月から2014年6月に行われ、対象は生後10〜16か月の赤ちゃんとその親、26組。それぞれの自宅で、1回15分ずつ遊んでもらいました。
おもちゃは3種類です。
電子おもちゃ:光ったり、音や言葉が出たりするもの。この記事で「音の出るおもちゃ」と書いているのは、これのことです
昔ながらのおもちゃ:電池も電子部品も入っていないおもちゃ。積み木や型はめ、ブロックのようなものを思い浮かべてください
絵本
同じ親子が3種類すべてで遊ぶので、子供ごとの個性の差が混ざりにくく、おもちゃによる違いを比べられます。
数えたのは、1分あたりの次の5つです。
大人が話した言葉の数
そのおもちゃならではの言葉の数
赤ちゃんが声を出した回数
親子のやりとり(言葉の行き来)の回数
親が赤ちゃんに応えた回数

親がいちばん話したのは、3つのうちどれだったと思いますか。夢中になれる電子おもちゃのほうが、話しかけるきっかけも多そうです。
電子おもちゃのとき、大人の言葉がいちばん少なかった
どれも1分あたりの数字です。
大人が話した言葉:電子おもちゃ 39.62語 / 昔ながらのおもちゃ 55.56語 / 絵本 66.89語
そのおもちゃならではの言葉:電子おもちゃ 1.89語 / 昔ながらのおもちゃ 4.09語 / 絵本 6.96語
赤ちゃんが声を出した回数:電子おもちゃ 2.9回 / 絵本 3.91回
3つとも、電子おもちゃがいちばん少なく、絵本がいちばん多い、という同じ並びでした。赤ちゃんが声を出した回数だけ、昔ながらのおもちゃの数字が論文の冒頭の要約に載っていなかったので、空けています。
いちばん上の行を見てください。39.62語と66.89語。絵本のときは、電子おもちゃのときのおよそ1.7倍です。しかも、比べているのは別の親子ではありません。同じ親子が、3種類すべてで遊んでいます。同じ人が、手元にあるものが変わっただけで、これだけ違っていたということです。

残る2つも同じ向きでした。電子おもちゃのときは、親子のやりとり(1分あたり1.64回)も、親が赤ちゃんに応えた回数(1.31回)も、ほかの2種類より少なかったそうです。研究者は、電子おもちゃのときは赤ちゃんに届く言葉の量が少なく、質も低い傾向があった、とまとめています。
ここで、私が引っかかったのは「質も低い」のほうでした。量が減るのは想像がつきます。でも、残った少ない言葉まで、中身が薄くなっていた。手が空いているかどうかの話ではなさそうだ、と思いました。
ここで、もう1つ大事な行があります。読み聞かせをしない昔ながらのおもちゃでも、親の言葉は電子おもちゃより多い(55.56語)。1歳前後の子と遊ぶその場に限った話ですが、絵本を開けない日にも、打てる手はありそうです。
なぜ、おもちゃがしゃべると親は黙るのか
この節は、数字を見て私が考えた説明です。研究は原因までは確かめていません。
1つは、おもちゃが、親のセリフを先に言ってしまうからではないかな、と感じています。
黙っている型はめなら、子供が丸を入れた瞬間に言葉を足すのは親です。「まるだね」「入った」「じょうず」。ところが、はめると「まる!」と鳴るおもちゃだと、そのセリフは、もうおもちゃが言ってしまっています。
親は、言うことがなくなる。気まずくなって黙るのではなく、言う必要がなくなるから黙るのです。そのおもちゃならではの言葉がいちばん少なかった(1.89語)のも、これで説明がつくように思えます。
もう1つは、順番です。
赤ちゃんが「あー」と声を出す。親が応える。また赤ちゃんの番を待つ。会話とは、この順番の交代のことなのだと思います。まだ言葉を持たない赤ちゃんでも、この交代はできます。
ところが電子おもちゃの音は、赤ちゃんの番を待ちません。鳴りたいときに鳴る。親もその音にかぶせては話しにくい。
交代の順番に、割り込んでくる相手がいる。やりとりの回数(1.64回)と、親が応えた回数(1.31回)がいちばん少なかったことにも、つながる気がします。
3つ目は、時間の取り合いです。ここだけ、調べている対象がテレビに変わります。2006年の別の調査では、テレビをよく見る子ほど、とくに5歳未満で、創造的な遊びの時間が短い傾向がありました。ただし、ある時点の暮らしを切り取った調査です。もともとそういう遊びをしない子がテレビに向かった、という逆の順番もありえますし、データも1997年のものです。
それでも、1日の時間は限られています。おもちゃがしゃべっている時間が、親がしゃべるはずだった時間を少しずつ削っている。そんな見方もできそうです。
音の出るおもちゃは、良い?悪い? 研究から言えることの範囲
ここまで読んで、おもちゃ箱を片づけたくなった方がいるかもしれません。でも、この実験から言えることは、思ったより狭いです。
26組の小さな実験です。ほかの研究で同じ結果が出たかは、確認できていません
対象は生後10〜16か月の赤ちゃんです。幼児や小学生に当てはまるかは、推測になります
測ったのは、その場の言葉のやりとりの量と質だけです。電子おもちゃで何かを学べるか、長い目で見て発達にどう影響するかは、調べていません
言いかえると、この研究が見ているのは「その15分間に、親子のあいだで言葉がどれだけ行き交ったか」です。おもちゃの良し悪しを判定した研究ではありません。
では、もっと広く見た研究はどうでしょう。近い話題に、2023年の大きな研究があります。ただし調べているのは電子おもちゃではなく、画面(テレビ・タブレット・スマホなど)と子供の関わり——いわゆるスクリーンタイムです。
「たくさんの研究結果をまとめて分析した研究」を、さらに102本集めて整理したもので、もとをたどると2,451本の研究、参加者は約194万人。結論は、良い方向の傾向も、悪い方向の傾向も見つかったけれど、その差はどちらも総じて小さい。何をどう使うかで向きも変わる、とされています。調べたのは画面で、電子おもちゃそのものではないので、そのまま当てはめることはできません。未就学児から小学生に絞った差の大きさも、確認できていません。
2つを並べると、こう読めます。電子おもちゃを渡した15分は、親子の言葉が少なめだった。でも、画面との関わり全体で見れば、良い悪いを決めつけるほどの差は出ていない。
だから、音の出るおもちゃに頼る夕方があっても、大丈夫。それだけで何かが決まってしまうわけではなさそうです。
この記事は「やめましょう」という話ではありません。手が空く時間は、親にとって必要なものです。変えられるとしたら、おもちゃそのものではなく、そこに親の言葉をどう足すかのほう。では、何ができるでしょう。
しゃべる機械が増える時代に、親の側に残したいこと
この実験の結果は、私の家のやり方ともぶつかります。うちでは長男(6歳)が組んだブロックの車を、生成AIで動画にしています。しゃべっているのは機械です。
うまくいかなかった回もあります。車が「速くしてくれたらうれしいな」と話すだけの動画では、長男はじっと画面を見て、無言のまま、ブロックに戻りませんでした。長男が自分から車を直し始めた日とは、逆でした。どちらの日も、以前の記事に書きました。
分かれ目は、機械がしゃべったかどうかではなく、見終わった長男の側に手を動かす続きが残っていたかどうか。いまは、そんな気がしています。ただ、最初の実験はAIの動画を調べていませんし、動画が流れているあいだは親子の言葉が減っていることもありそうです。うちでは、見る時間と作る時間を分けています。
絵本の読み聞かせの効果は、読み方で変わる?|抑揚をつけて語られた子のほうが覚えていた
ここで、今回いちばん驚いた実験を紹介させてください。2017年のもので、平均5歳前後の子供45人が参加しています。
ロボットが子供に物語を聞かせます。条件は2つだけ。
抑揚をつけて、気持ちを込めて語る
合成音声のように、平坦に語る
同じ物語です。読み手はどちらもロボット。違うのは、語り方だけ。
結果を見る前に、1つ知っておいてください。子供に「楽しかった?」と聞くと、どちらの条件でも同じくらい「楽しかった」と答えました。
つまり、子供の反応からは、差が見えないということです。
それでも、残ったものは違いました。気持ちを込めて語られた子のほうが、物語を詳しく話し直せて、出てきた言葉もよく覚えていた。しかも4〜6週間たってからも、長く語れたそうです。
ここが、私には効きました。
正直に書きます。私は、絵本を適当に読むことがあります。早く寝てほしい日は、抑揚も表情もないまま、字面だけを追って終わらせる。子供は「もう1回」と言うので、それで足りていると思っていました。
でもこの実験を読んで、「楽しかった」は、何の合図にもなっていなかったのかもしれないと思いました。子供が笑っていても、残っているものは違っていた可能性がある。ロボットですら、語り方でここまで差が出たのですから。
⚠️ 断っておくと、これはロボットの実験です。親の読み聞かせで同じことが起きるかは、この研究では確かめられていません。測ったのも物語の覚え方だけで、遊びの続きや創造性は調べていません。AIに読ませた場合のことも、もちろん分かりません。
それでも、同じ本を、同じ時間だけ読んでも、こちらの声の出し方で残るものが変わりうる。その可能性を知ってしまうと、もう適当には読めなくなりました。
以下は、私個人の気持ちです。
しゃべる機械が増えるほど、子供には「言葉を返してくれる相手」と「返事を待ってくれる相手」が要るのだと思います。機械は、いつでも同じ調子で読んでくれます。疲れていても、平坦になりません。でも、抑揚をつけるかどうかを選べるのは、親のほうです。子供が自分で言葉を探す数秒を、家の中に残しておけたら、と願っています。
親子の会話を増やしたい日の4つの工夫|音の出るおもちゃは片づけなくていい

全部やる必要はありません。どれか1つ、1日に5分でも足りると思っています。どれも研究そのものが確かめた方法ではなく、結果をもとにした私の工夫です。研究に近い順に並べました。
音の出るおもちゃは片づけないまま、絵本の読み聞かせか、しゃべらないおもちゃで一緒に遊ぶ時間を足す。絵本が苦手な子なら、昔ながらのおもちゃでも構いません。最初の実験の研究者が、電子おもちゃの代わりとして挙げているものです。「何を話しかければいいか分からない」ときほど、この順番が楽です。話題を考えるより先に、手元のものを変えるだけなので。
出しておくおもちゃの数を減らす。2018年の実験では、1歳半〜2歳半の子供36人で、おもちゃが4個のときは16個のときより、1つのおもちゃで遊ぶ時間が2倍ほど長く(平均119秒と57秒)、遊び方の種類も多めでした(平均11通りと7通り)。測ったのは遊びの続き方で、創造性のテストはしていません。目移りする先が減ったぶん、親が言葉を足す間も生まれやすくなりそうです。
電子おもちゃで一緒に遊ぶときは、音が鳴ったあと、子供が声を出すか手を動かすまで少し待ってから話しかける。音を切れるなら切って、鳴るはずだった言葉を親が言ってみるのも手です。
話しかけると答えるスピーカーやおもちゃがあるなら、音量を少し下げてみる。機械の声が小さいほうが、親の声が届きやすくなります。
ここから先は、研究ではなく私の選び方です。実験で使われた絵本やおもちゃとは別のもので、これらが研究で確かめられたわけでもありません。
絵本を選ぶなら、間(ま)が長いもの|『いないいないばあ』
この論文と相性がいいのは、読み手が黙る時間が作れる絵本だと思っています。
『いないいないばあ』(松谷みよ子・文/瀬川康男・絵、童心社)が、その代表です。「いないいない」で一度止まる。ページをめくるまで、何も起きない。この数秒が、実験でいちばん言葉が多かった「絵本の15分」の正体なのかもしれません。
そして、読み手にとって楽です。セリフが決まっていて、考えなくていい。「何を話しかければいいか分からない」という日でも、開けば言葉が出てきます。1967年に出た本で、いま手に取れる絵本のなかでは最も古い部類に入ります。それだけの期間、親たちがこの「間」を使ってきたということでもあります。
対象は0・1歳から。実験の子(生後10〜16か月)とちょうど重なります。

絵本を読めない日は、音も光も出ないおもちゃを
絵本を開く気力がない日もあります。うちもそうです。
そういう日に手元にあると助かるのが、音も光も出ないおもちゃです。実験で2番目に言葉が多かったのは、この「昔ながらのおもちゃ」でした。絵本を開けなくても、電子おもちゃより16語ぶん多い(1分あたり55.56語と39.62語)。
型はめや鍵あけが1つの木箱にまとまったものがあります。ふたを開けて渡すだけ。電子音も光も出ないので、「まるだね」「入るかな」「あ、そっち?」と言葉を足すのは親の側になります。このおもちゃは、親が黙っていると何も起きません。
不便に見えますが、その不便が、親の口を開かせているのだと思います。
どちらも、機械が先に喋らない道具です。子供が声を出すまで、待っていてくれます。
しゃべる機械は、これからも家の中に増えていくでしょう。AIを排除するのではなく、好奇心を駆り立てる仲間として、使えたらいいですよね。ただ、子供のひと言を受け取り、言葉を返し、次のひと言まで待つ役は、親の側に残しておきたいですね。AI時代の考える力は、そういうやりとりの中で育っていくのだと思うんです。
会話を増やすことと、一人の時間をつくること。この2つは、たぶん二択ではありません。渡すものを変えれば、同じ15分のなかで両方が少しずつ動きます。
次に子供と遊ぶとき、絵本を1冊か、音の出ないおもちゃを1つ、あいだに置いてみてください。
参考文献
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