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【小説】迷い猫 

    慎野た぀き

    話  マガゞン  話

    

     茉莉は桁の数字を芋぀めた。
     䜕故、最初にこの違和感に気付かなかったのだろう。普通、自分の飌い猫に数字など぀けるだろうか。
     これは䜕かを指し瀺す番号に違いない。

     ヒントがあたりにも少ない䞭、ずりあえず茉莉はその桁の数字を怜玢しおみた。䞖の䞭の様々な商品番号などがヒットし、もちろん䜕の参考にもならない。
     続いお「猫 103568」ず怜玢しおみる。こちらもペット甚品などがヒットした。

    「そんなにうたくはいかないか」

     茉莉は友梚䜳に連絡をした。
     動画配信者からきたメッセヌゞを転送するず、友梚䜳からすぐに電話がかかっおきた。

    「やばくない」

     譊察に通報する、の郚分を友梚䜳は䞍安がっおいる。い぀もの少々匷匕でポゞティブな友梚䜳らしからぬ様子が電話越しに䌝わる。

    「明日、病院のあず譊察にも届けようずは思っおた」
    「いや、そういうこずじゃなくお。あんな男でも本圓の飌い䞻の可胜性もれロではないじゃない あんたり考えたくないけど、虐埅するために動物を飌う人だっおいるっお聞いたこずあるし。
     盞手が本圓の飌い䞻だった堎合、確かにうちらの行動は窃盗か䜕かにあたるんじゃない」

     茉莉は抌し黙った。
     盞手が䞻匵するずころの「所有暩」を実際に有しおいるずしたら、自分たちの行動は䜕らかの眪に問われるのかもしれない。
     動物を虐埅するために飌育しおいるずいった話も聞いたこずがある。目の前にいるずろろがそのような目に遭っおいたら、ず考えるだけで悍おぞたしさが身䜓を駆け抜ける。

    「友梚䜳の蚀っおるこずは分かるよ。でも、ずろろに぀いおた緑のタグ、よく芋たら桁の数字が印字されおいるの」
    「  桁の数字 なにそれ」
    「ヘンだず思わない 飌い猫に名前じゃなくお数字なんお぀ける 携垯番号なら11桁だし」
    「  確かに」

     ずろろが䜕かに巻き蟌たれおいる気配を感じ取りながら、理由も分からずあの粗暎な盞手に返すこずは出来ないずころたで茉莉はきおしたっおいた。
     数秒、お互いに沈黙した。
     その埌、声を発したのは友梚䜳のほうだった。

    「わかった。でもさ、無茶しないでね」

     友梚䜳ず電話を切ったあず、茉莉は翔倪の郚屋をノックした。銖茪のタグに番号があるこずを芋぀けたず䌝えるず、翔倪も芗きにきお眉間に皺を寄せた。

    「この番号だけじゃ分からねヌな。うヌん。
     なんかネットオヌクションずか いずれにしおも商品番号っぜいよな」
    「オヌクションっお  売られおた猫っおこず」
    「もしくは普通のペットショップずかじゃない正芏倖のルヌトずか」

     正芏倖のルヌト  。䜕にしおも人間の゚ゎしか感じられない。
     茉莉はずろろを起こさないようにそっず手を眮いた。

    「友梚䜳は、あの粗暎な人が本圓の飌い䞻で虐埅ずかしおる可胜性もあるんじゃないかず蚀っおた」
    「姉に久々に出来たお友達の友梚䜳さんね」
    「うるさいな  」
    「虐埅されおるように芋えないけどなぁ。人に懐いおるし」
    「だず  いいけど」
    「たぁ、なんか気づいたら教えおやるよ」

     盞倉わらず口だけぶらっきがうな翔倪が自宀に戻るず郚屋の䞭には再び静寂が拡がった。

     違法な飌育環境のブリヌダヌがいるずいう報道を芋たこずがあった。ああいうブリヌダヌはどこぞ動物を流すのだろう。虐埅にしろ違法にしろ、い぀も犠牲になるのは動物のほうだ。
     茉莉の生掻にほずんど関わっおこなかった卑劣な実態が目の前にあるように思えおならない。

     確かに翔倪の蚀うように、ずろろの醞し出す穏やかさは、虐埅や違法行為ず無瞁のように思える。茉莉にずっおずろろずの二日間は日々の〝心のささくれ〟が気にならなくなるような䞍思議な実感があった。生き物がここたで自分を癒しおくれるず思っおいなかった。

     茉莉には些现なきっかけで叀い蚘憶がフラッシュバックするような感芚がしばしばやっおくる。〝心のささくれ〟のようなそれは、茉莉においおは付き合っおいかなければならない自らの習性のようなものだ。
     昌間、高校の同玚生でもある久矎に久しぶりに䌚った時もフラッシュバックが起きた。

    ——友達だず思っおたのに、そんなこず蚀うんだね

     自分が他人の感情を人よりも受けやすい性質だず気づいおから、茉莉は人ずの関わりに䞀定の距離を保぀ようにしおきた。誰かず深く関わればそれは必然的に〝解っお〟したうのだから、他人ずの関係性を緩くしおいれば、知らないふりをしお生きるこずが出来る。

     だがそれでも、感情は止めようもなく動くし、䞖界は茉莉の感性を刺激する。心は感動や喜び、面癜さを枇望するし、そういったものが䞀切ない䞖界で生きおいくこずは出来ない。

     だから茉莉が俳優である藀代巧の掻動を远いかけるこずに没頭したのも自然な流れだった。もちろん、茉莉はいわゆる〝隠れオタク〟で、衚にそのこずをあたり出さずにいたのだが、ちょっずしたグッズをスクヌルバッグに付けたりするこずはあった。

     高校のクラスである日、久矎が話しかけおきたこずがあった。

    「山本さん、それ、藀代巧 奜きなの」

     久矎は、䞊映䞭の映画をたたたた芋たらしく「挔技力あるしカッコいいよね」ず続けた。それ以来、たたに藀代巧の話で声をかけられるようになった。

     茉莉も自分の奜きな俳優の話題は楜しく、圓初は声をかけられれば喜んで応じおいたし、自分からも話しかけるこずもあったが、次第に違和感を芚えるようになった。
     久矎は藀代が奜きずいうより、藀代の話題を口実に自分に声をかけるこずを目的ずしおいるニュアンスがあった。話しかけられお応じおも、それ以䞊話題の展開はない。倩気の話題でも話しおいるようだった。
     もちろん䞀蚀に奜きずいっおも、深さや感床は人それぞれだが、ドラマや映画の感想を嬉々ずしお話す茉莉を芋お、圌女が少し匕いたように嗀うこずさえもあった。
     もっずも久矎は䞊手に話をしおいた。茉莉で無ければこの違和感に気が぀かなかったかもしれない。

     共通の話題が出来る友人が欲しいのかずも考えたが、茉莉に話しかけたりしなくおも、久矎はクラスの䞭で比范的茪の䞭心にいるタむプであったし友人も倚くいた。

     䜕を目的ずしお自分に話しかけおくるのかよく分からないたた、茉莉は心の距離を少し取りながら、かずいっお無䞋にも出来ず声をかけられれば応じるようになっおいった。

     ある日、クラスでの他愛もない䌚話の䞭で圌女が蚀い出した。

    「私、最近芳劇が趣味で、たたに舞台ずか芳にいっおるんだ」
    「え、そうなの」
    「掚しの俳優がいるの。藀代巧。知っおる」
    「あヌなんかたたに芋かけるかも」
    「これから売れる実力掟だず思うよ。山本さんず掚し友なんだ。ね」

     急に自分に向けられた目線に、茉莉は少し動揺した。
     突然そのような話を始めた経緯も理解出来なかったし、圌女が藀代の舞台を芳に行ったこずがあるのは初耳だった。
     圌女は茉莉ず自分がい぀も共に映画に行ったりむベントぞも行ったりしおいるず蚀い出した。舞台どころか映画ですら䞀床も行ったこずなどなかった。誘ったこずもあったが圌女はのらりくらりず躱すだけだったのだ。

     なので、茉莉は思わず蚀っおしたった。

    「いや、でも。䞀緒には䞀床も行ったこずはないよね」

     その瞬間教宀内がシンずした。
     茉莉の背䞭にじわっず汗が぀たう。
     あ、ミスったな。
     そう察したずきには、無蚀のたた茉莉を芋る久矎の芖線は䟮蔑に満ちおいた。

    ——友達だず思っおたのに、そんなこず蚀うんだね

     垰り際、䞋駄箱でそう蚀われた。
     埌から気が぀いたこずだが、久矎は単に芳劇などを趣味ずする自分を呚囲に芋せたかっただけで、茉莉にはその話にうたく合わせおくれる圹回りを期埅しおいたのだ。

     それ以来、教宀の䞭にいるのが苊痛になっおきた。
     茉莉のこずはおそらく裏であれこれ蚀われおいるのだろう。「映画もむベントも䞀緒に行ったのに、行っおないこずにされた」そんな話が流れおいる空気が茉莉の呚囲を濃く支配した。
     昌䌑みが特に苊痛で、䞀緒に匁圓を食べおいた友人たちもい぀の間にか離れおいった。

     昌ごはんを䞀緒に食べる友人がいない。
     呚囲が同情か憐れみか䜕らかの感情で茉莉を芳察しおいるこずが分かる。誰も盎接、あの出来事は本圓はどっちが正しかったのかなどず確認しない。

     友梚䜳はクラスが違ったが、久矎ずはあの頃から芪しかったはずだ。

     

     すやすやず眠っおいたずろろが、少し動いた。意識を珟実ぞ戻した茉莉は再びスマヌトフォンを手に取った。

     「違法 ブリヌダヌ」ず怜玢をした。ずろろのこずは明日譊察に盞談にいくのが䞀番のように茉莉は思い始めおいた。だが、䜕かをしおいないず気が萜ち着かないのだ。

     保護猫や虐埅された猫を支揎しおいる掻動家のブログを発芋した。飌い始めたものの様々な事情で飌えなくなったり、病気になっお手に負えなくなっお手攟したりずいうケヌスもあるようだった。
     䞭には、こんなにお金がかかるず思っおいなかった、ずいっお棄おる人もいるようだ。いずれにしおも無責任すぎる。

     掻動家のブログを読み進めおいるず、保護団䜓を停装した悪質業者がいるずの蚘事に行き぀いた。厇高なる目的をもっお動物を保護しおいるように芋せかけお実態は寄付金を目的ずしおおり、動物はその〝消費される商品〟ずいう䜍眮づけで、譲り受けられた動物たちを過密飌育し、䞍衛生な状態で死なせおしたったりなどの事䟋もあるず思う。

    ——ペットオヌクション䌚堎での売れ残りや匷盗や窃盗などで䞍正に入手した安䟡な犬猫たちを、善良な人の心ぞ蚎えかけアピヌルし、無知な人々から䌚費や寄付金ずしお搟取する

     匷盗  ず茉莉は考えた。匷盗で生き物が盗られるこずもあるのか。

     ふいに、立川駅ぞ向かう途䞭の電車内で芳たニュヌスの動画を思い出した。

    ——ご䞻人が亡くなっおからはお独りだったんじゃないかしら。最近は猫ちゃんがいたはずだったけど  。可哀盞ねあの猫䜕凊ぞ行ったのかしら。

     猫、倱螪、八王子での事件  。
     たさか  。いや、䜕を考えおいるんだ。
     茉莉は銖を振った。
     吊定する気持ちず裏腹に、手はたた件くだんの匷盗殺人を怜玢し始めた。様々な情報があふれる䞭で、ある蚘事に茉莉の県は吞い぀けられた。
     資産家の老婊人の家に出入りしおいたデむサヌビスの担圓者だずいう。

    ——被害者である遠藀いずさん宅に蚪問介護で出入りしおいた優子さん仮名は「本圓に、犯人が蚱せたせん」ず唇を震わせる。

     い぀も気品がありずおも穏やかな方で、私たちにも優しく接しおくださいたした。ご䞻人が亡くなられおからお独りでしたが、あの埡歳の方にしおはしゃんずしおお元気でした。
     あんな優しい方を䜕床も痛め぀けるように殎ったず聞いおずおも蚱すこずができたせん優子さん

     猫がお奜きで「身内がいないから寂しいのよ」ずいっお猫ちゃんを飌われおたした。亡くなる盎前も可愛い猫を飌っおらしお  。ご芪族の方に聞いたら、その猫も居なくなっおしたったずのこずで心配しおいたす。
     癜の範囲が倚いんですけど䞉毛猫になるようで、「この猫こちょっず貎重らしいのよ」ず笑っおおられたした優子さん

     癜の範囲が倚い䞉毛猫  。
     たたも目の前のずろろず笊合するこずが芋぀け出されおしたった。偶然にしおは出来すぎおいるのではないか。

     茉莉はブラりザを閉じた。これ以䞊、この事件を远いかけお䞀䜓䜕になるのだろう、ず考えた。䜕より昚倜に続き疲劎がマックスずなっおいた。そのたた暪になるずい぀の間にか眠りに萜ちた。


     翌朝、友梚䜳からの電話で目を芚たした。

    「茉莉、みた」
    「え、なに」
    「゜ヌシロ動画 うちらのこず配信しおる」

     茉莉は電話を切るず、すぐさた゜ヌシロのチャンネルにアクセスした。
     するず「窃盗 暪領『拟ったから私たちのもの』ずいう呆れた理屈で、飌い猫を奪われおしたった話」ずいうタむトルで、朝から゜ヌシロが生配信をしおいた。

    〔先日、このチャンネルで皆さんに情報提䟛を求めた知人の飌い猫に぀いお、由々しき事態になっおいるので、どうか皆さんに助けおほしいず思いこの動画を配信しおいたす〕

     芖聎しおいる間にもどんどん芖聎数のカりントが䞊がっおいく。

    〔保護しおくれた方が芋぀かっお喜んだのも぀かの間
     翌日、飌い䞻の知人が埅ち合わせ堎所にいったのに、その女子倧生たちは猫を持っおその堎から逃走したずいうのです。理解できない事態に知人は困惑し、私に助けを求めおきたした。
     私はすぐさたその女子倧生に連絡を取りたした。
     するず 驚きの返答が返っおきたのです
    『あなたの知人が飌い䞻だず蚌明するものはありたすか』
     信じられたすか
     たるで、『拟った私たちのもの』だず蚀わんばかりのこの蚀い草。
     はっきり蚀いたすが、これはれっきずした所有暩の䟵害で堎合によっおは損害賠償を求める所存です〕

     ゜ヌシロはそのあずも、茉莉や友梚䜳の特城などを配信しおいた。メヌルアドレスたでは晒されおいなかったが、近隣の女子倧孊生であるこずや二人組のこずなどを捲し立おる勢いで語っおいる。

    〔最埌に
     女子倧生たち この動画をみお少しでも眪悪感を感じるなら早急に僕に連絡をしおきおください。
     玠盎に謝れば今ならただ知人は蚱すず蚀っおいたす。いやぁ優しすぎたすよね
     
     動画芖聎の皆さん、僕たちは本件に懞賞金をかけるこずにしたした。
     いた写真の出おいる特城の猫を連れた女子倧生を芋぀けたら連絡を欲しいです
     どうかお願いいたしたす〕

     ゜ヌシロはその埌も同じ内容を繰り返し配信しおいた。
     茉莉は劙に冷静な心境でそれを芋぀めた。盞手が倧暎れすればするほど、違和感しか募らなかった。友梚䜳ぞコヌルバックした。

    「芳たよ。やっぱりずろろのこずは譊察に盞談しおみようず思う。届が出おいるか調べおもらう。本圓にあの人が飌い䞻で届が出おれば分かるはず」
    「倧䞈倫かな  」
    「  友梚䜳、今日授業は」
    「䞉限あるからいくよ」
    「私は授業がないんだけど  。匟がずろろのこず芋れそうっおいうから、その  盎接話できないかな   譊察に届ける前にちょっず盞談したいこずがあるんだ。テラス垭いっおもいい」

     通話がしばし無音になった。おそらく友梚䜳は茉莉が自ら䌚いに来るこずを驚いおいるのだろうず茉莉は思った。
     それは䜕より茉莉自身が驚いおいる。
     ゜ヌシロの動画配信を芳なければ、こんな匷い気持ちを自芚するこずもなかっただろう。
     今、最優先するべきはこの猫こが䞍幞な目に遭わないようにするこずで、そのために友梚䜳の協力が必芁だず考えた。

     お目芚めのずろろは、ごはんはただかずいった感じでこちらを芋䞊げる。

    「いたご飯あげるね。ずろろのこずは絶察護るよ」

    ぀づく

    話  マガゞン  話

     
     
     
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