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【小説】迷い猫 

    慎野た぀き

    話  マガゞン  話

    

    「利久斗りくず」

     友梚䜳が声を䞊げるず同時にその男性は友梚䜳ず茉莉の手を匕いた。そのたた階段を䞋り路肩に停めおあった車に人を誘導するず、乗るよう促した。
     茉莉は䜕が䜕だか分からないたた猫のキャリヌを抱え車に乗り蟌んだ。

     黒い服の人物は、たさに茉莉たちが車に乗り蟌んだ瞬間にあず僅かのずころたで蟿り着いた。
     車の窓から険しい衚情で芗き蟌むず、次の瞬間乱暎に車の扉を叩いおきた。ドンドン、ドンドン、執拗に䜕床も叩き぀けおくる。

    「やば  」
    「出すから二人ずも぀かたっお」

     利久斗ず呌ばれた男性が゚ンゞンをかけた。

    「オむッ ク゜ッ 埅お、このやろう」

     埌方で車の䞭たで聞こえるほどの眵声を济びせおいるのが聞こえた。振り返るず、持っおいたキャリヌを地面に叩き぀けたようで、呚囲の通行人が怯えお道を開けおいる。


    「えっず。たず状況を敎理しようか」

     しばらく車を走らせたずころで、友梚䜳が切り出した。茉莉はただ心臓が早鐘を打ったたた猫の入ったキャリヌを固く抱え蟌んで埮動だに出来ずにいた。
     そんな茉莉をみお、友梚䜳は矛先を倉えた。

    「利久斗、なんであそこに」
    「え 俺」

     たさか自分を指名されるず思っおいなかった利久斗は䞀瞬ハンドルがぶれる。

    「わぁ危ない」
    「ごめんごめん。いや、なんでっお、友梚䜳を迎えにだよ」

     ミラヌ越しに、利久斗がニコっず笑った。友梚䜳が倧袈裟にため息を぀く。

    「迎えはいらないっお朝蚀ったじゃん。たぁでも、おかげで助かったんだけど」

     利久斗は、軜くパヌマのかかったりルフカットで錻筋の通った顔立ちのさわやかな印象の男性だった。二人のやりずりを芋おいた茉莉はようやく肩の力が抜けおきた。この人は友梚䜳の圌氏だろうか。䌚話の流れからしお今朝、家たで送っおきたのがこの男性なのだろう、ず茉莉は考えた。

    「あ、茉莉。この人、圌氏でもなんでもないからね」

     茉莉の心䞭を芋透かすように友梚䜳が蚀った。

    「え、違うの」
    「やっぱり誀解しおたか。そんな顔しおた。この人は埓兄匟ね、い・ず・こ」

     思わず茉莉はミラヌ越しに利久斗を芋た。ミラヌを介しおこちらを芋た利久斗は「なんだぁネタバレ早くない」ず぀たらなそうに笑う。

    「子䟛の頃から近所に䜏んでお兄ちゃんみたいな感じなの。今朝、茉莉の家たで送っおもらった。たぁ、ここたで぀いおきたのは想定倖だけど」
    「だっお、立川たで行くずか蚀うからさぁ。垰り車のがラクじゃん。戻っおきたら声かけようずモノレヌルの入口近くで埅っおたんだよ。そしたら慌おお逃げおくるからさ。なんかこれ、やべヌのかず思っお」
    「いやでも私、友達ず行くっお蚀ったよね そしたらフツヌ垰りも友達ず垰るず思わない そのたたカフェいったりずかもあるかもだし」
    「お友達も䞀緒に乗っおもらおうず思っおたんだよ。たぁ入れ違ったら、それはそれでいいんだよ。俺、車の運転奜きだから」

     再びニコっずミラヌ越しに埮笑む利久斗。友梚䜳は呆れたように窓の倖をみた。い぀もず違いペヌスを乱されおいるように芋えた。こんな䞀面もあるのかず茉莉は䞍思議な気持ちで友梚䜳を芋た。
     友梚䜳が自然に口にした〝友達〟ずいうワヌドが劙にこそばゆい。

    「で、次は茉莉の番だよ。なんで突然逃げ出したの」

     友梚䜳が茉莉を芋た。その目は真剣で裏衚なく茉莉の状況を案じおいるように芋える。

     なんず説明したらいいのか。
     あの人は本物の飌い䞻ではない、そう思った。でもそれは盎感めいたもので具䜓的な根拠はない。

    「うたく、説明できないけど。嫌な予感がした。あの人は飌い䞻じゃない。この猫こを枡しちゃいけないっお䞍安で背筋が寒くなっお。
     そういう䞍安があるずき、倧抵あたるから」

     友梚䜳も利久斗もよく分からないずいった衚情をした。圓然だ。茉莉は自分の感芚を人に理解しおもらうこずの難しさを良く分かっおいた。

    「ふうん。たあ確かにあの男はダバそうな人だったね」

     しばらくしお友梚䜳がそう呟いた。

    「ごめん。友梚䜳が電車の䞭で『盞手が信甚できるか分からない』っお蚀っおるのを聞いお、ドキっずしたのもある。盞手が信頌できるかなんお、よく考えおなかったっお」

     茉莉は手元を芋぀めた。さきほど珟れた人物を思い出した。ずおも生き物を慈しんでいる人物には思えない雰囲気ず蚀動。
     たるで物を運搬しにきたようだった。

    「でもさ、だずしたらあの男は䜕の目的で『ずろろ』を探しおるわけ」
    「  ずろろ」
    「ダメ だっお猫ちゃんじゃ味気ないでしょ。茉莉もそう呌がうよ」

     友梚䜳がい぀もの調子で蚀う。
     茉莉は諊めた。友梚䜳に勝おる気はしないのだ。

    「目的は分からないけど  。私はずりあえず明日動物病院に連れお行っおみる。それで本圓の飌い䞻が分かるかもしれないし」
    「わかった。タむミングあったら䞀緒にいく」

     そう蚀うずキャリヌの䞭を友梚䜳は芗いお、猫に埮笑みかけた。


     利久斗に自宅たで送っおもらった茉莉は、自宀に入るず埌ろ手で扉を閉めた。キャリヌを䞋に眮くずそのたた床にぞたり蟌んだ。
     昚日から立お続けに起きおいるこずは、茉莉のキャパシティをずうにオヌバヌしおいた。
     キャリヌの䞭で猫が「みゃあみゃあ」ず蚎える。茉莉はケヌスを開け、出しおあげた。猫は氎を飲むずダンボヌルの䞭に玍たり、たたすやすやず眠り始めた。

     様子を芋ながら、茉莉は䞀連のこずをゆっくりず考えおみるこずにした。

     たず、猫ちゃん改め「ずろろ」を拟った堎所。ショッピングモヌルに面した倧通り沿いの偎溝。あの堎所は車通りは倚いがそこたで人は通らない堎所だ。
     ショッピングモヌルは南北に敷かれた線路の西偎に隣接する现長い長方圢の敷地に建っおいる。鉄道は高架のため、改札口がそのたたショッピングモヌルの二階郚分に盎結しおいる。この盎結しおいる入口がむヌストゲヌト。反察の倧孊偎がり゚ストゲヌトずなる。
     り゚ストゲヌトから倧孊たではペデストリアンデッキが続いおおり、倧孊の正門の手前で䜏宅街ぞ続く道ぞ降りるこずが出来る。

     そのため地域に䜏む地元民も、倧孊に通う孊生もほずんどの者が、ペデストリアンデッキを䜿甚する。デッキの䞋、぀たり昚日茉莉がずろろを芋぀けたショッピングモヌル階の出口から出る倧通りは现い歩道はあるものの、ほが車の通行のためにあるような道だ。

     茉莉はむンタヌネットで猫の自力での移動範囲を調べおみた。せいぜい200300が䞀般的な範囲のようで、䜏宅街からも離れたあの倧通り沿いの偎溝にずろろが居たこずぞ違和感を芚えた。よしんば移動出来たずしお、䜏宅のある地域からあんな倧通りを車に蜢かれるこずもなく枡れるものだろうか、ず考えた。
     䜓調が回埩しおきたずろろは、人懐っこくいかにも飌い猫で野性味などこれっぜっちも感じない愛嬌のある猫こだった。人の力を借りずにあの倧通りを枡れるずも思えない。

    ——ひょっずしお棄おられたのだろうか。でも、だずしたら、あの人物は䜕故この猫こを躍起になっお取り返そうずするのか  。

     なにか蚳があっおずろろはあの堎所に居たのだ。それは間違いない。


     リビングから母芪が「倕飯よ」ず声をかける。茉莉は慎重に扉を閉めるず䞀階ぞ降りた。
     リビングのテレビではい぀もの報道番組が぀いおいる。今日も闇バむトによる匷盗事件の報道だった。闇バむトはどこにでもいる倧孊生や高校生でお金欲しさに簡単に手を出しおいるこずを䜕床も匷調しお報じおいる。
     連日同じようなテンションのキャスタヌの声は、だんだん茉莉の耳には入らなくなっおきた。

    「ごちそうさた」

     飲み蟌むようにしお食べるず食噚を䞋げた。日連続そのような様子の嚘に母芪が蚝しげに声をかける。

    「ちょっず、茉莉。貎女昚日からなんなの もう少しゆっくり食べなさいよ。今晩、貎女の奜きな筑前煮にしたのよ お代わりするかず思っおたくさん䜜ったのに。䜕も蚀わずに飲み蟌むみたいに食べお」

     茉莉は母芪の顔をみた。申し蚳ない気持ちはあるが、今はそれどころではない。課題にはたっおいるこずを理由に謝るず、母芪はしぶしぶず筑前煮をタッパヌに詰め始めた。

     自宀ぞ入るず、ずろろはもぐもぐずキャットフヌドを食べおいた。食べずに䞍安になった昚晩から䜕日も経過したように感じる。


     スマヌトフォンを芋るず䞀件メッセヌゞが来おいた。
     開いおみるず「猫を返しおください」ずいう件名が目に飛び蟌んできた。あの゜ヌシロずいう動画配信者からだ。

    〔猫を返しおください。
     本日、お玄束しおいた埅ち合わせ堎所から猫を返さずにお垰りになったず飌い䞻である知人から聞きたした。いったいどういう事でしょうか
     猫のあたりの可愛さに返すのが惜しくなったのでしょうか
     あなた様に、私どもの猫を拟っおいただいたこずは感謝しおおりたすが、もずもずその猫は私どもの猫です。
     あなたに、所有暩はありたせん。

     明日の朝、時に再び立川駅ぞ来おください。
     お越しいただけないようなら、譊察ぞの通報も考えたす〕

    ——あなたに、所有暩はありたせん。

     茉莉はこの䞀文から目が離せなくなった。もちろんペットは飌い䞻の所有物である。そんなこずは茉莉ずお分かっおいる。

     ただ、なんだろうか。この蚀いようの知れない違和感は。
     次の瞬間、茉莉の手は自然に返信を打っおいた。

    〔倱瀌を承知でお尋ねしたす。
     猫がお知り合いの飌い猫であるこずを蚌明できるものは䜕かありたすか
     動画では䞍鮮明な写真のみでした。飌い猫でしたらいろいろず他にも写真があるのではないでしょうか
     埅ち合わせ堎所にお越しになった方は本圓に飌い䞻の方でしょうか
     乱暎な態床でずおも猫の飌い䞻のように芋えたせんでした〕

     送信を抌しおからしばらくしお、茉莉は手が震えおきた。すごい内容の返信をしおしたったように思う。

     車の扉を叩いたあの男の姿がたざたざず甊っおきた。
     茉莉は膝を抱えお座り蟌む。
     正盎に蚀えば怖い。ドンドンドン、今でも叩かれた扉の音が身䜓に響くようだ。

     恐怖のせいか、茉莉の郚屋の扉も同じくドンドンドンず激しい音がするように思う。次第にその音は匷くなっおきた。

     膝に頭を埋めおいた茉莉は顔をあげた。音が珟実かトラりマか瞬時に刀断が぀かなくお、声すら䞊げられない。次の瞬間、扉がバンず開けられた。

    「姉あね」

     茉莉は扉の方をよく芋た。そこには匟の翔倪がいた。 

    「翔倪   え ちょっずなに」

     無様な姉の栌奜ずダンボヌル箱の䞭の愛らしい猫を亀互に芋お、翔倪は「なるほどぉ」ず口の端を䞊げた。
     その翔倪の衚情を芋お、茉莉はようやく状況を理解した。

    「ち、違うのこの猫は、その。ちょっず預かっおお」
    「違うの、っお䜕がぁ 預かっおるの 誰からぁ」

     翔倪はニダニダず笑う。

    「なんで勝手に扉開けるの びっくりしたじゃん」
    「じゃあなんでノックしたのに反応しないんだよ なんかあったのかず思うだろ」

     あたりにもごもっずもな匟の蚀葉に茉莉は返答に窮する。

    「姉あねさ、昚日からなんか倉だったんだよな。だっお藀代巧のドラマをリアタむしないなんおありえないだろ
     そしたら、今晩もそそくさず倕飯終わらすしさ。
     絶察なんかあるず思っおたんだよ」

     翔倪はニヒルに笑うず、ダンボヌルを芗き蟌みずろろを優しく撫でた。

    「矎人さんじゃん。どこで拟ったの 飌うの」
    「飌えるわけないじゃない。お母さん生き物嫌いなのに。飌い䞻さんに返すためにいろいろ動いおいるずころ」
    「だよなぁ  。だからこんなコ゜コ゜しおんだもんなぁ。で、飌い䞻は芋぀かったの」

     よりによっお翔倪にバレるずは  。諊めの境地で茉莉は昚日からの事を順を远っお説明した。

     友梚䜳ず倚摩モノレヌルに乗るくだりでは「姉に䞀緒に電車に乗るような友達いたの」ず案の定ツッコミが入ったものの、翔倪は盞槌を打ちながら最埌たで話を聞いた。

    「たじか、その男やべヌじゃん」
    「だよね。なんか寒気がしお、枡しちゃいけない気がした」
    「姉がそう思うなら連れお垰っおきお正解だな」

     猫に目を萜ずしおいた茉莉は顔をあげお翔倪を芋た。匟は口調こそ生意気だが、昔から茉莉のこずを理解しおくれる数少ない䞀人だった。

    「で、どうすんの これから」
    「ずりあえず、明日病院に連れお行っおみる。それで、飌い䞻が分かるかもしれない」
    「しっかし䞀䞇円はき぀いなぁ。俺、金欠だから、そんな金ないよ」
    「  別に翔倪に出しおもらおうなんお思っおないわよ」

     実際問題、自分もそんなお金はないのだが、匟を頌るほど萜ちぶれおいない぀もりでいた。

    「たぁでも、金はずもかく、姉が倧孊いっおる間ずか䞖話したり、移動するずきの護衛  みたいなこずなら出来るぜ」
    「え 本圓」
    「うん、俺、高3だから午前だけの日も倚いし。明日ずかも空いおるぜ」
    「助かる 翔倪、知らない間にちょっずたずもになったんだね」
    「は なんだよ。キャンパスラむフを友達も圌氏も䜜らず暗く過ごしおる姉よりは元々それなりにマトモだよ。
     ちなみにカノゞョず遊ぶずきもあるから、ほどほどでペロシク」
    「そっちこそ圌女なんおいたの」
    「いるよ。垞にいるし」

     翔倪の顔をたじたじず芋た。たぶん最近仲良くなった女の子でもいるんだな、ず茉莉が内心思ったのが䌝わったのか、気たずそうに翔倪は「じゃあな」ずいうず扉を閉めお出お行った。
     茉莉は思わず笑った。
     翔倪はあれで家族思いだ。父の居ない我が家で唯䞀の男ずしお母ず茉莉のこずを護ろうずしおくれおいる。

     茉莉はスマヌトフォンを芋た。゜ヌシロからはその埌返事がない。

     譊察に通報したのだろうか。
     茉莉はそれならそれで良いず感じおいた。もずもず動物病院ずずもに譊察にも届けた方がいいず感じ始めおいた。

     ずろろは䞞くなったたた眠っおいる。可愛らしい斑らな暡様を芋぀めながら、茉莉は銖元を芋た。
     銖茪に぀けられた緑色のタグ。
     銖茪を぀けおいるから飌い猫なんだろうず思ったが、タグは色くらいしか泚目しおいなかった。

    「なにコレ  」

    ——103568

     緑色のタグには6桁の数字が印字しおあった。

    ぀づく

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