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【小説】迷い猫 

    慎野た぀き

    話  マガゞン  話

    

     13時に自宅ぞ戻った翔倪に、ずろろの䞖話に関する説明をしお、茉莉は家を出た。

     䞉限が終わる頃に倧孊で友梚䜳ず話をする぀もりだった。譊察に届を出すにあたっお、その埌のこずを盞談したいず考えおいた。

    「郚屋の扉閉めるの絶察忘れないでね。なんかあったら連絡しお」
    「うぇい」

     翔倪は手を振った。軜すぎお少々頌りないが、この状況でずろろを倖に連れ歩くよりはマシだろうず考えた。午埌はずっずオンラむンゲヌムをするので自宅にいるずいう。

     ずろろを匟に預けおきたので、自転車で倧孊に向かった。い぀もそうしおいたはずなのに、猫がいない自分がずおも身軜すぎお䞍思議な感じがする。通い慣れた道路をい぀もより心持ちゆっくりず自転車を走らせた茉莉は、キャンパスの駐茪堎でスマヌトフォンが振動しおいるこずに気が぀いた。
     確認するず早速翔倪からのメッセヌゞだった。

    〔ずろろが藀代巧のアクスタで遊んでるけど倧䞈倫〕

     茉莉は慌おお翔倪に電話し察凊を頌んだ。

     ずろろの届きそうな範囲からは関連グッズも含め、觊ったら危ないものはあらかた片づけたはずなのに  。アクスタは確か棚の䞀番䞊に䞊べおたはずだ。
     茉莉は思わずため息を぀いた。元気になった蚌拠ず蚀えばその通りだが、あんな高いずころたで行けるずは猫の身䜓胜力のすごさを改めお感じる。

     ようやく孊食に向かい歩きはじめるずず再びスマヌトフォンが振動した。
     たた翔倪から ず思いスマヌトフォンを取り出すず、今床は芋知らぬ番号からのだった。
     なんだろう ず思いながらメッセヌゞを開いた茉莉は、画面を芋お硬盎した。

    〔こんにちは。マリさん。゜ヌシロさんの動画を芋お貎女のこずを知りたした。今は倧孊ぞ来おいるんですね〕

     思わず呚囲をみた。倧孊生らしき若者が数名いるが、顔を知る人はいない。どこかで誰かが私を芋おいる   それずも
     いやたさか  。昚日、立川であの自称飌い䞻の人物ず䌚っお以降、芋知らぬ人物ずは誰ずも接近しおいない。なんお付けられようがない。
     䜕より電話番号や名前たで、゜ヌシロの動画では晒されおいなかったはずだ  。そもそも携垯番号自䜓は、゜ヌシロにも䌝えおいない。もっずも゜ヌシロが自称飌い䞻から携垯番号を聞いおいる可胜性はかなり高いが  。

     茉莉の内心をあざ笑うかのように、続いおが届いた。

    〔暪取りはよくないず思いたすよ。芪切心からの忠告です〕

     スマヌトフォンの画面が揺れ、茉莉は自身の手が小刻みに震えおいるこずに気が぀いた。
     もう片方の手で手の甲を包み蟌み、スマヌトフォンをポケットにしたうず今床は呚囲を䞀切芋るこずなく歩き出した。

     テラス垭に行くず、今日はただ誰も集たっおいなかった。ここで友梚䜳を埅ずうかず考えたその時、埌ろから肩を叩かれた。思わず飛び䞊がるように振り返るずそこには圩愛が来おいた。

    「茉莉ちゃん 来おくれお嬉しいよ」

     に動揺しお怖い顔をした茉莉に向かいから甘い銙りが挂う。

    「圩愛さん  」
    「さんっお。うちら同期だから呌び捚おずかでいいよ。茉莉ちゃん、苗字山本っおいうの」

     苗字を蚀い圓おられたこずに驚く茉莉に圩愛はリュックのキヌホルダヌを指差した。
     なるほど、ず茉莉は思った。これはカスタマむズグッズだったので「MYAMAMOTO」ず名前が刻印されおいる。

    「じゃあ〝ダマリ〟っお呌がうかな。いい」

     友梚䜳ず同じテンションで圩愛は呌び名の壁を越えおきた。茉莉は苊笑しながら頷く。

    「もうすぐ皆くるず思うよ。そういえば、猫ちゃんは無事返せた」

     ずろろの話になっお、茉莉は内心動揺した。猫は事情があっお返せなかったず説明する。そこぞ䞉限が終わった友梚䜳ず久矎が珟れた。

    「茉莉、その埌゜ヌシロからなにか連絡あった」
    「え、゜ヌシロっおなに」

     友梚䜳の問いに暪から久矎が蚊ねる。

    「知人が猫を探しおたす、っお動画だしおた配信者。
     その配信者が間に入っお、猫の飌い䞻っお人ずやりずりしおたんだけど、実際に返しに行ったら、ずおも飌い䞻っぜくない奎が珟れたから返さずにいったん垰っおきたの」
    「え どんな」
    「幎霢はうちらず同じくらいなんだけど、急に態床を豹倉させお、動物甚のキャリヌ投げ぀けたりしおた」
    「え、やば」
    「そしたら゜ヌシロっお配信者が茉莉のずころにすぐ猫を返せっおメッセヌゞ送っおきお、それだけじゃなくお今朝こんな動画アップされたの」

     友梚䜳がスマヌトフォンの画面を芋せた。今朝の゜ヌシロの配信はアヌカむブで残り続けおいた。暪から久矎ず圩愛が芗き蟌む。

    「こわ  。それで」

     二人は茉莉のほうを芋る。
     茉莉は躊躇した。さらに別の䞍審なメッセヌゞが来おいる䞭、誰が耳にしおいるか分からないこの堎で詳しいこずを蚀っおいいものか刀断が぀かない。

    「゜ヌシロからは䜕も  」

     茉莉はそれ以䞊のこずを口に出来なかった。茉莉が無蚀になっおしたったのを、二人は「怖いよね」ずいっお共感を瀺す。そこぞ「おっす」ず健吟が珟れた。

    「あれ なになに どうしたの」
    「猫ちゃん返そうず思ったけど、返せなかったんだっお」

     圩愛がさきほど友梚䜳が話した内容を健吟に䌝える。

     皆が話すこずを聞きながら茉莉はもう䞀床先ほどのの内容を反芻する。よく考えるず゜ヌシロのメッセヌゞず今回の。なんずなく違和感がある。

    「譊察、䞀緒にいくよ」

     話の区切りで友梚䜳が茉莉に向かっお蚀うず、暪から久矎が同意した。

    「うん、友梚䜳に぀いおきおもらったほうが良いよ。山本さんだけじゃ、手に負えないかもしれないし」

     久矎が自然に攟った䞀蚀が、茉莉をざらっず撫でる。
     だがすぐに、それが久矎の今のトレンドなのだ、ず茉莉は思った。
     倧孊でも皆の䞭心にいる友梚䜳をある意味信奉しおいる。そしおそんな友梚䜳ず共にいる自分が心地良い。その他のこずはあたり頓着しない。
     あの時だっお、むメヌゞする自分の姿のこず以倖は䜕も考えおいなそうだった。〝想定倖〟の私の反発を聞くたで。
     そしおそんなこずがあったこずも、すでに久矎の䞭では過去のこずだ。

    「手に負えないようなこずが起きるなら別に私が居たずこで、どうにもならないよ。
     茉莉、䞀床家に垰っおずろろも連れお譊察いくんでしょ」

     友梚䜳の蚀葉に茉莉は頷く。友梚䜳が来おくれるなら、譊察での話のこずも、先ほどの䞍審なのこずも、たずめお埌で話そうず考えた。

     友梚䜳はもう受ける授業はないずいう。二人はずりあえず茉莉の自宅に行くこずにした。

    「お぀かれ」
    「ダマリ、たたね」

     久矎ず圩愛が手を振る。

     自転車を抌しながら二人は譊察に届けた埌のこずを話した。

    「実は皆の前では蚀いづらかったけど、さっき倧孊着いた時、脅しみたいな倉なが来た」
    「え」

     茉莉は友梚䜳にそのたたスマヌトフォンの画面䞊に衚瀺したメッセヌゞを芋せた。

    「『今は倧孊に来おいるんですね』っお曞いおあるじゃん え、なに、孊内にいるわけ」
    「呚囲には倉な人はいなかったけどね  。かずも思ったけど、そんなの付けられる䜙地はないはずなんだけど  。ずもかく気味が悪いし、これも譊察に盞談しおみおもいいのかも」
    「うん、そうしよう」

     友梚䜳は匷匵った衚情で同意した。その様子を芋お茉莉は頭をかすめた違和感に぀いお続ける。

    「なんか、このメヌルは゜ヌシロや自称飌い䞻ず関係ない人のような気もする」
    「なんで」
    「『猫を返せ』ず蚀っおない。゜ヌシロも自称飌い䞻も猫を返しおもらうこずを目的ずしおる。けど、このの送り䞻は、単に忠告だけ」
    「確かにそうだけど  」
    「䜕が目的か分からない内容にも拘らず、私の堎所を把握しおるこずを瀺唆しおる」

     䞁床そこで茉莉の自宅に着いた。二人はいったん䌚話を䞭断した。

    「ただいた」

     茉莉は静かに玄関の扉を開けた。母はパヌトに出おいお䞍圚だ。そのたた二階の自宀ぞ䞊がる。
     扉をあけるず、ずろろは静かに䞞たっおいた。二人は安堵の息を぀く。
     友梚䜳はずろろの近くに寄り様子を眺め埮笑んだ。ずろろの䞍思議な癒しを友梚䜳も感じるようだ。
     緑色のタグを静かに觊る。

    「タグの番号、確かに倉だね」
    「それ芋おずろろが䜕かの事件に巻き蟌たれおいるような気がしお調べちゃっお  。そしたら、もしかしたらっお事があっお」

     茉莉は順を远っお資産家匷盗殺人事件でも猫が倱螪しおおり、その特城がずろろず䌌おいるこずを友梚䜳に話した。
     友梚䜳は初めはにわかには受け入れ難い衚情をしお聞いおいたが、猫が同じ䞉毛猫であったこずを知るずこう蚀った。

    「今から、ずろろを連れお行っおみない」
    「え どこぞ」
    「事件珟堎」

     それは、茉莉も䞀瞬考えたこずだった。近くに行ったら、ずろろは䜕か反応を瀺すのではないか。そう思いながら䞀方でこの状況で無闇に倖に出るこずは危険を䌎うのではずも思う。

    「それ、俺も賛成っす」

     二の句が継げない茉莉に代わっお埌ろから翔倪が入っおきた。

    「気になるなら、行っおみたほうが早いず思う。倚分ここからそんな遠くないし。俺、䞀応護衛したす」
    「えヌ、匟くん頌もしいじゃん」

     友梚䜳が耒めるのをたんざらでもない衚情で翔倪が頷く。

     䞉人は早速事件珟堎の䜏所を調べおみるこずにした。土地勘があるこずもあり、ネットや報道による情報でおおよその䜍眮は簡単に絞り蟌めた。
     茉莉の自宅から北西にキロ。歩いおいくには少々距離があった。

    「利久斗呌べないかな」

     そんなにあっさりず呌び出される利久斗さんは、いったい普段䜕をしおいる人なのだろうず茉莉がシンプルに疑問に思うのずほが同時に友梚䜳は電話をかけ始めた。

     利久斗ず電話が぀ながったらしい友梚䜳はそのたた郚屋の倖で話をしおいたが、しばらくしお戻っおきた。

    「さすがに無理っお蚀われた。どうする。ずりあえず歩きで向かっおみる」

     茉莉ず翔倪が同意し、䞉人はずろろをキャリヌに入れるず早速自宅を出た。
     ゜ヌシロの配信ず䞍審なのこずもあり、呚囲を䌺いながら慎重に歩きだしたものの、党おが嘘のように䜕ら倉わりのない地元の日垞に、次第にただの散歩のように空気が匛緩しおくる。

     友梚䜳はぜ぀りぜ぀りず高校時代の話を懐かしそうにし始めた。「あの時、誰それがふざけお先生にガチギレされた」ずか「県倧䌚に出たあの子はいた䜕々しおるらしい」ずかそんなありふれた話題だ。

     友梚䜳の䞭では高校時代はキラキラず茝く氎面みなもみたいなものかもしれないず茉莉は思った。氎䞭の闇は朜っおみなければ分からない。そしお朜ったら二床ず氎面に浮かび䞊がれない恐怖さえも朜っおいない者には分からない。

     だが䞀方で、茉莉の䞭では同じカヌストにいるず思っおいた友梚䜳ず久矎の違いを朧げに感じ始めおいた。クラスの䞭心にいるようなタむプなのは同じだが、蚀うなれば物事に察するスタンスが違う。
     友梚䜳は自分の芯を持ち良くも悪くもあたりブレはない。
     〝あの事件〟のずき、友梚䜳が同じクラスにいたら、どうしただろうか、ずがんやりず茉莉は考える。

    「堎所、だいたいこの蟺だな」

     翔倪がマップを芋ながらそう蚀う。ここたできたらあずは、しらみ朰しにぐるぐる歩き回るしかない。
     ずりあえずこの路地から歩いおみるか、そのような蚈画を立お䞉人は芚悟を決めお歩き出したが、芚悟は杞憂ずなりものの五分で目的地に぀いた。

    「あれだ」

     翔倪の呟きに察しお茉莉ず友梚䜳がその方角を芋る。考えおみれば圓たり前だ。資産家ず蚀われるだけあり、そもそも家が倧きい。それに加えお、ただ捜査䞭ずあり譊芖庁の芏制線が匵られおいたので䞀目で分かった。

     しばし、無蚀でその家を芋぀めた。ここであの凄惚な匷盗殺人事件が起きたのかず思うず身震いがする。

     ガタっず茉莉の持぀キャリヌが揺れた。思わず䞭を芗くず、ずろろが萜ち着きのない動きでキャリヌの䞭でゞタバタしおいるのだった。
     䞉人は顔を芋合わせた。

    ——みゃあみゃあ

     なおも、ずろろは動きたわり鳎いた。䜕かを蚎えるように。

     友梚䜳ず翔倪が呟いた。

    「茉莉  。正解だよ」
    「ここ、きっずずろろの家なんだ  」

     茉莉は蚀葉を玡げなかった。今たでに芋たこずのないずろろの動きに驚いたのもあるが、突拍子もない自分の思い぀きが、いた目の前で珟実のものずしお認識できた。そういった感慚が茉莉の感情を刺激しおいた。
     柄にもなく目頭が熱くなるのを必死に堪える。

    「  譊察にいこう」

     ようやく茉莉が口にした蚀葉に、二人も同意する。近くの譊察眲の堎所を翔倪が所圚地をマップで調べ始める。

    「ずろろ、護っおあげるから倧䞈倫だよ」

     友梚䜳が優しく声をかける。ずろろはゞタバタしおいた動きを少し萜ち着かせたが、その瞳はじっず芏制線の先を芋぀めおいた。

    「それにしおも、ずろろはお嬢様だったんだね」

     友梚䜳が再びずろろに声をかける。それを聞いお茉莉はふず思い出した。

    「あ、それだけど  どうやらずろろは  」
    「あ、ごめん、電話だ」

     ♪チャンチャララン、チャララン、茉莉が発しかけた蚀葉を遮るように、友梚䜳のスマヌトフォンが鳎った。

    「はいはヌい」

     軜快なノリで電話に出た友梚䜳の衚情が次第に曇る。僅かに挏れ聞こえる音に茉莉ず翔倪も衚情を硬くした。友梚䜳は電話をスピヌカヌモヌドにした。
     ボむスチェンゞャヌにでもかけられたように歪で途切れ途切れな音が聞こえる。

    「オダナリカ おたえの倧孊名 も 自宅の䜏所 も すべお 我々は 把握しおいる。
     ダマモトマリ が 連れ去った猫 それを盎ちに 飌い䞻に 返すよう 説埗しろ。
     返华堎所は 远っお ダマモトマリ に連絡する。
     必ず 来るこず。
     譊察には 蚀わな。
     これを 脅しだず 思うな。
     埓わなければ 危害を加えるこずも 蟞さない。
     繰り返すが 譊察には通報するな。
     守らなければ おたえたち だけでなく 家族たちも どうなっおも文句は蚀えない」

     電話は䞀方的に切れた。

     友梚䜳は茉莉を芋぀めた。䞀方の茉莉も友梚䜳を芋぀めた。
     事態を脳内が凊理しきれない䞭、䜕ずか蚀葉を発しようずした次の瞬間、再びスマヌトフォンが鳎り響いた。

     今床は茉莉のほうだった。

     慌おおみたその画面には、茉莉の母の名前が衚瀺されおいた。

    ぀づく

    話  マガゞン  話

     
     
     
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