
漫画写楽 エピソード4/10 売れなかった大首絵
漫画「写楽」の4つ目のエピソードです。28枚の大首絵をまとめて売りに出したのは話題を呼びましたが、蔦屋重三郎の狙いに反して、当初、写楽の大首絵は売れませんでした。舞台役者たちが代表する業界から、俺たちを美化して綺麗に描いてくれていない、と総すかんを食らったのです。

絵的に結構面白いので、まず「さらして」おきます。コマ2の三座での出し物の題名ですが、いずれも漢字が微妙にデフォルメしているので、惜しいなあ、と思います。そこだけピンポイントで正確に修正できれば、引き締まります。今は、GPT Images 2.0 でも、グーグルの Nano Banana でも、ピンポイントでの修正リクエストを出すと、そこは直っても、他が同時多発的に歪んだり解像度が全体的に下がってしまったりして、差し引きネガティブの方が大きかったりするので、画像系の次の進化は、そこらへんがテーマになりそうですね。

コマ1部分に関しプロンプトを追加で書き込んだもののアウトテイクがこれです。主役・写楽の姿が馴染んできているように思えるのは、筆者の錯覚でしょうか。発色・構成も悪くないです。今度は江戸三座の出し物タイトルの漢字表記が改善していますが、都座「〜文禄曽我」の漢字がまだ綺麗に入っていません。その右後ろの人物群像のところも、妙なデフォルメがあらわです。きっと「(確定できないところは)デフォルメではなく綺麗なぼかしにする」といった種類の描画指示関数が整っていないのだろうと推定します。
写楽、こんなに若かったの、と首を傾げる方も当然おられるはずですが、北斎がかりそめに10ヶ月間だけ「仮面写楽の画業」に打ち込んだのだとすれば、彼は、当時満34〜35歳でした。ぴったしの年恰好になります。他方、学者の主流派が支持している「写楽=斎藤十郎兵衛(阿波の能役者)」説でも、この時点で十郎兵衛は満31〜32歳でした。こちらも、はずれていません。斎藤十郎兵衛説に関しては、また後でふれる予定です。
■ 筋書き・概要
写楽の大首絵は、売れなかった。大田南畝は後に『浮世絵考証』にこう書き残している:「あまりに真を画かんとて、あらぬさまにかきなせしゆえ、長く世に行ハれずして一両年にて止めたり」。
役者たちの怒りは激烈だった。従来の浮世絵は絵師と役者の相互協定に成り立っていた。絵師は役者の人気を借り、役者は美化された肖像で宣伝に使う。写楽はその約定を一方的に破った。鼻の大きさ、目の歪み、指の骨張り、額の皺など、役者の「素の顔」を容赦なく晒す絵は、当の役者には侮辱そのものだった。
田中英道はここに逆説を見出す。流派の型を最も深く知る者こそ、その型を最も鮮烈に破ることができる。春朗として十五年、勝川派の役者絵を内側から極め尽くした北斎だからこそ、役者絵の常識を根底から解体する手術が可能だった。
さらに重要なのは、写楽の第一期が三座(都座「花菖蒲文禄曽我」・桐座「敵討乗合噺」・河原崎座「恋女房染分手綱」)すべての興行を描いていることだ。江戸三座を同時に見回り、役者の所作・衣装・表情の細部を精密に写生できる者は、長年の経験なしにはあり得ない。
■ 豆知識
本稿では、3項目に関し、基礎知識を補強しておきます。
🔴花菖蒲文禄曽我: 『花菖蒲文禄曽我』(はなあやめぶんろくそが)は、寛政6年(1794年)5月に江戸・都座で上演された歌舞伎狂言です。 元禄14年(1701年)に実際に起きた伊勢・亀山の仇討事件(石井半蔵・源蔵兄弟が父と兄の仇を28年かけて討った実話)を基にした人気演目で、「曽我物」の形式を借りた敵討物語です。主な登場人物:石井源蔵、田辺文蔵、藤川水右衛門(悪役)、石部金吉(金貸し)など。写楽のデビュー作・第1期28枚の大首絵の多く(例:二世坂東三津五郎の石井源蔵、嵐龍蔵の石部金吉など)が、この興行を描いたものです。
🔴敵討乗合噺: 『敵討乗合噺』(かたきうちのりあいばなし)は、寛政6年(1794年)5月に江戸・桐座で上演された歌舞伎狂言です。作者は桜田治助(初代)ら。「碁太平記白石噺」の宮城野・しのぶ姉妹の仇討ちと、「敵討巌流島」を組み合わせた「乗合せ(寄せ集め)」の敵討物です。主な登場人物:志賀大七(悪役)、松下造酒之進、宮城野、しのぶ、肴屋五郎兵衛(松本幸四郎)など。写楽の第1期28枚の大首絵のうち、桐座取材の7点(例:中山富三郎の宮城野、四代目松本幸四郎の肴屋五郎兵衛、三代目市川高麗蔵の志賀大七など)がこの興行を描いています。
🔴恋女房染分手綱: 『恋女房染分手綱』(こいにょうぼうそめわけたづな)は、寛政6年(1794年)5月に江戸・河原崎座で上演された歌舞伎狂言です。近松門左衛門の浄瑠璃を基にしたお家騒動物で、全十三段。丹波国由留木家の幼い調姫が江戸への輿入れを嫌がり、乳母・重の井が苦心する「重の井子別れの段」(十段目)が名場面。重の井は不義の子・与之助(馬方三吉)を犠牲にし、忠義を貫きます。 主な登場人物:四代目岩井半四郎の重の井、三代目大谷鬼次の江戸兵衛、市川男女蔵の奴一平、三代目坂東彦三郎の鷺坂左内など。写楽の第1期大首絵で河原崎座取材の複数点(重の井、江戸兵衛など)が描かれ、心理描写の鋭さが光ります。