
昭和、渋谷で、恋をしたり 2-15 |星まで行くんだよ
前回のあらすじ(2-14)
夏奈恵から、かつて不倫関係にあった男性の子を宿し、中絶した過去を打ち明けられた泰輔は「たまたま妊娠しただけ。そうでなくても、誰もがやっていること」とかばうのが精一杯だった。
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手紙なんか渡せないよ
そんなことがあり、何もかもが嫌になった夏奈恵は水商売を絶ち、交友関係もすべて断ち切った。
そして沈みきっていたある夏の日、気づけば不幸の元凶だと思っていた児童施設の前に立っていた。
なぜそこへ向かったのか、夏奈恵自身にもわからなかった。ただ、かつて自分が過ごした建物を目の前にして、立ちすくむことしかできなかったという。
そうして何分経ったのか。しばらくして、その建物から出てきた女性を見て、思わず声が出たという。
「陽子ちゃん?」
思わず声をかけた相手は、同じ施設で姉のように慕っていた、ひとつ年上の陽子だった。
夏奈恵が何も考えずに向かった先は、自分にとって苦い思い出のほうが多いはずの児童施設だったのだ。
陽子は施設で働いており、ちょうど施設の子供たちをプラネタリウムに連れて行くところだった。そして思わぬ再会を喜んだ陽子は、夏奈恵もその引率に付き合うよう誘った。
夏奈恵は、生まれて初めてプラネタリウムを体験することになった。
こうして、イルカ座の存在と逸話を知ったのだ。
「なぜか私のためにある星なんだって思えたの。『ああ、やっとわかったな』って感覚だった。それで私、変わりたいなぁ、ほんとうに変わらなきゃって思った」
夏奈恵はこう振り返った。
「あ、そうそう!」
ただ黙って話を聞いていた私に気を遣ったのか、夏奈恵が声色を変えた。
「その陽子ちゃんだけどね……」

それは、夏奈恵が施設に入って間もない頃の話だった。
学校が終わって、まっすぐ施設に帰っても時間を持て余して退屈する。すると暇つぶしに、夏奈恵は陽子に連れられて屋上によく行っていたそうだ。
その屋上からは焼却炉の煙突が見えた。その煙突の先から出る煙を見ながら、8歳の夏奈恵は一緒にいた施設長に尋ねた。
「あの煙はどこに行くの?」
「あの煙は星まで行くんだよ。だから、2人のママにも届くね」
「どうして?」
「ママは、星になって、陽子ちゃんと夏奈恵ちゃんのことを見ているからだよ」
施設長は、そう言って微笑んだ。
それから数日後だった。夏奈恵が下校すると、陽子が手紙を書こうと誘ってきたのだ。
「手紙って誰に書くの?」
「お母さんだよ」
「お母さんは死んじゃったから、手紙なんか渡せないよ」
乗り気でない夏奈恵に、陽子は興奮を隠すことなくこう言った。
「書いたら屋上で燃やせばいいんだよ!煙になったら、星になったお母さんにも届くでしょ?」
