
昭和、渋谷で、恋をしたり 2-13 |好きだったから
前回のあらすじ(2-12)
夏奈恵は、幼い頃に母を亡くしていた。父はすでに一緒に暮らしておらず、やむなく施設で入った頃を回想、泰輔に打ち明けた。
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夏奈恵の青春
そして高校に上がって間もなく、酒やタバコを覚え、大人と肩を並べたような気分になった頃、同じ施設の年上の男子と体の関係を持った。お互い酔いも回り、なんとなくの初体験は、淡くも酸っぱくもない体験となった。
夏奈恵にとって想定外だったのは、そのことが施設内の男子に知れ、次から次へと他の男子たちが強引に体を求めてきたことだ。
抵抗することで、翌日からどんな扱いを受けるのかを想像すると、次第に無抵抗で受け入れるようになった。
傷ついた夏奈恵に頼れるところは限られていたから、悩んだ末、険悪になっていた施設員に相談してみた。
その施設員にとって、この夏奈恵のケースは決して珍しいものではなかった。だから、夏奈恵の話からほぼ全貌を理解していたにもかかわらず、関わることを避けたのだろう。放たれた言葉は、あまりに冷たかった。
「あなたには反省すべき点は本当にないの? 悪いことをしていれば罰が当たる。そういうことじゃないの?」
その施設員は同じ女性だというのに、気持ちを汲むどころか、話に耳を塞いでいた。亡くなった母を恨む気持ちにはなれなかったが、「生きていれば……」と何度も思ったという。
「もう運命って言葉で片付けるしかないのよね。これが私の運命。運命って不公平だなって思いながらね」
ベンチに座っているのに背もたれに体を預けず、真っ直ぐに伸びた夏奈恵の背筋が、急にもろく見えた。
そして、どうしても施設を出たいと夏奈恵は祖母に懇願した。しかし、祖母の体は弱る一方で、母の兄夫婦は祖母の世話と自分の子供の面倒だけで手一杯だった。金銭的な援助を受けることで、夏奈恵は一人暮らしをすることになったのだ。
「後になると、自分にも原因がたくさんあったって思えるし、あの時ああしとけばなぁって思うこともたくさんあるけど……」

一人暮らしを機に、夏奈恵は定時制の高校へ転校した。昼間はバーガーショップでアルバイトをして、夕方から学校に通う生活だった。
施設を出られた解放感はあったが、定時制高校に充実感はなかった。疎まれて追い出された生徒が集まったような空間で、普通の高校生が送る青春とは、明らかに色の違う季節を歩むことになった。
気づけば夜な夜な新宿に足を運び、柄の悪い男につきまとわれ、次第にそれを受け入れた。もう、やってはいけないことなんて何もないように感じた。
そのうち水商売にも手を染め、バーガーショップで汗水垂らして働くことが無意味に思えてきた。そして金銭感覚は狂い、金が手に入ることだけが喜びとなった。
「1人のお金持ちを見つければ、どんなアルバイトよりも稼げたしね」
平然と話す夏奈恵に追いつけなくて、私は口を挟むことなんてできなかった。
「この前、新宿でお好み焼き食べた後、私、一人で歩き出して変だと思わなかった?」
言われてみると、そうだった。夏奈恵は無言でバッティングセンターまで早歩きしていった。ようやく気がついた。あの時、夏奈恵は隠れたのだ。
