
昭和、渋谷で、恋をしたり 2-3 |それで私と付き合いたい?
前回のあらすじ(2-2)
渋谷で食事をして、泰輔と夏奈恵は同じ電車で帰路につく。そして先に降りるはずの泰輔は最寄駅で降りず、夏奈恵と一緒に終点まで乗車。それは夏奈恵に告白するためだった。
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走るしかない
「夏奈恵ちゃんのこと、やっぱり好きだ」
夏奈恵は驚きも喜びも、悲しみも困りもしなかった。
「そうなんだ。それで?」
あれこれ考えたうえでの再告白だった。なのに、もらえる答えがこれなのか。
夏奈恵はため息を一つついて、続けた。
「それで私と付き合いたい?」
「あ、うん……」
「無理だと思うけど」
夏奈恵に悪びれたり、同情するような雰囲気は一切なかった。
「どうして?」
「だって、溝口さんとは違いすぎるもん」
「何が?」
「溝口さんも、私なんかと付き合わない方がいいよ」
夏奈恵から出る言葉のすべてに納得がいかなかった。それから何を聞き直しても、「違う」「ダメ」の一点張り。そうしているうちに、駅員の大きな声が耳に入った。
「中央線、立川までの最終電車が参ります。お急ぎください」
「ごめん、電車くるから」
夏奈恵は私を振り切るように改札に向かった。改札を抜けると、定期券をカバンにしまいながら小走りに階段へ消えていった。
途方にくれた私は、どこに行く気にも、ましてや帰る気にもなれず、階段の隅に座り込んだ。
悲しみきれない、怒りきれない、行き場のない気持ちに体を支配されていた。
座ったまま、何本のタバコを吸っただろう。
消えるたびにタバコに火をつけた。
そうして最後の一本も吸いきると、井の頭線の最後の一本まで終わっていた。

駅を出ると終電を逃したサラリーマンを乗せては動き出すのが見えていた。
ふと思い立ち財布の中を確認すると、千円札が2枚だけ残されていた。
心が一度は折れたのだが、それでも他にできることはなかった。
力を振りしぼるように立ち上がると、階段を一気に駆け下りてタクシーに乗り込んだ。
「国立(くにたち)までいくらかかりますか?」
「え? 4千円くらいかなぁ。大丈夫? あるの?」
「すいません。手持ちが2千円しかないので、行けるところまでお願いできますか?」
「2千円じゃ半分も行けないよ」
運転手がハザードランプを点ける。
「いや、戻っても同じことなんで、とりあえずお願いします」
「降りたら、どうするの?」
「う〜ん、走るしかないかな」
私は真面目に考え抜いた答えだったが、運転手は笑い声を上げていた。
(*1) 昭和期は、男性喫煙率は高く、駅のホームや道端でタバコを吸うことに罰則など設けられていませんでした。現在のマナーとはかけ離れていますが、あくまで昭和期の描写ですのでご容赦ください。
