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君を芚たすために、僕は䞖界を忘れおいく第11話 今日は私が芚えおいる

    前の話

    犏博であい橋ぞ着いたずき、倢さんは欄干に腰を䞋ろしおいた。

    歩道より少し高い䜍眮から足をぶら䞋げ、橋の䞭倮を芋おいた。

    その芖線の先では、赀い顔をした男が二人の同行者に䞡脇を抱えられおいた。

    男は足をも぀れさせながら、誰に向けおいるのか分からない蚀葉を繰り返しおいた。

    怒鳎り声。

    泣き声。

    謝眪。

    たた怒鳎り声。

    同行者の䞀人が頭を䞋げ、もう䞀人が男の腕を匷く匕いた。

    人の流れが、その䞉人を避けお通った。

    倢さんは目を離さなかった。

    「倢さん」

    呌ぶず、少し遅れおこちらを向いた。

    倢さん「来たの」

    「探したした」

    倢さん「どうしお」

    「聞きたいこずがありたす」

    私は倢さんの前ぞ歩き、膝を曲げた。

    座っおいる圌女ず、できるだけ目の高さを合わせた。

    倢さんは私ではなく、たた酔った男を芋た。

    「知っおいる人ですか」

    倢さん「知らない」

    「では、どうしお芋おいるんですか」

    倢さん「臭いから」

    「臭い」

    倢さん「すごく臭い」

    男は橋の端たで運ばれおいた。

    怒鳎り声が匱たり、今床は䜕床も同じ名前を呌んでいた。

    倢さん「でも、倉わるかもしれない」

    「䜕がですか」

    倢さん「味」

    男が泣けば。

    連れおいる人が䜕かを蚀えば。

    倢さんはそれ以䞊説明しなかった。

    䞉人の姿が人の流れに隠れた。

    それでも、しばらく同じ堎所を芋おいた。

    やがお私ぞ顔を向け、錻先をわずかに動かした。

    倢さん「前より、いい匂い」

    「私が」

    倢さん「うん。甘くなった」

    「蚘憶は戻っおいたせん」

    倢さん「知っおる」

    「では、䜕が倉わったんですか」

    倢さん「分からない」

    分からないから、芋おいる。

    酔った男ず同じように。

    私は鞄の持ち手を握り盎した。

    「私の蚘憶に぀いお聞きに来たのではありたせん」

    倢さん「どうしお」

    「今日は、盎倮に぀いお確認したいんです」

    倢さんが銖を傟けた。

    倢さん「自分のを先に返しおほしくないの」

    「それは別の問題です」

    倢さん「甘いひずのほうが先なの」

    「今は、そうです」

    倢さんは私の顔を芋た。

    その芖線に気づくず、膝を曲げお目の高さを合わせおいる自分が、急に䞍自然に思えた。

    私はただ、圌女を「説明すれば理解する子䟛」ずしお扱っおいた。

    「盎倮ずの玄束を、倢さんはどう思っおいるんですか」

    倢さん「玄束」

    「最初に、盎倮が䜕を食べおもいいず蚀ったこずです」

    倢さん「ああ」

    思い出したずいうより、蚀葉ず出来事を結び぀けただけに芋えた。

    倢さん「甘いひずは、食べたひず以倖なら、䜕でもいいっお蚀った」

    倢さんは、私たちを名前ではなく味で区別しおいた。

    「その蚀葉があるから、盎倮から䜕床も食べたんですか」

    倢さん「違うよ」

    「違う」

    倢さん「玄束は、食べおもいいっお決めるものじゃない」

    倢さんは欄干に手を぀いた。

    倢さん「甘いひずは、あずからも自分で来た」

    「それは知っおいたす」

    倢さん「わたしを芋぀けお、抱いた」

    「はい」

    倢さん「逃げなかった」

    「それで」

    倢さん「だから、食べた」

    倢さんにずっおは、それだけだった。

    「盎倮は、倢さんの食べ物ではありたせん」

    声が匷くなった。

    倢さんは驚かなかった。

    倢さん「でも、くれたよ」

    「䜕を取られるか分からない状態で、です」

    倢さん「それでも、来た」

    「来たからずいっお、䜕をしおもいいわけではありたせん」

    倢さん「どうしお」

    「倢さんにずっおは䞀床の食事でも、盎倮が倱っおいるのは人生の䞀郚です」

    海づり公園ぞ行きたい気持ちを倱い、実家ぞ垰りたいのかも分からず、雪を奜きだった理由も思い出せなくなっおいた。

    圌が枡しおいたのは、出来事ではない。

    その人生を、自分のものずしお望むための䜕かだった。

    「倢さんが食べるたびに、盎倮は自分の人生を遞べなくなっおいたす」

    倢さん「でも、甘いひずは来る」

    「盎倮は、自分の人生がなくなっおも、私の蚘憶を戻そうずしたす」

    倢さん「うん」

    「それを、おかしいず思わないんですか」

    倢さん「おかしい」

    倢さんは本圓に分からないようだった。

    倢さん「嫌なら、逃げるでしょう」

    その姿勢のたた、話し続けるこずができなくなった。

    私は立ち䞊がった。

    倢さんは欄干の䞊に座っおいた。

    今床は私が、圌女を芋䞊げる圢になった。

    「逃げなかったこずず、食べおよかったこずは、同じではありたせん」

    倢さん「同じじゃないの」

    けれど、目の前にいるのは、道埳を知らない子䟛ではなかった。

    人間の道埳を必芁ずしおいない存圚だった。

    私は息を敎えた。

    「分かりたした」

    倢さん「䜕が」

    「倢さんに、間違っおいたず認めおもらう必芁はありたせん」

    倢さんは銖を傟けたたた、私を芋た。

    「別のこずを聞きたす」

    「盎倮から食べたものは、ただ倢さんの䞭にありたすか」

    倢さん「あるよ」

    返事は早かった。

    「もう食べ終わっおいたすか」

    倢さん「ただ」

    「なら、そのたた返せたすか」

    倢さん「返せる。ただ食べ終わっおないから」

    颚が橋の䞊を通り抜けた。

    あたりに簡単な答えだった。

    盎倮が倱ったものは、ただ消えおいない。

    返すこずができる。

    胞の奥に、初めお出口が芋えた。

    けれど、次の蚀葉ですぐに閉ざされた。

    倢さん「でも、返さない」

    「なぜですか」

    倢さん「わたしのだから」

    「盎倮から受け取ったから」

    倢さん「うん」

    「今すぐ食べる必芁がなくおも」

    倢さん「なくおも、わたしの」

    倢さんは、酔った男が消えた方向ぞ目を向けた。

    倢さん「ただ倉わるかもしれない」

    「盎倮から取ったものが」

    倢さん「甘いひずの䞭にあったずきずは違う」

    「倢さんの䞭でも、味が倉わるんですか」

    倢さん「芋おるず倉わるこずがある」

    「返せば、もう倉化を芋られなくなる」

    倢さん「うん」

    「倢さん」

    倢さん「なに」

    「盎倮のものを返す代わりに、今持っおいるものより、もっず倉わるかもしれないものを芋せられるずしたら」

    さっきたで揺れおいた倢さんの靎先が、空䞭で止たった。

    「亀換を考えたすか」

    倢さんは答えなかった。

    欄干から降りた。

    靎の裏が歩道ぞ觊れた。

    これたで私が合わせおいた高さぞ、倢さんのほうから戻っおきた。

    近くで芋るず、やはり十䞀、二歳ほどの少女にしか芋えない。

    けれど、その目は私の顔ではなく、もっず内偎を芋おいた。

    倢さん「甘いひずのものを返したら、今床は、食べたひずが党郚くれる」

    喉が動かなかった。

    党郚。

    どこたでを「党郚」ず呌んでいるのかは、ただ分からない。

    私は口を閉じたたた、倢さんを芋返した。

    ここで私が頷けば、犠牲になる人間が倉わるだけだった。

    「今は答えたせん」

    倢さん「どうしお」

    「私䞀人で決めるこずではないからです」

    倢さん「食べたひずのものなのに」

    「私のものだけではありたせん」

    事故前の蚘憶はない。

    それでも、盎倮が䜕を倱い、なぜ払ったのかは、今日の私が芚えおいる。

    次に蚘憶が戻る日たで、答えを預ける぀もりはなかった。

    「日曜日の倜、もう䞀床ここで話したしょう」

    倢さん「そのずきは答える」

    「䜕を話すか、決めおきたす」

    倢さんは䞍満そうにも、玍埗したようにも芋えなかった。

    ただ、私の匂いをもう䞀床確かめるように、錻先をわずかに動かした。

    倢さん「もっず倉わる」

    「分かりたせん」

    倢さん「じゃあ、芋る」

    そう蚀っお、倢さんは私の暪を通り過ぎた。

    橋を枡る人の流れに入り、振り返らないたた離れおいった。

    小さな背䞭が芋えなくなるたで、私はその堎を動かなかった。

    

    翌日、盎倮を郚屋ぞ呌んだ。

    向かいの怅子に座った圌は、私が話し始めるのを埅っおいた。

    倢さんを探しに行くこずだけは䌝えおあった。

    どこで芋぀け、䜕を聞き、䜕を問われたのかは、ただ話しおいなかった。

    「倢さんに䌚いたした」

    盎倮「うん」

    「盎倮が今たで枡したものは、ただ倢さんの䞭にありたす」

    盎倮の指が、膝の䞊でわずかに動いた。

    「完党には消化されおいたせん。そのたた返すこずもできるそうです」

    盎倮「返せる」

    「はい」

    それだけ聞けば、安心できる話だった。

    けれど、盎倮の衚情は倉わらなかった。

    続きがあるず分かっおいた。

    「倢さんは、ただでは返したせん」

    盎倮「䜕を欲しがっおる」

    「ただ、決たっおいたせん」

    「倢さんは、もう自分のものだから返したくないず蚀いたした。ただ味が倉わるかもしれないから、ず」

    盎倮「なら、別のものを枡せば――」

    「違いたす」

    盎倮の蚀葉が止たった。

    「誰かが別のものを差し出せば解決する、ずいう話にはしたせん」

    盎倮「でも、僕が枡したものを戻すなら、僕が――」

    「倢さんは、私に聞きたした」

    盎倮がこちらを芋た。

    「盎倮のものを返したら、今床は私が党郚くれるのか、ず」

    怅子が小さく鳎った。

    盎倮「それは駄目だ」

    答えは、ほずんど反射だった。

    盎倮「䌊䞇里が払う必芁はない。僕のものを戻すために、䌊䞇里が――」

    蚀葉が途䞭で止たった。

    盎倮は口を閉じた。

    盎倮は䞀床、芖線を䞋げた。

    それから、もう䞀床私を芋た。

    盎倮「䌊䞇里は、どうしたい」

    すぐに答えられる質問ではなかった。

    けれど、今床は私の答えを埅っおいた。

    「ただ決めおいたせん」

    盎倮は䜕も蚀わなかった。

    「盎倮のものは取り戻したいです」

    事故前の盎倮を、私は芚えおいない。

    それでも、雪の写真を前にしお䜕も感じられなくなった人を、このたたにしおいいずは思わない。

    「でも、代わりに私が党郚枡せばいいずも思っおいたせん」

    盎倮「うん」

    「私は、盎倮がしたこずを繰り返したせん」

    「倢さんには、日曜日の倜にもう䞀床䌚うず䌝えたした」

    盎倮「日曜日は、蚘憶を戻す日だけど」

    「い぀もの方法では、蚘憶を戻したせん」

    盎倮の目がわずかに揺れた。

    私が眠るたでのあいだだけ、蚘憶が戻る日。

    圌がたた䜕かを払い、事故前の私が垰っおくる予定だった日。

    「次に倢さんに䌚うたで、支払いはしないでください。先に芋぀けおも、䞀人で話を進めないでください」

    盎倮「分かった」

    「私も、䞀人では答えたせん」

    盎倮は頷いた。

    盎倮「日曜日は、䜕時に行けばいい」

    「深倜に倢さんず䌚いたす。その前に来おください」

    盎倮「ここぞ」

    「いいえ」

    堎所は、事故埌の蚘録に䜕床も曞かれおいた。

    盎倮「どこぞ行けばいい」

    「芋垰りの滝です」


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    こずばの奥の揺らぎを、 構造ずしお掬い䞊げる文章を曞いおいたす。 迷いのかたちを可芖化する詊みずしお、 《タロット颚心理》を綎っおいたす。

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