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君を芚たすために、僕は䞖界を忘れおいく第9話 日蚘の䞭の私

    前の話

    倢さんの腕が離れた。

    戻っおきたものが、䞀床に私の䞭ぞ広がっおいく。

    事故の前。

    盎倮ず暮らすはずだった未来。

    そしお、この䞀週間。

    倧きさの違う雪の結晶。

    深い青色の、少し歪んだ線。

    党郚芚えおいた。

    倢さんの肩越しに、盎倮を芋た。

    「盎倮」

    盎倮「䌊䞇里」

    その呌び方を聞くず、胞の奥に残っおいた空癜が埋たった。

    䞀歩近づこうずしお、テヌブルの䞊に眮いたスマヌトフォンが目に入った。

    画面には、開いたたたのメモが衚瀺されおいた。

    Day 38

    それだけだった。

    倢さんがい぀郚屋を出たのかは分からなかった。

    もう䞀床呚囲を芋たずきには、玄関に小さな靎はなく、郚屋のどこにも倢さんの姿はなかった。

    盎倮「倧䞈倫」

    「うん。党郚芚えおる」

    スマヌトフォンを手に取った。

    本文は空癜だった。

    けれど、䜕が曞かれおいたのかも、なぜ消したのかも芚えおいる。

    楜しかったこず。

    盎倮が、私ず䞀緒に行きたかったず蚀ったこず。

    あず四日ある、ず蚀われたこず。

    そのすべおを曞き、䞀぀ず぀消した。

    蚘録を残したくなかったわけではない。

    蚘憶が戻った私に、あの日の意味たで先回りしお決められたくなかった。

    自分で経隓した䞀日を、日蚘の䞭だけで読たれるものにしたくなかったのだず思う。

    同じ私なのに、あの日を自分だけのものにしたように芋えお、少し腹が立った。

    盎倮「メモに、䜕か残しおた」

    「日付だけ」

    盎倮「内容は」

    「消したした。自分で」

    盎倮は理由を聞かなかった。

    以前なら、それを尊重だず思えた。

    今は、少しだけ匕っかかった。

    スマヌトフォンを持ったたた、この䞀週間を思い返した。

    実家の話でも、陶噚の絵付けでも、盎倮は自分の垌望より先に私の郜合を確認した。

    

    盎倮が、テヌブルに飲み物を二぀眮いた。

    枩かいお茶ず、冷たい氎だった。

    「ありがずう」

    盎倮は氎に手を䌞ばした。

    私の芖線に気づくず、手の向きを倉えた。

    氎を私の前ぞ眮き、自分はお茶を取った。

    自然な動䜜だった。

    迷ったようには芋えなかった。

    「氎でよかったの」

    盎倮「うん。䌊䞇里が飲みたいなら」

    「盎倮は、最初に氎を取ろうずしおたでしょう」

    盎倮「どちらでも倧䞈倫だから」

    ペットボトルのキャップに指をかけたたた、動きを止めた。

    陶噚の絵付けからの垰り道にも、䌌たこずがあった。

    䜕がしたいのか尋ねるず、盎倮は私の疲れや時間を先に確認した。

    事故埌の私は、それを優しさだず思っおいた。

    けれど、事故前の盎倮は、埅おば最埌には自分の答えを蚀った。

    枩かいものが食べたい。

    札幌で、この䌁画を䞀緒に始めたい。

    時間はかかっおも、最埌には自分の蚀葉で答えた。

    「食事、先にする」

    盎倮「どっちでもいいよ。メモのこずが気になるなら、先に話そうか」

    「私が気にしおいるから」

    盎倮「スマヌトフォンをずっず持っおるから」

    箞に手を䌞ばしかけ、止めた。

    「盎倮は」

    盎倮の芖線が、私の顔からスマヌトフォンぞ移った。

    「私がどうしたいかではなくお、盎倮はどちらがいい」

    盎倮「  どちらでもいい」

    「そう」

    手を膝の䞊ぞ戻した。

    盎倮は私の手元ず、䌏せられおいないスマヌトフォンを芋た。

    盎倮「じゃあ、先に話そう」

    私は䜕も遞んでいない。

    それでも盎倮は、私が望んでいるず思ったほうを遞んだ。

    盎倮は、私ず出䌚う前の自分ぞ戻り始めおいた。

    スマヌトフォンの画面には、「Day 38」ずだけ残っおいる。

    あの日の私は、そんな盎倮ず新しい時間を䜜った。

    事故前ずの違いを知らないたた、今の盎倮だけを芋お、少しず぀奜きになっおいた。

    それも私だった。

    私はスマヌトフォンを䌏せた。

    戻っおいるのは、私の蚘憶だ。

    眠るたびに倱い、䞃日目にたた受け取る。

    なのに、そのたびに少しず぀枛っおいるのは、盎倮のほうだった。

    海づり公園のこずも、母芪からの電話も、䞀぀だけなら疲れや状況で説明できた。

    けれど、倉化は盎倮の䞭にだけ積み重なっおいた。

    私は倱っおも、戻っおくる。

    盎倮には、戻る時間がない。

    最初に蚘憶を戻した倜、倢さんに尋ねた。

    蚘憶を戻すために、䜕が必芁なのか。

    盎倮は答えた。

    「癜石さんが、䜕か枡す必芁はありたせん」

    その蚀葉は正しかった。

    誰も枡さなくおいいずは、䞀床も蚀っおいない。

    「盎倮」

    盎倮「うん」

    「私の蚘憶が戻る前に、倢さんぞ䜕か枡しおる」

    盎倮の衚情は倉わらなかった。

    盎倮「䌊䞇里が䜕かを枡す必芁はないよ」

    「私のこずは聞いおない」

    盎倮「でも、䌊䞇里の蚘憶を戻すために――」

    「払っおいるのは、盎倮なの」

    盎倮は答えなかった。

    吊定もしなかった。

    私の衚情を芋お、次に䜕を蚀うべきか考えおいた。

    「正しい蚀い方を探さなくおいい」

    盎倮「  僕が枡しおる」

    声は小さくなかった。

    蚀い蚳もなかった。

    今日だけなら、今倜の蚘憶を戻すためだけのこずだず思えたかもしれない。

    けれど、盎倮の倉化は今日始たったものではない。

    「毎回」

    盎倮「うん」

    「私の蚘憶が戻った日は、党郚」

    盎倮「党郚」

    胞の内偎が冷たくなった。

    私が盎倮を思い出す前に、圌はすでに䜕かを倱っおいた。

    私は䜕も知らずに、そのあずの盎倮を受け取っおいた。

    六日間の私も。

    蚘憶が戻っおいた私も。

    毎回、自分の蚘憶だけが戻ったこずに安心しおいた。

    「今日も」

    盎倮「うん」

    「倢さんがここに来る前に」

    盎倮は少しだけ間を眮いた。

    盎倮「  先に䌚っおきた」

    昚日、私ず確認したのは、倢さんが来る時間ず、私が郚屋にいる時間だけだった。

    倢さんが䞀人でこの郚屋ぞ来たずきには、代償はもう払われおいた。

    数日前も、䜕かを枡したあずの盎倮が、䜕も知らない六日間の私の前に座っおいた。

    私は、その盎倮ずじゃんけんをした。

    圌が私ず来たかったず蚀ったこずを、うれしいず思った。

    その代金を知らないたた、新しい時間を䜜っおいた。

    䜕も知らずに笑えた六日間の自分が、矚たしかった。

    そう思った瞬間、息が詰たった。

    六日間の私も、今の私も、同じ癜石䌊䞇里だ。

    知らなかった六日間の自分を、責めるこずはできない。

    「䜕を枡したの」

    盎倮「  分からない」


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    こずばの奥の揺らぎを、 構造ずしお掬い䞊げる文章を曞いおいたす。 迷いのかたちを可芖化する詊みずしお、 《タロット颚心理》を綎っおいたす。

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