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【一華編】第3話:鍵のかかった檻と、交錯する秘密

前回のお話▼

首筋に残る熱と、かすかな痺れ。

教卓の陰で乙羽の手から逃れた私は、乱れたブラウスのボタンを震える指で留め直した。

「……証明してみせるわ。私が犯人じゃないことも、あなたたちの浅はかな関係も……すべて暴いてやる」

強がりを吐き捨てて補習室を飛び出したものの、廊下の壁に背中を預けると、脚の震えが止まらなかった。

あすかを抱く手が、私にも触れた。

その背徳感と、胸を焼くような屈辱。

私の中の「完璧な学級委員長」が、内側からボロボロと崩れていく音がする。

あすかの靴箱にも届いていた、私と同じ筆跡の手紙。

私があすかを脅かしている?

それとも、私が無意識にあすかへ手紙を書いたとでもいうの?

「冗談じゃないわ……!」

◇

翌日の昼休み。

私は手紙の真実を掴むため、図書委員の三波詩織を呼び出した。

「三波さん。昨日、あなたが持っていたあの銀色の星型シール……四葉さんからもらったと言っていたわね」

「ひっ……! は、はい……四葉さんが『可愛いからあげる』って……」

詩織は本を固く抱きしめ、怯えたように肩をすくめた。

だが、私は彼女の言葉を鵜呑みにはしない。

「四葉ひなた……あの子がなぜ、乙羽くんの部屋にあるようなシールを持っていたの?」

「そ、それは……四葉さん、神代さんのファンだから……神代さんと乙羽くんが放課後にどこに行っているか、ずっとつけていたみたいで……っ」

「なんですって……?」

ひなたがあすかと乙羽を追跡していた?

頭の中で、バラバラだったピースが一気に繋がり始める。

あすかに憧れる1年の四葉ひなた。

乙羽に好意を寄せ、私のノートを模写できる美術部の二階堂美月。

あすかと私の関係を影から見つめていた図書委員の三波詩織。

そして……あすかを独占し、私を揺さぶる乙羽睦月。

全員がこの手紙に関わっている。

全員が、自分の欲しいものを手に入れるために「嘘」をつき、私をこのサクラ色の迷宮に閉じ込めようとしているのだ。

◇

放課後。

私は4人の女子生徒と乙羽を、誰も来ない旧校舎の美術室へ呼び出した。

夕暮れの赤い光が、埃の舞う室内を血のように染めている。

「急に呼び出して何の真似? 委員長」

美月が不機嫌そうに爪を弄る。

「一ノ瀬さん……こんなところに集まって、何をするのですか……」

詩織が不安そうに周囲を見渡す。

「あすか先輩に何かあったんですか!?」

ひなたが身を乗り出す。

そして、あすかと乙羽が並んで立っていた。

あすかは不安そうに私の顔を見つめ、乙羽は相変わらず眼鏡の奥で冷徹な光を光らせている。

「全員、聞きなさい」

私はサクラ色の手紙を、中央の作業台に叩きつけた。

「この手紙……私の筆跡で書かれたラブレターは、あすかさんと私の靴箱に届いていたわ。そして、この手紙に使われている銀色のシールは、乙羽くんの部屋にあったもの」

室内が一瞬で静まり返る。

「二階堂さんは私のノートを模写する技術がある。三波さんは私の筆跡を毎日のように見ている。四葉さんは乙羽くんの部屋を特定し、行動を監視していた。そして乙羽くんは、この手紙を利用して私を脅迫した……!」

一気に捲し立てる私に、美月が鼻で笑った。

「はあ? 意味分かんないんだけど。私、乙羽くんと仲良くしたいだけで、委員長の手紙なんか興味ないし」

「私じゃありません! 私は……ただ、一ノ瀬さんの文字が美しくて、憧れていただけです……!」

「わたしだってあすか先輩を守りたいだけよ! 乙羽先輩があすか先輩の靴箱に手紙を入れてるの、わたしはこの目で見ました!」

ひなたの叫び声に、あすかが息を呑んだ。

「睦月が……あすかの靴箱に……?」

「嘘よ」私は冷たく言い放った。

「乙羽くんが自分で手紙を入れるはずがない。……私を嵌めるために、誰かが乙羽くんのフリをしたか、あるいは……」

「一ノ瀬さん」

静かな声で、乙羽が私の言葉を遮った。

彼は歩み寄り、私の目の前で立ち止まると、ポケットから1通の封筒を取り出した。

それは、まったく同じサクラ色の封筒。

だがそこには、一文字も書かれていない。

「これは、僕の机に入っていた『白紙の手紙』だ。シールも便箋も同じもの。……一ノ瀬さん、君は僕たちの『秘密』を知って、自分自身を追い詰めているんじゃないか?」

「何ですって……?」

「君はあすかに憧れ、僕に嫉妬し、完璧な自分を保てなくなっている。この手紙を書いたのは……本当は、君自身なんじゃないのか?」

乙羽の言葉が、鋭いナイフとなって私の胸を切り裂いた。

「ち、違う……! 私はそんな、醜い感情で……!」

「いいえ、一ノ瀬さん」

今まで黙っていたあすかが、静かに私へと歩み寄ってきた。 彼女の可憐な瞳が、まっすぐに私を見つめている。

「一ノ瀬さん、私……ずっと気づいていたよ。あなたが毎朝、私のことを見てくれていたこと」

「あすか、さん……」

頭が真っ白になる。

完璧な仮面が完全に叩き割られ、私の醜い欲望も、叫び出したいほどの孤独も、すべてが夕暮れの美術室に晒されようとしていた。


原作はこちら▼

次回は、9/12(土)⏱21時公開

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