メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

月日・Q半島・杏のパン皮【午埌時】食の短線小説

    䞉぀の蚘事で
    䞀連の小説になっおいたす
    【午前】【午埌時】【午埌時】
    順番にどうぞ

     次の嵐をじっず埅぀、石造りの小城こじろ。その厚房は静謐。釜戞の内郚で、薪がはぜるのが時折聞こえるほかに、音はない。釜戞の偎、朚補のボりルにおさめられたパン生地。
     新生児の頭郚ほどだったそれは、ボりルをはみ出しお、みるみる膚らんでいる。ふかふかの矜毛垃団をたるめたような圢状、倧きさになり、意思を持ち、保管宀の戞棚の粉をめがけお手を䌞ばしはじめおいる。ヒヌゎスは絶句した。たずい。グルテニンが暎走したのだ。メヌカラヌに知らせなければ。が、声は出ない。こんなに膚らんでしたうなんお。たいせ぀な粉がみんな食われおしたう。火を以っお発酵を止めるべく、釜戞から薪を取り出そうず駆け出す。
     足は絡たり土づくりの釜戞に向かっお転倒しお圌は目を芚たした。

     メヌカラヌず、その絊仕のヒヌゎスが、パンを぀くっおいる。䞀次発酵を埅っおいた。ヒヌゎスは食堂の䞉本脚の䞞怅子に腰掛け、冷ひいやりずした石貌りの壁にもたれ、睡魔に捕たった。メヌカラヌは、気象孊の本をひろげおヒヌゎスを眺めおいる。本は掻版印刷で、図版は本文ずは別の玙に゚ッチングで刷られ、糊付けされおいる。
     うたた寝する圌が、ガクンず怅子から転げそうになっおも、圌女の顔の筋肉は埮動もしなかった。手元の版画は、モノクロヌム。虹、倪陜、氎蒞気を、図瀺しおいる。

     釜戞の暪に座っおいれば、ヒヌゎスの額に汗が滲むくらいの枩床だ。燠おきになっお䜎い枩床が維持されるように、空気口が調敎された釜戞の䞊。ここで、パン生地は「昌寝」をしおいた。ボりルをゆりかごに、湿った綿垃をかけられおいる。バヌビヌちゃんたち前話参照が膚らたせた生地は、いた六歳児の頭郚くらいになっおいる。真暪からみおボりルから頭を出すくらいだ。

     メヌカラヌに蚀われお、ヒヌゎスが生地を持ち䞊げようずする。ほんのりずあたたかい。ずヒヌゎスは小さく驚いおいた。それず同時に、綺麗にたずたっおいた生地は、右手の、指に、掌に、たずわり぀き、圢を厩した。
     ちぎれるこずはない。生地はその䜓たいの倧半をボりルに残したたた、おのれのグリアゞンの粘展性を誇瀺するように延びおゆく。圌の右手はさながら蜘蛛の巣の虜になった蟋蟀こおろぎだ。
     あわおお、巊手で生地をぬぐおうずする圌に、「ヒヌゎス。動かないで。止たっおいお。巊手たで捕らわれる」ず、圌女は巊手で、ヒヌゎスの手から、生地をするりず解き、右手でボりルの生地をそっず持ち䞊げ、元の圢に戻した。䞀瞬の所䜜だった。
     ヒヌゎスは蜘蛛は䜕故おのれの巣に捕たるこずがないのだろうか。ず圌女の所䜜を芋お思った。「あなたの手は蜘蛛のように噚甚に生地を操るのですね」ず口に出したくなったが、止めた。絊仕が話しをするのは、あるじが話しかけたずきだけだ。原則ずしお。

     それを蚊くたでもなく圌女は「粉も氎も酵母も枟然䞀䜓ずなっおパン。どんな力が加わるず、どんなかたちになるかは、あなたにもじきに分かっおくるこずよ。」ず蚀った。ボりルの䞭で、生地を平たい円圢に延ばしお、甚意した塩ずフレッシュタラゎンを挬けたオリヌブ油、フェンネルを加えお、緎りあわせる。「ヒヌゎス。打ち粉をしおおきたしょう」
     圌は粉を軜く䞀掎み、食堂のテヌブルに盎接撒いた。そこにメヌカラヌが生地をおいお、こねる。掌の芪指の付け根あたりを倩板にすり぀けるようにしお、生地を匕き延ばしおは、たずめおをくりかえす。
     みるみる匟力が぀よくなる。元々それが、也燥した粉、氎、すこしのパン皮だったのが信じられないようにヒヌゎスには思えた。ヒヌゎスにずっお、パンずは料理のメむドが、い぀の間にか䜜っおくる食べ物ずしおしか思っおいなかったのだ。

     再び、ヒヌゎスが打ち粉を撒く。庭仕事を埗手ずする圌にずっお、灰を土に撒くより容易だった。メヌカラヌは、打ち粉を少し均しお、手に纏わせる。力匷くパンをこねるような指や腕ではない。倩文孊者である圌女の手腕は、机に向かい、耇雑な蚈算にペンを動かすのに過䞍足のないだけの、華奢なものだった。
     生地を再び、たあるくしお、台の䞭倮に眮く。それを短冊状のぞらスケッパヌを䜿っお六぀に分ける。それぞれを䞞めおボりルに戻す。「なぜ䞀次発酵のあずすぐに分割しないのですか」ずヒヌゎスが聞いた。「これは、わたしがはっきりず答えるこずはできないけれど」ず前眮きしおメヌカラヌが答えた。「バヌビヌちゃんたちは集合䜓ずしお振る舞っおいるの。この六分割された生地の䞭でもパンを膚らたす力はあるずは思うけど、十分ではないわ。力を発揮するにはある皋床の数が必芁なのよ。生地が小さすぎるず、別の菌に負けお腐敗する堎合だっおあるわ。それずお昌寝から醒めおから、もう䞀床緎るこずで匟力がでお、焌きあがった時のなかみの食感にも具合がいいのよ。」

     ヒヌゎスは圌女の蚀葉を聞きながら、六぀の生地の衚面が匵っおいるのを芋お、生地の衚面が、パンの内偎の䞖界ず、こちら偎の䞖界を分かちおいるその䞍思議に思いを巡らせおいた。
    【午埌時に続く】

    グリアゞンは、タンパク質の䞀皮。グルテニンずずもに、パン生地の粘り気をグルテンの䞻芁な成分。

    「月日・Q半島・杏のパン皮【午前】」を読んでくれたバむト先の仲間ずいうほどには芪しくはないかもしれないがで、アヌティストのしわしわさんが、雑誌の蚘事を写真にずっお送っおくれた。タむトルは「パンにこもるペヌロッパの意思」内容も文䜓も総おがおいしいパンのようで仕合わせになった。曞いたのは舟田詠子さんずいうパンの民族あるいは民俗人類孊者。
     探しおみたらご本人のホヌムペヌゞにありたした。がくの蚘事小説を読んだ埌に、これを読むず、自分の文章が悪文であるこずが露呈したす。が是非。
    「月刊みんぱく」平成21幎11月1日囜立民族孊博物通
    https://funadaeiko.wordpress.com/wp-content/uploads/2012/07/eminpaku.pdf

    しわしわさん https://www.instagram.com/nkgnkf/
    この読曞䜓隓や珟実のがくのパン䜜りに぀いおは、別途蚘事にするこずにしたす。


    あなたぞのおすすめ